ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第9章~準決勝に向けて~
第59話~プラウダ高校です!~


ある日の晩の事。流氷が至る所に浮かび、見るからに極寒の海を思わせるような光景の海を、1隻の学園艦が航海していた。

キエフ級空母に酷似したこの学園艦は、昨年度戦車道全国大会にて、10連覇がかかっていた黒森峰を破り、第62回戦車道全国大会の優勝校に輝いた、プラウダ高校が保有する学園艦である。

その巨大な学園艦に広がる甲板都市の中心に、そのプラウダ高校は存在する。

そして此処は、そんなプラウダ高校の応接室。其所では、3人の少女がテーブルを囲んでいた。

 

「準決勝進出、おめでとうございます。カチューシャ」

 

その3人の内の1人であるダージリンは、自分の向かい側に座る少女に向かって言う。

 

「フフンッ!まぁ、このカチューシャにかかれば、そんなの朝飯前ね!」

 

カチューシャと呼ばれた、金髪をショートボブにした非常に小柄な少女は、あの試合では自分達が勝つのが当然だったと言わんばかりの表情で豪語する。

 

「勝負は時の運と言うものでしょう?」

「私は、その運すらも味方につけるのよ」

 

ダージリンは言うが、カチューシャはそう言い返してあっさりと一蹴する。

 

「それにしても、ソッチは残念だったわね、ダージリン」

「ええ。流石はまほさん率いる黒森峰、今年もやられてしまいましたわ」

 

ダージリンはそう言って苦笑を浮かべる。

彼女率いる聖グロリアーナの2回戦の相手は黒森峰だったのだが、昨年はプラウダに破れたとは言え、西住流と言う流派の家元の学校であり、全国大会にて9連覇してきた実力は伊達ではなく、ダージリン達聖グロリアーナの健闘も虚しく、黒森峰に破れる結果となったのだ。

そんな会話を交わしていると、先程までカチューシャの傍らで冷静沈着な専属メイドの如く立っていた、黒髪で長身の少女が、ダージリンの前にロシアンティーの淹れられたティーカップと、ジャムの入った皿を差し出した。

 

「ロシアンティーとジャムです、どうぞ」

「ありがとう、ノンナ」

「いいえ……………」

 

ノンナと呼ばれた少女は、淡々と返事を返し、再びカチューシャの傍らへと戻る。

その光景を見て軽く微笑んだダージリンは、ジャムをスプーンで掬い、紅茶に入れようとする。

 

「違うの!」

 

 だが、それを見たカチューシャが突然、ダージリンの行動に待ったをかけた。

 

 

 

「そんなの、ロシアの作法としては邪道よ。紅茶が冷めちゃうじゃない……………良い?ジャムってのは紅茶の中に入れるのではなくて、舐めながら、紅茶を飲むものなのよ」

 

そう言いながら、カチューシャはスプーンで掬ったジャムを口に含み、続けて紅茶を飲む。

 

「付いてますよ」

「余計な事言わないで!」

 

ノンナは、カチューシャの口の周りにジャムが付いている事を指摘するが、カチューシャはそう言い返す。

子供っぽさを思わせるカチューシャの姿に、ノンナは微笑む。

 

「ピロージナエ・カトルーシカとペチーネもどうぞ」

 

ノンナは流暢なロシア語で言いながら、恐らくクッキーか何かなのであろう菓子が乗せられた皿を置く。

ダージリンは、その菓子に手を伸ばそうとしたが、何かを思い出しかのように手を引っ込める。

 

「そう言えば、もう直ぐ準決勝だと言うのに、貴女達は随分と余裕そうですわね……………練習しなくて良いんですの?」

 

ダージリンがそう言うと、カチューシャは思いっきり馬鹿にしたような調子で言った。

 

「ええ。燃料と弾薬、それから時間の無駄遣いとしか言えないわ。相手は聞いた事も無い弱小校なのよ?」

「でも、相手は家元の子よ?それも、西住流のね」

「えっ!?」

 

