ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第12章~全国大会決勝戦!VS黒森峰女学園!~
第88話~決勝戦当日です!~


早朝。未だ太陽が昇ってこないこの時間、此処、北富士演習場の草原地帯に、数台の黄土色のジープとトラックが停車した。

サイドにピザのマークを付けた車………………そう、この車の乗員は、全員アンツィオ高校戦車道チームのメンバーなのである。

 

 

 

 

 

「よーし!我々が一番乗りだな!若干早すぎるような気もするが、まぁ問題無いだろう!」

 

ジープから飛び降り、自分達以外は誰も居ない草原を見渡して、アンチョビが言う。

他のメンバーは車から降り、トラックに積み込んでいた荷物を降ろし始める。

その荷物は、殆んどが大洗を応援するための横断幕や旗だった。

 

「あの………………『若干』と言うより、かなり早すぎるような感じがするのですが………………」

「何を言うのだカルパッチョ!こう言うのは、早すぎるぐらいがちょうど良いのだ!」

「さっすが姉さん!抜かりないッス!」

 

カルパッチョに反論したアンチョビを、ペパロニがおだてる。

 

「横断幕だって用意したし、旗だって用意した!」

「当然、大洗はあんこうで有名だから、そのプリントだって忘れちゃいねえ!」

「勿論、長門のダンナのチームの旗だって持ってきた、準備万端だぜ!」

「アタイ等って、ホント準備良いよな~!」

 

荷物を降ろした他のメンバーも、持参した応援グッズを自慢気に掲げながら言った。

 

「良し!時間もタップリあるし、さぁ宴会だ!者共火を焚け、釜を焚けぇい!」

『『『『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』』』』

 

アンチョビの一言で、その場ではアンツィオ高校の戦車道チームによるドンチャン騒ぎが行われた。

 

それは日が昇り始めるまで続き、明るくなってきた頃には、全員が騒ぎ疲れて眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全国!否、全世界の戦車道ファンの皆さん、おはようございます!第63回戦車道全国大会決勝戦の日がやって来ました!」

 

北富士演習場の観客席最前列に設置された席に座っている茶髪の女性が高らかに声を上げる。

 

「遅れ馳せながら、戦車道の世界へようこそ!私は今回の試合の実況を務める、杉原 香住(すぎはら かすみ)です!」

「同じく実況の、カレン・カートリップです」

 

香住とは違い、落ち着き払った雰囲気からダージリンを連想させるような、金髪の女性が淡々とした自己紹介を終える。

 

「いやぁ~、今年の全国大会では、驚きが沢山でしたね~。何と、言っても、黒森峰と大洗の其々に、西住流の家元さんが居るんですからね!」

「ええ。西住まほ選手率いる黒森峰と、西住みほ選手率いる、今回の大会で約20年ぶりの参加となる大洗。西住流vs西住流の戦いには期待出来ますね」

 

そう言って、カレンは席の前のテーブルに置かれてあるマグカップへと手を伸ばし、紅茶を口に含む。

 

「お~、やはり戦車道4大強豪校の1校としても有名な、聖グロリアーナ女学院OBであるカレンさんも、この大会には興味津々だ!」

「それもそうですが、レッド・フラッグの活躍も気になるところですね」

 

カレンがそう言うと、香住は目をギラリと輝かせ、机に置かれてあるマイクを引ったくるようにして持つと、マイク越しであるのも構わずに大声を上げた。

 

「そうなんです!今年度の全国大会では、大洗チームには何と!1年前までは非常に有名だった戦車道同好会チーム《RED FLAG》が参加しているのです!」

「戦歴、全戦46戦中、42勝3敗1分け。ただし、42勝は連勝と言った伝説のチームが加わっているとなれば、黒森峰には十分なまでに対抗出来るでしょうね。彼等の活躍にも期待したいところです」

 

そうしつつ、2人の会話は暫く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、待機場所に案内された大洗女子学園チームでは………………

 

 

 

 

 

「ごきげんよう、みほさん」

 

聖グロリアーナチームの隊長、ダージリンやオレンジペコが訪ねてきていた。

 

「あ、ダージリンさん。オレンジペコさんも」

みほが気づき、ダージリンに近寄る。

 

「先ずは決勝戦進出、おめでとうございます。プラウダとの試合も見せてもらいました………………お見事でしたわ。敵の主力が居る防衛線に突っ込んでいくなんて、中々に大胆な行動を取りましたわね。それに、紅夜さんの戦車がカチューシャ達に単身で挑み掛かり、最終的には無傷で壊滅させてしまうとは、恐れ入りました」

「あ、いえ!見事だったなんて、そんな………………」

 

ダージリンに称賛され、みほは顔を赤くする。

 

 

その頃、紅夜は………………

 

 

 

 

「黒森峰とやるなんて、1年ぶりだよなぁ~」

「ああ。久々に大暴れ出来るぜ」

 

