IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~   作:若谷鶏之助

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ラブリー・クインテット

「…………」

 

 緊張した面持ちで、金髪の少女――シャルロット・デュノアは、ある家の前に立っていた。

 表札に「織斑」の字が彫られた家。その家のインターフォンを前にして、シャルロットは指の一進一退を繰り返しているのであった。

 異国の少女が、民家の前で何か怪しげな行動をしている姿は、道行く人の視線を集めていた。が、緊張している彼女がそれを察することは不可能であった。

 

(だ、大丈夫だよね。一夏、今日は家にいるって言ってたし!)

 

 それでも不安になったので、シャルロットは携帯電話のメールを開き、一夏が家にいるという事実をもう一度確認して、安堵のため息をついた。

 

(え、ええと、どうするんだっけ……。さ、最初は、『本日はお日柄も良く――』じゃないよっ!?)

 

 頭を抱えるシャルロット。シュミレーションを行った回数は、実に三〇回を超える。

 

「よ、よしっ!」

 

 覚悟を決めたシャルロットは、一度気合を入れて、インターフォンを――。

 

「――おっ、シャルじゃねーか」

「!?」

 

 だが、ここで「唐変木・オブ・唐変木ズ」こと織斑一夏が後ろから出現した。あまりに唐突すぎる登場で、シャルロットは動転してしまった。

 

「い、いいいい一夏っ!? 何で――っ」

「いや、飲み物でも買って来ようと思ってさ。足りなくなったんだよ」

 

 ほら、と一夏は腕にかかったコンビニの袋に入ったジュースを見せる。

 

「……それで、シャルこそどうしたんだよ?」

「あっ! そ、それはね、そのっ! ほ、本日はお日柄も良くっ……――じゃなくてっ!」

「?」

「そ、その……」

「その?」

「……き、来ちゃった♪」

 

 えへ。

 

「…………」

「…………」

「――って僕のバカァアアアアアアアアアアア!!」

 

 シャルロットは猛烈な勢いで後ずさって頭を抱えた。途轍もなく恥ずかしかった。まさか一夏の前でやってしまうとは。シャルロットは恥ずかしさのあまり一夏の顔を見ることさえできなくなった。

 しかし、鈍感な唐変木はあっけらかんと言う。

 

「なんだ。遊びに来たのか。なら上がってけよ」

「え!? いいのっ!?」

「おう」

 

 やったー!

 シャルロットは心の中でガッツポーズすると、何はともあれ予定通りに事を進めた自分を褒めたくなった。

 

「で、でもいいの? 家に上がっちゃって」

 

 家に上がりこむ気満々で来たシャルロットだが、こういうのは、何と言うか、日本のある種の常識みたいなものだと聞いた。一応は遠慮する姿勢を見せるのが日本人の美徳というものらしいので。

 

「おう。全然いいぜ。別に一人増えるぐらい、何でもねえよ」

「――え?」

 

 シャルロットは石のように固まったのだった。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 突然やって来たシャルロットが、ソファの上から俺を睨んでくる。

 どうしてこうなるのだ。俺は本気で尋ねたくなった。誰に? 勿論この状況を作り出したこの世の何かに、だ。

 

「…………」

 

 そんなに睨むな、シャルロット。俺は何も悪いことをしていない。

 

「……何で翔がいるのさ」

「一夏に誘われたからだが?」

 

 昨日一夏に「久々にウチに来ないか?」と誘われたので、約束通り一夏の家に来てゲームなんかをしながら遊んでいたのだが、この状況である。

 一夏と野球のゲームで盛り上がり、ついに九回ウラ一点ビハインド、ワンアウト一塁二塁という状況だっただけに、試合の中断が非常に悔やまれる。再開の見通しは無い。

 

「はあ~。確かに家にはいるかもしれないけどさぁ……」

「そういう面を、一夏に期待しちゃいけないのは知ってるだろう?」

「……だよね」

 

 シャルロットがうな垂れるのを見て、俺は少し不安になった。シャルロットが来たのだから、もしかしたら他のラバーズも来るかもしれない、と。

 本質的にはあいつらの思考回路は似ている。いや、似てきたと言ったほうが正しいか。その上箒と鈴音は一夏の家を知っている。来ようと思えば問題なく来れるわけだ。

 とにかく、一夏の家でゆっくりさせてもらうはずの俺の一日は、どこかへ消え去ったと思ったほうがよさそうだ。

 

「翔、シャル。ジュースは何がいい? コーラかオレンジジュースかミルクティーか」

 

 一夏が台所から俺たちに注文を尋ねた。まるで妻のような口調であるが、人のことは言えない。多分俺も束がいるとああなる。

 

「俺はオレンジジュースで頼む」

「あ、じゃあ僕もそれで」

「うい」

 

