ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第75話~吹き荒れる殺戮嵐(ジェノサイド)!そして決着です!~

第63回戦車道全国大会において、大洗VSプラウダによる準決勝は、最初こそ有利に試合を進めていたように見えた大洗がプラウダの策に引っ掛かって圧倒され、そこからの仲間割れがありつつも、何とか持ち直し、形勢逆転へ向けての準備を整えつつあった。

プラウダの包囲網を突破した大洗本隊では、みほ達あんこうチームと、エルヴィン達カバさんチームが反転して、未だ廃村エリアに駐留しているプラウダのフラッグ車を撃破するため本隊から離れ、M3のウサギさんチームとb1のカモさんチームが、大洗フラッグ車である八九式のアヒルさんチームの護衛を任される。

それで、後はアヒルさんチーム達が上手く逃げ切り、みほ達がプラウダのフラッグ車を撃破すれば事は解決するのだが、そうは問屋が卸さない。

反転して廃村エリアへと戻ったあんこうとカバさんチームを気にせず、ただ大洗のフラッグ車である八九式を撃破しようと追撃している、カチューシャ率いるプラウダ本隊に、ノンナの砲撃によって撃破された杏達カメさんチームによって、足止めを喰らっていたIS-2が本隊に合流したのだ。

そして、その砲手がノンナに交代され、ノンナは圧倒的な射撃スキルで、アヒルさんチーム達を追い詰めていく。

 

両者がフラッグ車撃破へのリーチをかけようとしていた時、プラウダ本隊には、狂気の殺戮嵐(ジェノサイド)が忍び寄っていた。

 

大洗チームがフラッグ車を撃破するのが先か、プラウダが大洗のフラッグ車や撃破するのが先か、はたまた、プラウダ本隊へと忍び寄る殺戮嵐(ジェノサイド)が吹き荒れるのが先か………………決着の時は、未だ先である。

 

 

 

 

 

 

 

「くぅぅうううっ!!相手のアタックが強すぎる!」

「それに、此方は闇雲には撃ち返せないからタチが悪いです!」

 

IS-2や、他6輌のT-34からの集中砲火に晒されながら逃げる八九式の車内では、典子とあけびがそう悪態をついていた。

今のところは、自車やM3、そしてb1は無傷のまま走り続けているが、それも何時まで続くかは分からない。

ホンの少しでも気を抜いた瞬間に、敵の砲弾が自分達に叩き込まれる。そのため、片時も気を抜けず、メンバー全員に緊張が走っており、冷や汗を流す者も居た。

 

そして、その最悪の時は無慈悲にも訪れた。

ノンナが砲手を務めるIS-2から放たれた122mm砲弾が、M3のエンジン部分に叩き込まれたのだ。

砲弾の直撃を受けたM3はコントロールを失い、エンジン部分から黒煙を上げながらスリップして後ろを向いて停車し、即座に行動不能を示す白旗が飛び出した。

 

「此方ウサギチーム!行動不能です!」

 

M3車長の梓が、みほ達あんこうチームに通信を入れた。

 

『怪我はありませんか!?』

「「「「大丈夫でーす!!」」」」

 

心配そうに怪我人の有無を聞く沙織に、M3のメンバーからの返事が返される。

 

「眼鏡割れちゃったけど大丈夫でーす!紗希も大丈夫だそうでーす!」

「カモさん!アヒルさんの事を頼みます!」

『了解!任せといて!』

 

梓がカモさんチームに通信を入れると、みどり子からの力強い返事が返された。

 

「さあ、ゴモヨ!パゾ美!大洗女子学園風紀委員の腕を見せる時が来たわよ!」

「「はい!」」

 

ウサギさんチームの役割を受け継いだかのように、ゴモヨはb1を八九式の真後ろにつけて盾になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、カチューシャ率いるプラウダ本隊にも通信が入っていた。

 

『カチューシャ隊長!此方フラッグ車、大洗に発見されちゃいました、どうしましょう!?』

廃村エリアでずっと残っていたプラウダのフラッグ車の車長が、口調に若干の田舎の訛りを含ませながら、切羽詰まったような声色で叫んでいた。

 

