ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第67話~絶体絶命と、絶望へのカミングアウトです~

「あ~あ、皆して先走っちゃってまあ……………」

 

離脱したプラウダの戦車隊を追い、制止を呼び掛け続けた紅夜達レッド・フラッグのメンバーを無視して廃村へとやって来た大洗チーム一行が、何故か単独で抜け出しているため、それからはちょこまかと廃村を逃げ回る、プラウダ側のT-34/76に総攻撃を仕掛けている様子をスクリーン越しに見ていた大河は、ヤレヤレと言わんばかりの表情を浮かべて言った。

 

「たとえ、祖父さん達や西住隊長以外が戦車道初心者だったとしても、少しは怪しいと思うヤツは居なかったのかよ?」

 

そう言って、大河は溜め息をついた。

 

「仕方無いんじゃねえのか?」

 

そんな時、不意に煌牙が口を開いた。

 

「確かに大河の気持ちも分かるが……………まあ、それについては、初心者揃いだからこそ気づけない事なんだろうよ」

「どう言う事?」

 

煌牙の言う事に、千早が聞き返す。

 

「大洗女子学園の戦車道チームって、俺等レッド・フラッグのメンバーと西住隊長を除けば、全員が戦車道初心者だ。そんな自分達が全国大会に出場して、サンダースやアンツィオと言った強敵を下してきた。それに、この前の練習試合で知波単をも倒した……………この勢いに乗れば、今回の試合も勝てるだろうと思ってるって訳さ」

 

煌牙がそう言い終えると、話を聞いていた新羅が、何かを悟ったような表情を浮かべ、アニメでよく見られる右手の拳を左手の手のひらに打ち付けると言うポーズを取って言った。

 

「成る程な……………つまり、勝ち続き故の慢心ってヤツか」

「そう」

 

どうやら正解だったらしく、煌牙は頷いた。

 

「それはそれとして、紅夜達は何してるのかな?」

 

2人の会話を聞いていた千早が、ふと呟いた。

 

「ホラ、見てみなさい千早。彼等なら稜線ギリギリの位置で高みの見物をしてるわよ」

 

紅夜達を皮肉るような言い方をしながら、深雪はスクリーンに映し出されている稜線ギリギリの位置で停めた戦車に乗って、廃村での様子を見物している紅夜達レッド・フラッグのメンバーを指差して言った。

 

「どうやら、祖父さん達は悟ったみたいだな……………あのまま深追いして、廃村へと突っ込んでいったらどうなるのかを……………」

 

その様子を見た大河は、目を細めて言った。

 

「それに、さっき煌牙が言った嫌な予感が、見事に的中してしまったわね」

 

大河の呟きに深雪が言葉を続け、苦笑を浮かべながら煌牙を見やる。

煌牙の方も、全くだとばかりに頷いて、同じように苦笑を浮かべた。

 

「これが、俺の考えすぎで終われば良かったんだが……………結局、本当になっちまったな……………」

 

そう呟き、煌牙は溜め息をついた。

 

「これから彼奴等、どうなると思う?」

 

其処へ、新羅がそう問いかけた。

 

「あのままプラウダのフラッグ車を撃破出来れば万々歳だが、ソイツに集中してる間に四方から囲まれて、反撃とばかりに集中砲火を喰らうルート確定だな。運が良くて全員無傷か、装甲が所々ベコベコになるだけで済む。悪けりゃ大洗側のフラッグ車ごと全滅させられて終わり……………負け方があっけないな」

「縁起でもない事言わないでよ。それに、それ本当に起こりそうで逆に怖いわ」

 

そう言って、千早が溜め息をつく。

そんな会話を終えると、一行はスクリーンに視線を戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レッド・フラッグの制止を振りきって廃村へとやって来た大洗チーム一行は、プラウダのフラッグ車への集中攻撃を仕掛けていた。

撤退していく最中、何故か単独で逃げ出したフラッグ車は、暫く廃村を逃げ回り、それからは民家の影に身を隠したり、姿を現したりして大洗チームを挑発する。

 

「フラッグ車さえ倒せば……………」

「勝てる!」

 

単独で抜け出しているため、今のプラウダのフラッグ車は孤立状態。よって、自分達の誰かがフラッグ車を撃破すれば、決勝戦進出が決まる。

完全に自分達が優位に立っていると思い込んでいる大洗チーム一行は、兎に角フラッグ車を撃破しようと砲撃を続ける。

だが、それも長くは続かなかった。

みほの乗るⅣ号の後ろにあった民家から、2輌のT-34/76が現れたのだ。

 

