ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第50話~ウォーター・ウォー!その3です!~

今は亡き者となっている筈の《白虎(ホワイトタイガー)》隊長、八雲蓮斗との接触を経た紅夜と、戻ってきて合流した達哉が水着売り場に戻ってきている中、みほは売り場を歩き回っていた。

 

「うわぁ~、秋山さんが言った通り、本当に色々な種類がある。これじゃ、どれにしようか悩みすぎて時間掛かっちゃいそう……………」

 

みほはそう呟きながら、立ち並ぶ水着の列を見渡す。

みほの視界には、様々な形や色を持つ水着がズラリと並んでいる。

ビキニタイプ、ハイレグタイプ、ボディースーツタイプ等の形もさることながら、赤、青、緑や黄色、花柄、チェック柄、迷彩柄等、色や柄も様々な種類が揃っている。

 

「(男の子も居るんだし、あまりセンス無いのは選びたくないな……………)」

 

そう思いながら歩き回っていると、ふと、その脳裏に紅夜の顔が浮かんだ。

サンダース戦以降から、紅夜に特別な感情を抱いていると感じていたみほ。それが紅夜への『恋心』だと知った時は、布団の中でのたうち回ったものだ。

 

「(そう言えば、紅夜君にも見られちゃうんだよね………私の、水着……)」

 

そう思うと、嬉しくも恥ずかしくも感じる。

そんな思いを紛らせようと、自分の水着探しを再開する。

 

「もう良い~か~い?」

「ん?」

 

そうして暫く歩き回っていると、試着室に呼び掛ける沙織の姿があった。

 

「おい武部さんよ、店の中でかくれんぼでもしてんのか?」

 

と、其所へ達哉と戻ってきた紅夜が、何とも場違いなコメントを呟き、達哉にツッコミを入れられている。

 

「もう良い~ですわ」

 

その様子を見ていたみほが苦笑を浮かべていると、若干間延びした声と共に試着室のカーテンが開かれ、水色で背中全開のハイレグタイプの水着姿になった華が現れた。

 

「こんなのは如何でしょう?」

 

そう言いながら、華はクルリと回ってみせる。

 

「うわぁ~、可愛い可愛い可愛い~ッ!!」

「うふっ♪」

 

誉められたのが嬉しいのか、華はパックリと開いた背中を見せ、その長い黒髪を靡かせる。

 

「はわわぁ~」

「背中全開……………」

 

それを見たみほは顔を赤くし、麻子は冷めた顔でコメントする。

 

「その次ですが……………これも如何でしょう?」

 

すると、華は試着室に引っ込んでカーテンを閉め、次の瞬間には、形がほぼ同じの黒い水着に着替えて出てきた。

 

「おお~ッ!それも可愛い~ッ!!」

 

本心なのか、それともどちらでも良いのか、沙織は先程とほぼ同じコメントをする。

 

「後方注意……………」

 

水着の形自体は先程とほぼ同じなので、麻子も似たようなコメントを呟いている。

 

「五十鈴さんも、秋山さんみてえに早着替えコンテストに……「取り敢えずは紅夜、一旦早着替えコンテストの話から離れようぜ?」……………はい」

 

達哉に凄まれた紅夜は、若干縮こまりながら答えた。

 

「あっ!2人共何処行ってたの?って、みぽりんも居る!」

「ちょっと野暮用で」

「同じく」

 

3人に気づいた沙織が声をかけると、紅夜と達哉はそんな返事を返す。

 

「それもそうだけど長門君、華の水着見てあげてよ!」

「ん?……………へぇ~」

 

そう言うと沙織は、紅夜が華へと視線を向けて感嘆の息をつき、華が恥ずかしがるのを見て何かの悪戯心が働いたのか、恥ずかしがって試着室へと下がり始めていた華の後ろに回り込んで押し出す。

「きゃっ!?」

 

だが、勢いが少し強すぎたらしく、華は前のめりになって転びそうになってしまう。

 

「おっと」

 

それを見た紅夜がすかさず前に出て、その胸板で華を受け止めた。

転ぶ勢いを抑えるためか、紅夜の両手は華の両肩に添えられている。華の両手は、その時の勢いで紅夜の腰に添えられていた。

 

「ふぅ、危なかったな……………おい五十鈴さん、大丈夫か?」

「……………」

 

紅夜はそう呼び掛けるが、華からの応答が無い。ただ、頬を赤く染めながら紅夜を見上げるだけだ。

 

「五十鈴さーん?おーい、返事しろ~」

 

