IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~ 作:若谷鶏之助
ついに夏休みに入った七月の下旬。終業式も無事終わり、一学期は終了した。夏休みに入ってすぐ、セシリアと鈴音が帰国するのを見送ったのがつい一昨日のことだ。
夏の暑さは手加減することを知らず、窓から覗く日差しが強烈な光で俺たちを焼く。
「お兄様、早く行こうっ!」
「ああ、分かっているから急かすな」
ラウラは待ちきれないとばかりに俺を急かして、駅へと連れ出そうとする。俺はまだ部屋の鍵もかけていないというのに。
今日、俺とラウラは臨海学校で約束していた通り、学園の外へ遊びに行くことになった。ラウラがご機嫌なのは、そういうわけである。
「お兄様ーっ」
「ああ、分かっている」
最後の戸締りを済ませて、俺は駆け出すラウラを追いかけた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お兄様、今日はどんなところに連れて行ってくれるんだ?」
「……まあ楽しみにしていろ」
目的地である公園について、俺たちはベンチで腰を下ろしている。
俺は外へ遊びに行ったことがほとんど無い。世界中を旅していたときはそんなことを言っている暇は無かったし、一夏と箒とは道場で稽古ばかりしていたためである。行ったことがあるのは、ゲームセンターぐらいだ。
ふと隣のラウラに目を向けると、珍しいラウラの私服姿が目に入った。普段はほとんど制服で過ごしているから、尚更そう思う。一度服の種類を聞いたことがあるのだが、確かそのときは制服と軍服のみだと言っていたような気がする。
しかし――。
「良く似合ってるな、その服」
ラウラは今黒いレースをあしらったワンピースを身に纏っている。シンプルだが、ラウラは可愛らしい容姿をしているので、シンプルでも良く映える。銀髪も相まって、一見すれば妖精のようにも見えるかもしれない。左目の眼帯が少し浮いているようにも思えるが、それはそれで超俗的な印象を与えていて悪くない。
「あ、ありがとうお兄様」
ラウラが照れる。
「シャルロットが選んでくれたのか?」
「そうなのだ。この前シャルロットと出掛けたときに買ったものだ。……褒めてくれて、嬉しい」
はにかむラウラを見ながら、こんな表情もできるようになったのだな、と一人感動していた。
ラウラは同室のシャルロットと仲が良い。この前二人で街に買い物に行って、シャルロットに見繕ってもらったようなのだ。
で、そのときに寄った喫茶店でスカウトされ、ラウラと『@クルーズ』という店でメイドさんとして(シャルロットは男装して執事として)バイトをすることになったらしい。その最中突然強盗が入ってきて二人が制圧した、なんてことがあったらしいが、その辺は割愛させてもらう。
シャルロットには、色々と教えてもらっているようだ。主に常識、常識、あとは常識など。常識以外に何もないのは気にするな。とにかく、シャルロット様々である。ラウラの教育費を払おうかと思ったくらいだ。
「しかしこの街は市街戦をするには適さないな。遮蔽物が少ないし美しい景色を破壊するのは忍びない。戦車が通るのは無粋というものだ」
……こういった部分が未だに抜けていないのが玉に瑕である。まあ仕方ないか。この辺は個性と思ってしまえば可愛いものである。
そんなことを考えながら、時計を確認した。集合時間の一〇分前。まだ早いか。
「実はな、会わせたい人がいるんだ」
「――な、何ッ!?」
ラウラの顔が驚愕に歪む。
「だ、誰なのだその女は!? お、お兄様にこ、恋人など、妹である私が絶対に許さないぞ!?」
「そんなわけがあるか」
俺に恋人なんているはずないだろう。
「なら誰だ!?」
「多分見たことがあるだろうから、すぐに分かる」
「ぬっ!?」
ラウラは「誰だ、誰なのだ……!」と一人頭を抱えて悩んでいる。俺はそんなラウラを尻目に、もう一度腕時計を確認する。そろそろ時間だが……。
「――あっ、天羽さーん!」
そのとき、名前を呼ばれた。来たな。
やってきた少女は、赤い髪を揺らしてこっちへ手を振っている。
