だが、その際に紅夜君がやらかします。
では皆さん、紅夜に投げつける石ころの準備を整えてくださーい(作者、石どころかクラスター爆弾を用意)!
追伸、沖上兄妹の名字を沖上から沖海に変更しました。
レッド・フラッグのメンバーにも内緒で、自分達の戦車を強化すべく、かつて整備士を勤めていた4人--穂積輝夫、山岡次郎、沖海祐介、沖海神子--の元を訪ねた紅夜は、彼等との再開の喜びを噛み締めつつ、戦車の改造に乗り出すのであった。
「オーライ、オーライ、オーライ………………はいストップ!」
解体所にしては大きな敷地を持つこの場に建つ建物に、エンジン部分の上に立って指示を出す輝夫に従って、紅夜が操縦するISー2が、後ろ向きに入れられる。
その横には、既に搬入されたパンターとイージーエイトが2メートル程の間を空けて停められている。
いよいよ、戦車の改造作業が始まるのだ。
「良し………………もう良いぜ、長坊」
「あいよ!サンキューなオッチャン!」
そんなやり取りを交わし、2人はISー2から降りる。
「さてと………………そんじゃ坊っちゃん、コイツをどんな風に改造するのか、最終確認と行こうやないか」
工具箱を左手に提げ、大型のレンチを右手に持って肩に担いでいる祐介が言う。
「おう」
そう言って頷き、紅夜は其々の戦車の改造についての説明を始めた。
「先ず、俺のISー2だが、コイツには履帯を覆う装甲スカートを取り付ける。それからフェンダーを少しばかり延長する予定だ」
「ほほぉ~、サイドスカート付けるんか~………………となると、イギリスのセンチュリオンやアメリカのエイブラムスとかみたいな感じになるな」
そう呟く祐介に、紅夜は頷いた。
「その通りだよ沖兄。それからパンターも、同じように両サイドに装甲スカート、それから砲塔に発煙弾発射器を取り付ける。イージーエイトには………………まぁフェンダーの延長だけで十分かな。スカート付けられねえし」
紅夜がそう呟くと、次郎が話に入ってきた。
「それなら、エンジンもちょっとばかりパワーアップさせといた方が良さそうだな。増加装甲を付ければ、その分重量も増加する。パワーアップさせといたら、少なくとも普段通りの出力で出場するよりかは良くなる筈だ」
「ああ、それじゃあそうしようかな」
3人でそんな話をしていると、奥でガラガラと音が響いた。
ISー2に取り付ける装甲スカートを乗せた台車を、輝夫が押してきていたのだ。
「長坊、お前さんの言う部品は、こんなモンで十分か?」
そう聞かれ、紅夜は台車に近づいた。
「取り敢えず、これがISー2に取り付ける装甲スカートだ。厚さは10ミリにしておいたぜ」
「マジで?結構分厚いな………………てか、センチュリオンの装甲スカートでも5ミリだぜ?その倍じゃん」
「それじゃあ結構重くなるな………………エンジンをボアアップして、馬力を2割増しにしておくか」
次郎が呟くと、紅夜はスマホの電卓で計算を始めた。
「十の位を四捨五入して計算しても600馬力で、細かく計算したら、約615馬力………………ヤベェ、ISー2(コイツ)がチートの塊になっちまう」
本来の出力を大幅に超える事に、紅夜は唖然とした表情を浮かべながら呟いた。
「パンターのエンジンはどないするんや?ISー2みたいな2割増しにしたら、840馬力になるで」
「発想が無茶苦茶過ぎるなァオイ!?せめてプラス20ぐらいで良いだろ!」
祐介の呟きに、紅夜は堪らずツッコミを入れる。
「イージーエイトはフェンダーを延長するだけだが、万が一に備えてプラス20ぐらいはボアアップしておくか」
「それでも十分チートになるな………………てか、エンジン改造するとかってええんか?」
イージーエイトのエンジンも強化しようと言い出した次郎に祐介が言うと、ISー2に取り付ける装甲スカートを運ぼうとしていた紅夜が答えた。
「さっき自動車部のナカジマさんからライン来たんだけど、向こうでもエンジンを改造する予定の戦車があるみたいだから、良いらしいぜ?」
「そうか………………なら安心して改造出来るな」
そう言って、次郎は工具箱からレンチやボルトを取り出し、改造作業終了後には傑作品となっているであろう3輌の戦車の姿に、期待を膨らませるのであった。
その頃、大洗女子学園戦車道チームでも、戦力の増強が行われていた。
レッド・フラッグの戦車の運搬を手伝った自動車部のメンバーは、神子によって大洗女子学園へと送られ、その後、アンツィオ戦の前に行われた第2回戦車捜索作戦で、遭難した達哉と沙織、そして1年生チームが見つけたと言う88ミリ砲搭載の戦車のレストアが行われ、それが漸く終わったのだ。
因みに、この知らせを聞いた生徒会メンバーとみほはさぞかし喜んだと言う。
そして、東の空が、ほんのりと紅に染まろうとしている中、レストアが終了した戦車のお披露目が行われた。
「凄~い!」
「強そう~!」
1年生からは好評の声が次々と上がるが、生徒会メンバーとみほの表情は微妙なものだった。
「コレ、レア戦車なんですよねぇ~!」
1年生以外で嬉しそうにしているのは、優花里だけだった。
「ポルシェティーガー………………」
キュラキュラと音を立てながら進む戦車--VK4501(P)--を見て、桃が小さく呟く。
「戦車マニアには堪らない1品なんですよ!まぁ、地面にめり込んだり………………」
すると、突然ポルシェティーガーの進み具合が悪くなり、やがて空回りを始める。
「加熱して………………」