『今からソッチに合流しに行きたいんですけど良いですか!?てか合流させてくださーい!』

「Нет(駄目よ)!今になって広いトコに出ても良い的になるだけよ!許可出来ないわ!」

『んな事言われたかって、こちとら追い回されて大ピンチなんスよ~!』

 

フラッグ車の車長からの鳴き声に近い懇願を一蹴するが、それでも食い下がる。

 

『ホンの少しでも時間をいただければ、必ず、1輌残さず仕留めて見せます』

 

其処へ、スコープを覗いて照準を合わせていたノンナが話に入ってきた。

 

「ノンナもこう言ってるから、適当に廃村の中をチャカチャカ逃げ回って時間稼ぎして!頼れる同志の前に引きずり出したって良いんだから!」

 

カチューシャはそう叫ぶと、強制的に通信を終わらせる。

 

 

 

 

 

 

 

カチューシャからの通信を受けたプラウダのフラッグ車は廃村の中を逃げ回る。

車長はとある別の戦車の車長に通信を入れると、T-34/76が通り過ぎた後に、1輌の巨大な砲塔を持つ戦車--KV-2重戦車--が現れ、先へは行かせないとばかりに街道の真ん中に躍り出て仁王立ちする。

 

『出たぞ、KV-2(ギガント)だ!』

「大丈夫!初速は遅いから、落ち着いて避けて!」

 

エルヴィンの言葉に、みほはそう返す。

その直後にKV-2は発砲するが、みほの言った通り、初速の遅さ故に軽々と避けられる。

 

「停止!」

 

みほの指示で、Ⅳ号とⅢ突が横1列で停車する。

 

「KV-2は、次の装填までに時間が掛かるから、落ち着いて狙って!」

「はい!」

 

みほの言葉にそう返し、華はスコープを覗いて照準を合わせようとした。

 

「最も装甲が薄い所を狙って………………良し、照準、合わせました!」

『此方カバさんチーム!何時でも撃てるぞ!』

 

華とエルヴィンから、そんな言葉が飛ぶ。

 

「良し………………撃て!」

 

その指示と共に2輌の主砲が火を吹き、2つの砲弾はKV-2に真っ直ぐ叩き込まれて行動不能にし、みほ達は再び、フラッグ車撃破へ向けて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、プラウダ本隊との壮絶な追いかけっこを繰り広げているアヒルさんチームとカモさんチームにも、変化が訪れていた。

ノンナの砲撃によって、b1が撃破されてしまったのだ!

 

「カモチーム撃破されちゃいました!アヒルさんチームの皆さん!健闘を祈る!」

『『『『はい!』』』』

 

後ろを守ってくれる戦車が居なくなっても、アヒルさんチームの4人からは大きな返事が返される。

 

だが、どんなに威勢の良い返事を返せても、7vs1と言う圧倒的に不利な状態に、アヒルさんチームは為す術も無く、ただひたすらに逃げ回るしかなかった。

 

「フフンッ!コレで此方の勝ちは決まったようなものね………………さてと、楽しい追いかけっこも、そろそろお終いにしてあげようかしらね」

 

勝利を目の前にして、完全に得意になっているカチューシャ。だが、彼女は知らない。

その表情が数分後には、恐怖に染まりきる事を………………

 

 

 

 

 

 

 

それは、突然訪れた。

 

『此方レイガン。アヒルさんチーム、応答願います』

 

緊張が走っている車内に響いた、落ち着き払った女性の声。

その声に、典子は聞き覚えがあった。

 

「その声………………まさか、須藤さん!?」

「「「ええっ!?」」」

 

驚愕に満ちた典子の声に、メンバーが驚く。

 

『ええ、そうよ。さっきぶりね………………それと、キューボラから外を見てみなさい』

 

そう言われた典子は、キューボラを開けて顔を覗かせると、自分達の戦車に近づいてくる、1輌の長砲身の戦車が目に留まった。

《Ray Gun》のパンターA型だったのだ!