何も答えない華を不思議に思い、紅夜はそう言いながら、華の両肩を軽く叩く。

 

「んぅ………」

「……………ッ!?」

 

すると、紅夜の腰に添えられていた華の両手が、紅夜の首の後ろへと移動した。紅夜が華を受け止めた時よりも一層、華が紅夜に抱きついているように見えていた。

そして華は、紅夜の胸板に顔を埋める。

 

「い……………五十鈴さん?」

 

いきなりの動きに戸惑いながらも、紅夜はまた、華に呼び掛ける。

すると、華は先程以上に顔を真っ赤にして顔を上げた。

 

「……………長門、さん………」

 

艶のある声で言うと、華は顔を少し、紅夜の顔へと近づけた。離れようとする紅夜だが、華が首の後ろをホールドしているため、最早逃げ道など皆無だった。

 

「長門さぁん……………」

 

熱に浮かされたような声を放ちながら、華の真っ赤な顔が近づいてくる。

 

「ちょ、おい五十鈴さん!?落ち着け!どうした、何があった!?」

 

顔を近づけてくる華の肩に添えている手に力を入れ、華を引き剥がそうとするが、思いの外強かったのか、中々離れない。

それどころか、余計に体を押し付けてくる始末だ。

 

「逃げちゃ、ダメですぅ……………」

 

その瞬間、紅夜はレッド・フラッグ現役時代に、絹代に誘惑された時のトラウマを思い出しかけ、体を震わせる。

 

「怖い怖い怖い怖い!メッチャ怖ぇーぞ五十鈴さん!?落ち着けっての、早まるんじゃねぇ!って、ちょい武部さん!お前見てねえで助けろよ!そもそもこうなったのはお前のせいだろうが!早く何とかしろ!」

「は、はい!」

 

紅夜の気迫に押され、沙織がその場に介入した。

 

こうして、華は無事に紅夜から引き剥がされ、沙織の手によって着替えさせられたのだが、それから正気に戻った華が、その場の光景を見ていた沙織や達哉に、沙織に押されて紅夜に受け止められた後、自分が何をしたのかを説明されて顔を真っ赤に染め上げ、そのまま近くに来た紅夜の頬をひっぱたいてしまったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ったく、なんで俺が殴られなきゃならねえんだよ」

 

アニメでお馴染みの紅葉を頬に拵えた紅夜は、真っ赤な手形がついた頬を擦りながら不満げに言った。

 

「ガハハハハッ!おもしれぇぐらいに真っ赤な手形だな、紅夜!」

「笑い事じゃねえよ達哉」

 

不機嫌な紅夜の横で、達哉は大笑いしながら歩き、その後ろでは、顔を真っ赤にした華が、みほと沙織に挟まれて歩いている。

 

「いやぁ~、華ってばダイタンだったね~。水着姿で長門君と密着しちゃって、そのまま勢いで胸押し付けてキス……って痛い!ちょっと華!?耳つねらないで!イダダダダッ!?」

「い、言わないでくださいっ!恥ずかしいんですから……………」

 

左手で沙織の耳をつねりながら、華は顔を真っ赤にして言う。

 

「私も……………受け止められたらああなってたかな……………」

 

そんな2人の会話を聞きながら、みほは誰にも聞き取られないような小声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても紅夜よ、まさかああなるとは予想外だったんじゃねえのか?」

「当たり前だ。あんな事になるなんて、誰が予想出来るんだって話だよ全く」

 

沙織や華が、先程の出来事についての話をしている頃、彼女等の前を歩いている紅夜と達哉も、先程の出来事を話題にしていた。

 

「まぁ、取り敢えずはよく耐えたな。西さんの場合は発狂しまくってたのに」

「あれはあの人が過激だったからだ」

 

笑いながら言う達哉に、紅夜はジト目で睨みながら言い返す。

「にしても、さっきの静馬に見られたら、それはもう弁明のへったくれも聞いてくれずに大変な事になりそうだったな……………あの場に彼奴が居なかったのは救いと言っちゃ救いだな……………」

「弁明って、人聞きの悪い事平然と言いやがるなぁ、お前は……………俺、別にお巡りに叱られるような事はしてねぇんだけど?」

「そりゃそうだ、お前はサツに手錠はめられるような事はしてねえよ……………だが、あの時お前と五十鈴さんが見せた光景はな、一部の人に見せたら大変な事になってしまうのさ」

「意味分からねえよ」

 

言い聞かせるような声色で達哉は言うが、紅夜はいまいち、腑に落ちないと言わんばかりの表情を浮かべている。

そんな時だった。

 

