ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第78話~遊びに行きます!~

大洗女子学園でちょっとした騒動が起こっている中、此処は、蓮斗がテレビで見たと言うアウトレットモール………………………………から数100メートル程離れた所にある細い道路。

その道を挟むようにして、1階建てや2階建ての家々が建ち並んでいるが、人通りは全くと言っても過言ではない程に少ない。と言うより、人通りが全く無い。

夜1人でその道を歩けば、何時誘拐されても不思議ではないような道に、紅夜と蓮斗の2人は転移してきた。

 

「ホイ、到着!」

 

紅夜の肩から手を離した蓮斗は、両手を腰に当てて言った。

目を開けた紅夜は辺りを見回すが、360度見回してもアウトレットはおろか、それらしい建物すら見当たらない状況に首を傾げていた。

 

「……?オイ蓮斗、此処ってアウトレットじゃねぇじゃんか。なんでまだこんなトコに来たんだよ?」

「こんなトコとは失礼な言い方だな。まぁ強ち間違っちゃいねえが………………まあ良い。此処に転移してきた理由は2つ。1つは他の奴等に見られないようにするためだ。大勢の前でいきなり人間2人が現れたら、大騒ぎじゃ済まねえからな」

「俺の家から出た辺りで瞬間移動使ったお前が何言ってンだよ」

 

蓮斗の答えに、紅夜は呆れたような声で言い返す。

蓮斗は気にする事無く、次の理由を言い始めた。

 

「そして2つ目にだが………………紅夜、試合中に纏ってたオーラ出してみろ」

「え?なんで?」

「良いから早く」

 

いきなりの無茶振りに戸惑う紅夜の声を無視して、蓮斗は急き立てる。

 

「………………まぁ、別に良いけどさ。ホレ」

 

そう言うと、紅夜はプラウダとの試合から纏うようになっていた紅蓮のオーラを纏った。

鮮やかな緑髪が、オーラと同じ紅蓮に染まり、紅夜の瞳とほぼ同じように、ルビーのような輝きを放つ。

 

「良し、其処でオーラを抑えろ。髪の色は、変えるなよ?」

『難しい注文だなぁ………………よっと』

 

そう呟きながら、紅夜はオーラのみを消した。

全身を覆っていた紅蓮のオーラは消えたが、髪の色はそのまま、瞳と同じ赤色になっていた。

 

「コレで良し!んじゃ、アウトレットに向かおうぜ~。前からそれっぽい建物を何度か見かけて、何時かは行ってみたいと思ってたんだよな~」

「やれやれ、コレじゃ声にドスが効いたまま………………って、何とも無いか」

 

しみじみとしたような雰囲気で言いながら、蓮斗が先に立って歩き出すと、紅夜も後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、蓮斗から準決勝での労いの言葉を受けたり、世間話をしたりしながら歩くこと15分、彼等はアウトレットモール『レゾナンス』に到着した。

 

「此処がレゾナンスか~、デケェなぁ~」

「そうかぁ?俺は大してデカイとは思わんけどな。前に行った事があるからかもしれねぇが………………つか、お前も来た事あったろ?初めて会った時にさぁ」

「そりゃそうだけどさぁ………………ホラ、アレ………改めて見るとデカく見えるってヤツだよ。まぁ、そんなモンどうだって良いや、早く行こうぜ」

「落ち着けよ蓮斗、はしゃぎ過ぎだ」

 

早く中に入りたいと言い張る蓮斗に苦笑を浮かべながら、紅夜もウキウキとレゾナンスに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、レゾナンスに入ってきた2人だが………………

 

「なぁ、蓮斗」

「ん?」

「俺等、何か矢鱈と見られてねぇか?」

「………………確かに」

 

2人は、擦れ違う客や店員からの視線の雨に晒されていた。

 

それもその筈だ。何せ2人は、髪や瞳の色を除けば瓜二つである上に、片方はレッド・フラッグの隊長。嫌でも注目されるものである。

 

「そういやお前、金どれだけ持ってきたんだ?」

「金?あー、大体5000ぐらいだな。飯とか食うならそのくらいで十分だろうしな。蓮斗は?………………って、聞くまでもねぇや」

 

紅夜がそう言うと、蓮斗はムッとした。

 

「オイ紅夜、俺が亡霊だからってナメてもらっちゃ困るぜ?コレでも財布に10000は入れてきてるからな」

「そんなに要らねえだろ………つか、そんな大金何処で手に入れてきたし………」

「それは企業秘密&ご都合主義だ。それに、その気になれば、高級ホテル2泊分用意出来るが?」

「お前マジでトンでもねぇ奴だな、何モンだよマジで。それからご都合主義言うな」

 

蓮斗の反応に苦笑を浮かべながら、紅夜はレゾナンスの中を見回す。

何時ぞやのアウトレットモールの時と内装は大して変わっていないが、以前のと比べると、やはり店内は広く、その分、店も多く開いていた。

 

「こうやって歩き回っても、行きたい店って案外無かったりするんだよなぁ」

「ゲーセンとかはどうよ?アウトレットならそれぐらいあるだろうし」

「それもそうだな………………良し、行くか」

 

紅夜の誘いに快く乗り、2人はゲームセンターへと向かった。

 

 

エスカレーターで3階へと上がり、CDショップや服や、家具屋等を横目に流しつつ、相変わらず擦れ違う客からの視線に晒されながら歩くこと数分、前方から賑やかな音楽や、メダルマシンがあるのか、ジャラジャラと大きな音が聞こえてきた。

 

「スッゲー音だな此処は!俺のティーガーより五月蝿いぜ!」

「それがゲーセンってモンだ!」

 

