ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第1話~風潮、めんどくさいです!~

「やれやれ、少し早すぎたかな……やっぱ俺、時間を逆算するのとか苦手だな、マジで………」

 

あの試合から約1年が経ち、此処は、県立大洗女子学園の保有する学園艦の町外れにある、木々が生い茂る山。

 

その頂に建っている、少し古びた横長の格納庫の壁にもたれ掛かり、紅夜は呟いた。

 

今は朝8時。休日ならば、大概の子供が眠い目を擦りながら起きてくる時間帯だ。そんな中で古びた格納庫の前に立つというのは、また何とも言えない光景である。

 

「お前って、そうやって立ってると、服装によっちゃあ彼氏さんの到着を待ってる美女さんにしか見えねえよなあ~………………ホントになんでお前、男に生まれたんだ?女に生まれりゃ良かったろうに」

 

横から聞こえた声に振り向くと、黒髪に赤い目をした青年――辻堂 達哉――がやって来た。

 

「よお達哉。お前も案外早く来たんだな」

 

達哉の方を向いた紅夜は、軽く右手を上げて会釈する。それに達哉も同じように会釈すると、紅夜の横に並んで立って言った。

 

「ああ、何故か目が覚めちまってよ。そのまま二度寝するのも良かったんだが、それやったら寝過ごしそうだし」

「それは言えてるな……………それとだが達哉。俺は男だし、俺が男として生まれた理由も知らん。次に女みたいだって言ったら、砲弾でぶん殴るぞ」

「悪い悪い、だがホントの事だろうが。お前って服装は男っぽいけど、顔は比較的女寄りだから、どうしても女に見えるんだよ。それに、髪も長いから尚更だな」

「そう言われてもなぁ………髪伸ばしてんのは趣味みてぇなモンだし………………」

 

達哉に言われ、紅夜は背中まで伸びている緑色の髪を触りながら呟く。

緩やかに吹く風に靡く紅夜の髪は、女性のようにサラサラしたものであるが、その髪の持ち主が男では、何とも言えないものである。

それが顔つきも女性寄りである分、余計にタチが悪い。

着ている服も、ジャーマングレーのパンツァージャケットであるため、女性味など皆無に等しかった。

 

因みに、彼が髪を切らない理由は……………………

 

『一々散髪に行くのめんどくさいし、外国(特にアメリカ)じゃあ男でも髪伸ばして、リボンとかで纏めてるのも居るから、俺が髪伸ばしていても問題ねえだろ』

 

との事である。

 

其所へ砲手の翔が、黒髪にアホ毛頭が特徴の青年と共にやって来た。

 

「よお、また紅夜いじりしてんのか?達哉」

「おお、翔。来てたのか」

「ついさっきな。それにホラ、勘助(かんすけ)も居るぜ。さっき偶然会ったんでな」

「よぉ、紅夜」

 

翔がそう言うと、翔の横に居た、黒髪にアホ毛頭の青年が右手を上げた。

彼は藤原 勘助(ふじわら かんすけ)。紅夜のチーム、レッド・フラッグにて、IS-2の装填手である。

 

 

「あっ。そういやだが、今日はレイガンやスモーキーの連中は来れねえとさ。皆用事があるんだそうだ。因みにレイガン全員とスモーキーの女子2人の理由は学校で、男子陣はチームの人数不足」

「あ~、そういや確かにそうだったな。レイガン全員とスモーキーの女子2人って、確か大洗女子学園の生徒だったしな。つか、『チームの人数不足』とか、自棄に新しい欠席理由だな」

「つーかその欠席の理由、全然用事じゃねえじゃねえかよ。レイガンとスモーキーの女子陣なら未しも、何だよ『チームの人数不足』って?そんな理由聞いた事ねぇぞ」

 

思い出したかのように言う勘助に、紅夜は生返事を返しつつも、スモーキーの男子陣の欠席理由に苦笑いを浮かべ、達哉が冷めた声でツッコミを入れる。

 

「まあ、それなら仕方ねえな。スモーキーの男子集めても、人数足りねえ時点でアレだし、そもそも操縦手が女子だから仕方ねえか……………よし!じゃあ、戦車でこの辺り一周したら解散でいっか」

「お前って、何時もよくそうやって、ポンポン物事決められるよな。何の戸惑いもねえから、逆に尊敬するぜ」

「尊敬してくれるのは嬉しいが、この際仕方ねえだろ。なんせ今、俺等ライトニングの1チームしか居ねえんだからさ」

「まあ、確かにそうだけどさ……………」

「でもさあ、どうせ朝走るなら、昼からもちょっとばかり走り回ろうぜ」

「俺もそうしたい」

「ああ、流石に朝走って終わるってのは空しすぎるからな」

3人がそう言うと、紅夜は頷いた。

 

「じゃあ、俺は格納庫から戦車持ってくるわ」

「ホントに持ち上げてくるなよ?」

「紅夜じゃあるめえし」

「おい待てやコラ、今のどういう意味か説明しやがれ達哉」

 