「いやー、悪い。待たせたな」
そう言いながら歩いてくるのは、五反田弾。俺の数少ない男友達の一人。一緒にいる女の子は、弾の妹の蘭である。
「大丈夫だ。俺たちも今来たところだからな」
「ならよかった」
弾がそう言うと、蘭が横から口を挟む。
「すみません。ほんとはもうちょっと早く来るはずだったんですけど。このバカ兄の準備が遅くて……」
「おまっ、自分のこと棚に上げんのかよ!? 最後までぐずぐずしてたのお前だろ!」
「何よ!」
早速喧嘩を始めてしまった二人。相変わらずである。
ラウラは突然の展開に目を点にしている。以前二人とレゾナンスで買い物したとき、ラウラは俺を尾行していたのでこの二人は見ているはずだ。だから「多分見たことがある」と言ったのだ。暗に俺は「尾行に気付いていた」と告げたのだが、ラウラはそれには気付かなかったようだ。
五反田兄妹の喧嘩が続いていたので、俺が仲裁に入って止めさせる。さっさと紹介を済ませようと俺が言うと、二人はラウラの前に立った。
「紹介する。こいつが俺の妹、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「よ、よろしく頼むっ」
ラウラはびしっと背筋を伸ばして敬礼した。街中で少女が敬礼している様はシュールの一言に尽きる。
俺は滑稽なラウラの姿に苦笑した。多分緊張しているんだろう。ラウラはこう見えて結構人見知りだ。まあ、生い立ちを考えればそんなに不自然なことでもないかもしれない。人付き合いも苦手だったようだし。
「…………」
何故か黙って何も言わない二人。その後二人で顔を見合わせると、そそくさと移動してひそひそ話をし始めた。
「(ねえ、お兄っ! 何で一夏さんの関係者って綺麗な人しかいないのよっ!?)」
「(知るか! 俺だってびっくりしてんだよ!)」
何を話しているかは分からないが、状況把握に時間がかかりそうなのは確かだな。
「……な、何か悪いところがあったか?」
不安そうな目で俺を見上げるラウラ。俺は大丈夫だから安心しろ、と頭を撫でてやった。
五反田兄妹の作戦会議も終わったようで、俺たちのところに戻ってきた。
「え、えっと、俺は、五反田弾。翔とは友達なんだ。よろしく」
「い、妹の蘭です。よろしくお願いします」
弾は軽く会釈して、蘭はぺこりと頭を下げた。
「あ、ああ、よろしく頼む……」
ラウラは歯切れの悪い返事をした。
まったく、何を緊張しているんだか。可愛いやつめ。
「さあ、行こうか」
俺の声に応えるように、他の三人が後に続いた。
かくして、二組の兄妹による珍道中が始まったわけである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
街を歩きながら、蘭とラウラの会話は続いていた。
「へえ~、ラウラさんってドイツの代表候補生なんですね! すごーい、超エリートじゃないですか!」
「そ、それほどでも……あるな」
あるのか。
「ドイツかぁ~、行ってみたいです」
「良い国だぞ、ドイツは。機会があったら是非我がドイツに来てくれ」
蘭とラウラは既に打ち解けたようで、楽しそうに会話している。穏やかな表情で二人を見ている俺に、弾が横から声をかけてきた。
「しかし、びっくりしたぜ。妹と一緒に遊んでやって欲しいなんて言われたときはよ」
ラウラとの約束を果たそうと思ったのが今回のお出かけの発端なのだが、俺は二人で遊びに行ったことなどないので、どこに行ったら良いのか分からなかった。だから弾に聞こうと思い、そこで電話したときに弾も一緒に来てくれないか、という話になり、今に至る。
弾にこのことを頼んだのはつい二日前である。予定があったのかもしれないが、弾は快諾してくれた。
「すまないな、急に」
「いや、いいんだ、暇だったし。どーせ家にいても、店の手伝いさせられるだけだしな」
「……ありがとう」
「いいって。俺もお前の妹に会ってみたかったし」
にかっと笑う弾を見て、俺はそれならよかった、と安心して言うのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「で、最初はカラオケ、と……」
