IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~   作:若谷鶏之助

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 生徒会活動に本格的に参加しだしてから、そろそろ一週間が経とうとしている。

 だからと言って、そこまで生活が劇的に変化したわけではない。生徒会と言っても毎日のように活動しているわけではないからだ。たまに召集がかかるだけで、それに応じて生徒会室に集まればいいだけ、というのが会長の説明だった。文化祭の出し物もあるにはあるが『アレ』だからな。用意はそれほど要らない。

 その出し物だが、内容を見て会長が必ず一夏を獲れる、と言っていた理由が分かってしまった。確かにアレなら、確実に票を集めることができるだろう。

 初めから一夏を生徒会に入れるつもりなのにわざわざ争奪戦のような形にしたのは、他の部活を納得させるための口実だ。俺は副会長だからいいにせよ、一夏を勝手に取り込んだから他の生徒が黙っていないので、このような形式をとっただけだと会長は言う。

 その票の集め方が実に頭のいい方法で、俺が反論する隙はなかった。ただ、そうとも知らずに文化祭へ向けて一生懸命準備している他部活には申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 

「あ。天羽君、この布の裁縫任せてもいい?」

「……了解した」

 

 現在俺はクラスの出し物の準備をしている。今日のように生徒会の無い日はこうして手伝っているわけだが……。

 

「俺だけ仕事が多くないか?」

 

 隣にいるセシリアに尋ねた。

 

「……確かに、そうですわね……」

 

 ざっと手元にある仕事を見れば、テーブルクロスの縫い物、看板の色塗り、角材切り。淡々とこなしてきたが、やはり多くないだろうか?

 

「翔さんは器用ですから、自然と仕事が集まるのでしょうね。器用なシャルロットさんも同じくらいの仕事をしていますわよ?」

「…………」

 

 シャルロットは人がいいためか、俺よりさらに多い仕事を溜め込んでいた。そしてそれを消化しようとてんやわんやになっていた。

 

「……やるしかないな」

 

 ぼやいていても仕方が無い。俺に仕事が集まるのは、信頼の証だと思っておこう。

 そう決めた俺は、とりあえず渡された布を手にとって、糸を通していく。

 こう見えて裁縫は昔から得意なのだ。ファッションセンスに自信はないが、修理や縫合は難なくできる。

 

「……翔さん、本当に器用ですのね……」

 

 どこか羨ましげに俺の作業を見つめるセシリア。

 

「まあ、あの家事能力ゼロの束と六年も生活していればな」

「主婦顔負けですわね」

 

 当然だ。あの六年間は伊達ではない。

 

「ラウラ、メイド服と執事服は確保できたのか?」

 

 俺は目の前を通ったラウラに話しかけた。

 俺のクラスはメイド喫茶をするのだが、その制服はラウラとシャルロットのバイト先の喫茶店『@クルーズ』から借用する手はずになっていた。先ほどラウラが電話で頼んでいたので、結果を尋ねてみた。

 

「ああ、問題ない。店長は快く許可を出してくれたぞ。私の頼みなら、と」

「そうか、よかったな」

 

 俺がそう言うと、ラウラは嬉しそうに微笑んだ。

 

(……ラウラの頼みなら、か……)

 

 えらく気に入られているらしいな。順調そうで何よりだ。

 ただ一つ気がかりなのは、ラウラが「ドイツの冷氷」と呼ばれていた頃のような態度で接客して、独特の客層を得ているということだ。「あの態度の冷たさがたまらない」「あの子にもっと罵られたい」「可愛い見た目なのに中身がキツイというギャップがまたイイ」などの意見を多数頂戴しているらしいが……。

 兄としては、少し心配になる。そんなマニアックなファンを増やしてどうするのか、と。将来、ラウラにパートナーができたとして、その男もそのような感じで尻に敷いていくつもりなのか? そして、そいつが俺の義弟になるのだ。それは兄として非常にキツイものがある。遠慮願いたい。

 

「……ん?」

 

 いや待て。ラウラにパートナーができるということは、それはラウラが俺から離れていくということではないか!

