ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第71話~意外なお助けアイテムです!~

紅夜達が《あるもの》を取りに出ている頃、観客席のとある丘陵エリアでは………………

 

「完全に囲まれてますわね………………それなのに、何故プラウダは攻撃しないのでしょうか?言って良い事なのかはさておき、大洗を殲滅するなら今がチャンスなのに」

 

オレンジペコがそう言うと、ダージリン溜め息をついて言った。

 

「カチューシャは、この状況を楽しんでいるのよ。相手から彼是と搾取するのが好きだもの」

 

そして、また溜め息を1つつくと、ダージリンは紅茶を飲もうと、マグカップを口に近づけ----

 

「へぇ~、今時のガキにはタチの悪い奴が居るモンだな」

「「ッ!?」」

 

----ようとしたその時、ダージリンの隣から、僅かに聞き覚えのある声が聞こえた。

ゆっくりと視線を向けると、其所には長い黒髪をポニーテールに纏め、ジャーマングレーのパンツァージャケットに身を包み、帽子をかぶっている蓮斗が立っていた。

 

「あの、貴方は………………?」

「ん、俺?俺はただの見物人さ。観客席のエリアを適当に歩き回ってたらお前さん等を見かけたから、ちょっと来てみただけだ」

「は、はあ…………」

 

そんな軽い答えに、ダージリンは反応に困る。だが、彼女には1つ、蓮斗の姿を視界に捉えた瞬間に芽生えた疑問があった。

 

「失礼ですが、貴方は紅夜さんのご家族か何かでしょうか?」

「ん?なんでそう思うね?」

「い、いえ、その………………紅夜さんと瓜二つだったので、ご兄弟か何かではないかと思ったので…………」

そう答えるダージリンを少し見やると、蓮斗は口を開いた。

 

「悪いが、俺は紅夜の兄でも弟でもねぇよ。つーかそれ、さっき愛里寿とか言う嬢ちゃんにも聞かれたなぁ」

 

そう言って、蓮斗は軽く笑う。

妙に掴めない彼の振舞いに、ダージリンは何時もの調子が崩されそうな気がしていた。

 

「ところでお嬢ちゃん方よ、この状況はどう思うね?」

「えっ、どうと聞かれましても………………」

 

オレンジペコは唐突な質問に戸惑いを見せるものの、ダージリンは違っていた。何時もの調子が崩されそうな気を何とか抑え、自分の答えを口にする。

 

「今の状況は、紅夜さんやみほさん達大洗側に非常に不利となっております。ですが、だからと言って、私は彼等が簡単に負けるとは思いませんわ」

「ほほ~、成る程ねぇ………………」

 

ダージリンの答えに、蓮斗は興味深そうに頷いている。

 

「それで?貴方はどう思っていますの?」

 

そして今度は、ダージリンが訊ね、視線を少しだけ蓮斗に向けると、そのままスクリーンへと戻した。

 

「ん?俺?そうだなぁ………………」

 

そう呟き、蓮斗は少しの間を空けてから言った。

 

「大洗のガキ共の本領発揮に期待………………だな」

「え?それはどう言う………………あら?」

 

ダージリンは、そんな答えがいまいち腑に落ちなかったのか、その答えの意味について訊ねようと蓮斗の方を向いたが、蓮斗は何時の間にか居なくなっていた。

まるで、『幽霊が居たかのように』………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから場所を移し、此処はプラウダの野営地。

其所では移動用として用意されていたのであろう軍用スノーモービル--RF-8--の操縦席に、毛布を被せながら座っているカチューシャがボルシチを食べていた。

 

「それで降伏の条件として、土下座に加えてウチの草むしりと麦踏み、ジャガイモ掘りを3ヶ月やらせて、あの緑の奴には特別棟の全フロア(1階~4階)までを1人で掃除を半年やらせるってのはどう?」

 

完全に捕虜扱いと捉えられてもおかしくないような事を言いながら、カチューシャはボルシチを口に運んでいく。

特に紅夜の扱いが他と比べて酷いのは、試合前に彼の怒気や殺気で気絶させられた事へのやっかみだろう。

 

「それもそうですが、口に付いてますよ」

 

