ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第72話~巻き返しへの前奏です!~

プラウダに追い詰められ、さらにチーム崩壊の危機にまで発展しかけて、意気消沈した雰囲気を醸し出していた大洗チームは、紅夜達が持ってきたカップラーメンで元気を取り戻しつつあった。

 

「それにしても紅夜、たった2日の間でよく人数分買ってこれたよな。普通に計算しても、1日で10何個か買わなきゃならんだろうに」

 

麺をズルズルと吸い込みながら、達哉が言う。

 

「そんぐらい、別に大した事じゃねえよ。それに、本当ならこれ、1日で全部買っとくつもりだったんだけどな」

 

そう返して、何時の間にかリュックから取り出していた、レジャー用の小さな椅子に座った紅夜は、残り少なくなりつつある麺を啜る。

まだ温かいその麺は、紅夜にホッとした溜め息をつかせた。

 

「にしても、今プラウダの連中がどのようにしてこの辺を囲ってるのかねぇ………………俺等の戦車なら未だしも、大洗側の場合はさっさとしねえと後先ヤバいぜ」

 

そう言って、達哉は不安げに溜め息をついた。

 

「まあまあ、そう慌てる事ァ無い」

 

だが、もう普段通りの調子を取り戻した紅夜は、呑気に言った。

 

「右へ行こうが左へ行こうが、敵さんの戦車の主砲が此方を向いてるってのには変わりねえからな………………今此処で下手に焦ったら、連中の思う壺ってこった」

「そう簡単に言うけどなぁ………………」

 

カップ麺の汁が残っているカップから立ち上る湯気を見ながら言う紅夜に、達哉は苦笑を浮かべながら言葉を返した。

 

 

 

「どう?直りそう?」

「何とか動くとは思うけど………………」

 

「何か、このままにするのも可哀想だよねぇ~」

「でも、流石に直すのは無理そうだし………………包帯でも巻いとく?」

「いや、意味無いから」

 

その傍らでは、典子とあけびが八九式の整備を行っており、ウサギさんチームでも、主砲が壊されたM3の周りに集まった1年生メンバーが、そんな事を話し合っていた。

紅夜達が持ってきたカップ麺が効いたのか、一応試合を続行しようと言う意思は見え始めていた。

だが、カチューシャから告げられた『3時間』のタイムリミットが迫ってくるにつれ、大洗チームに緊張の波が押し寄せてきた。

 

「残り何分だ?」

「ざっと、2、30分って感じかしらね………………試合が再開したら、当然ながら大洗の子達はこの廃教会から出て、プラウダの連中に突っ込まなければならない………………皆、それが不安なのよ」

 

時間を訊ねる紅夜にそう返すと、静馬はスマホの時計を見ながら溜め息をついた。

 

「………………」

 

表情に不安の色を見せ始める大洗のメンバーを見たみほは、その表情に焦りを見せる。

 

「(せっかく紅夜君達が持ってきたカップ麺のお蔭で元気が出てきているのに、またこうなったら紅夜達が態々持ってきてくれた意味が無くなっちゃう………どうしたら………?)」

 

そう考えていると、みほの脳裏にふと、ある光景が浮かんだ。

 

 

 

 

それは、1回戦でサンダースと当たった時の事。

単独になったフラッグ車を追っていると、隊長のケイ率いる援軍が到着し、ファイアフライの砲撃でアヒルさんチームとウサギさんチームが立て続けに撃破されてしまい、どうにもならないと思い込んでしまった自分の姿だった。

「(そう言えば、あの時紅夜君が通信を入れてきたんだっけ………………)」

 

そして思い浮かんだ、その時の紅夜の表情。

指示を催促してくる彼の表情は、あんこうのメンバーとは正反対な、笑顔を浮かべていた。

そして、自分がチームのメンバーに檄を飛ばした直後に入れられた、紅夜からの通信。その声色は兎に角明るく、楽しそうだった。

 

 

 

 

 

「(なら、皆の緊張を解くなら、アレしか無い!)」

 

みほがそう決意してメンバーの方を向こうとすると、右側の奥の方に放置されている、プラスチック製のバケツ3つが目に留まった。

そして次に、聖グロリアーナとの試合後、紅夜が杏に、罰ゲームでのあんこう躍りの太鼓を叩くように頼まれている光景を思い出した。

 

「(良し………………やるしか無い!)」

 

決心を固めたみほは、紅夜の方へと歩み寄ると、ちょうど残った汁を飲み干さんとばかりに口に含んでいる紅夜に話し掛けた。

 

「ねえ、紅夜君。ちょっと良い?」

「ん~?」

 

突然話し掛けられた紅夜は、ハムスターの如く頬を膨らませながら振り向き、それを見たみほは吹き出しそうになるのを何とか堪えて言った。

 