さらに言うと、キュラキュラと言う音が大きくなり、エンジン部分から黒煙が上がり始める。
「そして炎上したりで、壊れやすいのが難点ですけどね………………」
そう言うと、小さな爆発音と共にエンジン部分が火を噴き、遂にはガクリと動きを止めてしまう。
そもそも、このポルシェティーガーはⅥ号戦車の試作車であり、ティーガーⅠが、正式に採用されたものである。
このポルシェティーガーがボツになった理由は、先程優花里が言ったように壊れやすいからだ。
これを設計したフェルディナンド・ポルシェは独自設計に拘っており、この戦車の駆動系をガソリン=エルクトリックにしたのだ。
つまり、ガソリンエンジンで発電気を回し、それによる電力でモーターを回すと言う、今で言えばハイブリッド車で使われているような駆動系なのだ。
だが、当時の技術では無理があり、重量の割りには非力なエンジンを搭載する結果となり、足回りが非常に壊れやすいと言う欠陥を背負い、結果的に『失敗作』の烙印を押される事になったのだ。
その癖、車体は約100輌分製造され、ポルシェティーガーがボツとなったため、車体はエレファント重突撃砲へと流用されたと言う。
「あちゃ~、またやっちゃった~!おーいホシノ~!消火器消火器!」
キューポラからエンジンの惨状を見たナカジマが、車内に居るホシノに消火器を持ってこさせ、消火活動を始めた。
「戦車と呼びたくない戦車だよね、コレ」
流石に此処まで酷いとは思わなかったのか、杏でさえ肩を落としている。
「で、でもですね!足回りは弱いですが、88ミリ砲の威力は抜群ですから!」
「もう他に戦車は無いんでしょうか………………」
散々な言われようであるポルシェティーガーを優花里がフォローしようとするものの、その場には諦めムードが漂っていた。
「そう言えば、長門はどうしたんでしょうか?レッド・フラッグの戦車を全て持っていってしまったようですが」
と其処で、紅夜が戦車3輌を持っていった事を疑問に思った桃が言う。
「何でも、前からやりたかった事があるとかで、自動車部のメンバーと一緒に昼頃持ってったよ………………それにしても、何するつもりなんだろうねぇ~」
杏の呟きに答えられる者など居る筈も無く、一行はポルシェティーガーの修理をしている自動車部のメンバーに一言掛け、先に格納庫へと戻るのであった。
因みに、戦車を持っていかれたため練習が出来ずに居たレッド・フラッグのメンバーは、他のチームの練習に付き合っていたと言う。
「長坊!A1って書かれたドライバー持ってこーい!」
「それ持ってったらこのパーツ押さえてくれ!」
「ラジャー!」
その頃、紅夜達一行は戦車改造計画を進めていた。
パンツァージャケットの上着を腰に巻き付け、紅夜は輝夫が言ったドライバーを持っていき、今度は祐介の方を手伝いに向かう。
次郎の方は、自動車部のメンバーの送迎から帰ってきた神子と共に、イージーエイトに新たなフェンダーを取り付けている。
元々は延長するだけの予定だったのだが、『どうせなら新しいのに変えよう』と言う輝夫の意見もあり、今に至ると言うのだ。
ドライバーでボルトを締めたり、溶接を行う音が響き渡る。
時に火花を飛び散らせたりを繰り返しつつ、作業は深夜まで続いた。
「ふぅ、後はISー2(コイツ)のボアアップだけか……パンターとイージーエイトのボアアップは、案外早く済んだな」
深夜2時、輝夫達が帰り、その建物には紅夜が1人残っていた。
キューポラを開けて中に入り、車長の椅子に座って寝ようとしていたのだ。
「決勝戦、どんな試合になるのか楽しみだよな、相棒。今は兎に角休んで、試合の時は、思いっきり暴れてやろうな」
そう言って、紅夜はゆっくりと目を閉じ、やがて寝息を立て始めた。
「……て……起き……て」
小鳥の囀りが小さく聞こえる朝、紅夜の安眠は奪われようとしていた。
「(んー、誰だよ?もう少し寝かせろよ……)」
真っ暗な視界の中で思いながら、紅夜は首を横に傾ける。
すると、頬にひんやりとした柔らかいものが添えられる。それによって目が覚めてきたのか、周囲の音声が段々と聞こえるようになってきていた。
「ホラ、起きて。もう朝だよ」
紅夜の真ん前で、その声の主は軽く、紅夜の体を揺さぶる。
「んー、誰だよォ……つーか揺さぶるなっての………」
眠気が残っている時は機嫌を損ねやすいのか、紅夜は忌々しげに言いながら、その声の主を退かそうと、その声の主を押し退けようとする。
だが、目を閉じたまま押し退けようとしたのが不味かった………………
突然、紅夜の両手が2つの柔らかい『ナニカ』を掴む。
「んあっ…………」
「ヴェッ!?何事!?」
突然の声に、紅夜は反射的に両手を引っ込め、凭れていた状態から起き上がる。
だが、それも間違いだった。
先程触れていたのであろう2つの柔らかいナニカに、紅夜は顔を埋める結果となったのだ。
「んぅ………フフッ♪意外だね。ご主人様は、こう言うのとは無縁だと思ったのに………」
「………………?」
聞き覚えのある声にもしやと思いつつ、紅夜は顔を離し、目を擦ると、ゆっくりと開ける。
すると目の前には、紺色に近い色をした髪をサイドアップにした、紅夜と同い年ぐらいの女性が頬を染めながら微笑んでいた。
それを見た紅夜は、先ずこう言ったと言う。
「………………誰アンタ?」
何か出来映えが悪くなってきた?
き、キノセイデスヨ?
そ、それより!此処で紅夜に一言。
チクショウメェェェェエエエエエッ!!!(*`Д´)ノ!!!