ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第86話~決勝戦前最後の日常です!~

オンラインの戦車ゲームをしていたと言う3人--ねこにゃー、ぴよたん、ももがー--と、自動車部の4人--ナカジマ、ホシノ、ツチヤ、スズキ--が、其々三式中戦車、ポルシェティーガーを駆り、全国大会決勝戦に出場する事が決まったこの日、レッド・フラッグの戦車3輌の改造を終えた紅夜が戻ってきた。

IS-2の付喪神--黒姫--を仲間に加えつつ、準決勝以来からギクシャクしていた、大洗女子学園戦車道チームとレッド・フラッグの和解も成立する。

残すは決勝戦。彼等はどのようにして挑むのか………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、何とかチーム同士の和解は成立したな」

 

家に戻ってきた紅夜は、ズボンのポケットから家の鍵を取り出しながらそう呟いた。

 

「そうみたいだね。何があったのかは知らないけど、仲違いしてたなら、ちゃんと仲直りした方が良いよね」

 

紅夜の後ろに立っていた黒姫が、ウンウンと頷きながら言った。

 

彼女が紅夜と一緒に居る理由としては、練習が終わってからライトニングのメンバーが集められ、『黒姫をどうするか』と言う話し合いを行ったのだが、其処で彼女の世話役として、紅夜が真っ先に推薦されたのだ。

長年共に戦ってきた相棒だとは言え、流石にそれが人間の………………それも、女性の姿になって出てきたと来れば話は別だ。

それに、黒姫が紅夜に懐いているのを見る限り、他のメンバーでは無理だと言う結論に至り、黒姫は紅夜と共に生活する事が決定されたのだ。

この決定に、静馬やみほ、優花里、華が複雑な表情を浮かべていたのは余談である。

 

「さてと………………ホラ黒姫、入ろうぜ」

「うん♪」

 

ドアを開け、入るように促されると、黒姫は嬉しそうに返事を返し、中に入っていった。

そうして、紅夜は黒姫に家の中を案内して回った。

 

「………………最後に、此処が俺の部屋だ」

 

紅夜はそう言って、自室のドアを開けた。

 

部屋は8畳程の広さだが、その割には家具が少なかった。何せ、置かれている家具はベッドと机だけなのだから。

それに当然ながら、この2つの家具は壁にくっつくような配置となっているため、必然的に真ん中のスペースがガラ空きになるのだ。

 

「因みに、お前の部屋はこの向かいだ。綾が泊まりに来る時用の部屋だから、軽く掃除機をかける程度で十分だろう。それと着替えなら、綾のを使えば良い。彼奴、知波単の学園艦に住んでるのに何着か此処に残していきやがったからな………………その辺りに関しては、文句は言わせないさ」

 

そう言って、紅夜は部屋のドアを閉めた。

 

「さて、夕飯まで時間はあるから、テレビでも見て寛ごうぜ」

「うん」

 

そう返事を返し、2人は1階へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、黒姫さん?ちょっと近すぎではありませんかね?」

 

リビングに入り、テレビを付けてソファーに腰掛けたのだが、密着してくる黒姫に、紅夜はたじたじになっていた。

 

「そう?私はそうとは思わないけど」

 

そう言いながら、黒姫は紅夜の肩に頭を預けた。

 

「ところで、ご主人様の両親はどうしてるの?」

「本土で生活してるよ。この時期辺りで手紙が届いたりするんだがな………」

「そうなんだ………………そう言えば知波単に住んでる妹さんって、確か練習試合の時、五式戦車に乗ってた子だよね?」

「まあな。試合が終わってから、『今度泊まりに行くから!』とか言ってたなぁ」

 

知波単学園との練習試合の時を思い出し、紅夜は苦笑を浮かべた。

 

「彼奴はしっかり者でな、ちょくちょく物忘れをする俺とは大違いなんだよ」

 

紅夜がそう言うと、黒姫はクスリと笑みを溢した。

 

「確かに。ご主人様って、現役時代は点呼を取るのを忘れる事がよくあって、それを静馬が咎めてたもんね~」

「ああ。今思えば、そんな事もやらかしてたなぁ~」

 

黒姫の言葉に、紅夜がそう返す。そんな2人のやり取りは、まるで年寄りのようだった。

 

そうしている内に時間は流れ、2人は夕食を摂る。

その後、紅夜は黒姫を先に風呂に入れ、綾の部屋から着替えになりそうなジャージを持ち出すと、脱衣所に置いた。

 

 

 

「ふぃ~、まさかいきなり家族が増えるとは思わなかったなぁ」

そう呟いていると、紅夜のスマホがラインのメッセージの着信を知らせる。

 