 素直に喜べない。ラウラが誰かのものになってしまう。そう考えると、何とも言えない寂しさが訪れた。

 

「お兄様? どうかしたのか?」

 

 不自然に自分を見つめる俺に違和感を覚えたのか、ラウラは俺にそう聞いた。

 

「いや、何でもない」

 

 いつも俺に全力で甘えてくるラウラ。そのラウラが傍からいなくなるのは――嫌だな。

 

「お兄様っ」

 

 仕事が終わって、またラウラが抱きついてきた。

 心配せずとも、この様子ならラウラの兄離れはかなり先のことになりそうであった。

 

「だ、抱きつきすぎですわよラウラさん!」

「ふん、悔しいなら貴様もすればいいではないか」

「なっ、ななななな――っ!?」

 

 真っ赤になって絶句するセシリア。

 

「ひ、人がいるのに、そ、そんな、こと……」

 

 ぼそぼそと何かを言いながら、セシリアはちらちらと俺を見る。

 

「やめてくれ。気絶する」

「そ、そうですわね……」

 

 あの空港での一件を忘れたとは言わせない。

 

「残念だったな、諦めろ。お兄様に甘えるのは妹である私の特権だからな」

 

 ぎゅーっ。後ろから抱きつくラウラの腕の力が、少し強くなった。

 

「……その、勝ち誇った顔が憎らしい……!」

「ふんっ」

 

 どうやら今日はラウラの勝ちのようだった。

 

「翔」

「ん?」

 

 話しかけてきたのは、箒だった。きょろきょろ周りを見ている。

 

「どうした?」

「一夏がどこに行ったか知らないか? これを一夏に渡しておけと千冬さんから頼まれたのだが……」

「一夏か? 一夏なら、今頃扱かれている真っ最中だろうな」

「扱かれている? 誰に?」

「……会長に」

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 

 白式のスラスターが開放され、一夏がスピードに乗って楯無のミステリアス・レイディに突っ込んだ。

 一夏は楯無に呼び出され、アリーナで試合を行っていた。そのためにクラスの仕事はクラスメイトに任せて、今は楯無と全力で戦っているわけだ。

 

「速さは上々。でも、使い方がまだまだね」

 

 一夏の特攻に対し、楯無は手にもったランス《蒼流旋》を突き出した。ランスの穂先が《雪片弐型》と接触してギィンッと高い金属音を立てた。

 

「君の戦法はただ一つ。チャンスと見たら特攻して、単一仕様を使って斬りかかるだけ」

「生憎、初心者なもので」

「知ってるわよ。まあ、大分訓練したみたいだけどね。でも――」

 

 楯無が腕に持ったランスに力を込めて、一夏の刀をぐぐぐ、と押し返す。

 

「そんな程度じゃあ、私には勝てない」

 

 楯無はランスを構え、次々と素早い突きを繰り出していく。一夏はそれを刀を使って防御する。

 

「く、うっ!?」

「ほらほら、防御の仕方がなってない。真正面から受け止めてるだけじゃ、衝撃はそのまんま伝わってくるよ。こんな風に――ね!」

 

 ISの腕力が加わったランスの強力な突きを受け止めた一夏は、衝撃を殺しきれず後ろに吹っ飛んだ。

 

「ぐあっ!?」

 

 吹っ飛んだ一夏に、《蒼流旋》の連装ガトリング砲が降り注ぐ。雨あられと降り注ぐ砲弾が、白式のシールドエネルギーを確実に削っていく。

 

「衝撃が大きく伝われば、体勢は崩れる。そして体勢が崩れた相手は、とっても攻めやすいのよ。防御もままならないからね」

「……ご丁寧にどうも」

 

 何とか構えなおした一夏は、思考を回転させる。

 絶対に勝つ、なんて大それたことは思わない。ただ、敵わない相手にだって、一矢報いなければ気が済まない。

 

(この人、やっぱり強え。俺なんかじゃ足元にも及ばないくらいに……!)

 

 一夏がこの学園に来て、一夏がそう感じた相手は多い。翔、ラウラ、千冬、そして、楯無。

 

(――けど、やられっぱなしはごめんだ!)