 さささと滞ることなく一夏の飲み物の準備は進み、すぐにジュースが来た。素晴らしい手際である。流石、千冬さんの奥さん。

 ありがとう、と一言言ってジュースを受け取り、ストローで適度に冷えたジュースを飲んだ。

 うーむ。オレンジジュースの酸味と甘さが、冷たさと共に火照った体へと染み込む。うまい。

 

「……で、どうする? 三人じゃさっきやっていたゲームはできないぞ」

 

 ちなみに、やっていた野球のゲームは某パワフルな野球のゲームであることを追記しておく。アレは二人でしか無理だ。

 

「そうだなあ……」

 

 ピンポーン。

 一夏が頭を悩ませていたとき、インターフォンが鳴った。一夏はすぐにモニターのところに行ってインターフォンを押した人物を確認する。俺は見なくても誰が来たか分かった。

 

「……来たな」

「え? だ、誰が?」

「……お前のライバルたちだ」

「ら、ライバル? ライバルって、まさか……」

 

 ガチャッとドアが開き、そこからツインテールの少女とポニーテールの少女が現れた。

 

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 

 案の定、やって来たのは鈴音と箒であった。

 

「いやー、一夏の家って久しぶりね……――って、シャルロットぉ!? 何でアンタがいんのよ!?」

「……多分、鈴と同じだよ」

「か、翔っ!? 何故お前がここに!?」

「一夏に誘われたから遊びに来ただけだ」

 

 結論。考えることはどいつもこいつも同じらしい。結局一夏ラバーズが集結してしまった。

 

「…………」

 

 本当にどうしたものか、この状況。

 この後の騒がしい展開が簡単に予想できて、俺は人知れず頭痛に悩むのであった。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 ピンポーン、と再びインターフォンが鳴る。

 

「――で、結局こうなるわけか」

 

 一夏の家に、セシリアとラウラが来た。結局、一夏の家に集まった専用機持ちの面々。俺たちは自然と集まってしまう習性でもあるのかもしれない。

 

「一夏さん、お邪魔しますわ」

「邪魔するぞ」

 

 リビングに入ってきた二人の女の子。一人はロールがかかった金髪で、もう一人は流れる銀髪。

 

「お兄様っ!」

 

 ラウラは俺を見るなり、お約束の飛びつきを披露した。

 ラウラはつい一昨日に母国ドイツから帰ってきたところで、俺が迎えに行ってやったときはそれはそれは激しく甘えてきたものだが、それについては割愛しよう。具体的にやったことと言えば、抱きついてきたラウラを受け止めていただけなので。

 

「ああ、お兄様……」

「分かった、分かったから。暑いからほどほどにしてくれ……」

 

 ラウラの頭を適当に撫でてやりながら、今度は入ってきたセシリアに目を合わせた。

 

「か、翔、さん……」

 

 俺と目が合うなり、セシリアは赤くなって目をそらす。

 

『――翔さん、好きです。大好きです。……愛しています』

 

 脳裏に蘇る夏祭りのひととき。浴衣のセシリア。セシリアの告白。そして――。

 

『……わたくしの、ファーストキスですわ』

 

 ――セシリアの、唇の感触。

 

「〜〜っ!」

 

 俺は急激な体温の上昇を感じた。

 あれからまだ数日しか経っていない。まともに目を合わせるのも恥ずかしくて、俺たちはお互いを見ることもないまま、この何日かを過ごしたのだ。

 

「セシリア。あんたら何かあったの?」

「……あ、後でお話しますから、今は……」

「……ふ~ん」

「……お兄様」

「ど、どうしたラウラ」

「何があったのだ」

 

 じと~っと全員が俺とセシリアを睨む。

 

「――ま、いいけどね。後で聞けるんなら」

 

 鈴音の一言で、気まずい雰囲気に終止符が打たれた。俺とセシリアは安堵のため息をつく。

 

「じゃあ、せっかく集まったことだし、みんなでゲームでもしない?」

 

 鈴音が持ってきたカバンをひっくり返すと、そこからはモノポリー、人生ゲーム、水道管ゲーム(知っている人は結構レアだ)、トランプ、花札……。中からありとあらゆるボードゲームやらパーティグッズやらが現れた。

 

「鈴、昔からテレビゲーム嫌いだったけど、こういうゲームは好きだったよな?」

「そりゃそうよ。勝てるもん」

 

 得意げな鈴音。つまり、テレビゲームでは一夏と弾に散々やられてきたということであろう。哀れ。

 さて、どうしようか。七人というそれなりの人数だし、こうなるとチェスだとかオセロなどはできない。ある程度の人数でできて、それでいて暇にならないボードゲームとなると……。

 

「モノポリーなんかどうだ?」

 

 俺がそう提案すると、全員がうんうんと頷いた。

 

「全員一度はやったことがあるだろう? ルールの説明は不要だな」

 