「誰から………………おっ、静馬か」

『紅夜、新しい同居人との生活が始まる訳だけど、何か不安とかは無い?』

 

そのメッセージに、紅夜は直ぐ様返事を返した。

 

『まぁな。始まったばかりだから、未だ何とも言えねえがな』

『そう………………まぁ、順調なものになるのを祈るわ。それから………………』

 

そのメッセージが送信され、暫くの間が空けられる。

それに首を傾げていると、1通のメッセージが送られた。

 

『その子とお盛んになる事だけは………………ユルサナイワヨ?』

「恐いなオイ!?」

 

最後に片仮名で送られたメッセージに、紅夜は堪らずツッコミを入れる。

 

そんな時だった。

 

「ご主人様~」

風呂場から、黒姫が呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「おー、どうした~?」

ソファーに凭れながら、首だけを、閉められた脱衣所のドアの方に向けて問い掛けると、紅夜の耳を疑うような返事が返された。

 

「服のサイズが合わないの。ちょっと来てよ~」

「………………はあ?」

 

その言葉に、紅夜は間の抜けた声を溢してしまった。

 

「(オイオイ、服のサイズが合わないだけなら分かるが、来てくれとは言わねえだろ普通)」

 

そう思いながら、紅夜は一先ず、脱衣所へと向かった。

 

「服、キツいのか?」

「うん………胸が苦しいよ………ホラ」

「どわぁっ!?」

 

突然、脱衣所のドアが開けられ、紅夜は前のめりに脱衣所へと入ってしまった。

 

「危ねぇ危ねぇ、もう少しで顔面から床に倒れ込むトコだった………………オイ黒姫、いきなり開けたら危ねぇだろ……う………が…」

 

紅夜はそう咎めながら顔を上げるが、それが不味かった。

 

服のサイズが合わないとなれば、黒姫が服を着ていないのは明確な事。

そして紅夜の視界に飛び込んできた光景は………………

 

 

 

--未だにバスタオルを体に巻き付けているだけの黒姫の姿--だった………………

 

「………………スミマセンデシタ」

 

その後、紅夜は黄色のタコ型生物顔負けの速度で後方宙返り土下座を決めたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かった………………いや、もう………本当に悪かった………」

 

それから、紅夜は自分のジャージを貸す事になり、ズボンのゴムなどを黒姫に合うように調節した後、彼女とリビングに向かい、其所でも土下座で謝罪していた。

それを見た黒姫は、可笑しそうに笑っていた。

 

「ご主人様、私に会ってからエッチなハプニングによく遭うよね~。初めて会った時なんて、胸を揉んだ上に埋めてくるんだもん♪」

「ウグッ!………………誠に申し訳ありませんでした」

 

グサリと胸に刃物が突き刺さったかのように仰け反ると、紅夜はまた、深々と頭を下げた。

 

「フフッ、別に良いよ。あれが事故だって事は、私もちゃんと分かってるから」

「そう言ってもらえるのが、何よりの救いだよ」

 

苦笑を浮かべながら、紅夜は頭を上げる。

 

「それに……………」

「?『それに』………………何だ?」

 

不意に、黒姫が話を切り出そうとした。

紅夜は首を傾げ、話の続きを促す。だが、黒姫は一向に口を開かない。

時折、『あー、うー』と口ごもって目を泳がせ、紅夜と目が合っては、赤面して顔ごと目線を逸らす。

 

そうしていると、漸く決意を固めたのか、紅夜に向き直った。

 

「私はIS-2の付喪神。そして、この身はご主人様である貴方のもの………私の身も心も、全て、貴方にだけしか委ねられない………つまり、私は貴方の所有物………………そう、あの時みたいに胸を揉む事や顔を埋める事なんて、いくらでもさせてあげるわ」

「………………」

顔を赤くしながら言う黒姫に、紅夜は沈黙を返した。

目は丸く見開かれ、時折パチクリと瞬きをしている。

 

「………な、何とか言ってよぉ………」

 

流石に気まずくなったのか、黒姫は涙目で言う。

 

「あーいや、まさかそんな事を言われるとは思わなくてな………………」

 

紅夜はそう言って、照れ臭そうに後頭部を掻く。

 

「つーか、まぁ………………言い方は大袈裟だったが、お前が其処まで俺を信頼してくれてるってのは、良く分かった……純粋に、嬉しいって思えるよ………………ありがとな」

「~~~~ッ!?」

 

紅夜がそう言って微笑みかけると、黒姫の顔がトマトの如く真っ赤に染まり上がった。

 

「ちょ、おい!?顔真っ赤だぞお前!熱でも出たか!?」

 

