IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~   作:若谷鶏之助

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 最後の攻撃が決まり、俺の勝利が決まった。

 

「勝者、天羽翔!」

 

 織斑先生のアナウンスで、観客席から歓声が沸いた。《荒鷲》を収納(クローズ)、その後シュウウウゥン、という音と共に蒼炎は機体出力を低下させた。

 目の前のオルコットは、ゆっくりとアリーナの地上に降り立ち、シールドエネルギーが尽きたISを解除した。俺も地上に降りて蒼炎を待機形態へと戻す。

 

「俺の、勝ちだな」

 

 俯いて何も言わないオルコットに、不敵に笑って言ってやった。それ以外の言葉は要らない。

 

「……!」

 

 オルコットが唇を噛んで、きっと悔しそうに俺を見上げた。その顔は真っ赤だ。握り締めた両の手にぎゅっと力がこもり、震えている。仮にここから殴りにきたとしても、避ける自信がある。

 宣言通りの勝利だ。歓声が非常に心地いい。ぎゃふんと言わせるというのはこういうことを言うんだろう。今まで自分を見下していたヤツに、一矢報いる。なかなか悪くない気分だ。

 

「あ、あなたなんて、あなたなんて……!」

「ん、どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」

 

 試合に負けた以上、オルコットが何を言おうと、負け惜しみにしかならない。愉快な気持ちを隠せずにいると、オルコットのこわばっていた碧い瞳がどんどんと潤んで、唇の震えも大きくなってきた。

 ……ま、待て、これは何かおかしい。

 

「……う、うえぇぇ……!」

「な、何ッ!?」

 

 なんと、オルコット顔を覆って泣き出してしまった。

 ま、待て待ってくれどうしたらいい!? 俺のことを嫌っている女の子を泣かせた場合どうしたらいいんだ!?

 激しく動揺している頭で導き出せる答えは、「慰める」以外になかった。

 

「な、泣くな! 俺は、別にお前を泣かせるために戦ったわけではっ! ああ、もうどうすれば……!」

「だ、だったらさっさとピットに戻ってくださいな! ぐすっ、情けをかけるだなんて、あなたは敗者に対するリスペクトすらありませんの!?」

 

 惨めにさせないで、と泣き続けるオルコット。い、いや確かにそうだが。だからと言って目の前で泣いているやつをそのまま放っておくのはなんとも……このまま泣き続けたらいつオルコットがいつピットに戻るか分からない……

 ――ああ、面倒だ! 

 何かが吹っ切れた俺は、蒼炎を展開し、オルコットを横抱きに抱え込んだ。

 

「――え?」

 

 直後、体に異変に起こる。体温が上昇し、震えが止まらなくなった。IS越しだからか辛うじて意識は保てている。

 おい、誰だ、「お姫様抱っこだいいな」とか言った観客は!? こっちはハイパーセンサーで聞こえてるんだぞ!

 

「ちょ、ちょっと!? 何をするんですの!?」

 

 突然のことにびっくりしたオルコットが足をばたばた暴れさせた。

 ば、バカやめろ! ただでさえ女に触れて体がおかしなことになってるんだ、ここで暴れられたら落としてしまうかもしれないだろうが!

 

「うるさい! このまま戻る!」

「は、はあ!? い、嫌ですわ、このままだなんて! 離してー!」

「ならこのままクラスメイトに泣き顔見せ続けたいか!?」

「どちらも嫌ですわ!」

 

 なおも暴れるオルコットを無視し、落とさないように必死に意識をかき集めながら、俺はゆっくりピットに戻った。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「……ほら」

 

 ピットで下ろした頃には、オルコットは泣き止んでいた。彼女を離すとすっと体の負担が軽くなった。とりあえず無事で済んだこと安堵した。命懸けの帰還であった。

 抱えていた間ばたばたと暴れていたオルコットだが、今はぼーっと俺を見ている。

 

「……オルコット」

 

