ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第53話~試合、開始です!~

「えー、そんじゃ、今回の練習試合の形式を発表するよ~」

 

海での紅夜争奪戦の終わりに伴って海での自由時間も幕を下ろし、更衣室で着替えて試合の待機場所に移動してきた、大洗女子学園戦車道チーム+α(レッド・フラッグのメンバー)は、戦車の用意を済ませ、作戦会議に入っていた。

其所へ杏が話を切り出してきて、今に至る。

 

「先ずは、準決勝のレギュレーションで試合するから、使用戦車の最大は15輌で、勝敗の決め方はフラッグ戦。相手の使用戦車は旧型砲塔の九七式戦車チハ3輌と、その新型砲塔バージョン4輌。それから九五式軽戦車、三式中戦車、四式中戦車に五式戦車が其々2輌ずつだね」

「対して我々は、Ⅳ号と八九式、Ⅲ突にM3、38t、それからルノーに………」

「レッド・フラッグの3輌。IS-2にパンターA型、そしてシャーマン・イージーエイトですね」

 

杏が相手の使用戦車を言うと、桃が大洗側の使用戦車を言い、柚子が付け加える。

 

「やはり、最大数の戦車を投入してきたか………」

「まぁ練習試合とは言え、態々試合で使える最大数以下の戦車出してくるなんてハンデはくれないし、そもそもそんなハンデ、君達なら拒否りそうじゃない?」

 

紅夜の呟きに、杏がからかうような視線を向けて言う。

 

「……………たりめーだ、試合にハンデなんぞ要らねぇよ」

 

杏の言葉に、紅夜は獰猛な笑みを浮かべて返した。赤色の瞳がギラリと光り、口調もかなり荒くなる。

 

「ワーオ、燃えてるねぇ紅夜君」

 

その様子に大洗側のメンバーが怯む中、杏は怯むどころか、満足そうな笑みを浮かべて返す。

 

「長門、試合に向けて燃えているのは分かったから、その妙なオーラをしまってくれ」

 

紅夜から溢れ出すオーラに圧されているのか、冷や汗を流しながら桃が言う。

 

「ああ、すみません河嶋さん。どうも俺、試合となったらこうなってしまう質でして」

 

紅夜はそう言いながら、溢れ出ているオーラをしまう。

獰猛な笑みは、何時ものように陽気な笑みへと戻り、メンバーは安堵の溜め息をつく。

 

そうして杏が時計を見ると、試合開始時間が間近に迫ってきていた。

 

「おっ、もう直ぐ始まるなぁ……………良し、それじゃあ行こうか!……………と、その前に、西住ちゃん!」

「は、はい!?」

 

いきなり名前を呼ばれ、みほが前に出てくる。

 

「隊長として、皆に一言どーぞ!」

 

杏が言うと、みほはゆっくりと頷いてメンバーの方を見る。

そして深い深呼吸の後に……………

 

「皆さん!これは練習試合ですが、頑張りましょう!」

『『『『『『『『オオーーーッ!』』』』』』』』

 

そうして、メンバーの士気が最高潮まで上り詰めた状態で、一同は観客席前へと移動した。

 

 

 

 

 

 

《これより、知波単学園戦車道チームと、大洗女子学園戦車道チームの練習試合を開始する。一同、礼!》

『『『『『『『『『『よろしくお願いします!』』』』』』』』』』

 

アナウンスの合図で挨拶を交わし、其々のチームのメンバーが自分達の戦車の元へと向かい、次々に乗り込んでいく。

「西住さん。改めまして、知波単学園戦車道チーム隊長、西絹代です。今日はよろしくお願いします」

「大洗女子学園戦車道チーム隊長、西住みほです。此方こそ、よろしくお願いします」

 

知波単側の生徒が戦車に乗り込んでいく中、その場に1人残った絹代は、みほに話し掛けていた。

試合開始前に、隊長同士で挨拶を交わしておきたかったのだろう、絹代は右手を差し出し、握手を求める。

みほはその挨拶を快く受け、差し出された絹代の右手を、自分の右手で掴んで握手を交わす。

 

「それにしても……………」

 

不意にそう言いかけ、絹代は目線をみほよりも奥の方へと向けた。

その事に、みほは首を傾げるものの、絹代の視線の先に居る者を視界に捉えると、納得したように微笑んだ。

 

2人の視線の先では、円陣を組もうとしているレッド・フラッグのメンバーに混ざろうとしていた紅夜が2人からの視線に気づき、手を振っていたのだ。

 

「今になっても、彼は変わりませんね。何時も陽気で、人を明るくして、それでいて頼れて……………」

 

そう言いながら、絹代は頬を赤く染める。それに気づいたみほは、おずおずと話を切り出した。

 

「あの、もしかして西さんは、紅夜君の事が……………?」

 

そう訊ねると、絹代は口で答える代わりにコクりと頷いた。

 

「ですが、何故か中学での試合以来、彼からは怖がられるんです。アプローチの仕方が悪かったのでしょうか……………」

 

そう言って、絹代は深く溜め息をついた。

 

「(まぁ、辻堂君から聞いた話だと、紅夜君に怖がられても無理はないと思うんだけど、絶対に気づいてないよね、その事に……………)」

 