 

 せめて一撃。その一撃を叩き込むための方法を考える。集中して、その方法を導きだした一夏は、それを実行するために行動を開始した。

 一夏はガトリング砲を避け、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って、再び楯無に突撃する。

 

「行くぜ白式!」

 

 唸りを上げた白式が、ミステリアス・レイディへと向かっていく。楯無はランスを構え、隙無く待つ。

 

「隙だらけね」

 

 振り下ろされた《雪片弐型》を、楯無はいとも簡単に振り払った。

 

「まだだ!」

 

 ガシャンッと一夏は待機させていた左腕の多機能武装腕《雪羅》のカノンモードを楯無を向けた。眩い光と共に、荷電粒子砲が発射された。

 

「――残念ね」

「!?」

 

 一夏が狙った先から、楯無はすでに消えていた。

 

「アイデアはいい。けれど、それを行うには技術が未熟過ぎよ」

 

 右手の《雪片弐型》をランスで突き飛ばし、楯無は一夏に踵落としを見舞った。

 

「ぐああっ!」

 

 盛大に音を立てて地面に叩き付けられた一夏に、楯無は追撃を行う。一瞬で距離を詰めて左腕をロック。そして一夏の首筋にランスを突き立てた。

 

「チェック・メイトよ、一夏くん」

「くっそぉ……」

 

 やはりというべきか、一夏と楯無の勝負は楯無の勝利に終わった。

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 勝負を終えた二人はISを解除し、楯無は一夏に先の試合の結論を言う。

 

「ずばり、君は経験不足ね」

「はあ……」

 

 経験不足。それは言葉で言うのは簡単だが、克服するとなると難しい問題だった。

 

「まず武器に対する対策を知らなすぎることが問題ね。相手の武器を見てベストな対策をしないと、相手に思うように踊らされちゃうのよ。さっきの試合でよく分かったでしょ?」

「はい……」

 

 いつかシャルロットにも言われたことがある気がした。楯無の分析、というよりもダメ出しが続く。

 

「あと欠点としては攻撃の単調さが挙げられるかな。君の専用機のアクの強さと、一夏くんの戦術的な知識の無さが相乗効果を生んで、ワンパターンな戦闘スタイルが形成されちゃってるわけだ。まあ頭は柔軟みたいだから、出てきたアイデアの意外性でこの欠点をカバーしているのが君の本質よ。でも、君のその意外性が通用しないような相手には為す術無くボコボコにされちゃうのよね。例えば私とか、翔くんとかには」

 

 この短時間で実力とそれへの付け焼き刃を見事に見破られて、一夏は肩を落とした。楯無の説明は理路整然としていながら、一夏にも理解しやすいものであった。

 

「――最後に、もう一つの欠点が射撃センスの無さ。びっくりするぐらい軌道予測が全く出来てない」

「うっ」

 

 痛いところを突かれた。

 

「止まってる的を狙ってるんじゃないのよ? 戦闘では敵は動くんだし、相手の軌道を予測して、その先に射撃を撃ち込まないと。今いる場所に撃っても当たるわけがないでしょう」

 

 ……耳が痛い。

 

「とにかく、君には経験が必要。いろんな相手と戦って、攻めて、守る。そういう経験を積んでいくことが強くなる第一歩になる」

「……はい」

 

 楯無の評価は厳しいものだったが、当然かもしれない、と一夏は思う。自分はまだまだ初心者で、弱い。それを自覚し直すことが大事だ。

 セシリア、鈴、ラウラ――仲間たちは、努力をして強さを勝ち取ってきたのだろう。だが一夏は、それをしていない。一番弱いのは、一夏だ。その彼らに追いつくためには、なりふり構っていられない。

 いつか、世界最強になると誓った。そのために、今は力をつける。今出来る最大の努力をする。きっと翔は、そうしてきたはずだから。

 

「――更識先輩」

「何?」

「これから、よろしくお願いします」

 

 一夏はしっかり頭を下げた。教えを乞うときは、頭を下げるのが礼儀だからだ。

 

(ふーん、素直な子ね……)

 

 楯無は正直なところ驚いていた。この織斑一夏という少年の、何の躊躇いもなく頭を下げる謙虚さ。それは今の高校生にはあまり無いものだから。

 

「うん。謙虚なのはいいことね。教え甲斐がある。――あ、それと私のことは『楯無』でいいわよ?」

「わ、分かりました。楯無先輩」

「よろしい」

 

 一夏の言葉に、楯無は嬉しそうに笑った。

 