 俺が呼んで、ようやく「な、何ですの!」と我に返った。悔しそうな顔はどこに行った。さっきからキレたり泣いたり惚けたり忙しいやつだな。

 

「何だ? 悔しくないのか?」

「く、悔しいですわ! ええ、それはもう! 一生の恥ですわね!」

 

 ああ、悔しいと慌てて取ってつけたように言う。よく分からん。

 

「……そうか」

 

 とそれだけ返してISを解除した。蒼炎の装甲が光に包まれ、蒼いリングに赤いチェーンが通り、ネックレスになって首にかかった。蒼炎を軽く撫でて労うと、相棒は少し熱を持って俺に応えた気がした。

 

「天羽、聞こえているか?」

 

 織斑先生からの通信が入った。

 ISは待機状態であっても通信機能を保持する。この通信はプライベート・チャネルで、ISのネットワークを利用した個別回線だ。織斑先生の声は外部に聞こえない。

 はい、と返事をすると織斑先生が続けた。

 

「次の織斑との試合は、三〇分の休憩ののち、行う。いいな?」

「了解しました」

「よし。ではな」

 

 通信が切れる。次の一夏との試合まで三〇分。水分補給をして軽く食べて少し時間が余るくらいだ、ちょうど良い。

 一方のオルコットはと言えば、また俺をぼーっと見ていた。一体俺の何が気になる。こんなところにいないでさっさと自分のピットに戻ればいいのに。それと、ISスーツも早く着替えて欲しいのだが。

 

「……おい」

「は、はいっ!?」

 

 オルコットがびくりとして、声が裏返る。やはり様子がおかしい。

 

「ISスーツのままじゃないか。早く自分のピット戻って着替えたらどうだ」

「あ……っ」

 

 オルコットは途端に赤くなって体を腕で隠す。

 

「そ、そんなに見ないでくださいな!」

「そんなに見てないだろうが……」

 

 ガン見できたら苦労はしない。

 ISスーツは、その薄さと裏腹にIS装甲形成の補助、緩衝、加速時のGの軽減、緊急時の生命維持などを一枚でこなし、IS操縦に大きく貢献してくれる優れものだが、体のラインがモロに出るため少々目に毒なのだ。巷で「ISスーツ」がコスプレの一つのジャンルとして確立されているあたり、メーカー側も確信犯でやっている可能性がある。

 

「で、では、戻りますわ!」

「ああ、是非そうしてくれ」

 

 むしろ何故今までいたんだ。

 ピットの扉まで歩いていったオルコットだが、出る前にこちらを振り向く。

 

「あ、天羽さんっ」

 

 ちらちらと視線を外したりしながら、何か言いたそうにしている。

 

「……何だ、まだ何か言いたいことがあるのか?」

「そ、その……」

 

 オルコットは言おうか迷っているように見える。

 

「わ、わたくしを負かしたのですから、次の試合、負けるのは許しませんわよっ!」

 

 オルコットはそれだけ言い残し、ピットを去って行った。何が言いたいのかと思えば、そんなことか。

 

「誰が負けるか」

 

 無人になった入り口に告げる。

 相手は一夏だ。クラス代表云々抜きに、何度も繰り返してきた因縁の対決なのだ。無論、勝つ。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 織斑一夏は、翔とセシリアの戦いを食い入るように見つめていた。

 

(すげえ、すげえよ、翔)

 

 友人の実力を素直に褒め称えると同時に、一夏は寂しく感じてしまった。この六年間で、こんなにも自分と翔の強さは開いてしまったのか、と。六年前までは、一夏と翔は、箒の道場で共に切磋琢磨してきた。それが、翔は今ではまるで別人のように強くなってしまった。だが、一夏はこれから戦わなければならない。その、翔と。

 この数日間、箒に扱かれて剣を鍛えてきた。それで多少勝負勘は戻ったが、付け焼刃でどこまで翔に通用するか。

 

「織斑君っ」

 

 そんな一夏に、副担任の山田真耶が駆け寄ってきた。

 

