ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

70 / 161
第65話~雪中戦に向かって前進です!~

暗闇と静寂が支配する雪原に、地響きと野太い音が響き渡る。

その雪原では、15輌の白いプラウダ校戦車が進撃していた。

T-34/85が7輌に、T-34/76が6輌、カーベー2ことKV-2、IS-2が其々1輌ずつで編成されたプラウダ高校戦車道チームの戦車隊は、フラッグ車である1輌のT-34/76と、その後に続くKV-2とIS-2を、残りのT-34/85、76で守るような形で、矢印状の隊列を組んで進撃していた。

 

「良い!?彼奴等にやられた車両の乗員は、全員シベリア送り25ルーブル、あの赤旗の連中にやられたなら、さらに追加して50ルーブルよ!」

 

先頭を走るT-34/85のキューボラから上半身を乗り出したカチューシャが、そう言い放つ。

《RED FLAG》を赤旗と呼ぶ限り、先程紅夜にやられた事を根に持っているのだろう。

 

「……………日の当たらない教室で、25日間の補習。それに、もしレッド・フラッグに撃破された場合は50日間の補習と言う事ですね」

 

隣を走る同車のキューボラから上半身を乗り出したノンナが、カチューシャの言葉を要約する。

 

「行くわよ!敢えて相手のフラッグ車と、あの緑の奴の戦車だけ残して、残りは皆殲滅してやる……………力の違いを見せつけてやるんだから!」

『『『『『『『『『『ウラァァァァァァァァアアアアアアアッ!!!!』』』』』』』』』』』』』

 

カチューシャの言葉に、プラウダ全車両の乗員から雄叫びが上がる。

それから一行は、ロシア民謡--『カチューシャ』--を歌い出し、士気が最高潮にまで上り詰める勢いで進撃を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、大洗チームが進撃している雪原では、カチューシャ達のよりも、さらに大きな地響きが響き渡っていた。

 

『『『『『『『~~~~♪』』』』』』』

 

大洗チームの戦車6輌の前を、紅夜達ライトニングのIS-2と、静馬達レイガンのパンターA型が走り、9人の少年少女が、紅夜や他のメンバーのスマホから大音量で流されている、とあるゲームの挿入曲--『ソビエトマーチ』--を歌っているのだ。

勇ましい曲想に加えて、先頭を走るIS-2のキューボラから上半身を乗り出した紅夜は、先程カチューシャ達に向けた紅蓮の炎のようなオーラを纏っているため、彼の声が一際大きく響いているのだ。

彼等の歌声は、恐らく現在もカチューシャを歌い続けている、プラウダ高校のメンバーの声も容易く掻き消してしまえるだろう。

寒さの中でも、彼等のチームの士気は最高潮にまで上り詰めていた。

 

 

 

 

「うぅ~、冷える……………」

 

阿修羅とも呼べるようなオーラを纏うレッド・フラッグのメンバーとは対照的に、大洗チームでは寒さに震え、歌どころではなくなっていた。

現に、手袋をはめている沙織がそう呟いている

 

「一気に決着をつけるのは、ある意味正解かもしれませんね」

「うん……………」

 

華の呟きに、みほは小さく答える。

そんな時、紙コップにポットのココアを注いだ優花里が、みほにその紙コップを差し出して言った。

 

「ポットにココアを淹れておきました。良かったらどうぞ」

「ありがとう」

 

みほはそう言って、差し出された紙コップを受け取ると、ゆっくりと口をつける。

 

「それにしても長門君、さっき滅茶苦茶怒ってたね……………」

 

不意に、沙織がそんな事を呟いた。

 

「そうですね。ルクレールでの時もそれなりに怒ってましたが、今回のは、前のと比べ物にならない程の怒り様でしたね」

 

華も、先程紅夜が怒り狂った時の事を思い出しながら言う。

「まぁ、他の人が皆吹っ飛ばされるような衝撃波まで出すのはやり過ぎだが……仲間のために怒ったと言うのは確かだろうな………」

「そうでしょうね……………それに、西住殿の事もそうですが、長門殿は、別の事に対しても怒っていたような気がします」

 