言い放ったカチューシャにダージリンが言い返すと、余裕綽々な表情を浮かべたカチューシャが驚愕に染まる。

 

「ちょっとノンナ!そんな大事な事を、なんで早く言わないのよ!?」

「先日から、何度も言ってます」

「聞いてないわよ!」

カチューシャは、傍らに立っているノンナに怒鳴るが、ノンナは相変わらず、落ち着き払った調子で言い返すものの、カチューシャは『聞いてない』の一言で一蹴する。

 

「ただし、妹の方だけどね」

「え?妹?な~んだ………」

 

相手の隊長がまほではないと言う事を知らされ、カチューシャの表情はホッとしたものに変わる。

 

「黒森峰から転校してきて、無名の学校をこの舞台にまで引っ張り上げてきたんですって」

「ふ~ん……………それで?そんな事を言うために、態々此処までやって来たの、ダージリン?」

 

カチューシャは大して興味が無いのか、そんな事をダージリンに問う。

 

「まさか。美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ」

 

そう言うと、ダージリンは紅茶を飲む。

そしてカップを置くと、またしても何かを思い出しかのような表情を浮かべた。

 

「それとだけど、彼等も居るわよ」

「んー?」

 

ピロージナエ・カトルーシカを頬張っていたカチューシャは、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げた。

 

「赤い旗を靡かせる、戦場の暴れ馬達がね」

「何ソレ?」

「……………ッ!」

 

カチューシャは訳が分からないとばかりに首を傾げるが、ノンナだけは違った。

 

「あら、貴女の副隊長さんは、もうお気づきになられたみたいだけど?」

「え?そうなの?」

 

カチューシャはそう言うと、ノンナを見る。

ノンナは視線をカチューシャへと向け、ゆっくりと頷いた。

 

「と言う事は……………ダージリンさん、彼等が居るなら、当然、《あの方》も居ると言う事に……………?」

「勿論、居りますわよ。何と言っても、そのチームの隊長が彼ですもの」

 

ダージリンが言うと、ノンナは先程までの無表情から一転し、花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「ノンナがそんな表情をするなんて……………ん?そう言えば……………」

 

その時、カチューシャは何か引っ掛かる事を思い出したのか、考え始める。

 

「どうかしたの?」

「あー、うん。2年ぐらい前に、ノンナの家に行った時の事なんだけど、その時ノンナの部屋に、矢鱈とサイズが大きいダウンジャケットがあったのよ。それに玄関の傘入れには、何故か除雪用シャベルもが置かれてたし」

「そう……………」

 

ダージリンは意味深な感じを含んだ声で言うと、ノンナの方を見る。当の本人は、顔を赤くして逸らす。

それを見たダージリンは、面白いものを見たとばかりにクスリと笑い、カチューシャに言った。

 

「その2つは、彼女ともう1人にとって、忘れられない殿方からの置き土産ですわ」

「だ、ダージリンさん!」

 

流石に冷静なノンナでさえ、あまり知られたくない過去を話されるのは恥ずかしいのか、珍しく大声を上げる。

 

「ノンナ、どうせだから話しちゃいさいよ。何があったのか、私も興味あるし」

「うぅ……………分かりました」

 

そう言って、ノンナは恥ずかしそうにしながらも話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、カチューシャが言った2年前のある日に遡る。

その日の午後6時頃、雑用で遅くなってしまったノンナは、普段行動を共にしているカチューシャではなく、試合で大抵乗っているT-34/85中戦車で、ノンナと同じく車長を勤める銀髪の少女--クラーラ--と家路を共にしていた。

季節は冬で、航海している場所が場所だからか、彼女らが家路につく数分前までは大雪が降り、道路には雪がつもり、所々には、除雪作業で屋根から落とされた雪が小さな雪溜まりを作っている。

 

「Разве я буду холодно этой зимой(今年の冬は冷えますね)……………」

「До.Я горек о короркой юбке только тогда(ええ。この時ばかりは短いスカートが恨めしいです).」

 

