ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第90話~決勝戦、始まりました!~

「さぁ、遂に決勝戦が始まります!各チーム共に、メンバーが戦車に乗り込んでいきます!」

 

観客席の最前列に用意された実況席で、興奮している香住がマイク片手に叫ぶ。

 

「先程、大洗チームがやっていたのは、レッド・フラッグのメンバーがやっていた『戦前の誓い』ですね………………間近で見るのは初めてです」

 

そんな香住とは対照的に、カレンは落ち着いた声色で言うものの、その表情には驚きの感情が浮かんでいた。

 

「このような全国大会なら未だしも、同好会チームの試合なら実況は無いみたいですから、実を言えば私も見るのは初めてなんですよねぇ~。さて、そうしている内に、開始時間が目の前に迫ってきました!此処から先は目が離せません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観客席エリアには蓮斗の姿があった。

何時も通りのパンツァージャケットに身を包み、雄叫びを上げる虎が描かれた帽子をかぶっている。

 

「あの実況してる奴等の片割れ、やたらとテンション高ぇな。俺でもあんなハイテンションな実況は出来ねえや」

 

観客席最後部の柵に凭れ掛かり、蓮斗はそう呟きながら辺りを見回した。

 

「はぁ………………それにしても、俺のティーガーは一体何処にあるんだ?結構探し回ってっけど全く見つからねえし、それどころかⅣ号やパンターすら見つからねえ………………」

 

そう言うと、蓮斗は溜め息をついた。

まぁ、彼のチームの現役時代は半世紀以上昔の事であるため、今探しても、見つかる可能性は非常に低いのだが………………

 

「まぁ仕方ねえ、取り敢えずは今日の試合に専念するか………………ん?」

 

巨大なモニターに視線を移そうとした蓮斗の目の動きは、一組の親子に留まった。

 

「おっ、アレは確か、愛里寿とか言う嬢ちゃんと、そのお袋さんか……今日の試合も来たんだな。紅夜、モテモテだねぇ~、試合終わったら、そのネタでからかってやるか」

 

そんなくだらない事を呟きながら、蓮斗は今度こそ、モニターに視線を移すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大洗チームでは全員が戦車に乗り込み、試合開始の合図を今か今かと待ちわびていた。

紅夜は今、持ってきたヘッドフォンとタコホーンは外し、インカムを手に持っている。

 

「さてと、それじゃあ何時ものアレ、やりますかね」

 

そう言うと、紅夜はレッド・フラッグの他の戦車に通信を入れた。

 

「此方、レッド1《Lightning》だ。レッド2《Ray Gun》、レッド3《Smokey》、各車状況を報告せよ」

『此方レッド2《Ray Gun》。何時でも行けるわよ』

『レッド3《Smokey》、同じく準備万端。試合開始が待ち遠しいぜ』

 

インカムからは、静馬と大河からの返事が返される。

 

『大洗フラッグ車、あんこうチーム、準備完了です』

『カメさんチーム、何時でも行けるよ~』

『ウサギチーム、同じく準備完了です』

 

すると、大洗チームからも返事が返された。

最初の3チームに続き、カバさんチーム、アヒルチームと続き、最終的には、大洗の全てのチームからの返答が返された。

 

「これぞ、正しく『一体感』だな」

 

それを聞いていた勘助が言うと、IS-2の車内に居る他の3人全員が頷いた。

 

「そうだな………………さて、こっから先、インカムはお休みだな」

「あ?どう言う事だよ、スマホで連絡するってか?」

 

そう訊ねる翔に、紅夜は首を横に振り、足元に置いていたカバンから、レッド・フラッグの帽子と共に『あるもの』を取り出すと、それを身に付けた。

 

「ッ!?こ、紅夜……それって…………」

 

振り向き、驚いたような表情を浮かべながら言う達哉に、紅夜は不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

 

「ああ、そうだよ達哉。何時かは付けようって思ってたけど、結局付ける事は出来なかった………………ヘッドフォンとタコホーンだ!」

 

そう言うと、紅夜はタコホーンから伸びているケーブルを端末ボックスに接続する。

 

「ソ連戦車でドイツの戦車兵みてぇな格好する奴なんて初めて見たよ………………」

「まあまあ、別に良いじゃねえかよ………………おーい静馬、聞こえるか?」

 

苦笑を浮かべながら言う達哉に言い返すと、今度は静馬に通信を入れた。

 