「来ましたよ、織斑君専用のIS!」

「え?」

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな」

 

 一夏は真耶と千冬に言われるままに、ピットへと連れて行かれる。

 

「うわあ……」

 

 ――そこには、『白』があった。純白のIS。混じり気のない、白が。佇むその姿は、一夏の網膜に強烈に焼きついた。

 

「それが、織斑君の専用IS、『白式(びゃくしき)』です!」

「白式……」

 

 なんとなく、なんとなくだが、この白式が、一夏を待っていたように感じた。

 

「体に装着しろ。すぐに装着しろ。時間が無いからフォーマットとフィッティングを実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。分かったな?」

 

 千冬に急かされ、一夏は純白のISに触れた。

 

「背中を預けるように、ああそうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化する」

 

 一夏は、ISと一体になる感覚を覚えた。以前に一度、味わった感覚――まるで自分の体であるかのように、ISと「繋がる」――。

 

「ハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」

「大丈夫、千冬姉。いける」

「そうか」

 

 安心したような千冬の声を背中に受け、一夏はアリーナへの道を歩きだした。ISを纏ってから、一夏の感覚は異常に鋭敏化されていた。ISが情報の取捨選択をしてくれなかったら、脳が爆発しているほどの情報の奔流。少しずつそれを見に染みこませながら、一夏は前進した。

 

「箒」

 

 後ろにいた箒に、一夏は話しかけた。ISのハイパーセンサーによって、一夏は後ろにいる箒の姿もしっかり見えていた。

 

「な、なんだ?」

 

 突然話しかけられたことに驚きながらも、箒は答えた。

 

「鍛えてくれてありがとな。助かった」

 

 箒がぼんっと赤くなる。誰から見ても明らかなぐらいに。

 

「ば、ばかっ、勘違いするな! 昨日まで打ち込んだのは、鈍り切ったお前を私が見ていられなかっただけで、お前のことを思ってとか、そんなんじゃないからな!」

「……人がせっかく感謝してるってのに」

 

 何年経っても相変わらず、キツイ物腰である。そんなことにさえ懐かしさを感じるあたり、一夏もかなり感傷的になっているらしい。

 

「行ってくる」

「……ああ」

 

 箒の言葉を最後に、一夏はピットへと飛び出した。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 オルコットとの試合から、三〇分後。予定通りに俺と一夏の試合が行われることになった。蒼炎を展開し、再びアリーナに戻ったときには、一夏がすでに待っていた。

 

「翔、さっきの試合、すごかったぜ」

「当然だ」

 

 そういって、俺はニヤリと笑う。こいつが見ていた手前、無様な真似はできない。

 一夏の纏っている白い装甲は、最新らしく汚れ一つ無い。立派な専用機である。

 

「――それがお前のISか」

「ああ。白式、って言うらしい。それより、連戦で疲れてないか?」

「心配ない」

 

 もっと長時間の戦闘も経験した。さっきの試合時間なら、問題ない。

 

「なあ、翔」

「なんだ?」

「翔と試合すんのって、久しぶりだな」

 

 一夏は笑って言った。同じことを思っていたらしい。

 

「そうだな」

 

 俺も笑って答えた。本当に、久しぶりだ。小さいときはよく試合していたものだが。

 

「確か、俺が負け越していたはずだったな」

「そうだっけか? 忘れちまったよ」

「確か二十五勝二十六敗二分だったはずだ」

「しっかり覚えてんじゃん……」

 

 苦笑する一夏。

 ……よし、決めた。

 

「一夏」

「ん?」

 

 蒼炎に指令を出す。ぼん、と《飛燕》が弾け、地上に落下する。続いて左腕の実体シールドもパージ、落下していく。

 

「な、何してんだよ?」

 

 一夏が尋ねる。俺は告げる。この勝負に対する決意を。

 

「俺は今回、ビットを使わない。《荒鷲》もソードモードのみで戦う」

「――それは、手加減するってことか?」

 