冗談じみた顔で翔が冷やかすと、ツッコミを入れる紅夜を無視し、達哉はそのまま格納庫の中へと入っていった。

 

それから約1分後、戦車のエンジンがかかる音が聞こえ、勘助と紅夜が格納庫の扉を開ける。

そして、挟むように置かれている2輌の戦車の間から、ジャーマングレーのソ連戦車、IS-2重戦車がゆっくりと出てきた。

フェンダー部分に、風に靡く赤色の旗が描かれ、砲身には、アルファベットで《Lightning(ライトニング)》と白のペンキで書かれている。

 

「さて、俺達も乗るか」

「「おう!」」

 

紅夜が言うと、翔と勘助が威勢良く返事を返し、先にIS-2の砲塔へとよじ登り、キューボラハッチから中へと入っていく。

紅夜もフェンダーに飛び乗ると、そのまま砲塔のキューボラハッチの上に飛び乗り、車長の座る席へと腰かける。

 

「お前ら、準備は出来たか?」

「「「勿論!」」」

「達哉、IS-2の調子は?」

「ああ!何時ものように絶好調だぜ!燃料も満タンだ!」

「翔、砲塔はちゃんと回るか?」

「おう、昨日手入れしたからな!」

「勘助、砲弾は?」

「全部入ってるよ。携行弾数28発、全部OKだ」

 

其々が、担当する役割の調子の良さを嬉しそうに言う。

それに紅夜は頷き、言った。

 

「では、たった1輌しか居ねえが、Panzer vor!!」

 

紅夜の声を皮切りに、達哉はアクセルのペダルを思いきり踏み込んだ。

IS-2は一瞬、後ろに倒れるかのように巨体を上に向けたが、それでも勢い良く、前に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、走った走った!大満足だぜ!」

 

走り終えたIS-2の操縦手用のハッチから外へ飛び出した達哉は、体を伸ばしながら言った。

 

「ああ。お前、運転してる最中に急にスイッチ入ってブッ飛ばしやがったからなぁ、お陰でハッチの角で頭ぶつけたぞ」

 

キューポラハッチから出て、そのまま砲塔から地面に飛び降りた紅夜が不満を溢す。

 

「悪い悪い、運転中に急にテンションが、ハイッ!ってヤツになってだな」

「「「ワケ分からんわ!!」」」

 

苦笑いしながら言い訳を述べた達哉に、他のメンバーからの突っ込みが飛んだのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

「そういやさ、此処の学園艦持ってるって言う学校、確か大洗女子学園って言ったっけ?あの学校って戦車道やってたっけ?」

「いや、かなり前はやってたみたいだがな…………」

 

昼になり、近くのレストランに入った4人は、そうやって世間話をしていた。

これが、何時もの彼等の日常の1つでもある。

「まあ、何だかんだで同好会の試合を引退して、趣味で戦車を乗り回すだけの集団になっちまった訳だが………………」

「引退『した』と言うより、『させられた』と言った方が正しいと思うがな。何だっけ?黒森峰とやった後、何か知らねえけど『戦車道は女子の嗜みというイメージが崩れて世の中が混乱したら此方が困るから引退してくれ』とか、何か連盟のクソ野郎がほざいてやがったっけなぁ…………はした金代わりに戦車の維持費負担で体よくお払い箱にしやがって」

「おい翔、流石に此処でキレるのは止めろ」

 

過去の事を思い出し、殺気を撒き散らし始めた翔をたしなめ、紅夜は言った。

 

「まあ兎に角だ、連中がああ言うなら、俺達は試合には出ない。維持費とかを連中が負担するってんならさせてりゃ良い。試合出来ないのは正直残念で仕方ねえが、そう思ったところで何も変わらねえなら、今の生活を楽しもうぜ。戦車が残っただけでもありがてえじゃねえか」

「そうだけどさ」

 

紅夜の言う事に、いまいち腑に落ちないような雰囲気を醸し出しながらも、翔は頷いた。

 

「さあ、こんなシケた話はちゃっちゃと止めて、飯食おうぜ」

「「「おー」」」

 

そうして、彼等は昼食を摂り始め、それを終えると、レストランから出て、再び格納庫へと舞い戻るのであった。

 

 

 

 

 

「んじゃ、また集まる日に連絡するよ」

「あいよ」

「「じゃあな~!」」

 

そうして、格納庫へと戻った4人は、再びIS-2を駆り、格納庫周辺を走り回った後、夕方になったのもあり、そのまま解散した。

 

「ヤレヤレ、今のご時世の風潮ってのはホントにめんどくせえなぁ………………なんで男が戦車道やっちゃいけねえんだよ………男にだって、戦車道で学べる事がある筈だってのによぉ………」

 

そう言って、紅夜は溜め息をつきながら、家路につくのだった。


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