どこに連れて行くのかと思ったら、カラオケボックスだった。
「翔、こんなん初めてだろ?」
「……違いない」
歌なんて何曲知っているかというレベルだ。
「む、これがカラオケ、というやつか……」
「ラウラさんも初めてですよね?」
「ああ」
カラオケは初めての俺たち兄妹と、慣れた感じの五反田兄妹。
うーむ、どんな曲があるだろうか。
「せっかくだから、翔最初に行けよ」
弾がリモコンを俺の方に寄越し、勧めてきた。お言葉に甘え、曲を選んでいく。知らない曲ばかりだが、リモコンをタッチして選んでいく。けっきょく
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらおう」
俺は選んだ曲を転送し、マイクを取った。
「お兄様ーっ」
ラウラが向かいの席で声援を送ってくれた。片手を挙げ、無言でそれに応じる
――じゃあ、歌うとしよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
二時間ほどカラオケで歌を歌った後、俺たちは移動していた。
弾は普通に上手だったし、蘭も上手だった。驚いたことに、ラウラは歌がとても上手かった。多分今日いた四人の中で一番上手かったのではなかろうか。
俺は……まあそれなりに歌えたと思う。
「い、いやー、意外でしたね」
「そ、そうだな……」
信じられない、と言った様子で蘭とラウラが会話している。
「(ラウラさん。天羽さんって、何でもできる人でしたよね……?)」
「(そ、そうだぞ。確かにそのはずなのだが……)」
「(に、人間誰しも苦手の一つや二つありますもんねっ……!)」
「(そ、そうだなっ)」
「何がだ?」
「……知らないほうがいいぜ、多分」
はあ、とため息をつく弾。何故か蘭とラウラもショックを受けた様子だ。
「……無自覚なのな、ほんで」
「?」
「……何でもねえよ」
三人が何を話しているのかは分からないままであったが、そうこうしているうちに目的地であるゲームセンターに着いた。
「こ、これが、ゲームセンターというやつか!」
ラウラが目を輝かせて言った。何もそんな過剰に反応せんでもいいと思うが。
「しょーがないんじゃねえのか? 初めてなんだろ、ラウラちゃん」
「まあ、な」
あの反応を見れば一目瞭然だ。
「世間知らずだから、純粋だな。あんなに喜んでくれたんなら、連れてきた甲斐があるってもんじゃないか?」
「……そうだな」
世間知らずか……。それもそうだな。
「お兄様ーっ! 一緒にやろう! 面白そうだ!」
笑顔で俺を呼ぶラウラに、俺はやれやれと漏らしながらついて行った。
――本当に、良い顔ができるようになったな、ラウラ。
「この際だし、ゲーム大会しようぜ」
「いいじゃないか」
弾の提案に、俺が賛成した。蘭とラウラも乗り気になったらしく、二人も賛成した。
「じゃあ、二人でペアになって――」
「私はお兄様とペアだ」
即答であった。
「速いなオイ!? まだちょっとも説明してねえぞ!?」
「……ラウラ。それだったら面白くないだろうが」
こんな機会なんだから、俺以外のやつと組めばいいのに。
「嫌だ! 私はお兄様となる!」
「はあ……」
臨海学校の思い出が蘇る。ビーチバレーのときもこうやって駄々をこねて無理矢理ペアになったんだったか。
結局、俺がラウラを説得し、ペアは俺と弾、ラウラと蘭という兄ペアと妹ペアになった。
「じゃあ、ルールを説明すんぜ。今回三つのゲームで二つのタイトルを獲ったほうが勝ちだ。やるのは、シューティングゲームとレーシングゲームとホッケーだ。負けたほうはアイスおごりな」
ということで、兄と妹のプライドを賭けた戦いが幕を開けた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
初戦。シューティングゲーム。
ご存知ゾンビが襲い掛かってくるのをひたすら倒す某ゲームである。勿論コンティニューは無し、予算は一〇〇円玉一枚のみ。
先攻の俺と弾のターンが終了し、結果なかなかの記録であった。
「弾、なかなかに上手いな」
「翔には負けるって。お前規格外じゃねえか……」