『西住!後ろだ!』

 

その瞬間、稜線から様子を見ていた紅夜が、突然通信を入れて怒鳴る。

 

「ッ!?」

 

反射的に、みほは後ろを向いて、現れた2輌のT-34を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「ひ、東に移動してください!急いで!!」

「ッ!?な、何だ!?」

 

突然のみほの指示に、大洗チーム一行は戸惑いを見せながらも、取り敢えずと東へ移動しようとするが、向かおうとした先にあった民家から、今度は2輌のT-34/85が現れて行く手を遮る。

 

「そんな……………なら、南南西に方向転換……………ッ!」

 

東への退路が絶たれ、南南西に移動するようにと指示を出そうとしたが、今度は地下への通路か塹壕らしき所から、白いIS-2が飛び出してくる。

そうして、みほは他方向への退路を探そうと辺りを見回したものの、向かおうとした先々で、KV-2や他のT-34/76や85の集団が待ち構えており、大洗チーム一行は、プラウダの戦車隊に取り囲まれる結果となった。

これを見たレッド・フラッグのメンバーは、皆してこう言うだろう……………

『袋の鼠だ』と……………

 

「囲まれてる……………ッ!」

「周りに居るの、全部敵だよ!」

みほが周囲を見回しながら呟くと、沙織が声を張り上げる。

 

「連中の罠だったのか……………」

「ええっ!?」

「そんなっ!」

 

此処で漸く、自分達がプラウダの罠に掛かった事と知ると共に、紅夜や静馬が、彼女等に制止を呼び掛けた理由を知った一行は、今、自分達が置かれている状況を悟り、固まってしまう。

 

その瞬間、KV-2の砲撃を皮切りに、プラウダの戦車隊が一斉攻撃を仕掛け、砲弾の嵐を雨霰と大洗チームに浴びせ始める。

絶え間無く飛んでくる砲弾は、大洗の戦車の周囲や民家に次々と着弾し、家を吹き飛ばしたり、雪の飛沫を上げたりする。

そんな中で、1発の砲弾がウサギさんチームのM3の主砲に命中し、主砲を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

『しゅ、主砲が壊されました!』

 

梓からの悲鳴が上がると、みほは車内のスコープから、一際目立つ教会のような建物を見つける。

 

「全車両、南西の大きな建物に移動してください!彼処に立て籠ります!アヒルさんチームの戦車から先に向かってください!」

 

その指示を受け、八九式、M3、ルノー、38tが一目散に教会へと向かい、飛び込むようにして入っていく。

続くようにⅢ突も避難しようとするが、何処からともなく飛んできた砲弾が右側の履帯に命中して動きを止めてしまう。

 

「履帯と転輪をやられました!」

 

エルヴィンが声を上げる中、2輌のT-34/76が砲塔をⅢ突へと向け、さらに攻撃を加えようとする。

手前に居たT-34が発砲するが、其所へ後退してきたⅣ号がⅢ突を守るようにして割り込み、Ⅲ突と背中合わせになる形で接触すると、相手の砲弾を、角度を利用して弾き、反撃とばかりに発砲するが、命中したのが傾斜装甲となっている部分であったため、これも弾かれてしまう。

すると、今度は奥に居たT-34がⅣ号に向かって発砲し、砲弾は砲塔の左側面に命中し、その際の衝撃で砲塔旋回装置が故障したのか、砲塔が上手く回らなくなってしまった。

 

「砲塔故障!」

「後退!」

 

華が砲塔の故障を告げるが、みほは先ず、避難の方を優先させる。

麻子がⅣ号を後退させ、履帯を破壊されて動かなくなってしまったⅢ突を、無理矢理押し込むようにして教会へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ホラ見やがれ。だから下手に深追いするなって言ったんだ。少し優位になってるからって調子に乗って、相手の戦法なんて考えずに突っ込んでいくからこうなるんだ」

 

その頃、稜線から様子を見ていた紅夜は溜め息をつきながら言った。

普段は大洗チームが窮地に追い込まれると、達哉に多少の無茶な運転をさせてでもその場にいち早く駆けつけ、敵陣地に乗り込んで暴れ回る紅夜だが、今回ばかりは全く動こうとしていなかった。

