ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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祝!
90話突破!



第87話~遂に明日は決勝戦です!~

その日の夜、紅夜は夢を見た。

 

視線の先に広がるのは、黒煙を上げて行動不能を示す白旗が飛び出ている何輌もの戦車。

そんな中で、未だ生き残っている戦車が、熾烈な砲撃戦や、車体をぶつけ合っての肉弾戦を繰り広げている。

 

流れ弾なのであろう砲弾や銃弾が飛んでくるものの、自分に当たらないと言う時点で、紅夜はこれが夢の中であると悟った。

 

「(それにしても、随分と過激な夢だな………………)」

 

そう思いながら見ていると、その表情は驚愕に染まり上がった。

 

「(なんで………………なんでその場に、俺が居るんだ!?つーか、蓮斗も居る!?)」

その視線の先には、見覚えのある1輌の戦車と、その車長と思わしき、鮮やかな緑髪をポニーテールに纏めた1人の青年。そして、ティーガーと見える戦車と、黒髪をポニーテールに纏めた青年の後ろ姿。

そして、他の戦車を見渡した時、紅夜は目の前で戦っている戦車達の中に、自分のチームが交じっている事に気づいた。

 

「(一体、何がどうなったらこんな大規模な戦争になるんだよ………………)」

 

心の中でそう呟いた、次の瞬間!

 

「がッ!?」

「(ッ!?)」

 

突然、目の前に居るもう1人の紅夜が仰け反り、IS-2の砲塔から転げ落ちた。

それを見た紅夜は、反射的にもう1人の自分に駆け寄る。

 

「お、おい!どうした………………ッ!?」

 

転げ落ちたもう1人の自分を見た時、紅夜は固まった。

もう1人の自分の右の胸から血が流れ出ているのだ。

夢の中の紅夜は、自分に向かって呼び掛ける現実世界の紅夜の言葉が聞こえていないのか、紅夜の呼び掛けを無視して起き上がると、あろうとこか、IS-2の履帯を覆うサイドスカートを、己の腕力だけでもぎ取ったのだ。

 

「クソが……あの…眼鏡野郎………!」

 

喘ぎ喘ぎに言いながら、紅夜はもぎ取ったサイドスカート片手にIS-2へとよじ上る。

そして砲塔の上に立つと、前方の戦車のキューポラから上半身を覗かせた、眼鏡を掛けた中年程の男が下卑た笑みを浮かべ、拳銃を何発も撃つ。

 

「ぐっ!………………こんのぉぉおおおおお!イカれたクソ眼鏡野郎がァァァァァァアアアアアアッ!!!」

 

怒鳴り声だけで衝撃波すらも起こしそうな怒号を響かせ、夢の中の紅夜は、もぎ取ったサイドスカートを槍投げのようにして投げ、眼鏡を掛けた男に投げ当てる。

 

「Ha-ha!ざまあみやがれ!連盟のクソ野郎がァァァァァァアアアアアアッ!!!」

 

IS-2の砲塔の上で雄叫びを上げると、紅夜は血の泡を吐きながら、崩れ落ちるかのように車内に引っ込む。

暫くすると、紅夜を除くIS-2の全乗員が出てきた。

「(おい、夢の中の俺よ………………一体何をする気なんだよ?)」

 

そう思っていると、キューポラから紅夜が上半身を覗かせた。

 

「さて………………じゃあ、これが俺の、最後の試合だ!」

 

そう叫ぶと、紅夜を蒼い炎のようなオーラが包む。

すると、紅夜を乗せたIS-2は、目の前に居る戦車目掛けて突っ込んでいった。

 

「(おい、まさかとは思うが………………)」

 

紅夜は嫌な予感がするのか、額に冷や汗を流し始める。

そして、その時は訪れた………………

 

紅夜を乗せたIS-2が敵の戦車に激突した瞬間、大爆発を起こしたのだ!