「翔くんは生徒会に入ってからも会長、としか呼んでくれないから、面白くないのよね~。翔くん、好みなんだけどな」

「………。あ」

 

 人を好みだけど面白くない、と評価するのはどうなのか。一夏はこの更識楯無という人物が翔の言うとおりの人物であることを悟った。

 翔はこう言っていた。「振り回されてはいけないが、絶対に振り回される人だ」と。まさにその通りだ。

 

「――じゃあ、これからはビシバシ指導していくから、覚悟しておいてね」

 

 ウィンク付きであった。

 

(っていうか、マジできつそうだなぁ……)

 

 一夏は苦笑いを浮かべた。

 

 ――数日後、一夏はその予感が間違いではなかったことを思い知ることとなる。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「ふうっ」

 

 文化祭準備を終えた俺は、自室の前に立ち、一度深呼吸をした。

 さて、何故自分の部屋の前で構えているのかだが……それはこのドアを開けた際に分かる。

 

(いないといいんだが……)

 

 ほんの少しの希望を抱きつつ、俺はドアノブに手をかけた。

 

 ガチャ

 

「お帰りなさい」

 

 ……バタン

 

 間髪置かずにドアを閉めた。

 

「ふうっ」

 

 もう一度深呼吸。

 問題ない。あれは悪夢であって、現実ではない。精神を統一し、再びドアノブに手をのばした。

 

 ガチャ

 

「お帰りなさい」

「やっぱりあんたか!」

 

 つい叫んでしまった。近隣の方々申し訳ない。だが、許してほしい。俺の目の前には、会長がいるのだから。

 ――裸エプロンというあり得ない姿で。

 

「私にします? それとも私? それとも、わ・た・し?」

「三択なのに選択肢がない!?」

「あるよ。意味が一緒なだけで」

「それをあるとはいわない!」

 

 エプロンが隠しているのは前だけで、後ろは丸見えだ。会長が回りでもしたら……!

 そんな思考が読まれたのか、会長はいやらしい笑みを浮かべて……。

 

「えい」

「ぬあぁッ!?」

 

 会長がくるりと一回転するのを、俺はすかさず目を手で覆い防御した。

 

「あ、あんたという人は……!」

「きゃははっ。相変わらずウブねー」

 

 けらけら笑う会長。目を覆っているため顔は見えないが、会長がとても意地悪な顔をしているのだけは分かる。

 ……殴られたいのだろうか、この人は。

 

「な、何故、そんな格好をしているんです?」

「あら、知らないの? 裸エプロンとさっきのセリフは、夫を待つ妻が迎えるときの基本のスタイルなのよ?」

「さらっと嘘をつくな! あとあんたの夫になった覚えはない!」

 

 流石にそれが嘘なことくらい分かる。

 実は会長による襲撃は今日が初めてではない。昨日一昨日と三日連続で忍び込まれている。

 くそ、鍵は五重くらいにしたほうがいいのか? 今は三重なのだが、それでもまだ足らなかったか。増強したというのに……。

 というより、どうなっているんだ、ここのセキュリティは。高校生相手でも完全ザルではないか。本当の犯罪者が来たらどうする。そもそもセキュリティの業者なんて信頼が命なのに、その信頼がガタ落ちではないか。

 しかし、更識楯無、何と豪胆な人物であろうか。まさか俺の部屋にまで乗り込んでくるとは……! 全く油断のならない女だ!

 

「プライバシーの侵害で訴えますよ」

「ざーんねん。生徒会長権限の前では無意味よ」

「あんたは独裁者か!」

 

 おい、いくら何でも生徒会長権限強すぎないか? こんな独裁者を生んでいいのか、IS学園。いささか疑問である。

 

「……それで、どうしてまた来ているんですか、会長?」

 

 俺は目を覆ったまま話しかける。

 

「あん。楯無って呼んでよ~」

「お断りします」

 

 絶対に嫌だ――というか、このやり取り、すでにお約束化していないか?