ノンナはそう言いながらハンカチを取り出し、カチューシャの口に付いているボルシチを拭き取る。

 

「分かってるわよ!それから子供扱いしないでってば!」

 

そう言いつつも、カチューシャは素直に口を拭かれていた。

 

「ふぅ、ご馳走さま。食べたら眠くなっちゃったわ」

 

そう言いながら、カチューシャはRF-8に寝そべり、毛布を布団代わりにかぶる。

 

「敵に時間を与えたのは、お腹が空いて眠かったからですよね?」

「違うわ!カチューシャの心が広いからよ!シベリア平原のようにね!」

「広くても寒そうですよ」

「五月蝿いわよ。おやすみ」

 

からかうように言うノンナにそう言い返すと、カチューシャは会話を打ち切って寝てしまう。

そんなカチューシャを微笑ましそうに見ながら、ノンナはコサックの子守唄を歌い始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ雪積もってるよな~。動きにくいからスノーモービル欲しいぜ。他のソリ付けたら段ボールとか器具とか一気に持っていけるし」

「気持ちは分かるが、そんなモンある訳ねぇだろ」

 

廃教会から出て廃村地帯を抜け、彼等の戦車を置いてある稜線地帯へと歩みを進めている一行では、勘助と翔がそんな会話を交わしていた。

稜線地帯へと向かっている最中、今更ながらのアナウンスで、試合を続行するかの協議をしている事が伝えられ、そのタイミングの遅さに紀子が突っ込みを入れたのは、つい先程の事である。

 

「にしても、まさか紅夜が煉瓦の壁ブッ壊すとは思わなかったなぁ~」

 

勘助がふと、そんな事を呟く。

 

「確かにそうよね。まぁ、大洗の人達だけで聖グロリアーナと試合したって日の夜、IS-2の砲弾を片手で振り回しながら達哉と学園艦の町中でおいかけっこしてたとか、現役の頃に黒森峰と試合した日は、燃えてるティーガーに生身で飛び込んだりしてたぐらいだから、もしやとは思ってたけど………………まさか、素手でレンガ造りの壁を壊せる程になってるなんてね」

 

勘助の言葉に同調するかのように、紀子が頷きながら言う。と、つくづくと言わんばかりの表情を浮かべた翔が問い掛けた。

 

「紅夜、お前って何モンなんだ?」

「ん?ただの人間だが?」

「嘘ほざきやがれ!あんなの見せられて『人間だ』とか言われても説得力ねぇッつーの!」

「ヒデェや、せっかく答えたってのに………………それに、人間だってのは嘘じゃねえし………………」

 

紅夜は返事を返したが、今度は勘助に一蹴され、軽くいじけ出す。

それを見て笑いながら、一行は歩みを進める。

それから数分後、少し急な坂を上ると、一行の視界には、見慣れた2輌の戦車が横1列になって佇んでいた。

 

「さて、やっと着いたわね………………それにしても、教会の壁の穴から出た後は、敵に見つからないように大回りしてから坂を上る事になるなんて………………時間は掛かるし疲れる………………」

「紀子、文句言わないの」

 

気だるげに呟く紀子を和美が宥めたりしつつ、一行は戦車の元へと辿り着いた。

 

「んじゃ、俺が車内から段ボールとかを引っ張り出すから、ちょっとばかり待っといてくれ」

 

そう言うと、紅夜はパンターの砲塔の上に飛び乗ってキューボラを開けると車内に入り、積まれていた段ボールを持ち上げると、操縦手用のハッチから段ボールを出し、待機している勘助達に渡していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃教会では………………

 

「ねぇ辻堂君、紅夜君達は何を持ってきてるの?」

 

紅夜が開けた穴を見ながら、杏が達哉に質問していた。

 

「あー、悪いけど今は秘密ッスね。だが、今の状況からすりゃあ嬉しい品ッスよ?用意に時間掛かるけど」

 

達哉はそう答えるが、大洗チームのメンバーは、訳が分からず首を傾げるだけだった。

 

「用意に時間が掛かるけど、嬉しいもの………………?そんなのあるかなぁ?」

「私でも見当がつきませんね」

「でも、5人も向かうぐらいだから、炬燵とか毛布とか、その辺りじゃない?」

 

