ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第57話~助太刀と大暴れ、そして終戦です!~

「進め進めー!知波単魂を世に知らしめろォーッ!!」

「知波単学園バンザーイ!」

『『『『『『バンザーイ!!!』』』』』』

 

紅夜達が決意を固め、行く手を阻む木々を豪快に薙ぎ倒しながら爆走する中、大洗チームと知波単チームの熾烈な砲撃戦は続いていた。

四方八方から攻めてくる知波単の戦車隊に、守りを固める戦術を取った大洗チームは苦戦を強いられていた。

アヒルさんチームの八九式やカメさんチームの38tが撃破されつつ、相手の戦車をそれなりに撃破したものの、大洗では、其々の戦車の弾薬の残りが心許なくなってきていた。

 

「(マズイ……………このままじゃ……………ッ!)」

 

弾薬が残り少なくなる中で砲撃を続行するⅣ号のキューボラにあるスコープで外を見ながら、みほは表情を歪めていた。

その時、五式戦車から放たれた砲弾がカモさんチームのルノーb1に命中し、撃破を示す白旗が飛び出す。

 

『ごめんなさい、カモチーム撃破されました!』

 

それに間髪入れず、みどり子からの通信が入り、みほは苦痛そうに表情を歪める。

カモさんチームのルノーb1も、それなりの火力を持つ。それがやられたとなると、大洗の戦力も大幅に削られたと言う事になる。

 

『西住さん…………』

 

それから少しの間を空け、静馬からの通信が入った。

 

「ど、どうしたの?」

 

辛そうな声色の静馬に、みほは心配そうな声で訊ねる。

 

『そろそろ、此方もやられそうよ……砲弾が残り少ないの………履帯やエンジンはやられてないから、まだ走れるとは思うけど……………それでも、もう、長くは持たないかもしれないわ……………』

「ッ!そ、そんな………ッ!」

静馬に伝えられた彼女等の戦況に、みほは狼狽える。

何せ、静馬が車長を勤める戦車はパンターA型で、パンターとしてはかなり古い部類に入る存在だが、それでも『走・攻・守』においては、現在、知波単チームとの激しい砲撃戦を繰り広げている戦車の中では、最も優れている。

流石に、そんなキーパーソン的存在を失うのは避けたいものだ。

 

「お願い、何とか持ちこたえて!もう直ぐ紅夜君達が来てくれるから、何とか頑張って!」

 

今のみほには、そう言うしか方法は無かった。

自車がフラッグ車である手前、下手な行動は出来ない。たとえ援護しようとしても、それで敵の的になって撃たれたら元も子もない。

そうしている間にも、知波単からの容赦無い攻撃が続く。何時の間にか、相手のフラッグ車である絹代のチハもが参戦している始末だ。

 

「に、西住殿!もう駄目です!砲弾が後10発もありませんし、装甲も長くは…………ッ!」

「ッ!?」

 

正に踏んだり蹴ったりな状況に、みほは頭を抱えて踞りそうになる。

 

「(どうしよう……………どうしたら良いの……………?)」

 

心の中で言うものの、それに答えてくれる者は居ない。

立て続けに聞こえる砲撃音、砲弾が戦車の装甲を叩き、弾かれる音、聞こえる悲鳴や辛そうな声……………この全てが、みほをさらに追い詰めていた。

 

「助けて……………紅夜君!!」

 

その場に居ないと知っていながらも、みほはそう叫ぶ。

そうして、1輌の五式戦車が砲塔をⅣ号に向ける……………その時!

 

「Feuer!」

 

何処からともなく聞こえてきた声に続いて轟音が響き渡り、Ⅳ号に砲塔を向けていた五式戦車が引っくり返り、撃破を示す白旗が飛び出す!