 モノポリーというのは、二つのサイコロでコマを進めて、止まったマスの物件を買って、そこに止まった他プレイヤーに代金を払わせる、という趣旨のゲームだ。

 これの最大の特徴は、他プレイヤーに交渉することができるということ。手に入れた物件同士をトレードするも良し、持っている金で買ってもよし。交渉の内容はそれぞれの自由だ。

 つまり、このゲームは他人との交渉の良し悪しが勝敗を分ける。戦況を読み、どの物件をどのタイミングで手に入れて、さらにどのタイミングで物件を強化するか。それがこのゲームの肝なのだ。

 全員が自分のコマを選び、サイコロを振ってゲームが始まる。

 

「じゃ、最下位は罰ゲームとして全員にアイスを買ってくること。一位には高級なものをってことで」

 

 やはり勝負にはこういった報酬がなければな。やる気が違ってくるというものだ。

 俺からスタートということになり、俺はサイコロを握る。

 

「――さて、どこから手に入れようか……」

 

 ニヤリと笑ってサイコロを放った。

 鈴音には悪いが、俺はボードゲームで負ける気はない。口が立つゲームなら、尚更だ。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「ぐうぅ……!」

 

 俺の目の前で一夏が唸っていた。

 一夏の現在の状況はこうだ。一夏のコマは、俺の建てたホテル街(つまり止まったらとんでもなく高い場所)の目の前にいて、出た目次第では、高額の代金を俺に支払わなければならなくなる。それを回避するためには、五を出さねばならない。一では抜けることができず。二、三、四、六は全てアウト。それ以上大きい数字を出すと、今度は別の人の物件にぶち当たる可能性がある。

 

「い、行くぜ! 俺は……死なない!」

 

 一夏がサイコロを放る。

 六が出た。

 

「あ」

 

 つまり、直撃。

 

「ぬああああああああああああっ!」

「良く来たな」

 

 またもニヤリとする俺。

 

「お、お兄様、なんと恐ろしい……」

「ほ、本当ね。戦術眼がハンパじゃないわ……」

 

 ラウラと鈴音が戦慄しているが、もう遅い。既にこの場は俺が制したようなものだ。

 

「一夏、脱落だな」

「ぐっ……」

 

 一夏の財産がゼロになり、一夏の残った資産は全て俺のものになる。

 モノポリーでは、破産した人の残った資産は、させた人が全て貰えることになっている。

 

「あ~あ。もう手が付けられなくなっちゃったわね」

「そうですわね……」

「悪いが、勝たせてもらう」

 

 その後も順当に脱落していき、最後に残ったのはやはり俺であった。

 一夏はコンビニへ買出しに行かされ、俺は勝利のアイスを存分に堪能したのであった。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 アイスを頬張っていると、外のドアがガチャリと開いた。

 ま、まさか――。

 

「ただいま」

「!?」

 

 帰ってきたのは、一夏の姉にして我らが担任の織斑千冬。魔王の突然の帰宅に、家中に緊張が走る。

 

「なんだ、騒がしいと思ったらお前たちか」

「お、お邪魔しています……」

 

 侮り難し織斑千冬。あれだけ騒がしかった一同が一瞬で黙り込んだ。

 

「あ、おかえり千冬姉」

 

 だが、この雰囲気の中一夏だけは違った。一夏はまるで帰宅した旦那を迎える妻のようにささっと千冬さんに近づくと、

 

「暑かったろ? お茶、ぬるいのと冷たいのとあるけど、どうする?」

「そうだな、では冷たいのを貰おうか」

 

 帰宅した千冬さんをかいがいしくもてなす一夏。

 

「…………」

 

 想像以上の一夏の良妻ぶりに、誰も言葉が出なかった。一夏のこの姿を初めて見たセシリア、シャルロット、ラウラは特に驚いた様子だ。

 俺、箒、鈴音にとってはある意味見慣れた姿なので、驚いて、というよりは呆れて声が出ない。

 

「今日のメシはどうする?」

 

 千冬さんは一瞬考えた様子を見せて、その後すぐに、いや、と返す。

 

「いい。外で食べる」

「え? もう出てくのかよ?」

「ああ。お前たちと違って、教師は夏休みでも忙しいんだ」

 

 なるほど。千冬さんがいれば俺たちはくつろげないだろう、ということか。

 流石、大人の女性は違う。空気が読める。

 

「お前たちもゆっくりしていけ。……泊まりはダメだがな」

 

 千冬さんは今度は俺たちの方を見て言う。流石に年頃の男女が泊まりで遊ぶのは教師としては容認できないらしい。

 ではな、と一言残して千冬さんは家を出て行った。

 

「…………」

 

 一夏ラバーズがじとっと一夏を睨む。

 