 

『遅くなってご免なさいね。でも、もう大丈夫よ。我々《RED FLAG》隊長、長門紅夜の命により、我々レイガンが、貴女達の護衛をするわ。後ろは任せなさい』

「あ、ありがとうございます!!」

 

典子は目尻に涙を浮かべながら礼を言う。

すると、静馬達のパンターが突然向きを変えてバック走行に入り、八九式とは背中合わせになる配置についたのだ。

 

「す……凄い………」

「コレが、レッド・フラッグの実力………………」

 

圧倒的な操縦スキルに、メンバーが感嘆の溜め息をつく。

 

「あ、そう言えば!」

 

典子はまた、静馬へと通信を入れた。

 

「長門先輩は!?彼はどうしたのですか!?」

『安心して、紅夜達なら大丈夫よ。もうそろそろ、プラウダへのカチコミを始めるわ』

 

そうして通信が切られ、典子はプラウダ本隊の方を見て思った。

 

『一体、何が始まるのだろうか』と………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、カチューシャ率いる本隊を見つけた紅夜達ライトニングでは………………

 

「さてと………………じゃあ乗り込みますか、ねっ!』」

 

その瞬間、紅夜を紅蓮のオーラが包み、鮮やかな緑色の髪を紅蓮に染め上げる。

 

「紅夜、マジでやる気か?」

『当たり前だ………………散々コケにしてくれやがったんだ………………落とし前はつけてもらうぜェッ!!』

「「「もう駄目だ………………もう誰もコイツを止められねぇ………………」」」

 

達哉の問いに紅夜が即答し、メンバー全員が同じ事を考える。

 

『さてと………………じゃあ行こうか、相棒!』

 

紅夜が言うと、まるで紅夜の言葉に答えるが如く、IS-2のマフラーが火を吹く。

 

『行くぞテメェ等!蹂躙しろォォォォオオオオオオッ!!』

「「「イ、Yes,sir!!」」」

 

そうして、IS-2は普通ではあり得ない挙動で向きを変え、プラウダの本隊に向かって突っ込んでいった。

まるで、羊の群れに飛び込む狼のように………………

 

 

 

 

 

 

その頃のプラウダ本隊では、予想だにしない事態に混乱していた。

 

「どうなってるの!?此処に来て助っ人登場なの!?」

 

せっかく追い詰めているのに、横槍を入れるかの如く参上したパンターに、カチューシャは歯軋りした。

だが、その顔も直ぐに、恐怖に染まる。

突然、1発の砲弾が横から飛んできて、自分達の前を掠めていったのだ。

 

「ッ!?だ、誰!?」

 

カチューシャはそう叫び、辺りを見回すが、何も見当たらない。だが、砲弾が飛んできたのは事実だ。

「クッ!何なのよ一体!」

 

そう悪態をついた、次の瞬間だった。

 

『見つけたぞォォォォオオオオオオッ!!カチューシャァァァァァアアアアアアッ!!!』

「ッ!?」

『『『『『『『『『~~~~~~ッ!!?』』』』』』』』』

 

突然、地獄の底から聞こえてくるようにドスの効いた怒鳴り声が響いてきた。

 

「なっ、何なのよいきなり……きゃあ!?」

 

その次の瞬間には、試合前に体験したのと同等レベルの突風が、雪道を抉りながらカチューシャ達を襲う!

その衝撃波のような突風の驚き、ノンナが乗るIS-2の後ろについていたT-34/85の車長であるクラーラは、反射的にキューポラを開けて外を見ると、その目が驚愕に見開かれた。

自分の視線の先から、巨大な火柱を上げた何かが突っ込んできているのだ!