長い間この学園艦で過ごしているとは言え、膝より上と言う丈の短いスカートでは、幾らハイソックスやタイツを履いていても寒いのは必然。

そのため2人は、学生寮の近くにある自販機で温かい飲み物を買おうと、その自販機に近づいた。

 

その時、7人乗りなのであろう大きめのオフロード仕様の乗用車が曲がり角から現れ、2人の直ぐ傍で停車する。

それを無視して自販機に近づこうとすると、ドアが開閉する音と、足音が聞こえた。

 

「ねーねー、君等2人だけ?」

「これから俺達とどうよ?」

 

そんな声に振り向くと、20歳程の男5人が、2人を取り囲むようにして現れる。

 

「……………何なんですか?貴方達は」

 

クラーラの横に並んだノンナが、警戒して言う。

 

「まぁまぁ、そんな恐い顔しなくてもイイじゃん。別に俺等、怪しいモンじゃないんだぜぇ~?」

「そーそー、ただ遊びに誘ってるだけじゃんかよぉ~」

 

男2人が言うと、他の3人も同様の反応を見せる。

その時にノンナとクラーラは悟った。『この5人の目当ては、自分達の体だ』と……………

 

「……………結構です。行きましょう、クラーラ」

「До.」

 

その男達の目当てを知ったら、尚更ついていく訳にはいかない。

ノンナはクラーラに呼び掛け、自販機での飲み物は諦め、男達を無視して行こうとする。

だが、それで諦める程、男達の往生際は良くなかった。

 

「チョッとぐらいイイじゃん、別に変な事しないからさぁ~」

「ッ!?」

 

あろうことか、その内の1人がクラーラの腕を掴んだのだ。

 

「Не касайтесь его(触らないで)!!」

 

悲鳴に近い声を上げ、クラーラは掴まれた腕を思いっきり振った。

だが、それが不運の始まりだった。

 

「うわっと!?」

 

振るわれた腕を、男は間一髪の所で避けた……………と思いきや、若干ながら指が掠めたのか、右の頬が切れ、少量の血が流れ出た。

 

「ウッワー、お嬢さんヤっちゃったねぇ~。暴力振るったんだから、こりゃ慰謝料払ってもらわきゃねぇ~、君達のカラダで♪」

「さ、先に手を出したのは貴方達ではありませんか!」

 

男達はそう言って、揚げ足を取るかのように下劣な笑みを浮かべながら近づいてくるが、ノンナが行く手を阻んで叫ぶ。

 

「ああん?このアマ共優しくしてりゃイイ気になりやがって!!」

「年上に対する礼儀がなってないようだなッ!」

 

そう言って、男4人は2人の両脇を拘束する。

 

「ッ!?な、何をするのですか!」

「離してください!」

 

2人は抵抗するが、相手は男4人で、それにもう1人控えている。ノンナとクラーラには、最早勝ち目は無かった。

 

「さて、先ずは最初のお仕置き………だッ!」

「「きゃあっ!?」」

 

すると、4人の男達は、ノンナとクラーラの上着を剥ぎ取ると、制服姿になった2人を、そのまま雪溜まりへと放り投げたのだ。

背中から雪溜まりに突っ込むと、2人の体温で雪が少しずつ溶け始め、2人の制服へと染み込んでいく。

 

「ヒュウッ♪良く見たらコイツ等、中々良いカラダしてんじゃん!」

「プラウダ高校の女子って美肌美人が多いからなぁ。目ェ付けといて正解だったぜ」

「あー、もう待ちきれねえ!オイ、さっさとコイツ等を拉致って、ヤる事ヤろうぜ」

 

目の前に少女が居ると言うのにも関わらず、男達は卑猥な会話を交わしている。

 

「……………ッ」

 

ノンナは悔しそうに歯軋りし、クラーラは諦めたかのように項垂れる。

 

「そんじゃ、さっさと車に----ッ!!?」

「え?」

「お、おい、どうした?しっかりしろ、オイ!」

 

突然、固い何かで殴ったような音が響き、2人を車に連れ込もうとした男は俯せに倒れた。

 