 

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 

突然の出来事に、その場に居た全員が驚愕の表情を浮かべ、先程までゲキラ戦のように爆音続きだった砲撃戦がピタリと止み、全員の視線が森の方へと向く。

森の奥深くから、戦車のエンジン音が小さく響いてくる。その音は段々と大きくなっていき、それと同時に、メキメキと何かがへし折られ、終いには豪快に薙ぎ倒される音が立て続けに響いてくる。

そして今度は、2つの線を描いて機銃弾による横殴りの雨が、知波単チームの戦車隊へ雨霰と降り注ぐ。

突然の機銃弾の雨に、知波単チームが軽いパニックに陥る。

そして、彼女等からして一番手前の木を豪快に薙ぎ倒し、到着するまでに多くの木々を薙ぎ倒してきたのか、砲塔や車体の所々に傷や汚れが付きつつも、機銃を乱射しているIS-2が飛び出してきた。それに続いて、シャーマン・イージーエイトも飛び出してくる。

ライトニングとスモーキーだった。

 

『待たせたなァ隊長!レッド1《Lightning》とレッド3《Smokey》、只今帰還だ!』

そして、みほの元に紅夜からの通信が入る。

 

「ッ!紅夜君!」

 

Ⅳ号のキューボラから上半身を乗り出したまま、みほはそう叫ぶ。

それをIS-2のキューボラから見た紅夜はみほに向けて親指を立て、彼の乗員達に指示を出す。

 

『さあ、野郎共!今こそ大暴れの時だ!蹂躙しろォォォォオオオオオッ!!!』

「「「「「「「「「YES,SIR!!!」」」」」」」」」

 

紅夜が、その森林地帯一帯に響き渡る大声を上げると、レッド・フラッグのメンバー全員からの声が上がる。

砲弾も心許なくなり、窮地に追いやられていた静馬達レイガンのパンターも、調子を取り戻したかのように動き出し、IS-2とシャーマン・イージーエイトに加わる。

 

「ッ!ひ、怯むな!突撃だーッ!」

 

周囲を木々に囲まれた広場で、じゃじゃ馬の如く暴れまわる3輌の戦車に、知波単のメンバーは一瞬怯むが、それでも持ち前の突撃精神で気を奮い起こし、先程まで大洗の戦車に攻撃を仕掛けていた戦車は、その標的をレッド・フラッグの戦車3輌に変更し、一斉に襲い掛かる。

 

「来やがったぜ……………どうするよ、紅夜?」

 

広場の外周を走らせながら、達哉はそう聞く。

紅夜は鋭い目を達哉に向けると、何も言わず、ただコクリと頷いた。

 

『んなモン決まってらァ!全てぶちのめせ!!戦車1輌として無傷で帰すな!!』

 

そして紅夜は、声を荒ぶらせて言った。

久々の乱闘じみた戦闘で気が昂っているのか、その表情には狂気にも見えるような雰囲気が現れ、達哉には、紅夜の全身からドス黒いオーラが溢れ出ているようにも見えた。

 

「…………りょーかい、紅夜」

 

紅夜から返された、荒々しい返答で紅夜の意思を悟った達哉はそう言って、目を瞑った。

 

「そんじゃあ………………久々に、戦車同士の殴り合いと行こうぜェェェェェェエエエエエエッ!!!」

 

そして、目をカッと見開いた達哉は、IS-2のギアを最大にまで上げてアクセルを踏み込む。

IS-2は、車体後部の両サイドにある排気口から白煙を勢い良く噴き上げ、エンジンの雄叫びを響かせながら、向かってくる知波単の戦車に襲い掛かった。

 

「先ずは1輌目……………オラァ!!」

 

そうして達哉は、真っ先に向かってきた旧型砲塔のチハの1輌に突撃し、文字通りに『車体をぶつけ、弾き飛ばした』。

 

「「「「きゃあああああああああっ!!!?」」」」

 

車体を勢い良くぶつけられ、チハは右方向に傾く。その隙に、照準を合わせていたイージーエイトからの76,2mm砲弾が叩き込まれ、チハは傾いた状態から立て直され、同時に白旗が飛び出した。

 

「やるわね、兄様……………なら、今度は私が相手よ!」

 

その光景を見ていた綾は操縦手に指示を出して五式をIS-2へと向かわせる。

殆どが深緑の迷彩色である知波単の戦車に対し、綾が乗る五式は、あたかも綾のためのオーダーメイドかと言えるような感じの黄色だった。

五式はIS-2の車体に勢い良くぶつかると、そのまま重量の差で弾かれ、逃げるように離れていく。

これは、綾が考えた挑発作戦だ。

そんな事は、兄である紅夜は既に気づいていたが、あえて相手の作戦に乗る事にしたのだ。

 