 一夏が怒りを露わにして言った。

 一夏は昔からこんな性格だった。手加減することや、弱った相手と戦うといったことは大嫌いだった。いつも全力、真っ向勝負を良しとする。それを知らない俺ではない。分かった上で言ったのだ。

 

「違う。そうじゃない。俺は一夏と、剣一本で戦いたいんだ。昔みたいに」

 

 あのときのように。「俺」は「俺」だと、思えた、小学生のあの頃のように。

 

「すまない。これは俺の我儘だ」

 

 これで小学生のときから続く一夏との勝負を、一旦ゼロにする。そしてここからまた始めたいのだ。ライバルである一夏との、凌ぎ合いを。

 

「……ああ、分かったよ。翔がそう言うなら、もう何も言わねえ」

 

 一夏は笑ってくれた。納得もいかない部分もあるだろう。それでも了承してくれた一夏に「ありがとう」と一言感謝を伝え、俺は《荒鷲》を量子空間から抜き放った。一夏も武装である実体刀――《雪片弐型(ゆきひらにのかた)》を展開した。

 この形状と名前、どこかで見覚えがある――。

 そんな思考を他所に、体は早くやれとうるさい。それを感じた俺は、本能に身を預けた。お互いに構えて、切っ先を向ける。

 

「覚悟はいいか、一夏」

「……ああ。いつでもいいぜ、翔」

 

 張り詰めた雰囲気。その中で、お互いに一歩を大きく踏み出す。俺は下段から、一夏は上段から、剣を振る。《荒鷲》と《雪片弐型》が、火花を散らせた。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 ガギン、ギィン、と休むことのない剣戟の嵐。

 一夏の刺突を俺は受け流し、そのまま勢いを殺さず、俺は《荒鷲》を横に薙いだ。俺の攻撃に、一夏は咄嗟にバックステップで回避する。俺は一夏の後退に合わせて距離を詰めて袈裟斬りを放つ。一夏はそれを防御、鍔迫り合いになる。

 実力は、やはりと言うべきか、俺が圧倒していた。俺の積み重ね、そして一夏の長いブランクは、確実に俺たちの間に力の差を生んでいた。ただ、一夏の白式のスペックが高いためか、この数日間のトレーニングで勘が戻ったか、なんとか俺に食らいつかんと必死に俺の攻めを防ぎ、あわよくば一撃を狙ってくる。

 白式、流石は最新鋭のISなだけはある。パワー、機動力ともに高水準だ。が、俺の優位は変わらない。

 何とか俺の連撃を防ぎ、一夏が攻勢に出る。わざと引き気味に打ち合い、上に隙を作ってやると、一夏はここぞと大きく刀を振り上げる。狙い通りだ。

 

「やあっ!」

「――甘い!」

 

 読み切った一夏の大上段の構え。そら、胴が留守だ!

 

「ふっ!」

「ッ、ぐッ!?」

 

 俺の抜き胴が直擊、白式のシールドエネルギーを大幅に削った。追撃が徐々に一夏の体勢を崩していき、一撃、また一撃と白式のシールドエネルギーを削っていく。その中でシールドエネルギーを貫通し、実体ダメージを与えたものもあった。このままいけば俺の勝ちだ。

 ――が、ここで異変は起きた。

 

「――な、何だ!?」

 

 一夏が驚いた声を上げる。戦闘の途中だったが、一夏が突然に光の粒子に包まれたのだ。

 俺は、この光を知っている。これは――。

 

「この光は……一次移行(ファースト・シフト)!」

 

 光が裂け、中から白式の真の姿が現れる。まだ淡く光を放つそれは、洗練した姿を陽光の下に晒した。俺の斬撃によってできた実体ダメージも全てが回復していた。「初期化(フォーマット)」と「最適化(フィッティング)」が完了した合図だ。

 今、一次移行(ファースト・シフト)が終わった。つまり……。

 