『おいテメェ等、良い歳こいた男が、寄って集ってなァに女の子虐めてんだゴラァ』

 

男達の背後から、ドスの効いた声が聞こえてきた。

恐る恐る振り向くと、其所には男を殴ったのであろう、金属製の大型シャベルをバットのように肩に担いだ、ドス黒いオーラを纏い、漆黒の長い髪に赤い瞳を持つ青年が、大量の雪が積まれた荷車の前に居た。

 

『ったく、こちとらさっさとこの雪捨てて、オッチャンのトコ行かなきゃならんってのに、狭い道にデカイ車停めやがって、邪魔で仕方ねぇ………おまけに目の前で女の子拉致るとか不快極まりねぇ……八つ当たりがてらに、ボンネット抉じ開けて、適当なゴミぶちこんで車のエンジン潰して良いかな………………』

 

かなり機嫌が悪いのか口汚く言いながら、その青年は荷車の取っ手を持つ。

 

『まぁ良い、やってるだけ時間の無駄だ………………おら、ボサーッとしてねぇで、さっさと車退けて失せやがれ。ぶっ壊しても修理費払わねぇぞ』

「て、テメェいきなり現れて何言ってやがんだよ、ああ!?」

「そ、そうだ!それに1人やられちまったが、此方には未だ4人居るんだぞ!」

 

そう言うと、4人は青年を取り囲む。

 

『ハァー……………やっぱこーなるわな』

 

 そう面倒臭そうに呟き、青年が先程まで纏っていた謎のオーラをしまうと、髪が漆黒から鮮やかな緑に戻る。

 背負っていたリュックを下ろして、着ていたダウンジャケットを脱ぐと、それらをノンナ達に投げ渡した。

 そのダウンジャケットの下には、背中に風に靡く赤い旗が描かれ、両腕には《Lightning》と白字で書かれた、ジャーマングレーのパンツァージャケットを着ていた。

 

「悪いけどさぁ、ちょっくらそれ預かっといてくんね?直ぐにコイツ等片すから」

 

 その青年が言うと、ノンナ達は少しポカンとしていたが、やがて我に返り、頷く。

 

「た、たかが餓鬼1人に何が出来るんだ!やっちまえ!」

 

 1人の声を皮切りに、残りの3人も一斉に襲い掛かる。

 

「……………やれやれ」

 

その青年は呟くと、人間離れした脚力で飛び出し、シャベルをバトンのように振り回しながら応戦する。

「オラァァァアアアッ!!」

 

1人が雄叫びを上げながら右ストレートを喰らわせようとするが、青年はシャベルで受け止めて流し、倒れかかった男の横腹に回し蹴りを喰らわせ、さらにはカポエイラのように逆立ちして回転し、その男を勢い良く蹴飛ばし、自動車の方へと吹っ飛ばす。

大きな音を立て、その男は自動車へと叩きつけられる。

勢いが強かったのか、その自動車のヘッドライトの片方が割れている。

そんな男など気にも留めず、青年は地面を野球のランナーの如くスライドし、もう1人の足目掛けてシャベルを投げ、薄い側面をぶつける。

 

「ぐぎゃぁぁあああっ!?痛ェ!痛ェよぉ!」

「そりゃそうだ、シャベルの薄い側面が当たったんだからな……………さて、最後はテメェか……………どうすんだ?」

「す……………スンマセンでしたぁぁぁぁああああっ!!」

 

涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、残された1人は他の4人を車へと放り込み、逃げていった。

 

「ふぅ、張り合いねぇ連中だな……まぁ、その方が時間無駄にならないから良いんだが………さて、大丈夫か?」

「え?……………ああ、はい。大丈夫です」

 

急に聞かれたノンナは、おずおずと答えた。クラーラも頷いて答える。

 

「そりゃ良かった……………ほら、手ェ貸せ。引き起こすから」

「「ッ!!?」」

 

そうして手を差し伸べられ、2人の顔は若干赤くなる。

少しの間、青年の両手を見つめていたが、やがてゆっくりと手を取り、2人は立ち上がった。

 

