ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第56話~大苦戦と、大暴れの予感です!~

大洗女子学園戦車道チームと知波単学園戦車道チームとの練習試合は、紅夜率いるライトニングと、大河率いるスモーキーの2チームが、三式と四式を撃破した事以外では両チームとの大した接触が無く進んでいた。

そんな状態が長々と続くのかと思いきや、それは知波単チームの罠で、彼女等の目的は、大洗チームでは最強クラスの実力を持つ、レッド・フラッグのメンバーを本隊から少しでも外して時間を稼いでいる間に、知波単チームの本隊が大洗チームの本隊に奇襲攻撃を仕掛ける事だったのだ!

その作戦に気づいた紅夜は、その事をみほに伝え、スモーキーチームと共に大洗チーム本隊の援護のために急行するが、其所では既に、偵察に出ていたアヒルさんチームが知波単チームの本隊と遭遇し、集団で襲われていたのであった……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「兎に角根性だ!せめて1輌ぐらいには当てろォーッ!」

「はいっ!」

 

知波単チームの本隊から逃げ、大洗チームが待っているポイントへと向かうアヒルさんチームは、相手の戦力を少しでも減らそうと、逃げながらの砲撃を試みていた。

比較的狙いやすい位置に居た五式戦車に狙いを定め、あけびは引き金を引き、57mm砲弾が放たれる。

だが、その砲弾は五式の側面装甲に擦れるような形で当たり、撃破には至らなかった。

そして、何処ぞの銀行員が言う倍返しならぬ13倍返しと言わんばかりに、知波単チーム本隊からの集中攻撃が始まり、アヒルさんチームのメンバーが悲鳴を上げる。

闇雲に撃っても無駄弾になるだけだと判断した典子は、操縦手である忍に、相手が自車を狙いにくいように蛇行しながら走るように命じ、本隊が待つ、紅夜達との合流予定のポイントへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

その頃、大洗チーム本隊が待っている地点では……………

 

『先輩、お待たせしました!ウサギチーム、只今帰還です!』

 

偵察に出ていたウサギさんチームのM3が紅夜達との合流地点に戻ってきて、後はアヒルさんチームの八九式が本隊に合流し、続けざまに紅夜達も合流すれば、最後は知波単チームの戦車隊を殲滅するだけとなっていた。

 

「後はアヒルさんチームと紅夜君達が合流するのを待つだけ……………ッ!?」

 

近づいてくるM3を見ながらみほが呟くと、その次の瞬間には、突然飛んできた砲弾がⅣ号の近くに着弾した。

砲弾が飛んできた方向を睨むと、アヒルさんチームの八九式が茂みの壁を突き破って飛び出してきた。

これで、紅夜達ライトニングとスモーキーの2チーム以外の全チームが集結した。

 

「全車両、あんこうの周囲を囲うように配置してください!恐らく敵は四方八方から集団で攻めてきます。満遍なく、全方向に主砲を向けてください!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

そして、その場に居るⅣ号以外の戦車が動き出し、みほの指示通りにⅣ号を守る形で周囲を囲むように配置する。

その次の瞬間、アヒルさんチームが飛び出してきた茂みから、知波単学園の戦車隊が一斉に飛び出してくる。

 

「砲撃開始!」

 

みほの指示で、Ⅳ号、Ⅲ突、そしてルノーb1が発砲する。

 

「全車、四方へ散れ!周りから攻め込め!」

 

砲撃を喰らって黙っているような知波単チームではない。

絹代は、フラッグ車である自分のチハを停車させて他の戦車に指示を出し、みほ達の前へは九五式と五式、そして旧型砲塔のチハが1輌ずつ、さらに新型砲塔のチハ1輌が攻め込み、みほ達の後ろからは、九五式と五式1輌ずつに、三式と四式が1輌ずつ、そして左右を挟むように、新型砲塔のチハ2輌の小編成チームと、残った旧型砲塔のチハと新型砲塔のチハ1輌ずつのチームが攻め込む。

 

「アヒルさんチーム、ウサギさんチーム、カメさんチーム、レイガンチームの皆さんも、砲撃を開始してください!」

『『『『了解!』』』』

 