最早普通に喋っては聞こえないと判断したのか、2人は大声でそう言い合う。

それから、2人はゲームセンターの中へと入っていき、この世に留まっていながらゲームセンターに来た事が無いのか、ゲームのやり方も分からないと言う蓮斗に遊び方を教えていると、蓮斗は瞬く間に遊び方をマスターし、2人で対戦をすれば、2人揃って店のハイスコアを、圧倒的差をつけて更新したりしてプロゲーマー達を泣かせたり、クレーンゲームで熱中しそうになる蓮斗を、紅夜が必死になって止めたりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れて昼。ちょうど静馬と杏による壮絶なおいかけっこが繰り広げられているであろうこの時間、紅夜と蓮斗の2人は、昼食を摂ろうと、とあるレストランへと来ていた。

 

「いや~遊んだ遊んだ、大満足だぜ。3000円も使っちまったけどな」

「そうかぁ?ソイツァ良かったなぁ………………だが、こちとら途中から暴走しかけてたお前を止めるのに苦労して、殆んどゲーム出来なかったんだがな。ホレ見ろ、お前の半分しか使ってねぇよ。ドンだけやり込んでたんだよお前は」

 

蓮斗は満足げに言うが、紅夜は疲れているのか、やけにゲッソリして見えた。蓮斗に向かって言う言葉にも、いまいち力が無い。

 

「まあまあ後輩よ、そんなシケた面提げてンじゃねえよ。此処はレストランなんだぜ?楽しく飯食おうや」

「お前は俺以上に割り切るのが早いな。ある意味尊敬するぜ」

 

諦めたかのような声で言うと、紅夜は頬杖をつきながらメニューを開き、目に飛び込んでくる食品の数々に生唾を飲み込む。

 

「うーし、俺ァこの、カルボナーラとやらにするぜ。食った事ねェからな。お前は?」

「無難にオムライスだな……腹に余裕があったら、ピザでも頼むか」

 

そう言いながら、紅夜は店員の呼び出しベルを押す。

少しの間を空けてやって来た店員に注文をし終えると、ソファーの背もたれに凭れ掛かった。

 

「そういやお前のチーム、決勝にまで進んだんだろ?お前のチームの戦車もかなりのハイスペックだが、アレだけで行けるのか?相手は絶対20輌放り込んでくるぜ?」

 

コップに注がれていた水を飲み干した蓮斗が、コップに残った氷をカランカランと鳴らしながら言った。

そう言われた紅夜も、複雑な表情を浮かべた。

 

「それが問題なんだよなぁ………まあ、俺等の戦車は、修理から戻ってきたらちょっとばかり強化するけど、大洗チームがどうなるか、だなぁ…………どっかで戦車の叩き売りとかやってねえかなあ?」

「馬鹿こけ!ンな事やってる商人が居るモンか」

「だよなぁ………………ハァ」

 

紅夜の無いもの頼みを蓮斗が即座に否定し、紅夜は苦笑を浮かべながらも俯く。

それから溜め息を1つつくと、紅夜は胸元にかかり始めた紅蓮の髪を見た。あれから3時間も経過しているが、紅夜の髪が緑髪に戻る事は無く、無事に紅蓮のままを貫いていた。

 

「髪伸びたなぁ………そろそろ半分ぐらい切ろうかな?」

 

紅夜はそう言いながら、背凭れから一旦背中を離すと、胸元にかかり始めた髪の下に手を添え、背中へと一気に投げる。

そんな彼が窓側の席に座っていたからか、翻った紅蓮の髪の隙間に日光が入って髪が光って見え、それを見た若い女性客が食い入るようにして見ていた。

 

「………………ッ!」

 

そんな中、メニューに顔を隠しながら彼等を見つめる1人の女性客が居た。

黒のスーツに身を包んだ女性は、何処と無く大人になった紀子を思わせるような見た目をしており、そのスーツの胸元には、とあるカフェの店長である事を示す名刺のようなものが鋏まれていた。

 

そうしている内に料理が運ばれてくると、2人は食べ始める。

蓮斗はカルボナーラが大変気に入ったのか、フォークに巻き取った麺を一気に口の中に押し込んで喉を詰まらせ、それを見た紅夜が笑ったりしていた。

 

 

 

 

 

「それでだが紅夜、決勝戦ではどんな戦法を使うんだ?」

「それは言えねえな、機密事項だし」

「大袈裟だなぁ………………まぁ、試合で見るから別に良いんだけどさ」

 

食べ終えた一行はデザートを頼み、談笑していた。

 

「準決勝では降伏しろとか言われてたみてぇだが、今回はどうなんだ?それを考えたりはするのか?」

「ダァホ!俺等レッド・フラッグは、メンバーが大した傷も負ってない状態で、ただ敵に包囲されてるってだけの理由で試合を途中で放棄するなんて事はせんのだ!勝負が着くまで戦い抜く!試合が終わるまで、たとえ100年でも200年でも、頑張るのだ!」

「そんだけ経ったら、お前等余裕で死んでるっつ~の」

 

紅夜の力説に蓮斗が苦笑を浮かべてツッコミを入れた、その時だった。

 

「貴方達!」

「「(!?)」」

 

突然、自分達の真横から声を掛けられた。

 

--もしや、五月蝿いと店員が注意しに来たのだろうか?--

 

そんな事を考えながら恐る恐る振り向くと、其所にはメニューで顔を隠しながら紅夜達を見つめていた、カフェの店長である事が窺える女性が立っていた。

何を言われるのかと警戒していると、その女性は突拍子も無い事を言い出したのだ。

 

「ウチの店でバイトしてみない?」

 

 

「「………………え?」」

 

その瞬間、2人の間の抜けた声が重なった。


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