達哉と大河がそんな事を話しており、近くで聞いていた翔や勘助、新羅や煌牙が相槌を打っている。

また別の場所では、亜子や雅達が談笑している。

 

「………………」

 

そんな中で、紅夜だけはその輪に入らず、壁に凭れながら、待機している戦車の列に並ぶ、自分の愛車--IS-2--を見ていた。

IS-2を見る紅夜の表情は、さながら餌を前にして『待った』を掛けられた猛犬のような笑みを浮かべていた。

 

「紅夜、どうかしたの?何も喋らずに、ただIS-2を見てばかりで」

 

そんな紅夜を不思議に思ったのか、先程まで深雪と話をしていた静馬が近寄ってきた。

紅夜は静馬に視線を向け、答えた。

 

「ああ、静馬か………………いや何、早く試合が始まらねえかと思ってただけさ」

 

そう言うと、紅夜は再び、視線をIS-2に戻して口を開いた。

 

「IS-2(アイツ)がさ、駄々こねてやがんだよ………………『早く試合が始まれ………暴れたくて仕方無い』…………ってさ」

「IS-2って………………それ黒姫でしょう?それに、貴方も彼女と同じ意見なんじゃないの?」

 

紅夜の言葉に、静馬はからかうような笑みを浮かべて返す。

 

「おお、良く分かったな。大当たりだ」

 

紅夜がそう言うと、静馬は得意気に胸を張った。

 

「当たり前でしょう?14年も一緒に居るんだから………………私は、貴方の事なら何でも知ってるのよ」

「そっかそっか!」

 

そう言って、紅夜は楽しそうに笑う。

静馬の告白じみた言葉にもこのような反応をすると言う事は、彼の鈍感ぶりは筋金入りと言う事なのだろう。

 

 

 

 

「………ねぇ、紅夜」

 

そうしていると、静馬が話し掛けた。

その声には、何時ものような落ち着き払った雰囲気は無く、顔を赤くしていた。

 

「ん?どったよ?」

 

暇をもて余していた紅夜は、静馬の方へと振り向く。

 

「あ、その………この試合が終わったら………わ、私と………」

 

言おうとするにつれて口が上手く動かなくなり、段々とスムーズさが無くなりつつも、静馬が言葉を切り出そうとした時だった。

 

「ごきげんよう、紅夜さん」

 

みほとの話を終えたのだろう、ダージリンが話し掛けてきた。

 

「よぉ、ダージリンさん。久し振りだな。オレンジペコさんもご無沙汰」

「ええ………………フフッ、元気そうで何よりですわ」

「ご無沙汰しております、紅夜さん」

 

紅夜が挨拶すると、2人も如何にもお嬢様を思わせるような一礼で会釈する。

 

「それにしても紅夜さん。プラウダ戦では、随分と大胆な行動に出ましたわね。7輌の戦車相手に単身で乗り込むなどと………………」

「ああ、それか?いやぁ~、あの時の俺はハイテンションでさぁ………………ちょおーっとばかり、やり過ぎちまってな………………相手の隊長さん怖がらせちまったし」

「あら、カチューシャを?それはそれは」

 

紅夜が当時の事を話すと、ダージリンは苦笑を浮かべる。

 

そうしていると………………

 

「Hey!紅夜!」

 

ダージリンの後ろから、陽気な声が聞こえてくる。

其所には、サンダースのケイとアリサ、ナオミの3人が向かってきていた。

ケイは右手を振りながら、左腕で大量のポップコーンを入れた大型のカップを抱えており、それを見た紅夜が内心で苦笑を浮かべたのは余談である。

 

「あら、もう交代の時間のようですわね………………では最後に、こんな格言をご存じかしら?」

 

そう言って、ダージリンは少しの間を空けてから言葉を繋いだ。

 

「『4本足の馬も躓く』」

 

そう言い残し、2人は去っていった。

 

「………………良く分からねえな、格言ってのは」

 

紅夜はそう呟いてから、次にやって来たケイ達に視線を向けた。

 

「よッス、ケイさん。元気してたか?」

「Of course!私は何時でも元気よ!」

 

紅夜の問いに、ケイは元気一杯な様子で答える。1回戦で当たった時と全く変わらないケイの様子に、紅夜は自然と笑みを浮かべていた。

 

「それにしても、聞いたわよ紅夜。あのプラウダの戦車7輌相手に単身で乗り込んだんですって?超アグレッシブね!」

「それ、さっきダージリンさんにも言われたぜ」

 

やはり、あの時の行動は余程印象が強かったらしい。ダージリンに続いてケイもが言うこの話題に、紅夜は何とも言えない気分になった。

 

「まぁ私達と戦った時だって、あの時は4輌だけだったとは言え、それでも単身で喧嘩売ってきたものね」

 

ナオミは1回戦の後半で大洗チームを追いかけている時に、紅夜達のIS-2が突っ込んでくる光景を思い出した。

 