「お願いがあるんだけど、ちょっと来てくれない?」

「………ゴクンッ………おお、別に良いぜ」

 

口に含んだ汁を飲み込んだ紅夜は頷くと、空になったカップに割り箸を入れ、そのまま段ボール箱へと放り込むと、歩き出したみほに続いた。

 

そして行き着いたのは、みほが見つけたゴミ箱の元だった。

 

「おっ!まさか、大道芸グッズがこんな所にもあるなんてな!」

 

以前、優花里が行ったサンダースへの偵察についていった時、校門前で大道芸をしたのを思い出した紅夜は、嬉しそうに言ったが、それと自分が呼び出された理由との関係が分からず、首を傾げた。

 

「それでだが西住さんよ、このバケツと、俺を呼び出したのとではどう言う関係があるんだ?」

「うん、それがね………………」

 

そうしてみほは、紅夜の耳に顔を近づけ、自分が考えた案を伝えた。

 

「………………マジで?マジで『アレ』やるってのか?」

「うん。せめて、皆の緊張が少しでも解けたら、踊っても意味はあるかなって………………それに紅夜君、この前は戦車の移動があったから、太鼓叩いてないでしょ?なら、今やらないとね♪」

「何だソリャ………………」

 

微笑みながら言うみほに、紅夜は苦笑を浮かべながら言葉を返した。

 

「まあ、確かにお前の言う事も合ってるしな………………良いぜ、サンダースに行った時以来のドラム演奏を見せてやるよ。アンツィオとの時はエレキギターしかやってなかったからな!」

 

そう言うと、紅夜は何処からともなくドラム用のスティックを取り出して振り回してみせた。

そして、紅夜は3つのバケツを一纏めにして、先程まで居た場所に戻ると、椅子を掴んで窓側へと移り、バケツを並べ、その後ろに椅子を置いて座り、とある吹奏楽で使われる曲の前奏を演奏してみせた。

 

《♪~》

『『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』』

突然の音に、メンバーが驚いて振り向く。その視線の先には、スティックを構えた紅夜と、その斜め前で立っているみほの姿があった。

 

「に、西住に長門………………一体、何を…………?」

 

いきなりの事に戸惑いを隠せない桃が、おずおずと訊ねる。紅夜は振り向くと軽く微笑み、みほの方を向いて言った。

 

「大洗女子学園戦車道チーム総隊長と、《RED FLAG》総隊長での、ちょっとしたサプライズショーさ」

 

そう返し、紅夜は振り向いたみほに微笑みかける。

みほも頷き返し、メンバーの方へと向き直った。

 

「さてと………………んじゃ、やりますかねっ!」

 

そして、4回のスティックカウントと少しの前奏を経て、みほが踊り出した。

 

そう………………『あんこう躍り』を………………

 

「み、みぽりん!?」

「あの恥ずかしがりなみほさんが、まさかあんこう躍りを………………それも、自ら………………」

 

引っ込み思案で、聖グロリアーナとの時では顔を真っ赤にする程の彼女が自ら率先して、しかも1人で踊っていると言う様に、沙織と華は驚愕で目を見開いている。

 

「西住殿、皆を盛り上げようとしているのですね………………」

「やり方は兎も角としてな………………」

 

優花里の呟きに麻子がツッコミを入れるが、それでも表情は優しげなものになっていた。

 

「良し!私達もやろう!」

「ええ!」

 

そうして、先ずは沙織と華が、その次には優花里と麻子が加わり、何時の間にか、大洗チームの全員があんこう躍りを踊っていた。

 

『『『『『『『………………』』』』』』』

 

その様子を、レッド・フラッグのメンバーは唖然として見ていたが、やがて、音頭を取り始めたり、躍りに交ざったりし始め、廃教会が一気に賑わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「お、お嬢が………………」

 

その頃の観客席エリアでは彼等の躍りがモニターで流れており、百合は頭を抱え、新三郎は驚きのあまりに言葉が出なくなっていた。

 

「おいおいおい!?一体全体何がどーなったらあんな流れになるんだ!!?つーか祖父さんよ!お前まで何してんだ!?」

「落ち着きなさい、大河」

「いやいや深雪よ、アレ見て落ち着けってのが無理だろうよ」

「まさか、紀子もが参加するなんてね………………」

 

当然ながら、その様子はスモーキーのメンバーにも見られており、盛大にツッコミを入れる大河に深雪は落ち着くように宥めるものの、新羅が苦笑を浮かべながらツッコミを入れ、千早は、あの常に気だるげにしている紀子が、あんなにもハードな躍りに身を投じている姿に意外そうな表情を浮かべていた。

 

 

「ガハハハハハハハッ!あのガキ共、中々に面白ェ躍りやってやがるじゃねえか!まさか、あんな面白ェものが見れるったァ、この世に留まってて良かったってモンだぜ!Hallelujah!!」