現役時代、プラウダの同好会チームとの試合を何度か経験している彼等は、プラウダの戦法をよく知っている。

それに、戦車道名門校である黒森峰出身で、プラウダとは全国大会でぶつかった経験があるみほが居るのにも関わらず、チームは勝手に突っ込んでいって、挙げ句の果てにはこの有り様。そんな状況に、紅夜は何とも言えない思いで一杯だった。

 

「見たところは、攻撃を受けた戦車はあっても、未だどの戦車も撃破されていないみたいね……………はてさて、その状況が何時までもつのやら……………彼処から出たら、プラウダからの集中砲火を喰らうがオチ。試合がどう転がるのか、観客やスモーキーのメンバーからすれば、良い見物でしょうね……………」

 

紅夜の傍らに立っている静馬が、双眼鏡で大洗チーム一行が避難した教会らしき大きな建物を見ながら言う。

彼等の横では、他のライトニングやレイガンのメンバーが、何とも言えないと言わんばかりの表情を浮かべて、大洗チーム一行が避難した教会らしき大きな建物を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

紅夜達ライトニングや、静馬達レイガンが見ている中でも、プラウダからの容赦ない迫撃は続いている。

大洗チーム一行が避難した教会らしき大きな建物に狙いを定め、建物を倒壊させて大洗チーム一行を生き埋めにせんとばかりに次々と砲撃を仕掛ける。

砲弾が着弾する度に、建物は大きな揺れに見舞われ、破片が天井から落ちてくる。

そのため、メンバーは車内に避難し、キューボラも閉められている。

そんな時、プラウダからの容赦ない迫撃が、突然ピタリと止み、静寂が訪れる。

 

「……………?砲撃が、止んだ……………?」

 

突然の静寂を不思議に思った大洗のメンバーは、自分達の乗る戦車のハッチを開けて外に出始めた。

其処へ、プラウダの生徒と思わしき2人の少女が、何故か白旗を掲げて教会に入ってくると、入り口から少しした場所で歩みを止めた。

 

「カチューシャ隊長の伝令を持って参りました」

『『『『『『『『『『『?』』』』』』』』』』

 

相手チーム隊長からの伝令と言うものに、メンバーは首を傾げる。

 

「『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる』……………だそうです」

 

突然の降伏命令に、メンバーは表情をしかめる。

 

「ッ!」

「何だと!?……………ナッツ!」

 

みほは目を見開き、桃は悔しげに悪態をつく。

 

「隊長は心が広いので、3時間は待ってやると仰有っています……………では、失礼します」

 

そう言い終えると、2人は揃って一礼をすると、これまた揃って回れ右をして出ていった。

それを見届けたメンバーの表情は、怒りで染まりきっていた。

 

「誰が土下座なんか!」

「全員自分よりも身長低くしたいんだな……………ッ!」

 

典子が最初に声を上げ、桃が静かに、されど怒りを含んだ声で言葉を続ける。

 

「徹底抗戦だ!」

「そうですよ、戦い抜きましょう!私達なら、未だやれます!!」

 

エルヴィンと梓も言葉を続けるが、みほの表情は良くなかった。

 

「でも、こんなに囲まれていてはもう……………それに集中砲火を受ければ、怪我人が出るかもしれないし……………」

 

そう言って、みほは抗戦を躊躇う。

自分だって戦い抜きたいが、戦車が傷つき、教会から出れば、その場でプラウダからの容赦ない集中砲火に晒される結果になるのは火を見るよりも明らかな事。

そこで、廃村へと突っ込んでいく自分達に、最後まで制止を呼び掛け続けた紅夜達レッド・フラッグのメンバーに頼ると言う手が浮かんだが、それすらも躊躇ってしまった。

彼等の実力は、同好会チームとしても戦車乗りとしても非常に高い。

今回参加している戦車も非常に強力だし、何より乗員一人一人のスキルも高い。

その上、知波単との練習試合では、土壇場で駆けつけて暴れ回り、絹代が乗っていたフラッグ車以外の戦車を瞬く間に全滅させてしまう彼等なら、非常に強力な切り札となり得るだろう。