そんな黒姫に、紅夜は大慌てでクローゼットへと飛びかかり、扉を勢い良く開け放って救急箱を取り出すと、何故かその箱の中に入れられていた冷えピタシートを取り出すと、黒姫の額に貼り付け、そのまま黒姫が何かを言い出そうとする前にお姫様抱っこで持ち上げると、2階の綾の部屋へとかけ上がり、ベッドに寝かせる。

 

「ふぅ………………そんじゃ、俺も風呂入ったら2階に上がるから、何かあったら呼べよな?」

 

そう言って、紅夜は部屋から出ていった。

 

「あ、ちょ!」

 

呼び止めようとする前に、ドアは閉められてしまう。

 

「はぁ~あ、ホントにご主人様は鈍感だなぁ。アレ、『本当に《襲・っ・て・も》良いよ』って意味だったのに。信頼してるって誤解しちゃって……まあ、信頼はしてるんだけどね………………」

 

黒姫はそう呟きながら、枕に頭を預ける。

 

「あの時、捨てられてた私を見つけてくれて、直してくれた………………また、試合で戦うチャンスをくれた、私のご主人様………………」

 

そう呟きながら、黒姫は右腕を天井へと伸ばし、目を閉じる。

浮かんでくるのは、自分と紅夜が初めて会った時の光景。

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の田舎の山の中に、パンターやイージーエイトと共に放置されていた自分を紅夜が見つけ、輝夫達を連れてきた。

そして修理され、今のレッド・フラッグのメンバーが続々と加入してきたのだ。

 

「見つけてくれた時は……嬉しかったな………………」

 

そう呟くと、独りでに小さな涙が溢れてくる。

それを指で拭っていると、ドアがゆっくりと開かれ、紅夜が入ってきた。

 

「黒姫………未だ起きてるのか………?」

「ご主人様………?どうしたの?」

 

紅夜が自分の元を訪ねてきた事に、黒姫は疑問を覚える。

 

「いや、風呂から上がってきた訳だが、あれからどうだ?辛くないか?」

 

どうやら紅夜は、本気で自分が熱を出していると思っているらしい。

そんな紅夜を面白く思いながら、黒姫は首を横に振って言った。

 

「大丈夫よ、もう平気」

「そっか………………それを聞いて、俺も安心したぜ」

 

そう言って、紅夜は部屋のドアから一歩、廊下へと下がった。

 

「そんじゃ、俺も寝るわ。お前も早く寝ろよ~」

 

そう言って、紅夜がドアを閉めようとした時だった。

 

「ッ!待って!」

 

その行動に待ったをかけ、紅夜を引き留める。

 

「………?どったの?」

 

閉まりかけていたドアを再び開け、紅夜は訊ねる。

黒姫は掛け布団を顔の辺りにまでかぶると言った。

 

「1つだけ………………ワガママ、聞いてほしいの………………」

「ん?……まぁ、別に滅茶苦茶なモンじゃなければ聞くけど………………何だ?取り敢えず言ってみろよ」

 

紅夜がそう言うと、黒姫は顔を赤くしながら言った。

 

「一緒に、寝てほしいの………………駄目?」

「そんな事か………別に良いぜ」

 

そう言うと、紅夜はそのまま部屋に入ってくる。

部屋のドアは閉められ、常夜灯の僅かな光が部屋を照らす。

黒姫は壁側に寄り、紅夜を迎え入れる。

 

布団に入ると、紅夜は黒姫を抱き締めた。

 

「ご、ご主人様……!?な、何を………………!?」

 

突然抱き締められ、黒姫は赤面して慌て出す。

 

「んー?別に大した理由はねぇんだが………………何と無くこうした方が良いような気がしてさ。まぁお前が嫌だってんなら止めるけど」

 

そう言うと、黒姫は紅夜の胸板に顔を埋めたまま、首を横に振った。

 

「そうか………………それじゃ、お休みな」

 

そう言うと、紅夜は大して間を空けずに寝息を立てる。

それによって抱き締める力が緩むと、黒姫は顔を上げ、紅夜の寝顔をまじまじと見つめた。

 

「まさか、もう立場が逆転するなんてね。流石はご主人様と言うか………………でも、温かくて、安心出来るよ」

 

そう言うと、黒姫は紅夜にそっとキスをした。

 

「お休みなさい………………私の愛しいご主人様♪」

 

そう言って、黒姫も睡魔に身を任せ、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、紅夜は夢を見た。

 

 

 

 

 

 

近い将来、自分の身に降り掛かる、残酷な夢を………………

 

 

 

 

 

 

 

 

その夢の中で

 

 

 

 

紅夜は………………

 

 

 

 

死んだ


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