みほの指示を受け、Ⅳ号の後部を守るように配置した4チームの戦車も砲撃を開始する。

それに負けじと、知波単の戦車も砲撃を繰り出し、周囲を木々に囲まれた草原の真ん中を舞台に、激しい砲撃戦が繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、こりゃとうとう間に合わなかったな……………もう向こうではドンパチ戦が始まってらぁ」

 

相変わらず、どれだけ進んでも視界に見える景色が殆んど変化しない森林地帯を疾走している2輌の内、IS-2のキューボラから上半身を乗り出した紅夜は、遥か前方で聞こえる砲撃音を聞きながら呟いた。

この2輌の速度は、時速30km後半になり、そのスペック的に言えば、みほ達本隊と知波単チーム本隊が衝突している地点へは然程時間は掛からない筈なのだが、何せ彼等が進んでいるのは森林地帯で、当然ながら周囲には木々が生い茂っている。

それらを避けながら進んでいくとなると、必然的に速度は落ちる。それに蛇行して進む訳なので、余分な距離を走らせなければならなくなり、さらに時間が掛かる。

正に、木々が生い茂る南の島を舞台として試合をする際の『あるある』とも言うべき状況である。

 

「迂回して行こうにも、その合流地点って、周囲全部木で囲まれてる訳だから、この森の中を突っ切るしか、行き方が無いんだよなぁ……………」

 

紅夜が溜め息をつくと、隣を走るイージーエイトのキューボラから上半身を乗り出した大河が言った。

 

「祖父さんよ、其処で溜め息ついたって何も始まらねえよ。兎に角今は、あの場に着く事を考えようぜ」

「あいよ……………達哉、もう少しコイツを飛ばせねえか?もう少しで良い」

「ふむ……………まぁ、一刻を争うような状況だし、此処は1発、やってみますか、ねっとォ!」

 

そう言って、達哉はギアを上げてアクセルを踏み込み、IS-2の速度を上げていく。

 

「向こう側もやるなぁ……………千早、此方も行くぞ!」

「了解、任せといて!」

 

大河が言うと、操縦手の千早がそう答え、達哉がやったようにギアを上げてアクセルを踏み込み、イージーエイトの速度を上げていった。

 

 

 

 

 

 

『こ、此方アヒルチーム!五式に撃破されました!』

『西住隊長!M3の主砲が壊されました!』

『隊長!走行車輪がやられた!まだ戦えはするが、方向転換が出来そうにない!』

「くっ!」

 

その頃、紅夜達との合流予定のポイントで知波単チーム本隊との砲撃戦を繰り広げている大洗チーム本隊では、数で突っ込んでくる知波単の戦車相手に苦戦を強いられていた。

元々その場に居た戦車は、大洗側7輌に対して、知波単は13輌。ほぼ2倍の戦力が投入されているのだ。

おまけに、相手の五式戦車の主砲は88mmで、非常に高い火力を誇る。それが2輌も居れば、どのような状況なのかは考えたくもない。

だからと言って、大洗側だけが一方的にやられている訳ではなく、左右から攻めてきた新型砲塔のチハ3輌と旧型砲塔のチハ1輌、九五式全車両を撃破したのだが、それでも五式はしぶとく狙ってくる。

余談であるが、2輌ある五式の内の1輌の車長は、紅夜の妹である綾だ。

同好会チームとしては最強と呼ばれた《RED FLAG》の総隊長としてチームを引っ張ってきた紅夜に似ているのか、彼女の乗る五式戦車は、戦車道の精鋭揃いが乗っているが如く戦場を駆け回る。

因みに、アヒルさんチームの八九式を撃破し、ウサギさんチームのM3の主砲を破壊したのは、彼女が乗る五式である。

 

「西住殿!残りの弾数が少なくなっています!もう長くはもちません!」

「みぽりん!カメさんチームがやられたって!」

 

真ん中で他の戦車に守られているⅣ号も、もう自衛手段が無くなりつつあった。

そしてみほは、衝動的に喉頭マイクに手を当てていた。

 

「(お願い、紅夜君……………出て……………)」

 

そう願いながら、みほは通信が繋がる音と共に叫んだ。

 

「紅夜君!」

 