だが、自分達は彼等の忠告を無視してプラウダのフラッグ車を追って廃村へと突っ込んできた身。

紅夜達も少なからず怒っているだろうし、そもそもレッド・フラッグと大洗女子学園戦車道チームとの関係は、ただ『偶然同じ学園艦に住んでいるだけ』と言うのが本来の関係。そのため、今救援を要請しても、彼等の怒り具合によっては、『お前等の自業自得だ』と言わんばかりに背を向けられるかもしれないと思う者も居た。

それでもと、みほは紅夜に通信を入れようとするが、自分達が廃村へ向かおうとするのを止めようとした紅夜の怒ったような声が脳内に響き、通信を入れるのを躊躇ってしまった。

 

「私は、みほさんの指示に従います」

「えっ……………?」

 

そんな時、不意に華が口を開き、みほは華の方を振り向く。

 

「わ、私も!土下座くらいしても良いよ!」

「元々無名校だった私達が、準決勝まで勝ち進めただけでも十分凄い事だ、無茶はするな」

「そうですよ!西住殿も、十分にご健闘くださいました!レッド・フラッグの皆さんも、ちゃんと話して謝れば、分かってくれる筈です!」

 

華の言葉に続けるようにして、沙織と麻子、優花里が言い、メンバーも落ち着きを取り戻して静かになる。

 

「駄目だッ!」

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』

 

その静寂は、突然声を張り上げた桃によって破られ、メンバーの視線が桃に集中する。

 

「このまま敗けを認める訳にはいかん!徹底抗戦だ!!」

 

桃は肩を震わせながら、頑なに徹底抗戦の姿勢を取っている。

 

「で、ですが……………」

「勝つんだ、絶対に勝つんだ!勝たないと駄目なんだ!!我々にはもう……………勝つ以外の選択肢は、残されていないんだッ!!」

 

みほは何かを言い出そうとするが、桃はそれを遮って叫ぶ。

 

「どうしてそんなに、勝つ事に拘るんですか!?無名校だった私達が、準決勝まで勝ち進めただけでも十分凄い事なんですよ!?勝つ以外に、もっと大切な事が……………勝つ事よりも大切な事がある筈です!」

「そんなものがあるか!勝つ以外の何が大切だと言うんだッ!」

 

みほの言葉に耳を貸す事無く、桃は尚も叫ぶ。

 

「私、黒森峰に居た頃は、戦車道をやっても全く楽しくなかったけど……………この学校に来て、皆と出会って……………初めて戦車道の楽しさを知ったんです。この学校も、戦車道も大好きになったんです!だから……………」

 

そう言いかけると、みほは少しの間を空けて言葉を続けた。

 

「だから、この気持ちを大切にしたまま、この試合を終わらせたいんです!」

「ッ!……………何を……………何を言っているんだ、西住……………」

 

桃は肩を震わせながら言うと、みほの方を振り返った。

その表情は、絶望で染まりきったような、怯えたような色が支配し、目尻には大粒の涙が浮かんでいた。

 

「負けたら……………負けたら我が校は……………ッ!」

「ッ!?止めて、桃ちゃん!」

「止めろ河嶋!!それ以上言うな!」

 

柚子と杏が、珍しく声を荒げて言うが、桃は2人の言葉も聞かずに叫んだ。

 

「負けたら我が校は無くなるんだぞッ!!」

『『『『『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』』』』』

 

悲痛な桃の叫びで、メンバー全員の表情が驚愕に染まる。

 

「えっ……………?学校が……………」

「大洗女子学園が……………無くなる……………?」

 

桃のカミングアウトに、メンバーは小さく言いながら、其々の顔を見合わせている。

 

「……………どう言う事なんですか?学校が無くなるなんて、嘘ですよね…………会長?」

 

みほが言うと、メンバーの視線が、今度は杏へと集中する。

 

「……………あ~あ、遂にバレちゃったか……………否、この場合は『バラしちゃった』って言った方が適切かな……………」

 

自嘲するような声で言いながら、杏はゆっくりと、メンバーの前に歩み出てくる。

 

「河嶋の言う通りだし、嘘じゃないよ、西住ちゃん……………」

 

そう言って、杏は顔を俯けた。

 

 

 

 

「この全国大会で優勝出来なかったら……………」

 

 

そして、杏は言うのだ。最後まで秘密にしておきたかった……………誰にも言いたくなかった……………

 

 

「我が校は……………」

 

 

最悪な事を……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「廃校になる」


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