ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第60話~西住家と島田家です!~

プラウダ高校の応接室にて、3人の少女による恋バナが行われているのと同日、此処は熊本県のとある家。

『西住』と書かれた表札がある、古い流派の家を思わせる大きな家こそが、みほとまほの実家である。

そんな一室にて、黒森峰の制服を着たまほと、黒いスーツ姿の女性が居た。

鋭い目や座る姿が凛々しさを醸し出すその女性の名は、西住 しほ。みほとまほの母である。

2人が囲む机の上には、とある新聞紙が広げられていた。

その項目には、この準決勝で、大洗女子学園とプラウダ高校が対決すると言う事が書かれており、両チームの隊長名もが書かれている。

また、知波単との練習試合の事も書かれ、土壇場で現れて大暴れしたレッド・フラッグの事も触れられている。

その項目には、《姿を消した伝説のチームの降臨に、観客騒然!彼等の同好会チームとしての完全復活は目の前か!?》と書かれ、今では多くの人の目に触れられる事となっている。

 

「みほ……………」

 

だが、残念ながらその事は、今のしほの視界には入っていない。

過去を悔やんでいるような声で娘の名を呟く彼女の視線に捉えられているのは、みほの顔写真だ。

 

「……………」

 

その様子を見たまほは、顔を伏せる。

其所へ、しほの視線がまほへと向けられた。

 

「まほ、貴女は知っていたの?あの子が未だ、戦車道を続けていると言う事を」

「………はい」

 

まほは小さく答え、頷く。

 

「そう……」

 

そう言って、しほはまほの隣に空いている空間を見る。

数ヵ月前までは、まほの隣にみほが座っていた。だが、そのみほは今、大洗女子学園に居る。大洗女子学園戦車道チームの総隊長として……………

 

「……私は、間違っていたのかもしれないわね………」

 

自嘲するように、しほは呟いた。

そもそも、何故みほは黒森峰から大洗に転校したのか?それについて説明させていただこう。

 

 

 

 

 

事の発端は、昨年度の戦車道全国大会決勝戦、プラウダ高校との試合の時に遡る。

その時は雨が降っており、川が氾濫しかけている状況だった。

そんな川沿いの道を、黒森峰の戦車隊が1列で徐行していた。

その時、突然前方からプラウダの戦車隊が現れて奇襲攻撃を仕掛けてきた。

当時は副隊長を勤めていたみほの乗るティーガーはフラッグ車だったため、前を走っていたⅢ号戦車が盾になろうとするが、その直ぐ近くに砲弾が着弾し、Ⅲ号戦車はバランスを崩して土手を滑り落ち、川へと落ちてしまったのだ。

ティーガー等の重戦車なら話は別だったかもしれないが、Ⅲ号戦車は中戦車、激しい水流に太刀打ち出来る筈も無く、沈み始める。

それを放っておけば、戦車の乗員の命は呆気なく失われる事となる。

それを見放せなかったみほはティーガーから降りて川に飛び込み、Ⅲ号戦車のハッチを抉じ開けて中の乗員を救出した。

だが、その間にみほが乗っていたティーガーが砲撃を受けて撃破され、黒森峰は決勝戦でプラウダに敗れ、10連覇を逃してしまった。

それにみほの行動は、西住流に反する行為だとして、試合後、しほはみほを叱責したのだ。

勝つ事のみに囚われて、乗員の命を省みる事無く……………

 

 

 

 

 

 

 

「あの時、みほがⅢ号戦車の乗員を助けていなかったら、私達は10連覇を成し遂げのかもしれない。でも、それをマイナスに塗り替えてしまう程、多くのものを失っていたでしょうね……………あの時の彼の行動を思い出すと、そう強く思ってしまうわ……………あの時の私は、ある意味《人殺し》とか言われても、文句は言えない立場だったでしょうね………」

 

そう言って、しほは自嘲するかのように溜め息をつく。

まほも心当たりがあるのか、何も言わずにしほの言葉に耳を傾けていた。

 

「そう言えばまほ、覚えてる?貴女達がレッド・フラッグと戦った時の事を」

 

