ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第74話~其々の終盤と、迫り来る狂気の殺戮嵐(ジェノサイド)です!~

此処は、大洗チームが立て籠っている廃教会。

紅夜達レッド・フラッグのメンバーが出ていってから、戦車の配置が変更された。

杏達カメさんチームの38tを先陣に、Ⅳ号とⅢ突。その次にアヒルさんチームの八九式が配置され、その背後を守るように、M3とルノーb1が配置された。

 

「小山、行くぞ」

「はいっ!」

 

杏が言うと、柚子はゆっくりと38tを前進させ、他の戦車も後に続き、ゆっくりと前進する。

そして、出口が目前に迫った時………………!

 

「突撃!」

 

杏の掛け声と共に柚子はギアを入れて速度を上げ、教会から勢い良く飛び出す。

その途端、包囲していたプラウダの戦車隊からの集中攻撃が始まる。

容赦ない砲撃に晒されながらも、大洗チームは防御の薄い地点へと向かう。

 

「フフンっ!やはり其所に向かったわね。流石は私」

 

自分の作戦が成功したと思っているカチューシャは、得意気に自画自賛するが………………

 

「………………ん?」

 

なんと、防御が緩くなっている場所へと向かっていた大洗チームは突然方向転換し、フラッグ車である八九式を隊列の真ん中に配置して守るような陣を組むと、自分達が居る場所………………つまり、一番戦力が集中している場所へと突っ込んできたのだ!

 

「此方!?馬鹿じゃないの彼奴等!?敢えて分厚いトコに向かってくるなんて!!」

 

大洗チームがとったまさかの行動に驚き、そんな事を呟きながら、カチューシャはヘルメットを被る。

その瞬間、今までの仕返しとばかりに大洗からの砲撃が始まる。

 

「このっ!返り討ちよ!」

 

そう叫ぶと、カチューシャは直ぐ様車内に引っ込んだ。

 

「河嶋、砲手代われ。私がやる」

「はっ!」

 

そんな中、杏は桃に、砲手を代われと言い出し、桃は席を空けて装填手へと移る。

杏は砲手の席に座り、スコープを覗く。

 

「やっぱ37mmじゃ、まともに撃ち合っても勝ち目って殆ど無いんだよねぇ~。ヘッツァー欲しいよホントに」

 

そんな独り言を呟きつつも、杏は前から来ているプラウダの戦車を睨んだ。

 

「小山!ちょっと危ないけどギリまで近づいちゃって!」

「はい!」

 

杏の指示を受けた柚子は38tの速度を上げ、向かってくるプラウダの戦車に突っ込んでいった。

すると、1輌のT-34/85が砲塔を38tへと向ける。

砲身がゆっくり下ろされ、38tへと狙いを定めた時………………ッ!

 

「来るぞ!」

 

その言葉と同時に、柚子は38tを左へ流して砲弾を避け、相手が怯んでいる内に接近すると、杏が相手の砲塔基部目掛けて発砲し、行動不能にする。

その隙に、大洗の戦車が次々と向かってくると、プラウダの防衛ラインを突破する。

 

「やったな!後続、何が何でも阻止しなさい!」

 

段々遠ざかっていく大洗の戦車を睨みながら、カチューシャはインカムに向かってそう叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、独自行動として稜線地帯へとやって来た、紅夜達レッド・フラッグは、出撃準備を行っていた。

各自が戦車に乗り込み、紅夜からの指示を待っている。

 

「大洗チームは敵の包囲網を突破したら、敵の目を誤魔化しつつ主力が反転して、さっきの廃村地帯に戻って敵のフラッグ車を潰すつもりだ。その分、残りはフラッグ車の八九式の護衛に当たる訳だが……」

 

そう言って、紅夜が言葉を詰まらせると、静馬が口を開いた。

 

『『護衛するには戦力が足りない』って言いたいんでしょ?それぐらい分かるわよ』

 

そう言って、静馬は軽く微笑む。

紅夜は苦笑を浮かべると、言葉を続けた。

 

「そうだ。静馬の言った通り、八九式の護衛をするのはM3とルノーb1しかねぇ……………なら、俺等のやる事は決まってる」

『私達がM3達の援護に回って、貴方達は敵本隊に殴り込みして暴れ回るんでしょ?』

 

