ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第91話~激戦への前奏(?)です!~

「Panzer vor!」

 

みほの一声で、大洗の戦車11輌が一斉に動き出す。同様に黒森峰の戦車20輌も動き出し、観客席では歓声が上がる。

動き出した11輌の戦車は、1列横隊から矢印状のパンツァーカイルに隊列を変え、みほ達あんこうチームのⅣ号が矢印の頂点になるようにして進んだ。

 

 

 

「Halelluyah,the saints are marcing in(ハレルヤ、聖者の行進だ)!」

 

レイガンでは、使用車両であるパンターA型を操縦する雅が高らかに言い、隣の通信席に座る紀子に落ち着けと宥められている。

 

「雅って、こう言う時になると直ぐハイテンションになるのよね」

「ええ、現役時代での試合とか、体育祭とかなら特にね。去年の体育祭だって、雅が一番楽しんでたって言っても過言じゃないわ」

 

そんな光景を見ていた亜子と和美が、微笑みながら言う。

 

「まぁ、そうなるわよ。だって雅、紅夜や達哉と同じぐらいに血の気盛んだもの」

 

パンターのキューポラから上半身を覗かせた静馬も、言葉を付け加えた。

 

 

 

「にしても黒森峰と試合とか、久し振りだよなぁ~」

 

スモーキーでは、大河がしみじみとした雰囲気を漂わせて呟いた。

 

「ああ、大体1年ぶりだもんな………………それによく考えたら、俺等が現役最後の試合で当たったのも黒森峰だったよな」

「それで、ライトニングがトドメ差した訳だけだが、その時運が悪かったのか、敵さんのティーガー炎上しちゃって、相手の隊長さんと、その人を助けようとした副隊長さんが火の中に取り残されて、そんで紅夜が火の中に飛び込んで、その2人を助けた………………って流れだったよな?」

 

煌牙が大河の言葉に付け加え、新羅が当時の事を思い起こす。

 

「ええ。それで駆けつけた救急車に、相手の隊長さんと副隊長さんが乗せられたんだけど、その時紅夜も問答無用で病院に連れていかれたのよね」

「まぁ、消防隊の人みたいな服着てたら良かったけど、生身で飛び込んでたし、髪の毛も火が燃え移って半分ぐらい焦げてたものね。腰までの長さだったのにうなじ辺りまでになってたし………………まぁ、大事を取っての事だったんじゃない?髪の毛焦げてた事以外では何も異常は無かったらしいけど」

 

話を聞いていた深雪や千早も、当時の事を思い出して懐かしんでいた。

 

 

 

「………………まぁ、よくよく考えたら、髪の毛焦げてた事以外何も異常が無かったってのが有り得ないような気がするのは俺だけかな?」

「いや、お前だけじゃねえよ新羅……まぁ、それについては『紅夜だから』の一言で片付けちまおうぜ」

 

因みにその時、新羅と大河が、改めて紅夜の規格外さを感じていたらしい。

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしッ!」

「うわビックリした!いきなり派手なクシャミしないでくれよ紅夜。ビクッた拍子に、スコープに頭ぶつけちまったじゃねえかよ………………」

 

その頃ライトニングでは、噂されているのを感じ取ったのか、紅夜が派手なクシャミをしていた。

いきなりの大声に驚いたのか、翔がぶつけた衝撃で赤くなった額を擦りながら、ジト目で紅夜を睨んだ。

 

「ズズッ………いや、悪いな翔。何かやたらと噂されてるような気がしてさ………………」

 

そんな翔に、紅夜は鼻を擦りながら言った。

 

「噂ねぇ………………お前が惚れさせた女にされてんじゃねえのか?」

 

冷やかすよう言う達哉に、紅夜は笑い、両手を振って否定の意思を表しながら言った。

 

「そりゃねえな、先ず俺に惚れる女が居るってのが有り得ねえ………………つーか、俺に惚れる女は余程の物好きだろうよ」

「紅夜お前、それ静馬や西住さん、五十鈴さんや秋山さんに言ったらマジぶっ殺されるぞ………………」

「いや、なんでだよ、訳分かんねぇよ………………」

「「はぁ…………(この鈍感野郎は…………)」」

 

達哉が溜め息混じりにそう言うと、紅夜は首を傾げ、翔と勘助はヤレヤレとばかりに溜め息をつく。

 

そんな時だった。

 

『祖父さん、聞こえっか?』

 

大河からの通信が入ったのだ。

 

「おう、大河か。どった?」

『いや、別に大した用はねぇけどさぁ…………お前、今日の試合でもやるつもりか?あのスゲー赤いオーラ撒き散らしての大暴れを』

 

そう言われ、紅夜は不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

 

「Yeah,of course.Watch me become an ace today,you guys(ああ、勿論だ。俺の活躍を見てろよ).」

 

紅夜はそう言うが、大河はこんな返事を返した。

 

『Lightning,did you just say you're gonna become an ass today,or an ace?I couldn't quite hear what you………………Was it ass or ace?I couldn't hear(ライトニング、『俺のケツを見てろ』だって?よく聞こえねえよ。どっちなんだ?聞こえなかったんだよマジで』