「ねーねー長門君、華の水着ってどうだった?」

 

何時の間にか背後に来ていた沙織が、紅夜の肩を叩いて注意を向ける。知らぬ間に背後を取られていた事に若干の驚きを見せながら、紅夜は振り向いた。

 

「ん?五十鈴さんがどうしたって?」

 

頬に描かれた紅葉が消えた紅夜は、振り向きながら訊ねる。

改めて紅夜の顔を視界に捉えた華は、先程勢いに任せて紅夜を誘惑した事を思い出して顔を赤くするものの、それを振り払って話を切り出した。

 

「そ、その……………先程の、私の水着の感想を聞きたくて………」

 

目線を紅夜に向けようとしつつも、チラチラと逸らしながら華は言った。

 

「あー、あの黒いのとか水色のとかの話か」

 

今思い出したと言わんばかりの声色で紅夜が言うと、華は顔を真っ赤にして頷き、紅夜のコメントを待つ。

 

「お前にしちゃ、意外だったかな」

「えっ……………?」

 

紅夜からのコメントに、華が首を傾げる中、紅夜はとある水着を指差して言った。

 

「お前の事だし、こんなの選ぶと思ってたんよ」

 

そう言って紅夜が指差したのは、水色のパレオ付きビキニだった。

 

「ふーん?長門君って、布地が少ない水着の方が好きなんだ~?」

「そうじゃねえ。雰囲気だよ、雰囲気」

 

沙織がからかうように言い、それを真に受けたのか、みほや華が顔を真っ赤にすると、紅夜はそう言い返すと、華と水着を交互に見ながら言った。

 

「何かこの水着ってさ、どっかの令嬢が着てそうな雰囲気じゃん?五十鈴さんって大人っぽいし、落ち着いた雰囲気からしてどっかの令嬢に見えるからさ、こんな水着の方が似合うんじゃねえかなって思ったのさ」

「そこまで、考えてくれてたんですね……………」

 

華はそう呟きながら、紅夜が指差した水着を手に取ると、試着室に向かう。そして数分後、着替えた姿を紅夜達一行に見せる事無く、制服姿で出てきた。

 

「ん?気に入らなかったか?」

 

紅夜がそう訊ねると、華は首を横に振った。

 

「この水着は、長門さんが選んでくれた、特別なものですから……………」

 

そう言いかけ、華は紅夜の耳元に顔を近づける。

 

「ですので、貴方と2人っきりの時に、お見せしますわ。その時までの、お預けです♪」

華はそう言って、耳元から顔を離すと、軽くウインクして会計へと向かう。

 

「……………そんなにも特別か?それ」

 

嬉しそうな足取りで会計へと向かう後ろ姿を見ながら、紅夜はそう呟いた。

 

「紅夜、お前五十鈴さんに何したんだ?今思えば、聖グロリアーナとの試合の後の彼奴のお袋さんとの一悶着以降、お前への態度が変わったように見えるんだが……………」

 

その隣に居る達哉が訊ねると、紅夜は首を傾げるだけだった。

 

「俺にも分からねえよ。何か様子がおかしいとは前々から思ってたが……………なぁ?」

「………やっぱコイツ、筋金入りの鈍感野郎だな……………」

 

頭に幾つもの疑問符を浮かべて尚も首を傾げる紅夜を見ながら、達哉は額に手を当てて呟いた。

 

「私も、華さんみたいに大人っぽかったら、紅夜君に見てもらえたかな……………」

 

そう呟きながら、みほは胸に手を当て、サンダース戦以降から感じていた『恋心』と言う思い故に、紅夜が他の女子生徒と仲良くしている事への胸の苦しさを感じていた。

 

「んじゃ、どうせだし他のメンバーの様子も見てみるか……………西住さん、お前も来るか?」

「うん!」

 

紅夜に誘われたのが嬉しいらしく、みほは元気に頷いた。

「そんじゃ、俺は此処で待ってるよ。五十鈴さん1人ほったらかしにしておく訳にはいかねえしな。戻ってきたら、俺の方から伝えとく」

「すまねえな、達哉……………そんじゃ、行くか」

「うん!」

 

そうして紅夜とみほは、他のメンバーの様子を見に行くのであった。

 

 

 

 

 

余談だが、先程から一言も話さない沙織は、紅夜が華の水着について付けたコメントの内容に、からかった自分が恥ずかしく感じるのと共に、自分が汚れていると感じるのであった。

 

「五月蝿い!ほっとけ!!」

「どったの沙織?」


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