そう言われ、紅夜は頷いた。

 

「ああ、そうだよ静馬。その際は頼んだぜ?」

『………………Yes,sir』

 

そうして通信が切れ、紅夜はキューボラから上半身を乗り出す。

 

「さぁ、俺等も行くぞ!Panzer vor!!」

 

その掛け声と共に、レッド・フラッグの2輌が急発進し、大洗の戦車を追い始めたプラウダの戦車の方へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、本隊を突破した大洗チームでは………………

 

「前方から敵4輌!」

 

Ⅳ号のキューボラから前方を見ていたみほが叫ぶ。

すると、最後尾で後ろの様子を見ていたみどり子から通信が入った。

 

『此方は最後尾!後方からも4輌来ています!それ以上かもしれません!』

「了解しました。なら挟まれないよう、10時の方向に転回します!」

 

みほがそう言うと、今度は杏から通信が入った。

 

『んじゃ、正面の4輌は私等が引き受けたよ!上手くいったら、後で合流するね!』

「か、会長さん!?」

 

突拍子も無い杏の発言に、みほは驚愕で目を見開いた。

 

『大丈夫だよ………………紅夜君達だって、サンダースとの試合でやってから、なるようになるさ…………ホラ西住ちゃん!良いから早く!』

「ッ!……分かりました、気を付けて!」

『あいよ、ソッチもね~!』

 

そうして、38tは前から来ている4輌目掛けて突っ込んでいき、その様子を、みほは心配そうに見ていた。

 

「T-34/76に85、そしてIS-2(スターリン)か………………全部固そうで参っちゃうなぁ………………」

 

そう呟きながらも、杏は自分の相方達に指示を飛ばした。

 

「小山!ねちっこくへばりついて!」

「はいっ!」

「河嶋!装填は早めにね!」

「了解です!」

 

2人の威勢の良い返事に、杏は満足げに頷き、スコープを覗いてプラウダの戦車に狙いを定めた。

 

「38tでも、ゼロ距離なら出来るかな………………良し、行くぞ!」

 

そして、その言葉を合図に、38tが4輌のプラウダ戦車に襲い掛かった。

1輌のT-34/76が砲撃を仕掛けてくるが、小回りの効く38tの特性を生かして難なく避けると、逆に至近距離からの砲撃を喰らわせて撃破する。

今度はIS-2を標的に定めて引き金を引くものの、自分も相手も動いていたためか、狙いが逸れ、後部のフェンダーに弾かれてしまう。

 

「おっと失敗………………気を取り直してもう一丁!」

「はいっ!」

 

すると今度は、他のT-34/76を標的とした杏は、桃が次の砲弾を装填し終えた直後、狙いを定めて引き金を引き、片方のマフラーを吹き飛ばす。

 

「よっしゃ、もう一丁!」

「はいっ!」

 

既に次の砲弾を弾薬庫から取り出して構えていた、桃が素早く装填を終え、柚子が車体を回転させて相手からの砲撃を避け、次々と攻撃を仕掛けていく。

あるT-34は履帯と転輪を吹き飛ばされ、さらに止めとばかりに砲塔基部に喰らって撃破され、またあるT-34は、両方の履帯と転輪を吹き飛ばされ、悪足掻きとばかりに攻撃するものの、柚子の操縦で避けられた後、ゼロ距離射撃を喰らって撃破される。

結果的に、杏達カメさんチームは、敵戦車4輌中、T-34を2輌撃破したのだ。

 

そして、大洗チーム本隊に合流しようと、その場を離れていった。

「よーし、こんなモンで良いだろ、撤収ぅ~♪」

「お見事です!」

「流石は会長です!」

 

車内でそんな明るい会話が始まろうとした次の瞬間、突如として横から砲撃を受け、38tは粉々に吹き飛ばされた履帯と転輪の破片をぶちまけながら派手に吹っ飛ばされると、逆さになって動きを止める。

そして底部から、行動不能を示す白旗が飛び出した。

 

其所から数百メートル程離れた場所では、1輌のT-34/85の砲口から白煙が上がっていた。

ノンナのT-34/85だった。

 

「………………動ける車両は、速やかに合流しなさい」

『Да!』

 