俺はIS操縦者だからな。当然だ。だからといって射撃センスゼロの一夏と同じにしてもらっては困るが。
「しかし弾。あの点数では、恐らく勝てないぞ」
「な、何で?」
「それは――」
俺は銃を握ったラウラが、一瞬で数体のゾンビの急所を撃ち抜いたのを指差した。
「……は?」
素っ頓狂な声を上げる弾。
「ふむ。大したことはないな」
そう言いながら、ラウラは全く無駄の無い動きでゾンビを撃ち殺していく。蘭がどうこうする前に、現れたら瞬殺しているので蘭は何もしていない。
無駄弾ゼロ、ノーダメージでどんどんと妹ペアはステージを突き進んでいく。
「い、いくらIS操縦者だからってあれはねえよ……あんなんガチの軍人じゃねえか……」
「正解だ。あいつはドイツ軍のエリート軍人なんだ」
「嘘だろ!?」
残念ながら、紛れもない事実である。
結果、第一回戦のシューティングゲームは妹チームの勝利で終わった。
ちなみに、ラウラと蘭が(というよりほぼラウラが)叩き出したスコアは、このゲームセンターでトップの記録であったことを追記しておく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
二回戦、レーシングゲーム。
「よっしゃ、キノコいただきっ!」
「ああっ!? お兄何してんのよ!? 邪魔しないでよね!」
「するに決まってんだろ! これ負けたら俺らの負けだからな!」
「ぐぬぬ……、お兄様を抜けない……!」
「アイテムの使い方がなってないんだ、お前は」
四人一緒に機械に乗り込み、ハンドルを握って熱いレースを繰り広げる俺たち。想像はつくと思うが、やっているのはアイテムを使ってレースをするあのゲーム、もといマ●オカートである。
現在、順位は弾、蘭、俺、ラウラの順である。このレースは総合スコアで勝ったほうの勝利なので、このまま行けば俺たちの勝利だ。
「ふっふっふ、来たぞ! お兄様! この私の赤甲羅を受けるがいいっ!」
俺の後ろから赤い甲羅が追尾して迫ってくる。
だが、甘い!
「残念だったな。緑甲羅ガード」
「卑怯な!?」
どこがだ。
ラウラはとにかくアイテムの使い方がなっていない。アイテムも使いようだ。使い方次第では良くも悪くもなる。このゲームはアイテムの使い方が肝なのだ。
「おお」
通った箱から現れたアイテムは、スター。
――この勝負、もらった。
「勝負を決めよう、弾」
「よっしゃ!」
俺が必殺の無敵スターを発動し、すぐ前に迫った蘭のカートを突き飛ばした。
「ええっ い、いやあああっ」
「ら、蘭っ!? おのれお兄様めっ」
意気込むラウラだが、もう遅かった。俺と弾のカートがワンツーフィニッシュでゴールし、俺たちの勝利が決まった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
勝負は最終戦までもつれ込み、最後はホッケーでの勝負となった。
筋力的、及び腕のリーチの不平等があるので、俺たちの五点ビハインドで試合開始となった。
「負けないぞ、お兄様!」
「こちらのセリフだな、ラウラ」
なんだかんだで俺もラウラも負けず嫌いだ。こうなったら意地でも勝ちたい。
「この勝負、もらったな。お前ら翔の強さを知らねえだろ?」
既に勝ち誇った表情の弾。そういえば初めて弾と遊んだとき、一夏と弾の二人を粉砕したんだったな。
それでも蘭の表情には余裕がある。
「そう? ラウラさんの実力は未知数。どうなるか分かんないわよ?」
「くっ……」
身体能力だけならラウラは俺に引けを取らない。ハンデもあるし、どうなるか分からんぞ。
「――では、先攻はいただくぞ! 覚悟ォッ!」
カァンッ、と勢い良く放たれたパックは、信じがたいスピードで敵陣へと侵入してきた。
「や、やばっ!?」
右側の弾が必死に防ぐものの、パックは再び相手の陣地へと流れる。
「えいっ」
蘭が俺たちの間を的確に狙ってきた。思った以上に上手いな、蘭。
「俺がやる」
体を内側へ寄せて、俺は右手を後ろに引いた。反撃とばかりに、全力で腕を振ってパックを壁にぶつける、左右へ揺れるショットを叩き込んだ。
スカァンッ!