「お前、初期設定だけで戦っていたのか。無茶苦茶だな」

「お、俺も良く分からん。千冬姉が実戦でどうこうって言ってたけど……」

 

 なるほど、織斑先生の入れ知恵だったか。弟が弟なら、姉も姉だな。

 

「でも、これで白式はやっと俺専用になったらしいな」

 

 《雪片弐型》を一度二度握りなおす一夏。

 さて、ここからが本番だ。

 

「悪いな、翔。仕切りなおしと行こうぜ!」

「そうだな」

 

 俺は《荒鷲》を構え直し、一夏を迎え撃つ。

 

「――俺は、千冬姉の弟だ。弟が不出来じゃ、千冬姉に泥を塗っちまうもんな!」

 

 誰にでもなく、一夏は呟いた。一夏の集中が高まると同時に、《雪片弐型》の刀身が二つに割れ、白いエネルギーの刃が現れた。

 

「!!」

 

 どこかで見たことのある光景だ。そう、あれはまるで、「ブリュンヒルデ」のような――。

 

(ま、まさか、あれは……!?)

 

 ある一つの仮説が、確信に変わったことで、より意識を引き締める。一夏の能力が分かった今、近接戦闘はご法度だ。

 だが、この勝負は引けない。剣一本で戦うのなら、逃げなど言語道断!

 

「いくぜ、翔ッ!」

 

 スラスターを吹かし、接近する一夏の動きで太刀筋を読む。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 速い! 今までとは一段階違う。

 一次移行(ファースト・シフト)が完了した一夏の白式のスペックはさらに上昇しているようだった。

 神経を集中し、俺を斬り裂かんとする光の刃を躱す。剣を逸らし、一つ残らず攻撃を捌いていく。カウンターで少しずつダメージを与えていくが、俺は一撃も食らってはならない。あれは当たれば最悪即座に負ける。

 ダメージ差は極大。この状況を覆すため、一夏はスラスター最大出力の、捨て身の攻撃をしてきた。

 

「――勝ちに行くぜ、翔!」

 

 ――ここが、勝負所だ。

 

「来い、一夏!」

 

 俺は、それを真っ向から迎え討つ。

 

「食らえぇッ!!」

 

 一夏の逆袈裟払いが、俺を襲う――!

 

 

 

 

 ブーー!

 と、ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

「勝者、天羽翔」

「え? え? なんで!?」

 

 何故自分が負けたか、分かっていない様子の一夏。

 一次移行(ファースト・シフト)を終え、白式はすぐに単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発現したが、その能力を一夏は理解していないだろう。それもそうだ、一夏はISの操縦が初めてなのだから。

 白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は、『零落白夜(れいらくびゃくや)』。かつて織斑千冬が世界を制したときの愛機「暮桜(くれざくら)」と同一の能力だ。エネルギーを無効化し、消滅させる能力。それはつまりシールドエネルギーを貫通し絶対防御を半強制的に発動させるということだから、一撃で相手の残シールドエネルギーを消し去るほどの破壊力を持つ。ただし、その代償として、使用中は自らのシールドエネルギーを消費する。要は、諸刃の剣だ。

 さっきの一夏は、その代償を省みずに使用し続けた結果、自分のエネルギーを使い果たしたということだろう。事実、俺は一次移行(ファースト・シフト)後はほとんど攻撃していない。一夏も興奮していたようだし、自分のシールドエネルギーの残量に気を配る余裕なんてなかっただろうからな。

 

「これで、俺の二十六勝目だ。並んだな」

「そうみたいだな。でも、次は負けねえぞ」

「楽しみにしている」

 

 笑い合って、俺と一夏はISの手で握手をした。久しぶりの試合だったが、一夏との試合は楽しかった。一夏も同じ気持ちでいる、そう確信した。

 とても晴れやかな気分だ。一夏と戦えたことは、俺にとって大きなプラスだった。

 

「これからの生活が……楽しみだ」

 

 こうして、クラス代表決定戦は予告通り、俺の勝利で幕を閉じた。


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