「達哉!あの黄色の五式を追え!」

「Yes,sir!!」

 

紅夜の指示で、達哉は綾の五式を追う。

車体部分の機銃を乱射しながら追うが、綾の五式は上手い具合に銃弾を避ける。

 

『逃がすなよ、祖父さん!』

「I'm just toying with them(遊んでやってるんだ)!」

通信を入れてきた大河に、紅夜はそう返す。

 

「翔、仕留めろ!」

「Yes,sir!」

 

そうして、翔はスコープを覗いて砲塔を回転させ、逃げ回る五式に照準を合わせる。

 

「This is for you,pretty boy,with your bright yellow nose(黄色の鼻先野郎が)!」

「照準、良し!」

 

紅夜が呟いていると、翔が言った。

 

「All right……………Feuer!」

 

紅夜が言うと、翔は引き金を引く。爆音と共に122mm砲弾が放たれ、五式目掛けて飛んでいく。

 

「Come on,boy. Line it up. One shot(コイツを喰らえ)!」

 

紅夜がそう呟いている間にも、砲弾は五式へと吸い込まれていき、見事にエンジン部分に叩き込まれ、五式からも白旗が上がる。

 

『Felicitations(おめでとう)!見事に五式を撃破ね!』

 

静馬は流暢なフランス語で、紅夜達に労いの言葉を掛ける。

 

『Whoo-hoo!We can go back victorious(大逆転だぜ)!!』

 

それに続いて、大河も興奮した様子で流暢な英語を喋る。

 

そして、その光景を見ていた残りの戦車が一斉に襲い掛かり、レッド・フラッグの戦車達は、その全てを蹂躙する。

達哉が操縦するIS-2は、向かってくる知波単の戦車相手に次々と体当たりを仕掛けて知波単の戦車を撥ね飛ばし、乗員をパニックに陥らせ、その隙に自車やレイガン、スモーキーが砲弾を叩き込む。

 

「さぁ、後はお前が勝負を決めろ。あんこうチーム」

 

そうしてフラッグ車を除く全ての知波単の戦車を殲滅し、キューボラから上半身を乗り出した紅夜はそう呟き、絹代が乗るチハと対峙するⅣ号の方を見やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅夜君達が頑張ってくれたんだから、絶対に此処で勝つ……………前進!」

 

みほがそう言うと、麻子はⅣ号を急発進させる。

 

「此方もお相手致しましょう……………突貫!」

 

それを見た絹代も勝負に出たのか、Ⅳ号へ向けてチハを突撃させる。

そして、両方の戦車がすれ違い様に、相手の戦車へと砲身を向け……………

 

「「撃てェッ!!」」

 

同時に放たれた掛け声を皮切りに、2輌の戦車から砲弾が撃ち出されて相手の戦車へと叩き込まれ、爆発が起き、黒煙が其処ら中に舞い上がる。

 

『『『『『『『『『『……………………』』』』』』』』』』

黒煙によって2輌の様子が分からなくなり、その広場は静寂によって支配される。

撃破された大洗や知波単の戦車の乗員は、其々の戦車から降り、ダメージが蓄積していたレイガンのパンターが撃破されながらも、襲いかかってきた絹代の乗るチハ以外の知波単の戦車全てを撃破したレッド・フラッグのメンバーも、同様に戦車から降り、黒煙を睨み付ける。

やがて、その黒煙はゆっくりと晴れていき、完全に視界が開けた時、彼等の目には……………

 

 

 

 

 

 

 

 

黒煙を上げ、白旗が出ているチハと、同じく黒煙を上げていながらも、白旗は出ていないⅣ号の姿があった。

 

『知波単学園フラッグ車、九七式戦車チハ含む全ての戦車の行動不能を確認!よって、大洗女子学園の勝利!』

 

其所へ、大洗チームの勝利を告げるアナウンスが響き渡るのであった。


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