大洗女子学園vsプラウダ高校とで行われている、第63回戦車道全国大会。
大洗チームが、先にプラウダの戦車を2輌、後に、さらに1輌を撃破し、一見、大洗チームが試合を有利に進めているかと思いきや、それはプラウダの罠だった。
制止を呼び掛ける紅夜達レッド・フラッグのメンバーを無視して廃村へとやって来た本隊は、フラッグ車に気を取られるあまりに周囲への警戒が疎かになり、プラウダの戦車隊に取り囲まれて集中砲火を受け、戦車が傷ついた状態で廃教会へと避難するが、其処へやって来た2人のプラウダ生徒から、降伏命令を告げられる。
降伏もやむを得ないと言う雰囲気になったところで、桃が頑なにそれを拒む。
プラウダに追い詰められ、さらに錯乱した桃によって、遂に杏達の秘密が露見してしまった大洗チーム一行。
おまけとばかりに、杏達が紅夜達レッド・フラッグを大洗チームへと引き込んだ理由が、学園廃校を免れるために利用していたと言う事が明らかとなった今、ショックを受けた紅夜が何も言わなくなってしまい、教会内で気まずい沈黙が訪れてしまった……………
大洗チームが立て籠っている、廃教会にて……………
「バレー部復活どころか、学校そのものが無くなってしまうなんて……………」
アヒルさんチームの典子が、未だに信じられないとばかりの表情を浮かべて呟く。
グロリアーナとの練習試合の際、八九式の車体に『バレー部復活!』と書くなどをするように、大洗女子学園のバレーボール部は、部員数の減少によって廃部しており、典子達はバレーボール部の復活を目的に、戦車道を選んだのだと言う。(戦車道とバレーボール部の関連性については別として……………)
「無条件降伏……………」
カバさんチームのおりょうも呟き、他のメンバーも何も言わず、ただ俯いているだけだ。
「単位取得は、夢のまた夢と言う事か……………」
麻子は明後日の方向を向き、ただぼんやりと呟き、その様子を、みどり子が複雑そうな表情で見ていた。
「学校が無くなったら、私達はバラバラになってしまうのでしょうか……………?」
「そんなのやだよー!」
華がふと呟いた最悪の結末に、沙織が嫌だと叫ぶ。
明るい雰囲気なんてまるで無い……………あたかも、この世の終わりを知ったかのように絶望しきった雰囲気が、大洗チームに重くのし掛かる。
「……………」
そんな状況でも、紅夜は何も言わず、ただ目を瞑って腕を組み、壁に凭れている。
何時も陽気で、チームのムードメーカー的存在である彼でも、流石に自分達のチームが利用されていたと言う事実を聞かされれば、嫌でもこのような状態にもなるものだと、大洗チームやレッド・フラッグのメンバーの大半がそう考えていた。
だが、そんな紅夜を見ている静馬は……………
「(紅夜、さっきからあのままだけど……………少なくとも会長達から知らされた事に怒っているようには見えないわね……………何か、別の事を考えているような……………紅夜、貴方は一体、何を考えているの……………?)」
そんな事を思いながら紅夜を見ていた。
「紅夜の奴、さっきから何も言わねえけど、何考えてるんだろうな……………」
先程から微動だにしない紅夜を見ながら、達哉は傍に居た雅に話し掛ける。
「私に聞かれても分かんないけど……………多分、これからどうするかじゃない?」
雅が返すと、亜子が話に入ってきた。
「『これから』……………って?」
亜子の問いに、雅は答えにくそうにしながら言った。
「『このまま大洗チームの味方で居続けるか、もう見限るか』……………だね」
『『『『『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』』』』』
雅の言葉に、大洗チームの一行が凍りつく。
「お、おい草薙!幾ら何でもそれは…「テメェどの口でほざいてンだボケ!パンターで轢き殺すぞ!」……ッ!!?」
何時の間にか泣き止んでいた桃が雅に詰め寄ろうとするが、突然、雅が口汚く怒鳴り付け、殺気混じりの形相で桃を睨み付けると、ズカズカと足音を立てながら桃に詰め寄り、片手で桃の胸倉を掴み上げて怒鳴った。
そして桃を睨み付けている目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「アタシ等を引き込むのに詐欺紛いの言葉で、ウチのチームの過去に漬け込んで隊長唆してチームに引き込んで、そんでから今になって、『今まで貴方達のチームを利用してました、ごめんなさい』だァ!?フザけんのも大概にしとけやゴルァ!今までこのチームで頑張ってきたアタシ等をッ!テメェ等と一緒に頑張ろうとしてたアタシ等の思いをッ!テメェが尊敬してる会長さんの言葉を信じようとした紅夜の思いをッ!!物の見事にぶっ潰してくれやがったなぁオイ!!!」
そう怒鳴るだけ怒鳴り散らすと、雅は掴み上げていた桃を、乱暴に地面へと放り投げる。
そのまま地面に倒れ込むところで、何とか柚子に抱き止められた桃は、胸を押さえてむせかえり、雅は目から大粒の涙をボロボロと溢しながら、桃達生徒会メンバーを憎々しげに睨み付けている。
「雅……………」
怒り狂っている自車のメンバーに、何て言ってやれば良いのか分からずに戸惑いながらも、静馬は雅へと近づき、優しく抱き締めた。
「~~ッ!~~~~~~ッ!!」