甲高い音を立てて、パックが妹チームのゴールへ飛び込んだ。これで一対五。いいスタートだ。
「ナイス翔」
「ああ」
弾とハイタッチして、次へ備えた。
「やるなお兄様。――だが、勝負はここからだ!」
ラウラが目に炎を燃やし、腕を引く。いつの間にかスポ根キャラに変貌したラウラの気合の入ったショットが打ち込まれて、試合はさらに激化していった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ついに、兄と妹の戦いは最終局面を迎えていた。
現在、スコアは一五対一五。ゲームはこの上なく白熱している。俺たちの応酬の凄まじさからか、周りにはギャラリーができていた。
「ラスト、一点ですね」
「そうだな」
この一点を取ったほうが、タダで美味いアイスを食べれる。負ければ、奢り。絶対に負けられない。
「弾、お前のサーブだ」
「おうっ!」
弾は俺からパックを受け取るなり、目を閉じて、はああぁ……と声を出して集中し始めた。
「お兄、何かするつもりですね。――ラウラさん、気をつけて。こうなったらお兄はどんなことをしてくるか分かりません」
「了解した」
弾はカッと目を見開いて、パックをボードに置いて構える。
「行くぜ、五反田弾必殺――!」
全力で引いた腕を、全力で振りぬ……――かなかった。
「――時間差アタックゥッ!」
「予想済みだ」
「嘘だろッ!?」
弾が放った必殺技は、ラウラに正面から受け止められた。これだけ溜めて瞬殺か。ダサいにも程がある。
「……おい、パック取られたぞ」
「……すまん」
敵陣ではラウラがパックを押さえつけて、こちらのゴールを狙っている。ピンチだ。
「さあ、最後のラリーだ! お兄様っ、勝たせてもらうぞ!」
ラウラの鋭いサーブが飛び込んでくる。俺は紙一重で返球し、蘭がそれを返す。一進一退の攻防が続き、お互い一歩も譲らない。
だが、打ち合いの中、ラウラの集中力が徐々に増してきていた。そして――。
カアアアンッ!
――俺たちのゴールに、パックが入った。
「やったー!」
「はははは! やったぞ、私たちの勝ちだ! どうだ、お兄様!」
「流石ラウラさんです!」
「くっ……」
ハイタッチして喜ぶ妹チームを前に、敗北した兄チームは崩れ落ちる。
こうして、兄妹の全面戦争は妹チームの勝利という結果に終わった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……トリプルストロベリースペシャルを一つと、バニラを一つ」
「……ゴージャスショコラの大と、バニラを一つずつ」
敗北の後、ご機嫌な妹たちと一緒にアイスクリームショップに来た俺たちは、店員に明らかに高そうな名前のアイスを一つずつ注文する。
「ありがとうお兄様っ」
「サンキューお兄」
そして、高価なアイスは妹の口へと入っていく。俺がラウラに奢るハメになったアイスはなんと八〇〇円。地味に手痛い出費だ。ちなみに、追加したただのバニラアイスは言わずもがな俺たちのものだ。敗者がご馳走にありつけないのは世の常である。
負け惜しみかもしれないが、バニラアイスでも、普通に美味い。悲しいことなんてない……というのはただの負け惜しみにしかならないか。
「うん、美味いっ! 蘭のアイスはどうだ?」
「こっちも美味しいです! よかったら、一口交換しませんか?」
「おお、良いな」
それでも、だ。俺はアイスを美味しそうに食べるラウラの姿を見たら、どうでもよくなってしまうのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ありがとう、弾、蘭。お陰で今日は楽しかった」
「おう。じゃあな」
「またな」
「さよならー」
帰り道。五反田兄妹と分かれた俺たちは、IS学園への帰路へついていた。
並んで歩く俺たち。二人の影が俺たちを追う。
「楽しかったか、ラウラ?」
「ああ、すごく楽しかった!」
あのあと、ゲームセンターで取った戦利品の小さなウサギのぬいぐるみを抱えながら、ラウラは笑顔で俺を見上げた。まあラウラのこの表情が見れたのだから、今日は大成功だろう。
「悪かったな。本当は二人で行くのが良かったんだろうが」
「いいや、全然構わないぞ。私はお兄様と行くならどこでもいいと言ったからな。――それに、『友達』も増えたしな」
嬉しそうに、ラウラが言った。俺が銀の髪を撫でてやると、ラウラはもう一歩俺に寄ってきた。
「――次は、二人でどこかに行こうか」
「ほ、本当か? 楽しみにしておくぞ!」
そんな俺たちは、ちゃんと仲の良い兄妹に見えただろうか。
多分大丈夫だろう。誰にも見えなくても、俺たち兄妹の絆は、確かにここにあるのだから。