学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として   作:RedQueen

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誤字・脱字がある場合は申し訳ありません。


序列九位、レスター・マクフェイル

「……なら、なんで新参者なんかと決闘しやがった!」

 

若い男の声。

気の小さい者ならすくみ上がってしまいそうな剣幕で、ビリビリと空気を震わせている。

(なにか揉め事か……?)

木陰に隠れるようにして様子をうかがえば、開けた場所にちょっとした四阿(あずまや)があった。

その前に三人組の男子学生が立っている。特に中央の学生はがっしりとした大柄な体躯で、遠目にも威圧感がものすごい。他の二人__痩せている学生とやや太めの学生は一歩引いていて、この大柄の学生に従っているような雰囲気だ。

四阿の中にも誰かいるらしいが、二人がいる位置からは確認できない。

 

「ふむふむ。取り囲まれてるのはお姫様だわ。それに、正面から拝見すると中央の男は鍛練を積んでそうな感じっぽい」

 

「ほんと雅の能力って役に立つよね。って、お姫様ってことはユリス!?」

 

雅の言うとおり、その男から発せられた名前は。

 

「答えろユリス!」

 

「答える義務はないな、レスター。我々は誰もが自由に決闘をする権利を持っている」

 

「そうだ。当然、オレもな」

 

こそこそと移動してみると、確かに四阿の中には輝く薔薇色の髪の少女が座っている。

レスターと呼ばれた大柄な学生とにらみ合っているその真ん中では、ばちばちと火花が散っているのが見えるようだ。

とてもではないが友好的な雰囲気とは言いがたい。

 

「同様に、我々は決闘を断る権利も持っている。何度言われようと、もう貴様と決闘するつもりはない」

 

「だからなぜだ!」

 

「……はっきり言わないとわからないのか?」

 

ユリスは大きくため息をつくと、立ち上がって真正面からレスターと向き直った。

 

「きりがないからだ。私は貴様を三度退けた。これ以上はいくらやっても無駄だ」

 

「次はオレが勝つ! たまたままぐれが続いたくらいで調子に乗るなよ! オレは、オレ様の実力はあんなもんじゃねえ!」

 

「そうだそうだ! レスターが本気を出せばおまえなんて相手にならないんだぞ!」

 

「じゃあ、俺が相手させてもらっていいかな?」

 

その声に、その場にいた三人どころかユリスさえも驚きの表情を隠せない。

突然、物音も近づく気配もなくユリスのすぐ背後から別の声が聞こえたのだから。

 

「誰だ! どこにいる!」

 

しかし、いくら周囲を見回しても声の主の姿はどこにもない。

ただ響くのは嘲るような笑いと風が吹き通る音だけ。

 

「まったく。こんな小細工をするな。おまえ、雅なのだろう」

木陰から出てきた。

「あちゃー、気付かれてましたか。さすが序列五位のお姫様」

 

すると一瞬にしてユリスの隣に、一人の人物が現れた。

それと同時、もう一人の人影が出てきた。

 

「あれ、ユリスじゃないか。奇遇だね、こんなところで」

 

「おまえまで、なぜここに」

 

「道に迷った、かな」

 

そのタイミングと台詞があまりにわざとらしかったせいか、ユリスとレスターは二人揃って眉をひそめながら綾斗と雅をにらむ。

 

「くくっ、俺も綾斗同様道に迷いました、でございます」

 

「ああっ! レスター! こいつら、例の転入生だよ!」

 

「なんだと……?」

 

より鋭さを増したレスターの視線が二人に突き刺さる。

視線に攻撃的があったとすれば、鉄板くらいは簡単にぶち抜きそうなくらいの迫力だ。

しかし綾斗は平然とそれを受け流してユリスに尋ねた。

 

「で、ユリス。こちらは?」

 

「……レスター・マクフェイル。うちの序列九位だ」

 

ユリスは腰に手をあてつつ呆れ顔で答えた。

 

「ほえー、序列九位。つまり君も《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の一人。今日だけで《冒頭の十二人》の内、二人に出会えたってのは、いやー、なんだか嬉しいね」

 

「……」

 

「あ、僕は天霧綾斗。よろしく」

 

「俺は黒摩耶雅。よろしくっすわ」

 

綾斗が差し出した右手には見向きもせず、レスターは怒りに満ちた目で綾斗と雅を見下ろしている。

間近で見るレスターは並外れて大きく、身長は二メートル近い。肩幅も広く、その筋肉はかなり鍛え上げられている。

星脈世代(ジェネステラ)》の筋肉組織は常人よりも強靭かつしなやかで、鍛えてもそれほど外見的に発達しないのだが、よほどのトレーニングを積んだに違いない。

短く刈られた茶色の髪は逆立つようで、堀の深い顔立ちには憤怒の形相が浮かんでいた。

「こんな……こんな小僧と闘っておいて、オレとは闘えねえだと……?」

 