「ど、どうしたんだよ?」

「……一夏、織斑先生の奥さんみたいだった……!」

「……ほんと、相変わらず千冬さんにべったりね」

 

 シャルロットと鈴音に全面的に同意。

 

「な、なんだよ。別に姉弟なんだから、普通だろ?」

 

 はあ、というため息が全員から漏れる。もはや何も言うまい。

 

「お兄様、お兄様」

 

 そんなことを考えていたら、ラウラが俺の服の袖を引っ張る。

 

「どうした?」

「お兄様も篠ノ之博士の前ではああなのか?」

「失礼な。アレと同じにするな」

「で、ではどのように振舞っているのだ?」

 

 ふむ、どのように、か。

 

「一言で言うなら、教育熱心で口うるさい母親……だな」

 

 ヤツの生活習慣の悪さを正すべく日々教育を施していたのだから、この表現が一番しっくりくる。

 ああ、あの聞き分けの悪さを思い出したら無性に腹が立ってきた。

 

「……苦労していたんだな、お兄様も」

 

 分かってくれたならいい。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 トランプなど鈴音が持ってきた一通りのゲームを遊び尽くして、時計を見ると既に五時を回っていた。

 そろそろ夕飯の準備をせねば。

 

「さて、晩飯どうしようか? 作ってもいいし、食べに行ってもいい」

 

 一夏が全員に尋ねた。

 

「なら、俺が作ろうか?」

 

 俺が真っ先に提案する。久しぶりに人に振舞ってみたくなった。腕がなる。

 

「あ、翔がやるなら俺もやるよ。なんか悪いし」

 

 一夏もやる気らしい。

 

「じゃ、じゃあ僕もやりたい」

「しょーがないわね。あたしもやるわよ」

「では私もやる」

「私も援護しよう」

 

 次々に手が挙がって、残すは――。

 

「ふふん。勿論、イギリス代表であるわたくしも――」

「「「「「「あんた(君)(お前)はダメ!!」」」」」」

 

 満場一致であった。

 

「な、何故ですの!? わたくしも料理くらいできますわ!」

 

 セシリアには是非、その無自覚さこそが罪であるということを自覚してほしい。

 

「……いや」

 

 待てよ。これは良く考えればセシリアの独創的な料理を普通にできるチャンスではないだろうか。俺が隣に立って逐一ダメな箇所を訂正していけば、流石のセシリアと言えどあの独創性を発揮できないはずだ。

 今にして分かったことだが、セシリアが料理をして俺に作ってきてくれたのは、彼女なりの俺へのアプローチだった。嬉しいことだが、これからも彼女がそうやってアプローチしてくれるなら、やはり気持ちだけではなくて味も良い方が断然いい。

 ……よし、やることは決まった。

 

「セシリア」

「何ですの……?」

 

 今の一件で少し不機嫌なセシリア。

 

「料理をしよう」

「!?」

 

 俺とセシリア以外の専用機持ちはぎょっとして驚いている。途端に、俺に訴えかけてきた。殺す気か、と。俺はそれを「まあ待て」と手で制した。

 

「ほ、本当ですの!?」

「ああ。――ただし、俺と一緒に作ること。それでもいいか?」

「い、いいもなにも、それは、とても……う、嬉しいですわ……」

 

 後半になるにつれてもごもごと話すセシリアだが、とりあえずオーケーなことは分かり、俺はその答えに微笑んだ。他の皆もそれならと納得したようだ。

 まあ、普通に考えて、セシリアにわざわざ料理をさせるなんて自殺行為以外の何物でもないから、皆の反対は尤もであったが。

 

「じゃあ、みんな準備してくれ」

 

 一夏の声で、全員がエプロンを着けて料理の姿勢に入った。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「お待たせしましたっ」

 

 駅前のとあるバー。そこには急いで駆け込んできた山田真耶の姿があった。

 

「すまないな。急に呼び出して」

 

 カウンターに腰掛けていた千冬は、手に持ったグラスを傾けながら言った。

 

「いえいえ。どうせ部屋で通販カタログを眺めていただけですから」

 

 真耶はそれに手を横に振って答える。

 真耶が席に座ったところで、千冬はバーのマスターにビールを注文した。勿論、真耶の分である。

 

「千冬さんも新しいのをお出ししましょうか?」

「そうですね、頼みます」

「かしこまりました」

 

 マスターはそういうなりすぐにグラスを取り出し、慣れた手つきでトクトクとグラスにビールを注いでいく。

 どうぞ、とマスターがビールを出すと、マスターはさっと二人のいる場所から離れた。これは長年の経験からの気配りである。

 

「――乾杯」

 

 チン、とグラス同士が音を立ててぶつかり、二人はグラスを傾けた。

 

「今日はどうしたんですか? お休みだからてっきり帰省されたものだと」

「いや、はじめはそのつもりだったんだが、家に例の連中がいてな……」

「例の連中というと……もしかして来たのは専用機持ちの七人ですか?」

 