神妙な表情を浮かべながら、優花里が呟いた。

紅夜が何に対して、あんなにも激しい怒りと殺意をカチューシャに向けたのか……………あんこうチームの面子は、なるべく考えないようにしようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『珍しい事もあったものね。紅夜があんなにも怒り狂って、挙げ句の果てには暴力騒ぎまで起こそうとするなんて……………向こうの隊長さん、怖がって気絶してたわよ?それに、正論に怒って何やら言うようなお子ちゃま精神なら、多分……………いえ、止めておきましょう。流石に女の口からは言いたくないわ』

 

そんな中、マーチを歌い終え、それからはボーッとしていた紅夜が持ち続けていたインカムが、静馬の声を拾った。

 

「ああ……あん時の俺は、怒りすぎて何が何だか分からなくなってたぜ……………何か、今となっちゃあ、二日酔いして無気力になったオッサンみてぇな気分だぜ」

 

そう言うと、紅夜は心底疲れたような溜め息をつき、天板に右の肘をつき、そのまま手で顔を覆った。

その姿からは、何時ものように陽気な雰囲気は欠片にも感じられなかった。

 

『怒りで我を忘れる事がある……………昔からの悪い癖ね。連盟にチーム除名を宣告された日なんて、貴方、役員さんの言い分に怒り狂って半殺しにしようとしたでしょう?』

「……………思い出させんじゃねえよ、畜生」

 

そう言って、紅夜はまたしても盛大な溜め息をつく。

そして、両腕を天板の上に投げ出し、まるで学校の机に突っ伏す生徒のようなポーズをとる。

 

『まあ、でも……………』

 

そう言って、静馬は言葉を一旦止め、その後は黙ってしまった。

 

「……………?どうしたよ静馬?何か言いかけてから黙っちまって」

 

気だるげな声色で言いながら、紅夜は天板にぐったりと突っ伏しながら顔を横に向け、インカムに向かって呼び掛ける。

当の静馬は、何故か頬をほんのりと赤く染めながら言った。

 

『やり方は酷かったけど、誰かのために怒った貴方は、その……………良かった、わよ?』

 

そう言って、静馬はプイッと顔を背けた。

 

「……………」

 

紅夜は暫くの間、天板に突っ伏したまま何も言わずに静馬を見つめる。

そうして、投げ出した右腕を顔の方へと引き寄せ、その手に持っていたインカムに向かって言った。

 

「……………ありがとよ、お前はやっぱ、最高(の副官)だぜ」

『ッ!?』

 

その言葉に、静馬は先程まで背けていた顔を、勢い良く紅夜に向ける。その顔は、紅夜の不意打ち同然な一言で真っ赤になっていた。

 

『えっ……………えっと、その……………』

 

顔を真っ赤にしながら、静馬は暫くワタワタと慌てるが、やがて落ち着いたのか、紅夜に微笑んで言った。

 

『De rien.Mon amant(どういたしまして。我が愛しい人)♪』

 

流暢なフランス語で告白染みた事を言うと、静馬は通信を終えた。

 

「……………今、彼奴何て言ったんだ?」

 

だが、日本語以外では英語しか話せず、ロシア語は歌でのみしか使えない紅夜からすれば、フランス語など未知の領域でしかなく、静馬の告白染みた言葉が空回りに終わったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大洗の戦車隊を、丘の上から双眼鏡越しに見つめる人影が2つ……………

 

『敵は全8輌、北東方面へ前進中。時速約20キロ』

 

それは、プラウダチームのメンバーの偵察員だった。

彼女等は稜線に伏せ、双眼鏡越しに見た大洗チームの様子をカチューシャに送っていたのだ。

 

「ふーん……………彼奴等、一気に決着を着けるつもりなの?生意気な……………ノンナ!」

 

そんな中、1人軽食を摂っていたカチューシャは、偵察に出た2人からの報告を受け、ノンナに呼び掛ける。

 

「分かってます」

 

それに淡々とした調子で答えると、ノンナは他のチームメイト達へと視線を送る。

 