みほと優花里が呟き、沙織や他のメンバーも、一体何が持ち込まれるのかと想像していた。

 

「それがカップ麺だって知ったら、彼女等はどんな反応するのかしらね?」

 

そんな大洗チームの様子を見ながら、静馬は小声で、雅に話し掛けていた。

 

「さぁね………………まぁ、少なくとも嬉しいとは思うわよ?お湯入れてから3分は掛かるけど、温かいし、何より美味しいもの。それに、カップは小さく見えても、案外お腹一杯になるもの、特だらけね」

 

そう言って、雅は微笑んだ。

 

「水は私達のリュックに入れてるから、後はカップ麺本体と箸、ガスコンロにやかんよね?」

 

確認するように言う亜子に、静馬は頷く。

そんな彼女等を見ていた達哉は、ふと、紅夜が開けた穴とは反対側にある窓から外を見る。

彼の視線の先には、プラウダの生徒達が火を囲んでボルシチを食べたり、コサックダンスを踊ったりしていた。

 

「うへぇ~、これ見よがしと言わんばかりにやってやがるなぁ………………」

 

その様子を見ていた達哉は、苦笑を浮かべながら呟くと、穴の方へと視線を戻し、紅夜達の早い帰りを祈った。

 

「それで西住さん。本当に降伏はしないのね?」

 

そんな達哉達を見ながら、静馬は確認するかのようにみほに言った。

 

「はい。さっきも言いましたが、未だ此方が負けたって決まった訳ではありません」

 

そんなみほの言葉に、メンバーの視線が集中する。先程はみほの言葉に食って掛かった亜子も、今はみほの言葉を聞いている。

 

「来年も、この学校で戦車道をしたい………………この大洗チームと………………そして、レッド・フラッグの皆とも…………………」

 

みほがそう言うと、静馬は暫くみほの目を見つめ、それから微笑んだ。

 

「成る程ね………………紅夜が貴女に対して一目置いている理由が分かったような気がするわ」

 

そう呟き、静馬は紅夜が開けた大穴から外の様子を見た。

未だに冷たい風は吹き止まず、教会内の温度を奪っている。

 

「早く帰ってきなさいよ………………紅夜達」

 

そう呟き、静馬は中の方へと引っ込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

「良し………………車内にあるのは、俺のを除いてコレで最後だ。紀子、落とすなよ?」

「言われなくても分かってるわよ」

 

紅夜がからかうように言いながら最後の段ボールを渡すと、若干不満げな表情を浮かべた紀子がそう言い返しながら、その段ボールを受け取る。

 

「んじゃ、俺も自分の段ボール引っ張り出したら追っ掛けるから、お前等は先に行っててくれ」

 

紅夜がそう言うと、他の4人は頷いて、翔と勘助を先頭にして、例の廃教会へと戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと出せた………やっぱこう言うのって、入れるのは良いけど出すのが難しいんだよなぁ~」

 

廃教会へと戻っていく4人を見送った紅夜は、自分が持っていく分の段ボール箱を引っ張り出してハッチを閉め、そのまま再び砲塔の上に飛び乗ってキューボラを閉め、そのまま段ボール箱を置いたまま、彼の愛車の元へと歩み寄り、車体を撫でた。

 

「よぉ、我が愛車よ。長々待たせて悪いな」

 

そう言って、紅夜はフェンダー部分に腰かける。

 

「にしてもプラウダとやるなんて、随分と久し振りだよな。確か、俺や達哉が未だ中3ぐらいの頃だったっけ?」

 

そんな問いかけに、IS-2が答える事は当然ながら無い。だが紅夜には、何故か自分が言っているのを、IS-2が聞いているような気がしていた。

 

「………………試合が続行されるなら、俺等の出番も来る。その時は、思いっきり暴れ回ってやろうぜ。あのフカしたガキンチョに、一泡吹かせてやろうや」

 

そう言うと、紅夜は自分の手が触れている装甲が、僅かながらに熱を持ったのを感じた。

 

「そうかそうか、お前も暴れてえんだな………………なら、もうちょっと待っててくれよな。また直ぐに戻ってくるからよ」

 