抱き締められた雅は、静馬の胸に顔を埋めながら、溢れ出る嗚咽を必死に堪えようとしていた。
「おい、何か大洗側のチームがヤバくね?」
その頃、観客席で様子を見ていたスモーキーチームでは、教会内でのギスギスした雰囲気に気づいたらしく、大河が不安そうな表情を浮かべて言った。
「『ヤバくね?』と言うよりも、既に『ヤバイ』としか言えないわよ」
深雪はそう答えると、スクリーンへと視線を戻す。
「雅、何か河嶋さんに怒鳴ってたな……………何言われたのやら」
煌牙はそう呟き、新羅と千早は首を傾げる。
「何が起こっているのか分からないけど……………何か嫌な予感がするわ……………」
「今回の試合は、色々な意味での大波乱だね……………」
纏めるかのように深雪が呟くと、千早が同意だと言わんばかりに頷きながらそう言い、大河や煌牙、新羅の3人も頷くのであった。
「こりゃ、大変な事になっちまったな……………」
観客席のとあるエリアから眺めていた蓮斗は、スクリーンに映る大洗チームの様子を見て呟いた。
「紅夜のチームが利用されてたってのが分かって、そのチームの1人が発狂……………なんでああなったのかは知らねえが、後でまた、大変な事になるだろうな……………」
そう呟き、蓮斗はスクリーンを見続けるのであった。
視点は再び戻り、廃教会の中。
掴みあげていた雅から解放され、柚子に抱き止められてむせている桃に、静馬に抱かれて泣く雅。そして、この状況でも未だ、何も言わない紅夜…………………
この3つの存在で、場の雰囲気はさらに重いものとなっていた。
「(どうしよう……………どうしたら良いの……………?)」
そんなチームの様子に、みほは焦っていた。
自分達は、知らず知らずの内に紅夜達を利用していた身である事が判明した今、紅夜達に何をすべきなのか、何を言えば良いのか、自分に何が出来るのか……………どれだけ考えても、結局分からなかった。
ふと紅夜の方を見ると、相変わらず紅夜は何も言わず、壁に凭れている。一瞬、眠っているのではないかとすら思えてしまう程だった。
だが、みほは感じていた。自分の視線の先に居る、頼れる人にして、自分の想い人--長門紅夜--と言う青年から溢れ出る、目に見えない威圧感を……………
「(紅夜君達のもそうだけど、先ずは皆の意思を何とかしないと……………チームが本当に崩壊しちゃう!それだけは、何としてでも!)」
そう決心すると、みほは彼女の動きを封じようとばかりにのし掛かってくる、紅夜からの威圧感に抗いながら……………意気消沈しているような雰囲気のメンバーを元気付けるため、自分自身に冷静になるように、暗示をかけながら口を開いた。
「未だ、試合は終わっていません」
『『『『『『『『『?』』』』』』』』』』
その言葉に、紅夜を除くメンバーの視線がみほに集中する。
「未だ負けた訳じゃありませんから」
「に、西住ちゃん……………?」
「頑張るしかないです。だって、来年もこの学校で、戦車道やりたいから……………皆と」
みほが言うと、メンバーの雰囲気に微量ながら、明るさが戻り始める----
「ねぇ……………」
----が、其処へ冷たい声が挟まれた。
メンバーが声の主に目を向けると、其所に居たのは亜子だった。
「アンタが言ってる、その『皆』って……………どの『皆』なの……………?」
『『『『『『『『『『『ッ!』』』』』』』』』』』
その言葉に、大洗チームの表情が強張るが、亜子は構わず続けた。
「ねぇ、どうなの?その『皆』って何?私達レッド・フラッグの事?此処に居る全員の事?それとも……………レッド・フラッグ以外のアンタ達の事……………?ねぇ、答えてよ……………答えなさいよ!」
そうして、今度は亜子も叫ぶ。
「どんな心境でそんな事言ったのか知らないけど、利用しといて仲間面するなんて、虫が良すぎるわよ!」
「そ、そんな!私は…「五月蝿い!」…ッ!?」
みほの言葉を遮り、亜子は尚も叫んだ。
「何度も紅夜に助けられてるのに、恩を返すどころか利用して、挙げ句にこうやって仲間面して……………利用してた事への罪滅ぼしのつもり?ふざけんじゃないわよ!」
亜子は目に涙を浮かべて叫び、拳を振り回す。
興奮して精神状態が不安定になっているからか、言っている事すらも滅茶苦茶になっていた。
そのまま亜子は、みほに掴みかかろうと詰め寄ろうとして、後ろから達哉が羽交い締めにして止め、その前に両腕を広げた紀子が立ち塞がる。
そのままヒートアップして、チームが崩壊してしまうと誰もが思い始めた、その時だった。
『さっきから聞いてりゃ、ピーピーピーピー五月蝿ェんだよ、テメェ等ァ……………もう少し冷静になれねえのかァ!?』
そんなドスの効いた声が響き、次の瞬間には爆発音が響き渡り、その声の主が居た場所が土埃に包まれた。
そうしたのも束の間、今度は突風が吹き荒れ、舞っていた土埃がメンバーを襲う。あまりにも強烈な風と土埃に、大洗チームやレッド・フラッグのメンバーも、堪らず腕や両手で顔を覆う。
そして風が吹き止むと、メンバーは恐る恐る、顔を覆っていた腕や手を退ける。
その視線の先に居たのは……………
『……………』
無言のまま、炎のように赤いオーラを撒き散らして緑髪も紅蓮に染め上げ、その赤い瞳をギラギラと光らせている、『廃教会の壁に大穴を開けた』紅夜の姿があった。