 千冬が無言で頷く。

 

「……戦争が起こせる戦力ですね」

「冗談にならないぞ、それは」

 

 確かに洒落にならないジョークであったが、千冬は笑った。

 

「織斑君と、天羽君、その二人と一緒にいる女の子――。やっぱり気になりますか? 一夏君が女の子と一緒にいるのは」

「それなんだがなあ。先日の臨海学校のとき、例の連中に余計なことを言ってしまってな……」

「余計なこと?」

「……い、一夏はやらんぞと言ってしまった」

 

 千冬は恥ずかしげに話す。

 

「そ、それは、あの子たちへの宣戦布告ということですか?」

「いや。そんな深い意味で言ったのではなくてだな。ほら、弟とは姉のモノだろう?」

「だろう? と聞かれましても……。私、一人っ子なので分からないです」

「そうか……」

「織斑先生は反対なんですか? 一夏君が女の子と付き合うのは」

「いや、それはない。あいつは色々知るべきだ。世界のことも、ISのことも、女のことも」

「なら、いいんじゃないですか?それとも、私が認めた女でなければダメだ、とか?」

「そ、そういうことでもないんだが……。私にもよく分からん。――ああ、もうやめよう、この話は」

 

 千冬が半ば強引に話を終わらせると、暫くの間沈黙が訪れて、グラスの中のビールだけが消費されていく。

 

「なあ、山田先生」

「はい?」

「天羽のことをどう思う?」

 

 千冬が真耶に話を振る。

 

「天羽君、ですか? とても優秀な子だと思いますよ。成績優秀で、ISの実技も素晴らしいものを持っていますし、代表候補生と比べても遜色ないと思います」

「そういう意味ではない。天羽という生徒の人間性についてどう思うか、と聞いたんだ」

「え? そ、それは……至って真面目で、いい子だと思います。他の生徒にも慕われているようですし……」

 

 千冬はふむ、と相槌を打つと、話し出す。

 

「……私はな、正直、あいつは危険な存在だと思っている」

「え!?」

「あいつの経歴を見たが、謎な部分が多すぎる。出身地、誕生日共に不明。孤児院に住んでいて、小学校三年生までは一夏と同じ学校にいたが、転校。それから束に出会ったそうだが――詳しいことは分からん。束があいつを引き取ってからの五年間、あいつが何をしていたかは全く分からん。世界を転々としていたようだが、それも真実とは限らないからな。それに、元々IS学園への入学も束の推薦という異例中の異例の待遇だ。面倒なことが嫌いな束が、わざわざ推薦状まで書いてな」

「……つまり、織斑先生は、天羽君は信用に値しない、と?」

「そういうことではない。天羽翔という人間は信用している。昔から一夏と仲良くしていたから、小さい頃からあいつは良く知っている。昔から真面目で、誠実なやつだったな。一夏は人を見る目はあるから、その一夏が仲良くしているなら、信用できる。そこではなく、私はあいつの存在の『特異性』が危険だと感じている」

「と、特異性……?」

「ああ。……山田先生、少し耳を貸せ」

 

 千冬がそう言うので、真耶は黙って耳を寄せる。

 

「これから話すことは機密情報だ。言うまでもなく他言無用だから、気をつけろよ」

「は、はい……」

 

 一度釘を刺してから、千冬は話し出した。

 

「山田先生は、一夏が世界初の男性IS操縦者だと聞いているだろう?」

「え、ええ」

「――実はな、アレは嘘なんだ」

「ええっ!?」

 

 声を上げて驚く真耶。その真耶にしっ、うるさいぞ、と千冬は注意する。

 

「す、すみません」

「分かればいい。……で、アレが嘘だと言ったな? 事実はそうではないんだ。本当は、天羽の方が早く操縦できることが判明していた」

「な……っ」

「つまり、本当の世界初は天羽の方なわけで、一夏は二番目だ。しかも、天羽のIS起動が確認されたのは今から四年も前だそうだ」

「よ、四年!? そんなに前から……」

「天羽がISを操縦できることは、普通ならそこですぐに大々的に公表されていたはずだが、そのとき天羽は束といて、そして束は、どういうわけかその事実を隠蔽した」

 

 束がどういう意図でそうさせていたのかは不明であるが、束は翔をボディーガードのようにして侍らせていたようだ。緊急時はISの起動を許可し、実際は公にされていないが、翔の専用機は何度も戦闘を行ってきている。ただし翔は戦闘中にはバイザーで顔を隠し、特殊なホログラムで女であるように見せかけていた。加えて、翔が決着をつけた後、束は翔と戦った人物には特殊な暗示をかけて翔に関する記憶を消した上で牢屋に放り込んできた。そのため、翔の存在が明かされることはなかった。ただ、それでも裏の世界で噂が絶えることはなかった。