 

「ッ!?」

 

その光景に、紅夜は言葉を失ってその場に崩れ落ちる。

燃え盛る炎の中から敵の戦車がキュラキュラと音を立てながら出てきて、動きを止めた。

その炎の中から自分の戦車が出てくる事は………………決して、無かった………………

 

あまりの光景に紅夜は、そのまま仰向けに倒れてしまい、意識を失った………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………人…ま……しゅ……さま…………ご主人様!」

「うわぁッ!?」

 

聞き覚えのある声が大音量で聞こえ、紅夜は跳ね起きる。

 

「きゃっ!?………………もう、ご主人様ったらどうしたの?寝る前は私を抱き締めて気持ち良さそうに寝てたのに、何か目が冴えたから起きてみたら、急に魘され出して、おまけにベッドから落ちるし………………て言うか、汗ビッショリじゃない!」

 

驚きながらそう言って、黒姫は紅夜が落ちたと言うベッドを指差した途端、その標的を紅夜の寝間着に変えて叫んだ。

黒姫の言う通り、紅夜の寝間着にはかなりの量の汗が染み込んでおり、灰色の生地が黒に近くなっている。

 

「これじゃ風邪引いてしまうわ!早くシャワー浴びないと!」

黒姫はそう言って、紅夜を無理矢理立たせて押し始め、そのまま1階にまで降りると、真っ直ぐに脱衣所へと向かい、ドアを開けて紅夜を押し込んだ。

 

「着替えは私が取ってくるからね!」

 

そう言って、黒姫は階段をかけ上がっていった。

 

「………………まぁ、取り敢えずシャワー浴びとくか」

 

紅夜はそう呟くと、汗を吸い込んだ寝間着を脱いで洗濯機に放り込むと、風呂場へと入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪夢を見た?」

「ああ。それが壮絶なまでのモンでな………………何か、近い将来に起こりそうで、マジで恐かったぜ」

 

シャワーを浴び終わり、黒姫が持ってきたパンツァージャケットを着て朝食を摂った紅夜は、黒姫から何があったのかを聞かれており、昨晩見た夢について話していた。

 

その夢に、自分やレッド・フラッグのメンバーが登場し、何やら良く分からない集団と戦っており、自分が相手戦車の車長と思わしき男に拳銃で撃たれ、IS-2からもぎ取ったサイドスカートを投げつけ、挙げ句には相手戦車目掛けて特攻を仕掛けたと言う光景を目の当たりにしたなどと、その時の光景を語っていた。

 

語り終えると、紅夜は一瞬身震いする。

常に陽気で、どんな逆境でも平常運転で居られるような紅夜でも恐がる事があるのかと思いながら、黒姫は、昨日紅夜に抱き締められたように、紅夜を抱き締め、自分の胸に埋めた。

 

「むぐっ!?」

 

突然の事に、紅夜は慌てて抜け出そうとするが、黒姫は一層強く抱き締めてそれを阻むと、紅夜の頭を撫で始めた。

 

「大丈夫よ…………」

 

『大丈夫』………………ただ一言だけ放たれた言葉だが、長年の付き合いを持つ戦車からの言葉は、紅夜を安心させるには十分な効果があった。

 

「………ありがとよ………」

 

モゴモゴと言いづらそうにしながら、紅夜はそう言った。

 

「うん♪」

 

そんなやり取りもあり、2人は大洗女子学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅夜が悪夢で魘された?」

 

格納庫に着くと、生徒会メンバーの3人を除いた全員が集まっていた。

3人が来るまでの間、黒姫は静馬と話をしていた。

 

「うん。なんでも、ご主人様が相手戦車の車長から拳銃で撃たれて、それから特攻して自爆するって夢だったらしいよ。それに、その夢にはレッド・フラッグのメンバー全員居たらしいし」

「そう………………それで、今では大丈夫なのよね?」

 

その問いに、黒姫は頷いた。

 

「なら良かったわ………………おっと、生徒会メンバーがお出でなすったわよ」

 

静馬がそう言って格納庫の外を見ると、戦車搬入口から生徒会メンバーの3人が入ってきていた。

それを見た他のメンバーは、一斉に3人へと向き直る。

 