そう言うと、紅夜はパンターの操縦手用のハッチの上に置いてある段ボール箱を抱え、大洗チームのメンバーが待っている廃教会へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃教会は静まり返っていた。まるで戦意喪失したかのように、何時もの元気な雰囲気などまるで感じられず、大した会話も無いまま、メンバーは思い思いの方向を向いていた。

 

アヒルさんチームの4人は横1列になって体育座りをして、何やらスノーバレーがどうだなどと話しており、カモさんチームの3人は背中合わせで毛布にくるまっている。

 

「降伏時間まで、後どれぐらいだ?」

「………………1時間だよ」

 

桃が訊ねると、柚子が沈んだような声で返す。

 

紅夜が開けた大穴から外の風が吹き込み、最早建物内に居ようが外に居ようが、体感温度は変わらなくなっていた。

 

「やはり、これは八甲田山………………」

「天は、我々を見放したのか………………」

「隊長!あの木に見覚えがあります!」

 

カバさんチームの歴女4人は、今の状況と《八甲田山雪中行軍遭難事件》を重ね合わせていた。

 

「そう言えば、食料はどうなっている?」

「こうなるとは流石に予想出来なかったので、非常食程度の菓子パンくらいしか無いよ………………」

「それで後1時間、持つかどうか………………」

 

沈んでいるメンバーを見ながら、桃と柚子はそんな会話を交わし、杏は何も言わず、ただ立っているだけだった。

 

「そう言えば、プラウダの人達がボルシチ食べたりコサックダンス踊ったりしてたって、さっき達哉君が言ってたよ………………?」

 

沙織がそう言うと、あんこうチームのメンバーは、火を囲んでボルシチを食べたり、コサックダンスを踊ったりしているプラウダの生徒を窓越しに見た。

 

「美味しそうだな………………食べた事は無いが」

「ええ。それに暖かそうです」

 

それを見た麻子と華は、そう呟いている。

 

「学校、無くなっちゃうのかな………………?」

「そんなの嫌です………………私はこの学校から離れたくない!皆と一緒に戦車道やっていたいです!」

 

不意に沙織が呟くと、優花里が声を張り上げる。

 

「そんなの、皆同じだよ………………」

「でも、どうして廃校になってしまうのでしょうか………………?此処でしか咲けない花だってあると言うのに……………………」

「………………」

 

そんな優花里に沙織が返し、華が呟くと、麻子も複雑な表情を浮かべる。

 

「皆、どうしたの?元気出していきましょう!」

「うん………………」

 

そんな中、みほはチームを励まそうと声を上げたが、帰ってきたのは沙織からの力無い返事だけであった。

 

「さっき言ったじゃないですか!降伏せずに、最後まで戦い抜きましょうって!」

『『『『『『『『『『『は~い………………』』』』』』』』』』』

「分かってま~す………………」

 

何とか元気付けようと激励するみほだが、メンバーから返された返事はこの有り様である。

 

「これでは士気が下がる一方だ………………西住、何とか出来んのか?」

「ええっ!?いきなりそんな事言われましても………………」

 

それを見かねた桃がみほに無茶振りをして、みほが慌て出した時だった。

 

 

 

 

「あれ?紅夜は未だ帰ってなかったのか?先に此方に行ったものの、彼奴の事だから俺等の知らん間に戻ってきてると思ってたのに」

『『『『『『『『『『『?』』』』』』』』』』』

 

突然そんな声が聞こえ、その次の瞬間には、先程紅夜が開けた大穴から、大きめの段ボールやガスコンロ、やかんを抱えた翔と勘助、和美と紀子が現れた。

4人が抱えている荷物を見た桃が、怪訝そうな表情で近づき、訊ねた。

 

「お前達、そんなもの持ってきて何をするつもりなんだ?」

「あー、すみませんけど今は言えないんですよ。紅夜自らが言うって聞かなくて」

「そ、そうか………………」

 

翔がそう答えると、桃はいまいち腑に落ちないような表情を浮かべながらも、大人しく引き下がる。

 

それを見ながら、4人は持ってきた荷物を置く。

 