そう思い、みほは内心で苦笑する。

 

「ですが」

 

そうしていると、何時の間にか絹代がみほの直ぐ目の前に居た。

 

「絶対に負けません。たとえライバルが多くても、私が彼に向ける恋情は、本物ですからね」

 

そう言って、絹代は自分のチームに戻っていった。

みほは絹代が戻っていくのを見届けると、自分のチームの方に戻っていった。

 

 

 

 

 

「父なる神よ、栄光の日に感謝します。陸を駆けるなら陸の神の、飛ぶ時は天使の加護をお願いします」

 

メンバー全員が目を瞑り、肩を組んで下を向き、十字架のネックレスを下げた静馬が《戦前の誓い》の最初の句を述べる。

 

「これまでの勝利が、全て神の計画であったものであると、自信はありますが……………力をお貸しください、勝利の神よ。そして、我等の視野と視力よ」

 

そう言って静馬は、間に大河を挟んでいるため、必然的に触れ合う事になる紅夜の左手を握った。

紅夜は一瞬ながら目を開けて静馬を見るが、軽く笑みを浮かべて再び目を瞑る。

 

「我等のスピードとパワーを、この試合の勝利のために、イエスの名において祈ると共に、全力を出す事を此処に誓います。Amen」

『『『『『『Amen』』』』』』

 

静馬の一言に続いて他のメンバーも言うと、紅夜が声を上げた。

 

「Nothing's difficult(困難は無い)!」

『『『『『『Everything's a challenge(全てが挑戦)!』』』』』』

「Through adversity(困難を乗り越え)……………」

『『『『『『To the stars(空へ飛び立て)!』』』』』』

「From the last tank,to the last bullet,to the last minute,to the last one,we fight(最後の1輌、最後の1弾、最後の瞬間、最後の1人になるまで、我々は戦う)!」

『『『『『『We fight(我々は戦う)!』』』』』』

「We fight!!」

『『『『『『We fight!!』』』』』』

「We fight!!!」

『『『『『『We fight!!!』』』』』』

 

そうして、レッド・フラッグのメンバー、総勢14人は、自分達の戦車へと駆け寄り、次々と乗り込んでいく。

そしてあっという間に、その場にはIS-2の前に立つ紅夜のみが残された。

 

「……………頑張ろうぜ、相棒」

 

IS-2に歩み寄った紅夜が、車体前部の装甲に手を触れ、小さな声で言う。

その瞬間、紅夜はIS-2の冷たい車体から、熱い鼓動を感じた。まるで、目に見えない手が、紅夜の手を包んでいるかのように……………

 

「そうか、お前も暴れてぇんだな……………良し、そんじゃあ思いっきり暴れてやろうぜ!」

 

紅夜がそう言うと、IS-2のエンジンが独りでにかかり、後ろから激しい白煙を噴き上げながら、搭載されている、513馬力を持つエンジン--液冷V型12気筒ディーゼルエンジン--が雄叫びを上げる。

自分の言葉に呼応するかのように、車体後部から白煙を噴き上げるIS-2の姿に興奮していると、キューボラから達哉が飛び出してきた。

そのまま転げ落ちるような勢いで出てくると、紅夜に詰め寄った。

 

「おいちょっと紅夜ァ!?何かIS-2のエンジンが独りでにかかったんだが!?コイツってアレなん?アレな戦車なん!?」

「知るかよ。それに、コイツがアレな戦車でも、俺等の相棒だろうが。勝手にエンジンかける程、コイツも暴れたくて仕方ねえって事だろうよ」

 

そう言って、紅夜は砲塔の上へと飛び乗る。

腑に落ちないような顔をしていた達哉も、気にしない事にしたのかそれ以上の言及はせず、IS-2のアクセルを吹かした。

 

その横で、2つのエンジンの始動音が鳴り響く。

キューボラから上半身を覗かせた紅夜が横を見ると、エンジンの唸りを響かせながら、試合開始の合図を今か今かと待ちわびている、パンターとシャーマン・イージーエイトの姿があった。

 

「そんじゃ、何時ものアレ、やろうかな」

 

紅夜はそう呟き、インカムを持って2輌に通信を入れた。

 

「此方、レッド1《Lightning》。レッド2《Ray Gun》、レッド3《smokey》、各車状態を報告せよ」

『レッド2《Ray Gun》、異常無し。皆ヤル気満々よ』

『レッド3《Smokey》、同じく異常無し。早く試合が始まってほしいぜ』

 

紅夜が言い終えたのと大した合間を入れず、2チームからの返事が返される。

 

そして紅夜は、IS-2の左隣に居るパンターとは逆、右隣に居るⅣ号を見た。

キューボラから上半身を覗かせたみほが紅夜の視線に気づき、微笑む。

紅夜も微笑み返すと、敵影の見えない遥か前方を見据える。

 

そして、上空に照明弾が打ち上げられ、大きな音を試合会場一帯に響かせる。

 

《試合、開始!》

「「Panzer vor!!」」

 

試合開始を告げるアナウンスが聞こえたみほと紅夜は、2人同時に声を上げ、大洗女子学園戦車道チーム、全9輌の戦車が動き出した。


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