握った拳と声を震わせ、レスターがうめく。

 

「ふざけるな! オレはてめぇを叩き潰す! 絶対に、どんな手を使ってもだ!」

 

すでにレスターの目に綾斗も雅も映っていないようだった。

大きく腕を振り、ユリスに詰め寄る。

 

「ちょ、ちょっとレスターさん、落ち着いてください……! さすがにここじゃ……」

 

痩せたほうの男子生徒がなだめようとするが、まるで聞く耳を持っていない。

ユリスはこの年代の女子としては平均的な身長なので、レスターとの体格差たるや大人と子どものようだ。

それでもユリスは一歩も引かずに毅然と返した。

 

「不可能だな。少なくとも貴様がその猪のような性格を改善しない限りは、いくらでもあしらえる」

 

「なんっ……くそっ!」

 

レスターは一瞬怒りを爆発させそうになったが、ここでそうしたらまさにユリスの言葉を肯定するようなものだとわかったのだろう。

 

「お、おまえ! あんまりレスターを舐めてると後悔するぞ! きっと次こそは……!」

 

「やめとけランディ!」

 

小太りの学生を一喝し、苦虫を噛み潰したような顔で四阿を出ていくレスター。

 

「オレは諦めねぇぞ。必ずてめぇにオレの実力を認めさせてやる……!」

 

そう吐き捨てて去っていくレスターのあとを、残された二人があわてて追いかけていく。

 

「はぁ……やれやれだ」

 

その姿が完全に見えなくなってから、ユリスは再び長イスに腰を下ろした。

 

「負けず嫌いなのはいいことかもしれんが、あれはその域を越えてるな」

 

「あはは……余計なお世話だったかな」

 

「まったくだ。おかげで普段よりも余計に絡まれたではないか」

 

「それはごめん__って、普段からあんなことを?」

 

ユリスは答える代わりに小さく両手を上げてみせた。

 

「レスターはどうやら私が気に食わないらしい。その手の輩は少なくないが、こうまでしつこいのは初めてだな」

 

「だけど、序列九位ってことは相当強いんだよね?」

 

「けど三戦三敗なんだろ」

 

「強いか弱いかで言えばまあ強いほうだろう。だが私ほどではないし、そもそも序列なんてものは言うほどあてにならん。『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』入りしていなくても実力のあるやつはいくらでもいる。相性もあるしな」

 

ユリスは顔を上げると、わずかに口角を上げた。

その問いかけるような視線に綾斗は逃げるように目をそらす。

 

「せっかくだ。綾斗、私からも一つ質問がある」

 

「ええっと……な、なにかな?」

 

「今朝の決闘で、おまえは流星闘技(メテオアーツ)を使ったな。無調整の煌式武装(ルークス)で一体どうやった?」

 

「あれ、綾斗って流星闘技使えたっけ?」

 

「今朝使ったのは流星闘技(メテオアーツ)じゃないよ」

 

「……なんだと?」

 

「そもそも俺、流星闘技は使えないんだ。どうも煌式武装(ルークス)と相性が悪いっていうか苦手でさ。できれば実体があるほうが使いやすい」

 

「だったら今朝のあれは……」

 

「あれはただの剣技だよ。うちは一応古流剣術の道場だから、そりゃ多少はね。っていうか、雅も道場にいたからわかるんじゃ……」

 

「ただの剣技だと……?」

 

ユリスの瞳が見開かれる。

 

「……確かに煌式武装の刀身ならば、私の炎を斬ること自体は不可能ではない。だがあそこまで見事に切り裂かれたのは初めてだぞ。おまえ、どんな腕をしている?」

 

「はは、たまたまさ」

 

「ほんとにそうかな? くくっ」

 

「……ふん、まあいい。そのとぼけた顔がいつまで続くか見物だ。ここはおまえたちが思っているほど甘い場所ではないのだからな」

 

「甘く見ているつもりは全然ないんだけどなぁ」

 

「俺も全然、かな?」

 

「そこなんで疑問形?」

 

ぽりぽりと頭をかく綾斗。

 

「そういうユリスはなんでそんな危ないところで闘ってるのさ?」

 

「こんなちょい危険な場所で闘い続ける理由ってのがあるのか?」

 

 

 




テストと投稿のため頑張っています。

投稿が遅れないよう、均等を守っていきたいです。


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