『フフッ♪………………I think you heard him right,Smokey(スモーキーったら、聞こえてるクセに).』

 

そんな2人の話を聞いていたのか、静馬が笑いながら話に入ってくる。

レッド・フラッグのメンバーは、決勝戦でも何時も通りの調子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、みほ達あんこうチームでは………………

 

 

 

 

「沙織さん、各車に連絡を入れて」

「了解、みぽりん」

 

そう言って、沙織は通信機を操作して全戦車に通信を入れた。

 

「此方、あんこうチーム。現在私達は、207地点まで約2㎞の場所に居ます。今のところ、黒森峰の姿は見えません」

 

その言葉に、アヒルさんやレオポンと言った、レッド・フラッグ以外の大洗メンバーは安堵の表情を浮かべた。

相手とは比較的離れており、開始早々戦闘になる可能性は低いとは言え、完全にゼロだとは言えないのだ。

 

「ですが皆さん、最後まで油断せず、落ち着いて行動しましょう。交信を終わります」

「アレ?何時もと雰囲気違いますねぇ」

「ええ。何時もより落ち着いているような………………」

 

落ち着いており、何処と無く余裕を感じさせるような沙織の様子に気づいた優花里と華が声を上げると、沙織は少し得意気な表情を浮かべた。

 

「実はねぇ………………」

 

そう言いながら、沙織は胸のポケットに入れてある小さなカードのようなものを取り出して、2人に見せた。

 

「ジャーンッ!アマチュア無線技士二級の資格取ったんだ~♪」

「おおっ、凄いですね!二級って、結構取得難易度が高い筈なんですけど」

 

優花里が言うと、沙織は頬を掻きながら言った。

 

「えへへ~。実は麻子に協力してもらったの」

「そうなんだ」

「知りませんでした。何かプロみたいだったので」

 

みほと華がそう言うが、沙織は華の言葉に食いついた。

 

「ホント!?私、そんなにプロっぽい!?やだもー!」

 

そう言って、沙織は嬉しそうに体をくねらせた。

 

だが………………

 

「全然プロっぽくない………………」

 

麻子の一言で、あっさりと雰囲気がぶち壊されてしまう。

 

「ちょっと酷ォ~い!なんでそんな事言うのよ麻子~!」

「だってアマチュア無線だし………………」

 

そんな2人のやり取りに微笑んでいた、次の瞬間!

 

『『『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』』

 

突然、真横から飛んできた1発の砲弾がⅣ号の近くに着弾する!

 

「ええっ!?もう来たの!?」

「嘘ォ!?」

 

突然の事に、他のチームが焦りを見せる中、みほは双眼鏡を取り出して辺りを見回し、目についた森林地帯を睨み付けた。

 

其所では何と、既に到着していた黒森峰の戦車隊が居たのだ!

 

蓮斗のチーム--《白虎》--にあるⅣ号駆逐戦車ラングやパンター、ティーガーⅡ、ヤークトティーガーやエレファントがゆっくり前進しながら次々と砲弾を撃ち込んでくる!

 

そんな中で、まほの乗るティーガーⅠも砲弾を撃ち出す。

 

「去年の恩もあるけど、これも試合よ、みほ………………全車両、一斉攻撃!」

 

エリカの指示で、他の戦車がさらに攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

「って、来るの早すぎるよ!」

「まさか、森の中をショートカットして来たと言うのか!?」

「嘘ォ!?」

「有り得ない~!」

「何なのよコレ!?前が見えないじゃない!」

 

そんな事実に、他のメンバーがパニックに陥る。流石に、落ち着いて行動するように言われた直後に容赦無い攻撃を受ければ、誰でもこうなるものだ。

 

 

「うへぇ~、相変わらず情け容赦のねぇ攻撃だなぁ…………………」

 

IS-2のキューポラから顔のみを覗かせ、紅夜は着弾によって巻き上げられる土や石の雨を浴びないようにしながら呟いた。

 

『前の試合でも、会ったら速攻で仕掛けてきたものね。まぁ、アレが彼女等の流派のやり方なのでしょうけど』

『こりゃあ、避け甲斐がありそうな砲撃の嵐だねぇ!Whoo-hoo!』

 

静馬の言葉に続いて、雅の声も聞こえてくる。

 

「雅の気持ちも分かるが、こりゃあマジでキツいなぁ………………」

 

達哉はそう言いながらも、顔は余裕そうにしていた。

恐らく、黒森峰の操縦手達よりも何枚も上手なのであろう操縦桿捌きで砲撃の嵐を無傷で進んでいく。

 

「い、いきなり猛烈な攻撃ですね………………ッ!」

「凄すぎる………………」

「これが、西住流………………」

「………………ッ!」

 

Ⅳ号の車内でも、容赦無い攻撃にパニックになるのを通り越して感動しているような雰囲気すら漂っている。

 

「各車両、ジグザクに動いて前方の森に入ってください!」

 

自分達の進行方向に森林地帯を見つけたみほは、すかさず指示を飛ばす。

指示を受けた他のチームの戦車は、みほの指示通りにジグザクに動いて進む。

 