 ――世界のどこかに、ISを動かせる男がいる、という噂は。

 

「束は、一夏がISを動かせると判明するあの日まで、天羽の存在を公表しなかった。そして、あの日から数日後、束は天羽を二人として公表した。まるで、一夏がISを動かすを日を待っていたかのようにな。その後も束があれこれと根回しを行った結果、今では天羽が二人目の男性IS操縦者と一般的には認識されている」

「し、篠ノ之博士は何故そのようなことを?」

「分からん。昔からあいつの考えていることは分からないからな。――ただ、束がこのタイミングで天羽の存在を公にしたのには、何か大きな目的があるからではないかと私は推測している」

「…………」

 

 つまり、これらの情報をまとめると。

 翔は事実上世界初の男性IS操縦者で、束が隠してきた秘蔵の弟子。さらに使用している専用機は束お手製の第四世代機で、おまけに第二形態移行済とまで来ている。束に近い男性IS操縦者とその専用機など、各国は喉から手が出るほど欲しいはずだ。言わば、翔は世界各国にとって秘密が詰まった宝石箱、というわけである。

 

「つまり、織斑先生は、その天羽君の特異性が何か問題を呼ぶと考えているわけですね?」

「そういうことだ。異質、という意味では一夏や篠ノ之も同じことだが、天羽はその中でもまた異質だ。今や世界で最も特別な人間であるあいつが、この世界にどれほどの影響を及ぼすことか……」

 

 そう言って、千冬はグラスに残ったビールを飲み干した。どこか行く先を憂いた千冬の表情に、麻耶はつられて不安になる。

 それはまだ真耶が若いからであろうか、今の千冬の表情を見て、思ったことを口に出さずにはいられなかった。

 

「……と。まあいろいろと考えてみたが、結局そんなものは私の言い訳に過ぎない」

「言い訳?」

「ああ。……私が生徒を守れなかったときの言い訳だ」

 

 千冬は自嘲的に話す。

 

「以前の……堕ちた福音(ゴスペル・ダウン)事件。私は、生徒を失うところだった」

「…………」

 

 忘れもしない、出来事。あの事件で、天羽翔は一度撃墜された。

 

「教師の役目は、生徒を守ること。なのに私ときたら、司令室でただ生徒たちの戦う様を見守ることしかできない」

 

 千冬はコロコロと空になったグラスを回しながら言った。

 

「つまるところ、予想外の事態が起こって生徒たちが戦わなければならないことを、天羽のせいにしているだけなんだ、私は」

「そんなこと、ないです」

 

 真耶が静かにそれを否定する。

 

「……確かに、そうかもしれません。ですが、織斑先生はいつも彼らのことを想って行動されてます! それに、私にとっても彼らは大事な教え子で、それ以上でも以下でもありません! 例え天羽君が危険な存在であっても、私は生徒を信じています!」

「…………」

 

 どんなときでも生徒を信じ、導き、守ることが教師の役目である、と真耶は信じて疑わない。

 

「それに、天羽君には素晴らしい仲間がいるではありませんか。一夏君は勿論、他の彼の仲間が、天羽君を導いてくれるはずです。今もこうして、天羽君は仲間たちと楽しく過ごしています。――織斑先生、信じてあげてください。他でもない、自分が教えた子供たちを。彼らならきっと、どんな困難も乗り越えてくれます!」

 

 真耶は真剣な表情で全て思っていたことを打ち明けた。

 生徒を信じる。それはつまり、彼らの力を、可能性を、信じること。複雑な立場にいる専用機持ちだが、今までも彼らはその力で未来を自ら切り拓いてきた。以前の事件にしても、解決したのは結局彼らだ。

 だから、彼らが悩み、苦しむそのときに、道を示すのが今の自分の役目だ、と真耶は思っている。

 

「……言うようになったな、山田先生?」

「す、すみません、勝手なことばかり……!」

 

 言い終わった後、真耶は慌てて謝る。だが千冬はいや、とそれを否定する。千冬はふふ、と微笑を漏らした。

 

「――そうだな。山田先生は正しい。生徒を信じる。当たり前のことを忘れていたようだ。何があってもあいつは、あいつらは私たちの生徒だ」

「織斑先生……」

 

 笑顔でそう話す千冬に、真耶は嬉しくなった。

 何か吹っ切れた様子の千冬は、気持ちを切り替えて空にしたグラスを持った。

 

「さて、今日はまだ飲むぞ。付き合ってくれるな、山田先生?」

 

 ニヤリと千冬が言うと、真耶は笑顔で、

 

「はい、今日は朝までお付き合いしますよ」

 

 と笑顔で答えた。

 

「そういうことは男に言ってやったらどうだ?」

「――じゃあ、目の前の人より男前な男性がいたらいうことにします」

 