「Да!」

 

その視線に、既にT-34/76に乗り込んで準備を済ませていた1人のメンバーが答えると、他2輌のT-34/76を引き連れ、出撃していった。

 

「それじゃ、私達も行動を開始するわよ」

 

そして軽食を食べ終えたカチューシャは残りのメンバーへと呼び掛け、彼女等の作戦を開始しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

再び視点を移し、大洗チーム。

現在彼女等は、雪の丘を上ろうとしていた。

 

「達哉、足掬われないように気を付けろよ?」

「分かってるって。こんなの現役時代でちょくちょく経験してたんだ、今更足掬われっかってんだ」

 

紅夜の言葉に、達哉は余裕そうな笑みを浮かべて答えると、雪の丘を一気に駆け上る。

 

「流石はライトニング、悪路での運転や、危険走行のエキスパートが居るだけの事はあるわね」

「でも、私だって負けちゃいないんだから……………ねっ!」

 

丘を駆け上ったIS-2を見た静馬が感心していると、雅もパンターのアクセルを踏み込み、達哉がやったように、一気に丘を駆け上る。

それに続くかのように、大洗の戦車も丘を上っていくが、そんな中で、カモさんチームのルノーb1が上手く上れず、苦戦していた。

 

「おい、そど子。何をしている?モタモタしている暇は無いぞ?」

 

それを見た桃が、みどり子のチームへと呼び掛ける。

 

「ゴモヨ!前に進むのよ!?」

「進んでいるつもりなのよ、そど子」

 

上手く坂を上れず、ゴモヨは半泣きになっていた。

それを見たみほが、一旦後退するように指示を出し、b1が坂の麓へと下がる。

 

「悪い、ちょっとばかり助けに行ってくるわ。ちょっとの間頼む」

 

そう言って、達哉はIS-2から降りると坂を駆け下り、b1の操縦手用のハッチを開けて顔を覗かせた。

突然現れた達哉に、風紀委員メンバーがギョッとする。

 

「金春さん、ちょっと代わってくれ。坂だけ上ってやる」

 

達哉がそう言うと、ゴモヨは素直に操縦席を空ける。

 

「そういや、ルノーの操縦の仕方ってどうやるんだ?」

「え?知らずに来たの!?」

 

操縦席に腰かけてから、そんな事を言った達哉の言葉に、みどり子が驚いたような声を上げる。

それから、ゴモヨがアクセルペダルや操縦捍、ギアやクラッチなどについて簡単に教えると、達哉は軽くスイッチ・バックを行い、そこからはb1を意のままに操り、慣れた操縦で坂を上り始めた。

 

「ありがとうございますぅ!」

 

自分では上れなかった坂を上らせている達哉に、ゴモヨが礼を言う。

 

「辻堂君?助けてくれるのはありがたいんだけど、流石に操縦方法を知らないのはどうかと思うわよ?それから、出来れば来るって知らせてよね?」

 

礼を言いながらも、みどり子はそう言う。

 

「あいよ、次からは気を付ける」

「………何か、それなりに頼りになる冷泉さんを相手にしてるような気分だわ…………」

 

達哉が答えると、みどり子は何とも言えないとでも言いたげな表情で呟いた。

そして稜線を越えると、達哉はb1を停め、自信が本来操縦するIS-2へと戻っていったのだが、その際、b1の操縦手用のハッチを開けて外へ出て、ハッチを閉めようとした刹那、みどり子が照れながら、小さな声で礼を言ったのが、達哉の耳に入っていた。

 

 

 

 

「おかえりー、達哉。初めてb1動かした感想はどうだ?」

 

砲塔のハッチを開けて車内に戻ってきた達哉は、翔にそんな質問をされていた。

 

「あー、そのぉー………何つーか、だなぁー……………操縦捍が、車のハンドルみたい……ではなく、車のハンドルそのものだった」

「マジっすか。そりゃ見てみたいな」

 

達哉の答えに勘助が呟く。

その後、大洗の戦車が一時待機している場所へ、b1が到着する。

それから一行はみほの指示を受け、進撃を再開するのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。