「あ、ありがとうございます………」

「Спасибо.」

 

2人は頬を染めながら礼を言う。

その青年は、クラーラが言ったロシア語が分からなかったのか、一瞬首を傾げそうになったが、雰囲気からして礼を言っていると言う事に気づき、笑みを浮かべる。

 

「良いって良いって、こう言う時はお互い様ってな……………あ、荷物持っといてくれてありがとな」

 

そう言うと、青年は2人から荷物を受け取る。それから、剥ぎ取られた彼女等の上着を渡した。

 

「「……………クシュンッ!」」

「ん?」

 

そして、2人は可愛らしいくしゃみをすると、両腕で肩を抱き、寒そうに震える。恐らく、雪溜まりに突き飛ばされてから時間が経っていたため、溶けた雪が染み込んできているのだろう。

寒そうに震える2人を見た青年は、ダウンジャケットを着るのを止め、リュックからもう1着のダウンジャケットを取り出し、2人に差し出した。

 

「これ着ろよ。少なくとも役には立つだろうし」

「えっ……………ですが、それでは貴方が……………」

 

心配そうにクラーラは言うが、青年は笑って言った。

 

「大丈夫だって。こう見えても俺、寒さには慣れてるからさ。この程度で風邪引いたりはしねぇよ。それに………………目の前で寒さに震えてる女の子を、放っておけるかっての」

「「ッ!?」」

 

その青年が言うと、2人は頬を赤く染める。

 

「ホレ、何ボサッとしてんだ?早く着ねえと風邪引くぜ?」

 

そう言われ、2人はダウンジャケットを着始める。

 

「おっと、もう行かねえと2時間後の連絡船に間に合わねえ……つーか、さっとこの雪捨てて来ねえと………そんじゃな!」

「えっ!?」

「ま、待ってください!お名前だけでも!」

「時間がねえんだ!またにしてくれ!」

 

そう言って、引き留めようとする2人の声を無視して、その青年は荷車を引っ張って走り去った。

その後には、青年のものだと思われる大型シャベルが残されていた……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………と言う事があったんです」

「それで、あんなデカいダウンジャケットやシャベルがあったのね……………」

 

顔を赤くしたノンナが話を終えると、カチューシャは何やら感心したような声で言った。

 

「準決勝で彼等が居ると言う事は……………また、彼に会えますよね?」

「ええ、勿論ですわ」

 

ダージリンが答えると、ノンナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「そう言えばノンナ。貴女方を助けたと言う殿方のお名前、聞きそびれたのよね?」

「ええ、私とクラーラが呼び止めようとしたのですが、もう既に居なくなっていて……………」

 

そう言って、ノンナは残念そうに顔を俯けた。

それを見たダージリンは、軽く微笑んで言った。

 

「その殿方のお名前は……………長門紅夜さん、ですわよ」

「……長門、紅夜………」

 

ダージリンがその青年の名を言うと、ノンナはその青年の名を復唱する。

その瞬間、ノンナは胸の奥での一際大きな鼓動を感じ、思わず顔を真っ赤にして胸に両手を添える。

そんな様子に、ダージリンはさらに微笑んだ。

 

「成る程……………その様子を見る限りでは、貴女も彼に恋をしたのですね」

「ッ!?」

「ええっ!?ちょっとノンナ!そうなの!?って言うかダージリン!?その言い方だとアンタもしてる的な感じに聞こえるんだけど!?」

 

 

ダージリンがからかうように言うと、ノンナは顔が真っ赤に染まり上がり、カチューシャは大層驚いた様子でノンナを見つつ、ダージリンにもツッコミを入れる。

 

「さあ、どうでしょうね?」

「……………」

 

ダージリンが惚けて言う傍らで、ノンナは顔を真っ赤にしながらも、ゆっくりと頷いた。

 

「はわわわわわ………………」

「あらあら」

 

カチューシャはアワアワとし出し、ダージリンは面白そうに見ている。

その日、プラウダ高校の応接室では、恋バナで盛り上がる3人の少女の姿が確認されたと言う。


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