 

エリアから少し離れた場所でみていた蓮斗は、豪快に笑いながら拍手喝采を送る。

 

 

 

「これは、ある意味予想外ね………………あの引っ込み思案だったみほが、あのような躍りを………………」

 

観戦に来ていたしほが唖然とした様子で言うと、まほの方へと視線を向けて言った。

 

「これも、彼の影響かしらね………………まほ、急がないと彼、妹に取られてしまうわよ?」

「お、お母様!人前でそのような事を言わないでください!」

 

からかうように、ニヤニヤしながら言われたまほは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 

 

他にも、愛理寿や千代が唖然としつつも、何処か楽しそうな表情で見ていたりと、観客席での反応は様々なものであった。

 

 

 

 

 

「………………」

「あらあら………これは正にハラショーですわね………」

 

小高い丘陵の上では、唖然としているオレンジペコの隣で、ダージリンがそう言う。

 

「そう言えば、先程豪快な笑い声が響いていましたね………………」

「ええ。恐らく、先程の殿方でしょう………………はてさて、此処から大洗が如何にして巻き返すのか、先程の殿方は何者なのか………………人生、楽しみが尽きませんわね」

 

そう言って、ダージリンは微笑みながらスクリーンへと目線を戻し、オレンジペコも視線を戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃教会での賑わいは、未だに止まる兆しを見せずにいた。

先程までの意気消沈した雰囲気は何処へやら、何時ぞやのあんこう躍りの時とは比べ物にならない程のドンチャン騒ぎへと発展しかけていた。

 

「あ………………あのぉ!」

『『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』

 

其所へ突然、大きな声が割り込んでくる。

水を注された一行が躍りを中断して声の主の方へと向くと、3時間前にカチューシャからの伝令として、降伏を勧告しに来たプラウダの生徒が1人、入り口に立っていた。

 

「ん?誰だ彼奴?」

「ああ、長門達は知らないだろうな………………まぁ、彼女は見ての通り、プラウダチームの1人だ。恐らく、勧告の返事を聞きに来たのだろう」

 

プラウダの生徒が訪ねてきた事を疑問に思った紅夜が首を傾げて呟くと、桃が当時の出来事を簡潔に説明する。

「………………へぇ~、随分とナメ腐った真似してくれやがるじゃねェかよ」

 

桃から話を聞いた紅夜は、ポカンとした表情を引っ込めて獰猛な笑みを浮かべると、椅子から立ち上がって穴の方へと歩いていった。

そんな様子を背景に、プラウダの生徒はみほに言った。

 

「もう直ぐタイムリミットですが、返事の方は?」

 

そう聞かれると、みほは間を空ける事無く言い返した。

 

「降伏はしません、最後まで戦い抜きます!」

「ッ!?」

 

試合前のおどおどした雰囲気とはうって変わって大声で言ったみほに、プラウダの生徒は目を見開くが、直ぐに表情を戻した。

 

「分かりました。では、そのように伝えておきます」

 

そう言って、プラウダの生徒がプラウダの野営地に戻ろうとした時だった。

 

「ちょォ~ッと待ってはくれんかね?」

 

そんな声が響き、プラウダの生徒が振り向くと、其所には先程壁を破壊した時の破片なのであろう、煉瓦1個を持った紅夜が微笑みながら立っていた。

 

「な、何でしょうか?」

 

その微笑みからうっすらと見えるドス黒い雰囲気に怯みながら、彼女は聞き返した。

 

「ソッチの隊長さんに、伝えてほしい事があるんだよ………………」

「は、はぁ………………まぁ、お伝えしておきましょう」

「どーもな………………そんでだが、先ずは1つ。『試合前、怖がらせて気絶させちまって悪かった』って伝えといてくれ」

「………………良いでしょう。他には?」

 

そう聞き返してきたプラウダの生徒に、紅夜は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「そう………これが今一番言いたい………重要事項として伝えてほしい事なんだ………………」

「………………な、何でしょう?」

 

プラウダの生徒がそう聞き返した途端、紅夜は紅蓮のオーラを纏い、その赤い瞳をギラリと鋭く光らせて言った。

 

『ただ、こう伝えといてくれ………………『何時までも調子に乗ってると、殺戮嵐(ジェノサイド)が吹き荒れるぞ』ってな……………ッ!』

「~~~~~~ッ!!?は、はいぃぃぃいいいいいいっ!!」

 

悲鳴に近い返事の声を上げながら、プラウダの生徒は、何処ぞの黄色のタコ型超生物もビックリな速さでプラウダの野営地に戻っていった。

 

 

 

そうして、大洗女子学園とレッド・フラッグが、残された時間の間で、巻き返しへ向けての準備に取り掛かるのであった。


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