しほがそう言うと、まほはゆっくりと頷く。

 

 

 

 

 

レッド・フラッグとの試合で、まほが乗るティーガーが、紅夜のIS-2から擦れ違い様にゼロ距離射撃を受けた。

それもエンジン部分に受けたため、ティーガーのエンジンからは黒煙が上がり、当然ながら白旗が飛び出る。

だが、其所からが不運だった。

何の偶然か、漏れ出た燃料に炎が引火し、ティーガーは瞬く間に炎上したのだ。

まほは乗員を先に逃がすものの、1人取り残されてしまう。

危険を冒して、エリカがまほを助けようと飛び込んできたものの、火は勢いを増すばかり。そして、正にミイラ取りがミイラになったが如く、エリカも火柱の中に閉じ込められてしまう。

最早、消防車が来るのを待つしか方法は無いと誰もが思った時、火の外から紅夜が飛び込んでくると、パンツァージャケットを脱いで先に2人を纏めて肩に担ぎ、2人の顔にそのジャケットを被せると、そのまま火の中から飛び出して救出したのだ。

幸い、2人は足に火傷を負っただけですんだが、紅夜は火の中に飛び込んだ際に火が燃え移ったのか、腰まで伸ばされた緑髪の半分近くが焦げて、最早灰同然になっており、さらには何の装備も無しに火の中へと飛び込んだため、目や皮膚等に異常が無いかの検査を受けるようにと、遅れて駆けつけた消防士に強く言われ、そのまま問答無用で病院へと搬送される事になった。

駆けつけた救急車に乗せられる前に、まほは何故助けたのかを聞く。その時に紅夜は言ったのだ。

『試合で一番嫌な事は、死者を出す事だからだ』と……………

 

つまり、しほがみほを叱責したのは、紅夜が嫌がっていた事--試合で死者を出す事--を助長していると言う事にもなり得るのだ。

 

「もし、それを彼が知れば……………いえ、止めておきましょう。その場で殺戮嵐(ジェノサイド)が吹き荒れる事しか予想出来ないわ。火の中に飛び込むような度胸を持ってるんだもの、その場で肉片にされかねないわ……………」

 

そう言って、しほは額に冷や汗を浮かべつつ、苦笑する。

 

「まぁ、その事については追々、あの子と話し合っていきましょう……………先ずは、プラウダ戦の観戦にでも行きましょうか………」

 

しほはそう言って、その話を切り上げる。

その次の瞬間には、西住流師範としてではなく、まほとみほの母としての顔となっていた。

 

「それでまほ、あれから彼とは会えたの?」

「ええ。ルクレールで、偶然」

 

しほの質問に、まほは淡々と答える。

 

「そう……………それで、貴女の王子様と再会した感想は?」

「なっ、いきなり何を仰るのですか!?」

 

からかうようにして言ったしほに、まほは顔を真っ赤にして声を上げる。

 

「あら、窮地に陥っていた貴女を、自分の身を省みずに火の中に飛び込んできて助けてくれたのよ?正に王子様じゃない。それに今思い出せば、貴女、ルクレールから帰ってきた時、何処と無く嬉しそうにしていたそうじゃない。菊代(きくよ)がそう言っていたわよ?」

「ッ!?話されていたのか……………」

 

まほはそう呟き、ガックリと項垂れる。それを見たしほは、クスリと微笑んで言った。

 

「まほ、射止めるなら本気でかかりなさい。あれから暫く経ってるから、彼に好意を寄せる者が出てきてもおかしくないわ。はたまた、みほに取られるかもしれないわよ?」

 

そんなまほを、しほはからかうようにして見ていた。

 

「(それもそうだけど、彼にツレの子は居ないのかしらね……………居ないなら、此方側に引き込んでみるのも、また面白いかもしれないわね………人柄も良いし、娘2人を、『西住家の2人』ではなく、まほならまほ、みほならみほとして、ありのままの姿を見てくれそうだし……)」

 

まほを見ながら、しほはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様……ちょっと良い?」

「ん?……………あら、愛里寿。どうしたの?」

 