 真耶のジョークに千冬ははっはっはと豪快に笑うと、マスターにおかわりを注文した。

 そのバーでは、しばらく二人の女教師の笑い声が響き、それが絶えることはなかったという。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「セシリア、肉には塩とコショウで下味をつけて――ま、待て待て、何故そこでタバスコを大量に放り込もうとする!?」

「だって、赤い色が足らないではありませんか。完成したレシピはもっと赤く仕上がっていますのに」

「それは肉を煮込んでいるうちにちゃんとそうなるから、指示した通りにやってくれ……」

「了解しましたわ! では、今度はこの日本酒を――」

即座に違うことをするな!」

「えいっ」

「な!? ち、近いっ! セシリア、近すぎるっ! これ以上は無理だと何度も言っただろう!」

「いいではありませんか」

「断じて良くない! 包丁が刺さったらどうする!?」

 

 厨房では翔とセシリアが仲良く(?)料理をしていた。

 

「くそっ、セシリアめ……。一体何があったというのだ!」

 

 その様子を見てラウラはイライラしながら手に持ったナイフでジャガイモを両断していた。

 

「――斬る」

 

 全身から負のオーラを噴出しながら、ダンッ、ダンッとまるでギロチンのようにナイフを振り下ろすラウラ。近寄ったら自分たちもあのジャガイモたちのようになりそうで、誰も近寄ろうとはしなかった。

 

「お兄様っ! 私も一緒に料理したい!」

 

 ついに我慢の限界を越えたラウラが、翔とセシリアの間に乱入した。

 

「なっ、ラウラさん!? 何ですの、途中から入ってきて! 翔さんはわたくしと一緒に料理しようと言ってくださったではありませんか!」

「関係あるか! 私はお兄様の妹だぞ! 妹が兄と料理するのは自然の摂理だ!」

「言っていることが滅茶苦茶ですわ!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐセシリアとラウラ。それをなだめようとしてもできない翔。

 

「翔も大変ね」

「はは……そうだね……」

 

 そんな彼らを見て、鈴とシャルロットは苦笑していた。

 

「――ああっ、もう、鬱陶しい! このジャガイモ切りにくいっての!」

 

 元々大雑把な鈴は綺麗に野菜を切るとか、丁寧に混ぜるとかそういったことを苦手だ。現に既に切り終えてボウルに入っているジャガイモの形はバラバラである。

 

「ねえ一夏。そっちの大根余ったらこっちにも分けてくれない? 前に一夏が言ってた大根おろしを混ぜる唐揚げにしたいから」

「おー。了解」

 

 一夏は今回自分で料理は作らず、手の要る人のサポートに徹していた。

 本来ならその役目は翔の方が適任なのだが、翔はあんな様子なので、一夏が代行している。

 

「一夏、こっちを手伝ってくれ」

「分かった」

 

 箒は割烹着にほっかむりという和エプロンスタイルで、魚を調理している。

 そんなこんなで、楽しい料理の時間が過ぎていく。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 いただきます、と七人が唱和し、俺たちは一斉に箸を持つ。

 

「…………」

 

 ずらっと並んだ料理を見る。

 まず目を惹くのは、異様な見た目の一品――ラウラのおでんである。普通おでんといえば鍋の中に入っているのを取って食べるはずのものだが、ラウラの作ったおでんは、こんにゃく、卵、大根を串にぶっ刺して、それに綺麗な焼き色をつけたものだ。

 ……ラウラ、お前「漫画おでん」とおでんを取り違えてないか?

 前にも思ったが、ラウラに間違った日本文化の知識を植え込んでいるのは誰だ。是非一度会って話し合いたい。ラウラの教育方針については、兄である俺も一定の発言権を主張したい。

 

「お、お兄様、どうだ?」

 

 期待と不安が入り混じった目でじいっと俺を見るラウラ。それに圧されるように、一口。

 

「…………」

 

 コ、コメントし難い。まずくはない。決してまずくはない。ただ、コメントし難いだけだ。

 

「あ、ああ。美味い」

「そ、そうか! そうかそうか……!」

 

 ラウラは嬉しそうだが、「美味い」だけというのは食バカとして恥ずかしいコメントではなかろうか……。まあラウラが嬉しそうだからそれでいいか。

 次は鈴音の肉じゃがだ。

 まず特筆すべきはその見た目。ジャガイモが煮崩れたり、逆に巨大だったりと、全く形が揃っていない。盛り方も雑で、全体的に見た目は悪い。

 だが――。

 

「どうよ?」

「う、美味い……」

 

 見た目はともかく、味はとてもいい。調味料は絶妙な加減で、甘すぎず辛すぎず、いいバランスが保たれている。しっかり煮込んで(小さい具は煮込みすぎた感は拭えないが)いるため、じゃがいもと肉とたまねぎにもしっかり味がついている。美味である。