 

 

 

 

 

 

『紅夜君!』

「うわビックリした!西住さんか……………」

 

突然大声で呼ばれた紅夜は、驚きのあまりに後ろに倒れてキューボラの角で頭を打ちそうになるものの、それを何とか堪えて体勢を立て直し、インカムを持つ。

 

「どうした?」

『お願い、もっと急いで!もう此方だけじゃ長くは戦えない!』

 

そう言って、みほは捲し立てるように現在の戦況を早口で述べる。

その切羽詰まった声色が、その苦境を物語っていた。

 

『そ、そう言う訳だから、兎に角おねが……きゃあっ!?』

「え、西住さん?おい、どうした!?返事しろ!おい!」

 

突然通信が途絶え、紅夜は焦る。

 

「おい、祖父さん……………」

「あぁ、スッゲーヤバイ状況だ……………畜生、この木が無けりゃ……………ッ!」

 

そう呟き、紅夜が右に握り拳を作って振るわせ始めた時……………

 

『大丈夫だよ………』

「ッ!?」

 

突然、語りかけるような優しい声音が聞こえる。

紅夜は一瞬表情を固まらせるが、他の乗員が気づいていないのを見る限り、それが自分にしか聞こえていないのを悟った。

 

『このまま、木なんか気にしないで、突っ切って……………私なら、大丈夫だから』

「(……………良いんだな?後で傷出来て喚くんじゃねえぞ?)」

『うん……………さぁ、やって!あの時みたいに、思いっきり暴れようよ!』

「(……………おう!)」

 

その声に、紅夜は力強く頷き、達哉に言った。

 

「おい、達哉!このまま突っ切れ!木なんか気にすんな!行く手阻むヤツは全部薙ぎ倒しちまえ!!」

「うぇっ!?いきなり何て滅茶苦茶な注文付けんだよ紅夜!?危なすぎるぞ!」

 

達哉はそう言うが、紅夜は頑として聞かない。

 

「そんなモン言われんでも知ってらァ!だがな、今気にすんのはそれじゃねえだろ!このまま何も出来ず、彼奴等がやられる結果になっても良いってのか!?今の俺等がやるべき事は、一刻も早く彼奴等の助太刀をする事だろォが!!」

「ッ!」

 

その言葉に、達哉はハッとする。

 

「………そう、だな……………にしても今更な台詞だぜ。もっと早くにその台詞言いやがれやアホンダラ」

 

そう言って、達哉はアクセルを吹かしてエンジンの回転数を上げる。

車体後部の両サイドに付けられた排気口からは白煙が噴き上げられ、513馬力を誇る液冷V型12気筒ディーゼルエンジンの咆哮を響かせる。

 

その様子を見ていた大河は、紅夜達が何をしようとしているのかを悟ったのか、千早に指示を出してIS-2の背後にイージーエイトをつかせる。

 

「そんじゃあ……………行くぜェェェェェェエエエエエエッ!!!」

 

その雄叫びと共に、達哉はアクセルペダルを押せなくなるまで一気に踏み込む。

IS-2の両サイドの排気口は一瞬ながら火を噴き、アクセルを全開にされたIS-2は、加速の勢いで車体前部を軽く浮かせ、進行方向に立って行く手を阻む木々を薙ぎ倒しながら爆走を始める。

 

「うへぇ~、こりゃまたド派手に暴れてんなぁ……………良し、千早!俺等も続くぞ!祖父さんに遅れを取るなよォ!?」

「言われずとも了解ってね!」

 

そう返し、千早もイージーエイトのアクセルを全開にしてIS-2に続く。

 

「さぁ、戦場に着いたら思いっきり暴れてやるぜ!覚悟しやがれ、知波単の戦車共ォォォォオオオオオッ!!!」

 

迷いの無い紅夜の雄叫びが、森林地帯一帯に響き渡る。

行く手を阻む木々を薙ぎ倒しながら爆走するIS-2と、それに続くシャーマン・イージーエイト。

この2輌が爆走を始めたその時……………レッド・フラッグの大暴れと言う曲の前奏が始まったのであった。




タグを追加して思った。
『ファンタジー要素突っ込んで何が悪い!』と……………


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