「あー、持ちにくいから砲弾より重く感じたぜ」

 

そうぼやきながら、勘助が段ボールの傍に座り込む。そして教会内を見渡し、雰囲気が良くない事に気づいた。

 

「ん?どうしたよお前等?完全に沈んじまって」

 

勘助がそう聞くが、誰からも返事が返されない。それに首を傾げていると、静馬が近寄ってきた。

 

「どう言う訳かは分からないけど、貴方達が出てからずっとああなのよ。降伏はしないって決めたのに………」

「あれま、ソイツはソイツは………………」

 

静馬が溜め息混じりに言うと、勘助が苦笑を浮かべる。

それを見た桃は、再びみほに向き直った。

 

「これでは試合どころではない。西住、何とかしろ」

「ええっ!?いや、だから!いきなりそんな事言われても困ります!」

「この状況を何とか出来るのはお前しか居ないんだ!隊長だろ!」

 

みほはたじたじになりながら言い返すものの、桃が畳み掛けてくる。

 

「おいおい河嶋さん、少しは落ち着いて………………」

「これが落ち着いていられるか!」

 

最早止めようが無い。そのまま、また言い争いに発展するのかと誰もが思った、その時だった。

 

「おいおい、こりゃ一体何の騒ぎだ?」

 

その喧騒を聞いて慌ててやって来たのか、若干息が乱れている紅夜が、段ボール箱を頭上に抱え上げた状態で穴から現れた。

そして紅夜は中に入ってくると、翔達が荷物を置いている場所に段ボールを置くと、メンバーの方へと向き直って手を打ち鳴らした。

そんな彼の行動に、メンバー全員の視線が殺到する。

 

「えー、その………………さっき怖がらせちまったお詫び………………的なヤツで、なんだが………………」

 

歯切れ悪く言いながら、紅夜は自分のリュックからカッターナイフを取り出し、段ボールの封をしているガムテープの中央に切れ目を入れていき、そのまま全ての段ボールの蓋を開けていく。

駆け寄ってきたメンバーは、段ボールの中身を見て表情を輝かせた。

なんと中には、人数分のカップラーメンが入っていたのだ!

その直後、今度は彼女等の背後から手を打ち鳴らす音が響き、そちらへと振り向くと、水が注がれたやかんがガスコンロの上に置かれ、そのコンロが火を噴いて湯を沸かし始めているのが見えた。

 

「こ………………これって………………?」

「ええ、見ての通りカップ麺ですよ?」

 

流石に驚きを隠せずにいた杏の隣に、静馬がやって来た。

 

「紅夜ったら、プラウダとやるって聞いた日から、ほんの2日で、人数分のカップ麺を買い込んできたんですよ。この学園艦の町を走り回って、片っ端からコンビニに入って買ってきたの………………こうなる事、予測していたみたいですね」

 

そう言うと、静馬は紅夜達の元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

その頃、段ボール箱の前に集まったメンバーの前では、紅夜が声を上げていた。

 

「連中がボルシチ食って暖まってるなら、此方はカップ麺だ!好きなモン取ってけ!全部俺の奢りだ!」

 

そう声を上げる紅夜には、先程のような威圧感も、おぞましい怒りのオーラも無い。何時もの陽気な彼に戻っていた。

紅夜が高らかに言うと、メンバーは唖然として互いに顔を見合わせると、其々の気に入った味のカップラーメンを手に取っていく。

それから数分後、やかんの水が沸騰し始め、大洗のメンバーが列になって、カップに湯を注いでもらっている。

そして、レッド・フラッグのメンバーの分の用意も出来、食べ時になる。

メンバー全員に割り箸が配られ、皆が今か今かと待ちわびていた。

 

「では、食おうぜ!せーのっ!」

『『『『『『『『『『『いただきまーーす!!』』』』』』』』』』』

 

先程の意気消沈した雰囲気は何処へやら、すっかり元気を取り戻した大洗のメンバーで、カップ麺パーティが開かれた。

「………………ありがとね、紅夜君」

 

生徒会メンバーと共に、箸で取り上げた麺を口に含もうとしながら、杏はライトニングのメンバーと談笑している紅夜の方を見て、小さく呟くのであった。





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