 

『さぁ、蹂躙の時だ!覚悟は出来てるかテメェ等ァァァァァアアアアアアッ!!!』

 

その怒号と共に、火柱は弾けるかのような光を放ち、それらを撒き散らしながら消える。

それから飛び込んできた光景に、クラーラやノンナ、そして目を向けたカチューシャは目を奪われるような思いだった。

翻った紅蓮の長髪が月明かりに照らされ、その光を浴びた2つの瞳が、ルビーのような輝きを見せる。

自分達を殲滅しに来た敵であるのにも関わらず、クラーラは頬を染めて胸に手を当てていた。

 

「………………ハッ!?た、たった1輌に何が出来るのよ!叩き潰しなさい!」

『『『『『『『『『だ、Да!!』』』』』』』』』

 

我に返ったカチューシャの指示で、他のT-34の軍団が、一斉に砲口を向ける。

だが、向かってくるその戦車は臆する事無く、軍団に向かって突っ込むと、その内の1輌に強烈な体当たりを仕掛け、弾き飛ばしたのだ!

 

「う、嘘ッ!」

「ッ!?」

 

あり得ない光景に、カチューシャは戦き、ノンナやクラーラは言葉を失う。

その間にも、前を走るカチューシャのT-34は八九式とパンターに砲撃を仕掛けるが、全面装甲を向けているパンターに弾かれ、当たらずにいた。

 

「ッ!の、ノンナ!早く大洗のフラッグ車を仕留めて!」

「は、はいっ!」

 

ノンナは大急ぎで車内に引っ込み、砲撃を仕掛ける。

 

「へっへーだ!IS-2の砲撃でアタシ等がビビるのは紅夜のIS-2からの砲撃だけじゃボケェ!」

ノンナのIS-2による砲撃が命中しても、パンターの操縦手である雅はそう叫ぶ。

 

『此方4号車!やられました!』

『5号車、右履帯を破壊され、きゃああああっ!!』

 

圧倒的な蹂躙劇に、カチューシャは恐怖を覚えた。その視線の先には、たった1輌のIS-2に蹂躙され、はたまた撃破されている僚機の姿があった。

ある戦車は履帯や転輪を粉々に吹き飛ばされ、またある戦車は、横倒しになって黒煙を上げている。

次から次へと、悲鳴に近い声がインカムから響いてくる。

 

その時、キューポラから上半身を乗り出している紅夜とカチューシャの目が合った。

 

「ヒッ!?」

『………………』

 

月明かりに照らされ、鮮やかな光を放ちながらも、狂気に満ちた鋭い視線を向けられ、カチューシャは目尻に涙を浮かべた。

そして、紅夜の口がゆっくり開かれ、息を吸い込んでいるかのように見えた。

すると、IS-2の砲口がカチューシャのT-34に向けられる。

 

そして………………

 

『Feuer!!!』

 

怒号に近い声が上げられると共に、IS-2の砲弾がT-34の砲塔背面に直撃して車内が大きな揺れに襲われ、そこから機銃弾が襲い掛かる!

 

「~~~~ッ!!キャァァァァァアアアアアアアッ!!?」

 

遂に限界を迎えたのか、カチューシャは阿鼻叫喚の悲鳴を上げて車内に引っ込み、車長席に踞った。

 

「隊長!お気を確かに!」

「イヤッ!恐い!彼奴恐いよぉ!誰か助けて!」

 

尚もカチューシャは泣き叫び、車内のメンバーの声も届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、紅夜を乗せたIS-2では………………

 

「うっわー………………コレやっててなんだが可哀想に思えてきた」

 

操縦手の達哉がカチューシャがパニックに陥っているためか、コントロールが覚束無くなってきているT-34に目を向けた。

 

「砲弾の残りは10発か………………紅夜、そろそろ止めてやった方が良いんじゃねえのか?後先色々考えて」

 

装填手の勘助が、蹂躙劇の中止を勧めた。

 

『ん~、もうちょっとやってやりたかったが………………まぁ良いか。もう十分暴れたし、IS-2(コイツ)も満足そうだし』

 

そう言うと、紅夜は通常状態に戻り、紅蓮に染まり上がった髪も、鮮やかな緑髪に戻った。

その瞬間、1発の砲撃音が響き渡り、驚いた紅夜が前を見ると、前方で黒煙が上がっているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その同時刻、廃村エリアでは雪に埋もれたⅢ突が砲口から白煙を上げ、その真ん前では、プラウダのフラッグ車であるT-34/76が黒煙を上げていた。

 

 

そして………………アナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《試合終了!大洗女子学園の勝利!!》


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