「えー、お前達。今日この時まで本当にご苦労であった。昨年までは無名だった我が校が此処まで上り詰めて来られたのは、諸君等の健闘、そしてレッド・フラッグの健闘あってのものだ………………そして、明日はいよいよ決勝戦。相手は黒森峰女学園だ」

 

桃が言うと、メンバーの中に緊張が走る。

 

「全校生徒や学園艦の人達からの期待も高まってきてるから、頑張ってよ~」

 

如何にも軽い調子で、杏が言う。

 

「今日は明日に備えて、戦車の整備に当たれ!」

『『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』』

 

そう返事を返し、メンバーは戦車の整備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、Ⅳ号をH型仕様にしたのか」

 

あんこうチームの元にやって来た紅夜は、小豆色に塗装され、砲塔と履帯にシュルツェンを取り付けられたⅣ号戦車を見て言った。

 

「ええ!マークⅣスペシャルですよ!」

 

戦車好きの優花里が嬉しそうに言う。

 

「大戦時にコイツを撃破したソ連軍の人が、『ティーガー撃破だ!』とか言って喜んでたのに、その大半はコイツだったんだよな」

「まぁ、この仕様となったⅣ号は、影だけ見ればティーガーにそっくりですからね」

 

紅夜がⅣ号を見ながら呟くと、優花里は苦笑を浮かべながら言う。

 

「そう言えば、カメさんチームの38tがヘッツァーになってたわね。小山先輩曰く、『結構無理矢理な組み上げだった』って………………」

「でも、ヘッツァーの主砲の威力は今のⅣ号のと同等ですから、多少無理矢理でも仕方無いとは思いますよ」

 

話に入ってきた静馬に、優花里が言った。

 

「ねぇ紅夜君、ちょっと良い?」

 

其処へ、自動車部のメンバーを連れたみほがやって来た。

 

「ん?どったの?」

話を止めた紅夜が振り向き、訊ねる。

 

「レオポンチームの人達が、ちょっと話があるって」

「………………レオポン?何それ?」

 

みほが言った『レオポン』と言う単語に、紅夜は首を傾げる。

 

「ああ、自動車部の人達のチーム名なの。ホラ、あれ見て」

 

そう言うと、みほは格納庫の奥を指差す。

其所には、砲塔にライオンが描かれたポルシェティーガーが停められていた。

 

「成る程、そう言う事か………………りょーかい」

 

紅夜はそう言うと、自動車部のメンバーの元へと向かった。

 

其所でナカジマから、自分達の戦車にある《モノ》を付けたいと頼まれ、紅夜は訳の分からぬままに受けた。

 

そんな事もありつつ、その日の活動は終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遂に、明日だね」

「ああ………………」

 

活動を終え、家に帰ってきた紅夜と黒姫は、リビングで寛ぎながら話していた。

 

「久し振りだよね………………『決勝戦前日』って日を過ごすなんて」

「ああ………………こんなの、ほぼ1年ぶりだぜ」

 

懐かしむようにして言う黒姫に、紅夜は頷いた。

自分のチームが戦車道同好会チームのリストから除名され、もう試合に出る事が叶わなくなった頃からは、想像もつかなかった事だ。

 

「そんじゃ………………久々に出られる決勝戦なんだ、《アレ》を使うか」

 

紅夜はそう言うと、一度2階に上がり、部屋のクローゼットにしまわれてあった大きめの箱を取り出して降りてくると、箱の中身が分からずに首を傾げる黒姫の前に箱を置き、自慢気に開けた。

 

「ッ!ご主人様……コレって………」

 

驚愕に目を見開き、紅夜と箱の中身を交互に見やる黒姫に、紅夜は微笑みかけた。

 

「そうだ。本当なら現役時代から着けようと思ってたんだが、結局着ける事が叶わなかったアイテム………………『タコホーン』だ!」

 

そう言って取り出されたのは、黒いコード付きのヘッドフォンと、そのコードと繋がっているスロートマイクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日、遂に決勝戦が始まる。


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