その指示に、生き残っていたプラウダ戦車の車長は返事を返し、本隊に合流しようと動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやぁ~、ゴメンね~。2輌しかやっつけられなかった上にやられちゃった~。後頼むね~』

 

その頃、反転するための場所へと移動している大洗本隊、あんこうチームには、杏からの通信が入っていた。

 

「分かりました、ありがとうございます」

『後は頼んだぞ、西住!』

『お願いね!』

 

みほが礼を言うと、桃と柚子からの激励も入った。

「此処を脱出します!全車、あんこうについてきてください!」

『『『『『『『はいっ!!』』』』』』』

 

みほの指示に、その場に居る全チームからの返事が返され、速度を上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いぞ良いぞ~~!頑張れー!」

「未だ負けた訳じゃないぞー!」

 

その頃、観客席では形勢逆転に向けて動き出した大洗チームを応援する声が上がっていた。

 

「皆、大洗を応援してますね………………」

「ええ。判官贔屓と言った感じかしらね………………」

 

オレンジペコとダージリンも、そんな事と言い合っている。

 

 

 

「そういや、祖父さん達は何してんだ?大洗の本隊に合流してもいねえな」

 

大河は、普段なら大洗に合流して行動を共にする紅夜達が居ない事に疑問を抱いていた。

 

「彼等には彼等なりの考えがあるんでしょうよ………………ホラ、2輌が凄い速さで進撃してるわよ?」

 

深雪はそう言うと、スクリーンに映し出されている2輌の戦車に視線を移した。

そのスクリーンに映る2輌の戦車は、履帯後部から雪を巻き上げながら、全速力で進んでいた。

 

「彼らが何をするつもりなのか、楽しみにしておきましょう。きっと、凄いものが見られるわよ」

 

そう言うと、深雪は穏やかに微笑み、大河はいまいち腑に落ちないような表情を浮かべながらも、取り敢えずはスクリーンに視線を戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻子さん、2時が手薄になっています!一気に振り切って、この低地を抜け出すのは可能ですか!?」

「ああ、一応出来る。だが、かなりキツめに行くぞ………………」

 

みほの質問に、麻子は即座に答える。

 

「大丈夫です、やってください!沙織さん、他の戦車に伝えて!」

「わ、分かった!」

 

そう答え、沙織は他の戦車に通信を入れた。

 

「あんこう、2時の方向に転回します!フェイント入って難易度高いです!頑張ってついてきてください!」

 

『了解ぜよ!』

 

『かなりキツいって~、大丈夫なの?』

『大丈夫!やるっきゃ無い!』

 

『マッチポイントには未だ早い!気ィ引き締めて行くぞ!』

『『『オオーーーッ!』』』

 

『頑張るのよ、ゴモヨ!』

『分かってるよ、そど子』

 

沙織の指示に、其々のチームのメンバーからの返事が次々に返され、大洗本隊は急激な方向転換を行う。

 

「何なのよ彼奴等?チマチマと軽戦車みたいに逃げ回って……ッ!」

 

その頃、追撃していたプラウダの本隊では、先頭を走るT-34/85のキューボラから様子を見ていたカチューシャが呟いた。

 

「こうなったら………………機銃曳光弾!主砲は勿体無いから使っちゃ駄目!」

 

インカムに向かって叫ぶと、追撃していた本隊のT-34の軍団が、一斉に曳光弾を撃ちまくる。

大洗の戦車に向かって撃っていないのを見る限り、元から当てるつもりは微塵も無く、あくまでも照明弾としての使用だった。

 

「ッ!?」

 

自分達の遥か上から飛んでいく曳光弾の軌跡を視界に捉えたみほは、直ぐ様カモさんチームのみどり子に通信を入れた。

 

「カモさん!後ろから来るプラウダの戦車は何輌見えますか!?」

『えっと………………全部で6輌です!』

 

その通信に間を入れず、みどり子から返事が返される。

 

「その中にフラッグ車は見えますか!?」

『見当たりません!恐らく、さっきの廃村に居るままだと思います!』

「了解しました。カバさん!前方の丘を越えたら、あんこうと隠れて、敵をやり過ごしてください!相手の主力が居ない内に、敵のフラッグ車を叩きましょう!」

『心得た!』

 

みほがカバさんチームに通信を入れると、エルヴィンから返事が返される。

 