「コレじゃ、振り落とされるとか言ってる場合ではないわね………………雅!」

「ッ!あいよ、何だね車長!」

 

そう聞く雅に、分かってるクセにと内心で皮肉を言いながら、静馬は声を上げた。

 

「《ラフドライブ》を許可するわ!思いっきりブン回してやりなさい!」

「ッ!よっしゃぁぁぁぁああああああッ!!!任せとけェェェェエエエエエッ!!待ちに待ったこの時がやって来たぜェェェェエエエエエッ!!」

 

雅はパンターのエンジン音や砲撃音にすら引けを取らない声を上げながら、パンターの操縦桿を操作する。

するとパンターは、スタントカーのように2回連続の360度ターンを見せ、そのまま蛇行運転を始める。

 

「イヤッホォォォォォォオオオオオオウッ!!今私は!正にッ!テンションMAXだぜェェェェエエエエエッ!!」

 

雅は狂ったかのように高笑いしながらパンターのギアを上げ、アクセルを踏み込んでいく。

その反動でか、パンターのマフラーが一瞬火を噴く。

 

それを見た紅夜は、赤い目を鋭く細め、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「………………黒姫、やれるか?」

『ええ!隊長車である私達も負けてられないわ!』

 

紅夜の質問に、何処からともなく黒姫の声が響いてくる。

「よっしゃあ、達哉!此方も《ラフドライブ》を許可する!思いっきりブン回してやれ!!!」

「Yes,sir!!」

 

達哉も答えると、IS-2のギアを上げてアクセルを踏み込む。

 

「っしゃぁあ………………行くぞォォォォォォオオオオオオオッ!!!」

 

紅夜の雄叫びに呼応するように、IS-2はマフラーから3メートル程にもなる火柱を噴き上げ、615馬力にまで引き上げられた12気筒ディーゼルエンジン『改』の咆哮を響かせて加速し、雅の操縦するパンターのような挙動を見せながら砲弾の嵐をヒラリヒラリと避けていく。

 

「うわぁー、祖父さんもレイガンもおっ始めやがったぞ………………」

「大河、どうする?」

 

苦笑を浮かべながら呟く大河に、千早はそう問い掛ける。

 

「………………」

 

大河は、少しの無言の後に答えた。

 

「千早、無理しない程度にコイツを飛ばせ。無理しない程度にだ」

「ッ!…………了解、任せといて!」

 

千早はそう答え、ギアを上げてアクセルを踏み込み、イージーエイトの速度を上げる。

ただ直進しているだけでも、砲弾の雨を掻い潜るには十分な速度にまで達していた。

 

「うわッ、凄いよコレ!紅夜と輝夫さん達って、こんな魔改造を3日程度で終わらせたのね!」

「まさか此処までやれるとは、私でも計算外ね………………私が操縦している訳ではないけど、何処までも突き進んでいけそうな気がするわ」

 

千早は紅夜と輝夫達の腕の高さに感嘆の声を出し、深雪は副操縦手の席に座り、率直な感想を述べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎ、ギア固ッ!入んない!」

「ゲームだと簡単にギアが入るのに!」

 

その頃、戦車操縦経験がゲームでしか無いアリクイさんチームでは、ももがーが三式の操縦に苦労していた。

 

 

そうしている内にも、レッド・フラッグの3輌は砲撃地帯から脱出し、他の足の速い戦車も、そろそろ脱出出来そうな位置に来ていた。

 

 

「前方2時方向に、敵フラッグ車を確認」

「良し、照準を会わせろ」

 

その頃、森林地帯から砲撃を喰らわせていた黒森峰では、エリカの乗るティーガーⅡがⅣ号を捉えていた。

 

「車長、Ⅳ号の後ろを取りました」

「分かった。合図したら撃て」

 

要の乗るティーガーⅡでもⅣ号を捉え、砲撃準備に入る。

 

「装填完了、照準もフラッグ車に合わせました!」

 

そうして、エリカのティーガーⅡでも砲撃準備が整う。

 

 

 

「うぐぐぐぅぅぅううう………………この、動けぇぇぇ!」

 

そうしていると、ももがーが力の限りギアレバーを引き、それが実ったのか、ガクンと音を立てながらレバーが動く。

だが、三式は急停車して、あろうことか後退を始めたのだ!

 

 

そして………………

 

「「撃てェーッ!!」」

 

エリカ、要のティーガーⅡから同時に砲弾が撃ち出され、その2発がⅣ号のマフラー部分に撃ち込まれんとばかりに飛んでいくが………………

 

其処へ、急に後退してきた三式が割り込み、Ⅳ号の身代わりになって2発共被弾する。

 

「「「うわぁぁーーーッ!!?」」」

 

車内では3人の悲鳴が上がり、三式は同時に撃ち込まれた衝撃で、エンジン部分から黒煙を上げながら横転し、行動不能を示す白旗が飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

《大洗女子学園、三式中戦車、行動不能!》

 

そして、そのアナウンスが響いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗VS黒森峰

 

 

大洗10輌、黒森峰20輌


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