 むう、素晴らしいじゃないか、鈴音。この前の酢豚のときにも思ったが、彼女にはセンスがある。

 次だが……。もうここからは心配あるまい。シャルロットと箒の料理だ。まずシャルロットの唐揚げから頂くことにする。

 

「ど、どうかな?」

「美味い!」

 

 素直に頷ける美味さ。取り立てて凝ったわけではないだろうが、それ故に舌を裏切らない美味さだ。最初のかりっとした衣と、それに包まれた脂ののった鳥肉がたまらん。塩と胡椒で美味しく頂いた。

 次は箒のカレイの煮付け。

 

「どうだ?」

「おおっ、美味い!」

 

 ふっくらとした白身を口に運ぶと、身の淡白な味に絡まる煮汁のうまみが溢れてきた。カレイのダシがしっかり出ている煮汁は、身の味を壊さないあっさりとした味わいだ。素晴らしい。

 

「…………」

 

 全員の視線がある料理に注がれている。それは、俺とセシリアが作ったハッシュ・ド・ビーフ。一応言っておくが、味見はした。ちゃんと上手に仕上がっているから安心して欲しい。

 あと、セシリアの名誉のために言っておくが、俺は助言をしただけでセシリアはちゃんと自分で作った。

 恐らく皆の思考はこうだ。俺が付いていたから大丈夫だと思いながらも、やはりセシリアが作ったということで油断はできない、といったところだろう。

 

「さあ、召し上がっていただいて構いませんのよ? わたくしと翔さんの自信作ですもの」

 

 ふふん、とセシリアは胸を張って言うが、セシリアの自信作というのは恐怖しか生まない。事実、全員ややスプーンが遠のいた。

 

「そんなにもったいぶらずに食べてみてくれ」

 

 このままでは進まなそうなので、俺が後押ししてやった。

 他の五人は恐る恐るハッシュ・ド・ビーフを口にする。

 

「――あっ」

「おっ!」

「……むっ」

「ほう」

「おお」

 

 それぞれの口から驚きの声が漏れる。

 

「美味しいっ」

「ほんとね! 流石翔だわ、美味しい」

「お兄様のお陰だな」

「翔の指導さまさまだ」

「み、みなさんっ! わたくしも作りましたわよ!」

「二割じゃないの」

「失礼な!?」

 

 怒るセシリアに、それに油を注ぐ鈴音と箒、正面から喧嘩を売るラウラ、それをなだめようとするシャルロット。ぎゃーぎゃーと言い合う女性陣を横目に、俺と一夏は巻き込まれないように隅で茶碗を片手に料理をつついていた。

 騒がしいあいつらを見ながら、俺と一夏は苦笑した。

 

「なんか、いつも通り騒がしいなぁ。でも、何でか知らないけど落ち着くんだよな」

「同感だ」

 

 俺はいつの間にか、この仲間たちと過ごしているのが当たり前になっていたようだ。だからいつも騒がしいこの面子といることが、俺たちにはごく自然なことなのだ。

 この変わらない光景が、俺にはこの上なく大切な時間だ。俺を無二の存在と認めてくれる仲間たち。仲間たちと過ごすことで、俺はこんなにも満たされている。

 暫く二人で談笑しながらおかずをつついていた俺たちに、シャルロットからの救援要請が出た。

 

「ちょ、ちょっと翔、一夏助けて! ラウラが――!」

「う、うるさいっ! お兄様は私だけのお兄様だ! セシリアなんぞにはやらんっ!」

 

 ……どうやら、この前の夏祭りの一件がバレてしまったようだ。戦火の拡大の確率は、一〇〇パーセントに達している。

 

「ラウラさん! 何と言われようと、わたくしは絶対に退きませんわよ!」

「うるさいうるさいこのお兄様泥棒めッ! 貴様がお兄様の恋人になるなど認めん認めるものか絶対に私は認めんぞぉおおおっ!!」

 

 俺は、絶対に護りたい。――いや、護ってみせる。

 大恩ある束に啖呵を切ってまで、ここにいたいと思った。それだけの、何にも代え難い価値が、ここにはある。

 

「だから翔、助けてってば!」

「俺たちじゃ手に負えねえって!」

 

 俺は穏やかな気持ちのまま、それに答えた。

 

「――ああ、今行く」

 

 

 

 ――束、今どこにいる?

 俺はただ、願うよ。この変わらない平穏な生活が、少しでも長く続くことを――。

 

 




これで第八章終了となります。八章では多くの方からのお気に入り、感想をいただきました。ありがとうございます。
これからも『天翔ける蒼い炎』をよろしくお願いします。

次章第九章は、リアルの都合で少し開いて1月30日(土)投稿開始となります。
九章では大人気「あの人」が登場します。お楽しみに。

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