 まあ気のせいだろう。そういうことにしておこう。

 大体、この人は何を求めて俺に部屋にまで来る? この前乗り込んできたときもお茶飲んで俺で遊んでそれで終わりだ。

 

「あ、どうして来ているのかって? 翔くんの反応面白いんだもーん!」

「なら帰れ! 今すぐに!」

「いーや」

 

 そして、強情である。この人は俺がある程度相手をしてやらないと帰らないのだ。凄まじく面倒くさい。

 

「と、とにかく、早く服を着てください」

「あら、いいじゃないの」

「良くないから言っているんだ! このままだとただの痴女になりますよ!」

 

 自分の学校の最強の存在である生徒会長が痴女なんて不名誉すぎる。

 こうして段々とイライラしてきた俺を、会長はさらりと受けては流す。こういうやり取りをしこたま行って満足したらこの人は帰る。

 

「しょーがないなぁ。じゃあシャツは着てあげる」

「譲歩してそれか……」

 

 とりあえずは言葉通りにシャツは着てくれたので、俺は目を開いた。

 

「――で、どうだったんですか、一夏は」

 

 やっとそれらしい話題を振れた。

 一夏の指導の目的は、代表候補生でもないのに専用機持ち、という不安定な立場にある一夏に、危険が迫った際最低限自衛ができるようにレベルアップさせることだ。

 

「んー、そうね。やっぱり、見所はあるかしら。特に、潜在能力に関しては一級品かな。流石はブリュンヒルデの弟ってとこ」

「……つまり、合格、と?」

「そう、合格」

 

 会長はにこっと笑った。

 

「まだまだ荒削りだけど、磨いていったらそれこそ輝くダイアモンドになる素質を備えている子だっていうのは分かったから。だから、これから予定通り鍛えていくつもりよ」

「そうですか」

 

 この人もこういう部分は本当に立派なのだ。これが俺がこの人を憎みきれない理由である。

 

「……箒の方は?」

「…………」

 

 一夏と同じ立場にいるのは、何も一夏だけではない。俺と箒も同じ状況である。が、俺は会長から見て実力十分と見なされたらしく、指導の対象にはなっていないばかりか、こうして生徒会副会長という職を預かっている。光栄な限りだ。

 会長は何か考えている様子で、少し黙り込んで天井を見ている。

 箒は今、『紅椿』の性能に振り回されている状態だ。あのままでは、有事の際にもまともに戦えない可能性もある。会長がそれほど箒に興味がないのは知っていたが、幼馴染である俺としては箒がそういった事件に巻き込まれてしまうのは嫌だったので、頼んでみたのだ。

 

「考え中かな。確かに篠ノ之博士直作の専用機には興味があるけど、私としては篠ノ之箒という生徒には、君や一夏くんほどの興味は抱いてないからねぇ」

「だとしたら構いません。それならこれまで通り一緒に訓練するのみです。ただ、それほど自信はありませんので、俺個人としては会長に指導してもらうのが一番いいかと。それに、一夏と箒はライバルです。お互いが切磋琢磨できるような環境を作ることは、実力の向上に一役買うと思いますが」

「うーん……」

 

 顎に手を当て、会長は考えている。ふざけた言動をしていても、会長は話が分かる人なので、分かってくれると思う。

 

「まあ、いいよ。翔くんがそういうなら、受けましょう。箒ちゃんの面倒、見てあげるわ」

「ありがとうございます」

「ふふ、礼は要らないわよ。私が大好きな翔くんの頼みなんだから、当然じゃない♪」

 

 ……最後のが余計だった。口の中の虫を噛む。苦い。その虫は苦虫と言うらしい。

 

「あーん、喉渇いた~。あ、翔くん、お茶淹れてくれない?」

「俺は召使いではないんですが」

「あのね、代々生徒会副会長っていうのは、会長に尽くしてきたんだよ?」

「こんな尽くし方があるか!」

 

 尽くすというより、もはやただの雑用ではないか。

 ――嗚呼、今日はいつ帰ってくれるのだろうか。クラスの出し物の準備疲れているから一刻も早く帰って欲しいのだが。

 無駄だろうとは思いつつも、そう願わずにはいられなかった。

 

「――あ、翔くん」

 

 しぶしぶお茶を淹れに部屋を出ようとしたところを、会長が引き止めた。

 

「今度は何ですか……」

 

 俺がうんざりして尋ねると、会長は、決めたと言い出した。

 

「決めた? 何を?」

 

 何か決め事でもあったか? 覚えがないんだが……。

 

「私、今日からここに住むわね」

「……は?」


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