場所を移し、此処は島田家宅。西住家よりかは小規模ながらも、それなりの広さを持つ敷地に建つ家の一室に座っていた千代を、愛里寿が訪ねていた。

紅夜から譲り受けたボコのぬいぐるみを、大事そうに抱いたまま部屋に入ってきた愛里寿は、千代の向かいに座って言った。

 

「大洗の試合、見に行きたいの」

「えっ?」

 

愛里寿からの頼みに、千代は呆気に取られたような返事を返した。

 

「急にどうしたの?前なんて興味無さげだったのに、今になって行きたいだなんて………」

「……………」

 

千代が聞くと、愛里寿は答える代わりにボコのぬいぐるみを抱きしめた。

愛里寿が抱いているぬいぐるみが、紅夜から譲り受けたものであると言う事を愛里寿から聞いており、それを覚えていた千代は、何かを悟ったような表情を浮かべて言った。

 

「もしかして、愛里寿……………彼に会いたいの?長門紅夜君に」

 

その問いに、愛里寿の頭が縦に動く。

 

「うん………紅夜お兄ちゃんに、あの時のお礼、未だ言ってないから……………」

「そう……………別に良いけど、会場は凄く寒いわよ?着れる限りの防寒着を着ても、寒いかもしれないわ」

 

千代はそう言うが、愛里寿は気にしないとばかりに首を横に振った。

 

「大丈夫……………お兄ちゃんのためだから……………」

「そう、余程彼に懐いているのね……………まぁ良いわ。なら、それまでに準備しておくのよ?」

「うん………ッ!」

 

そう言って、愛里寿は満面の笑みを浮かべて立ち上がると、相変わらずボコのぬいぐるみを抱き締めたまま部屋を出ていった。

それを見届けた千代はスマホを取り出し、次の大洗の対戦相手や試合会場を調べ始める。

 

「プラウダ高校……去年の優勝校が相手なのね………それもそうだけど、あの愛里寿があんなにも懐くなんて、彼は一体、どんな魔法を使ったのかしらねぇ………」

 

愛里寿が出ていった部屋のドアを見ながら、千代はそう呟く。

 

大洗の学園艦への外出を終えて家に帰ってきてからと言うもの、愛里寿は家に居る時は、紅夜から譲り受けたボコのぬいぐるみを四六時中抱いており、寝る時もそれを抱いて寝ていると言う。

大学の同級生(?)からも、『時々『紅夜お兄ちゃんがどーだこーだ』と言ってる』とさえ言われる始末。

紅夜の事について話す愛里寿は、何時もの無表情から一転して楽しそうにしていたらしく、ふざけた1人が、試しに『紅夜が好きなのか』と聞いてみたところ、少し顔を赤くしながらも、あっさりと頷いたらしい。

曰く、『紅夜お兄ちゃんの傍に居ると、安心する』だそうだ。

 

 因みに、それを聞いた彼女の同級生の内の3人は相当なショックを受けたらしく、機会があったら紅夜を捕まえて、彼女との関係について詳しく問い詰める計画を立て始めたらしい。

 

「そんなにも愛里寿の話題に出てくる程の人物なら……………1度、会ってみたい気もするわね…………それに、愛里寿があんなにも好いているなら、いっそ、あの子の婿にでもしてしまおうかしら?歳は愛里寿より上だろうけど、少なくとも20にはなっていないだろうしね……………少なくとも、西住流の家元には渡したくない逸材ね。彼のチームもかなり強いみたいだし……………」

 

千代はそう言いながら、テーブルに置かれたコーヒーを口に含む。

 

こうして紅夜は、自身が率いる同好会チームのチームメイトや大洗戦車道チームのチームメイト、はたまた相手校の隊長のみならず、2つの戦車道流派の師範に目をつけられた訳だが、それを彼が知る事は……………

 

「………あー、カレーライス……………マジかよ、もう食えねえよ静馬ぁ………勘弁してくれぇ~~……グーグー」

 

少なくとも、今の段階で知る事は、先ず無いだろう。


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