『どうしたの?………って紅夜、そのヘッドフォンとタコホーンって………………』

「ああ。決勝戦って事で付けてみたんだけどさ………………どうだ?」

『い、良いんじゃない?』

 

パンターのキューポラから紅夜の姿を確認した静馬は、顔を赤くしながら返事を返した。

 

「そっかそっか。アザッス、それだけだ」

 

紅夜はそう言って、通信を終える。

 

『似合うかどうかの確認のためだけに通信入れるとか聞いた事ねぇぞ………………祖父さんって、時折やる事が変だよな』

「そう言うなよ大河」

 

そんな会話を交わしつつ、一行は開始のアナウンスを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、今回の対戦校である黒森峰では………………

 

 

 

 

 

 

「相手は、今日初めて戦うチームだ。戦車の数は此方の約半分である上に、一部を除いた戦車のスペックは、然程強力なものではない。だが、相手はこの大会で初出場とは言え、サンダースやアンツィオ、さらにプラウダを相手に勝利したようなチームだ、決して油断はするな。先ずは迅速に行動せよ」

 

隊長車であり、黒森峰のフラッグ車であるティーガーⅠのキューポラから上半身を覗かせたまほが、他のチームにそう言う。

 

「それとだが、相手にはレッド・フラッグのメンバー全員が参加している。奴等は皆私達並みの実力を持っているが、特にレッド・フラッグ隊長車であるIS-2には気を付けろ。あの戦車の乗員は、レッド・フラッグの中でもトップクラスの精鋭揃いだ。現に去年、私達は同好会チームとしての編成で奴等に負けている。私のフラッグ車も、IS-2に撃破された」

『『『『『『『『『『『ッ!』』』』』』』』』』』

 

まほからの言葉に、他のチームのメンバーは息を飲む。それもそうだ。

 

何せ黒森峰は、昨年度の大会で負けるまでは、全国大会で9連覇してきた名門校。苦戦する事も確かにあったが、それでも勝ち進んできたのだ。

それが同好会チームとしての編成とは言え、それでも2輌分のハンデを抱えたチームに負けたのだ。

当時の試合に参加していたメンバーは兎も角として、それを知らない1年生や他のメンバーなら、驚いて当然だろう。

 

「(彼等のチームは、そんなにも高い実力を持っていたのか………まさか、同好会チームの試合とは言え隊長がやられたとは………これは、ルクレールで彼に啖呵を切ったバチでも当たったかな………………)」

 

1輌のティーガーⅡの車長席に座るボーイッシュな少女、謙譲要は、過去に戦車喫茶《ルクレール》で、みほに色々と言った挙げ句、割り込んできた紅夜に喧嘩を売った事を思い出し、額に一粒の汗を浮かべながら苦笑した。

 

「謙譲さん、どうしたの?」

 

そんな時、彼女の表情を見たティーガーⅡの乗員の1人が声を掛けてくる。

 

「え、何だい?」

「いや、何か汗かいてるから、大丈夫かなって………………」

 

そう言われ、要は額の汗を拭った。

手にネチャネチャとした感触を覚える。

 

「(まさか、こんなにも緊張していたなんてね………………)」

 

そう思いながら苦笑すると、要はその乗員の方を向いた。

 

「ああ、大丈夫だよ。ちょっと緊張していただけさ………………ありがとう」

 

軽く微笑んで返し、要はキューポラから上半身を覗かせ、前を見た。

 

「(そんな精鋭を取り込んでいるとは思わなかったよ、元副隊長………………君の戦車道がどのようなものなのか、見せてもらうよ。そして、私達も全力で相手をする………………それが、一先ずのお詫びだ)」

今までは、やれ『弱小校』だ、『無名校』だと見くびっていた考えを止め、全力で迎え撃つ事を心に決めた。

そして、マイクから聞こえてきたまほの声に、自分の声を重ねる。

 

『「グデーリアンは言った。《厚い皮膚より速い足》と………………ッ!」』

「行くぞ!」

 

そして、まほがそう声を上げた瞬間、開始を知らせる証明弾が空高く撃ち上げられる。

 

《試合、開始!》

 

「「Panzer vor!!」」

 

まほ、みほの2人が同時に叫び、黒森峰の戦車20輌、大洗の戦車11輌。計31輌の戦車が、互いの敵を撃破せんとばかりに動き出した。


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