「ウサギさんとカモさんは、アヒルさんを守りつつ逃げてください!この暗さに紛れるよう、出来るだけ撃ち返さないで!」

『『『はい!』』』

 

作戦を伝えると、大洗の戦車は丘を上っていく。

Ⅳ号とⅢ突は、その丘を上り終えた直後に曲がって、両サイドの影に隠れる。

残りの3輌は前進していき、後からプラウダ本隊がやって来ると、両サイドに隠れた2輌の事に気づく事無く、フラッグ車である八九式を追う。

 

「追え追えーッ!」

 

フラッグ車を追い、撃破する事に集中しているカチューシャはそう叫ぶが、違和感を覚えたノンナが声を掛けた。

 

「カチューシャ、敵戦車が2輌程見当たりません。それに、廃村に来た時からずっと、レッド・フラッグの戦車も見つかっていません。警戒した方が良いのでは?」

「そんな細かい事はどうだって良いわ!兎に角彼奴等を永久凍土の果てまで追い回すのよ!」

 

だが当のカチューシャは、完全に頭に血が昇っており、その忠告など意に介さず、ただフラッグ車を追い回せと叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、反転して先程の廃村へと向かっているⅣ号とⅢ突では、みほがキューボラの上に立ち、周囲を見渡していたが、直ぐに車内に戻ると、優花里に声を掛けた。

 

「優花里さん、もう一度偵察に出てくれる?」

 

その頼みに、優花里は間髪入れずに頷いた。

 

「ええ!お任せください!」

 

そう答えるや否や、優花里は装填手のハッチを開くと、走行中のⅣ号から飛び降りて着地すると、みほ達に手を振り、廃村エリアを見渡した。

 

「何処か、高い所は………………あ、彼処なら!」

 

その時、少なくとも廃村エリア一帯を見渡せそうな建物を視界に捉え、優花里はその建物へと駆け寄り、大急ぎで階段を上り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、大洗の3輌を追っているプラウダ本隊でも、勝負に出る準備が整いつつあった。

 

『遅れてすみません!IS-2、只今遅参です!』

 

そう、現在のプラウダ戦車隊では最も高い火力を誇る、アンチティーガーとして製造されたソ連重戦車にして、紅夜の愛車と同じ戦車--IS-2スターリン重戦車--が本隊に合流したのだ。

 

「来たーッ!ノンナ!IS-2に移りなさい!」

「はい」

 

待ち望んでいた味方の到着に、カチューシャは歓喜の声を上げ、ノンナに搭乗車両の交代を指示する。

カチューシャの指示通り、IS-2に乗り移ったノンナは砲手の席に座ってスコープを覗くと、直ぐ様引き金を引く。

轟音と共に放たれた122mm砲弾は、八九式の直ぐ隣に着弾し、八九式は大きく揺れる。

 

「「「「うわぁぁぁあああっ!!?」」」」

 

その大きな振動に、車内は軽く混乱する。

 

「な、何なのよアレは!?反則よ!校則違反よ!」

 

IS-2の威力を間近に見たみどり子がそう叫ぶ。

 

「あわわわわわっ!!?どうしよう~~!?」

 

その振動が伝わったのか、M3操縦手の桂利奈が悲鳴に近い声を上げる。

 

「私達の事は良いから、アヒルさんを守ろう!」

「そうだよ桂利奈ちゃん!頑張って!」

「ッ!よっしゃーーッ!!」

 

そんな桂利奈をあゆみと優希が励ますと、桂利奈は力強く答え、八九式を守れるよう、自らの車体を盾にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな追いかけっこが繰り広げられている中、彼女等の元に近づいていく2輌の戦車があった。

その2輌の内、前を走る長砲身の戦車のキューボラから上半身を乗り出した、ポニーテールに纏めた緑色の髪を風に靡かせているその青年は、共通して白い車体を持つプラウダ戦車隊を視界に捉えると、狂ったかのように獰猛な笑みを浮かべ、その赤い瞳を鋭く光らせた。

 

『………There you are(見つけたぜ)………………』

 

そう呟いた青年の瞳は、月明かりの光を反射し、美しく、そして恐ろしい輝きを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで………………獲物を見つけた猛獣のような、狂気に満ちた輝きを………………


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