「まさに、ジェノサイドとしか言い様の無い戦いぶりだったらしいですね」

「あ、盗聴ちゃん」

「グハッ!」

 

アリサが通信傍受機を打ち上げていた事に気づいていた紅夜の一言で、アリサは大きく仰け反って仰向けに倒れる。

 

「あ~あ………………さっきの言葉、アリサからすれば禁句なのよね。今でもそれでイジられてるし」

 

そう言いながら、ケイは気絶したアリサを起こしてナオミに担がせる。

 

「アリサが気絶しちゃったから、私達は戻るわ………………それじゃあ試合、頑張ってね!」

「幸運を祈ってるわよ」

 

そう言い残し、3人(1人気絶状態)は去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、2校の人を相手にしただけなのに、何か微妙に疲れてしまった………………あ、そんで静馬、お前結局何言おうとしてたんだ?」

「………………」

 

紅夜はそう問いかけるが、静馬からの応答は無く、ただプルプルと震えているだけだ。

「静馬?おーい」

 

そう声をかけると、静馬は突然振り返り、何処からともなく大型のハリセンを取り出して大きく振りかぶった。

 

「自分の胸に聞いてみなさいよ、この鈍感KY野郎!」

「あべしっ!?」

 

そうして放たれたフルスイングは紅夜の脳天に直撃し、紅夜はそのまま地面に倒れ込む。

その頭上では、数羽の雛が紅夜の頭の周りを廻っていた。

 

「な、何故こんな目に………………?つーか静馬………知らん間に雅達んトコ行きやがったし………」

 

 

そう言いながら起き上がり、立ち上がろうとしていた時だった。

 

「紅夜」

 

後ろから声をかけられ、紅夜はフラフラしながら立ち上がると、その声の主の方を向く。

 

「カチューシャが応援に来てあげたわよ」

 

其所には、ノンナと、彼女に肩車されたカチューシャ、そしてクラーラが居た。

 

「よぉー、準決勝ぶりだな~」

 

紅夜はそう言いながら、フラフラと揺れる。

 

「………………ちょっとアンタ、どうしたのよ?」

「さっき、ウチの副隊長にハリセンで殴られた」

「何したのよアンタは」

 

紅夜の言った事に、カチューシャは呆れたと言わんばかりの表情を浮かべながら言った。

 

「まぁ、それはそれとしてなんだけど………………ノンナ」

「はい」

 

カチューシャはそう言いかけ、ノンナから下ろされる。

その光景を疑問に思っている紅夜の前に立つと、カチューシャは頭を下げた。

 

「試合前、失礼な事言ってごめんなさい」

「………………」

 

頭を下げた後に出てきたのは、謝罪の言葉だった。

彼女が言う『試合前の失礼な事』とは、紅夜を『そんな奴』呼ばわりした事や、大洗チームの戦車を侮辱した事などだろう。

 

「本来なら、これって試合後に言う事だったんだけど、雰囲気的に言えなかったから、その………………遅れたけど」

 

そんなカチューシャを、紅夜は何も言わずに見ていたが、やがてフッと笑みを溢して言った。

 

「もう気にしちゃいねえよ。俺も言い過ぎたからな………………此方こそ悪かったな、気絶させちまって」

 

紅夜がそう言った途端、カチューシャは紅夜に詰め寄った。

 

「ホントにそれよ!あれメッチャクチャ怖かったのよ!?何なのよアレ!?アンタが怒鳴ったら衝撃波起きてメンバー吹っ飛ばされてたし、廃村の教会の壁を素手で壊したとか言われてるし!」

 

カチューシャは、あたかもマシンガンの如く当時の思いをぶつけながら、紅夜のパンツァージャケットの裾を掴んで紅夜を揺さぶるが、体格差もあり、紅夜はビクともしなかった。

 

「アハハハ………………まぁ、アレだ。我を忘れてリミッターが外れた………………的な感じ?」

「疑問系で言われても知らないわよ」

 

カチューシャがそう言っている傍らで、クラーラが近づいた。

 

「決勝戦、頑張ってくださいね………応援、してますから………………」

 

そう言うのが恥ずかしかったのか、クラーラは言い終えると顔を赤くする。

「ありがとよ………………ぜってぇ優勝してやるぜ」

 

そう言って、紅夜は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話を終え、カチューシャ達も戻っていった。

 

「………………『さぁて』」

 

そう短く呟き、紅夜は紅蓮のオーラを纏い、獰猛な笑みを浮かべながらIS-2の方を向いて呟いた。

 

『久々の黒森峰との試合だ………………暴れてやろうぜ、相棒』

 

そう呟くと、紅夜はオーラをしまって大洗チームの元へと歩き出す。

 

その時紅夜は、IS-2が自分の呟きに呼応するかのように、エンジンもかかっていない筈のマフラーから火を噴き上げるのを見たような気がした。


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