ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第41話~敵が居るかと思ったら……………なのです!~

試合開始を告げるアナウンスと共に、両チームの戦車隊が一斉に動き出す。

速すぎず、かと言って遅すぎずなペースで進撃する大洗戦車隊に対して、アンツィオ高校の戦車隊は、ノリと勢い任せな速度で進撃していた。

 

「行け行け!何処までも進め!勝利を持ちうる者こそが、パスタを持ち帰る!」

 

自車であり、フラック車であるP-40のキューボラから上半身を乗り出したアンチョビが、インカムに向かって高らかに言い放つと、その横にペパロニを乗せたカルロベローチェが並ぶ。

 

「最ッ高ですよアンチョビ姉さん!流石はアタシ等の総師(ドゥーチェ)だ!テメエ等モタモタしてんじゃねえぞ!このペパロニに続けぇ!地獄の果てまで進めぇ!」

 

興奮気味にペパロニが叫ぶと、他のカルロベローチェからも雄叫びが上がる。

そのままアンチョビのP-40を追い越し、他4輌のカルロベローチェを引き連れ、あたかも暴走族のように爆走する。

 

「良し、このまま《マカロニ作戦》を開始する!カルロベローチェ各車、マカロニを展開しろ!」

「りょーかいッス姉さん!マカロニ特盛で行くぜ!」

 

既に森の中に入っていた5輌のカルロベローチェは、アンチョビからの指示を受けたペパロニの指示で急停車し、そのまま乗員が降車すると、車体後部にあるエンジンルームの上に積んでいた、《とある絵》が描かれた木の板を下ろし、立看板のように組み立てていくのであった。

 

 

 

 

その頃、大洗戦車隊では……………

 

「先行しているアヒルさん、状況を教えてください」

 

八九式のアヒルさんチームを、偵察として先行させていた。

 

「十字路まで後1キロ程です。今のところ、敵戦車の姿は見当たりません」

 

急斜面を登る八九式のキューボラから頭だけを覗かせた典子は、そう答える。

まあ、試合の状況や相手にもよるが、試合開始して早々敵と出会すなんて事は滅多に無いのだ。

 

『十分に注意しながら、街道の様子を報告してください。開けた場所に出ないよう、気を付けて!』

「了解!」

 

そう返事を返し、激しく上り下りする道を慎重に進んでいく。

「街道手前に到着、偵察を続けます」

 

そうしている内に、街道手前に来た八九式は停車する。典子はキューボラから身を乗り出し、双眼鏡を持ち出して辺りを見回す。

すると……………

 

「あっ!」

 

突然、典子は小さく声を上げ、1度、双眼鏡を目から離す。

 

「……………キャプテン?」

 

車内で怪訝そうな表情を浮かべるあけびが話し掛けるが、典子は何の反応も見せない。

そして再び、双眼鏡を目に押し付け、前方を睨み付ける。その視線の先には……………

 

「敵戦車、発見!」

 

セモヴェンテ3輌と2輌のカルロベローチェが停車していたのだ!

 

 

 

 

 

 

『此方アヒルさんチーム!十字路北側にて、敵戦車、カルロベローチェ3輌とセモヴェンテ2輌を発見しました!』

「十字路北側、セモヴェンテ2輌とカルロベローチェ3輌だね?了解」

 

通信を入れてきた典子に、沙織が答える。

 

「うへぇー、随分と早いな……………まぁ、連中は足速いから当然か」

 

通信を聞いていた紅夜は、キューボラに凭れ掛かりながら呟いた。

 

「なら、南から突撃だ!」

 

其所へ、カメさんチームの桃が口を挟んだ。

 

『ですが、全集警戒の可能性も捨てきれません。突撃はちょっと……………』

「他の学校なら未だしも、相手はアンツィオだぞ!?そんなチマチマした作戦をしてくるとは到底考えられん!此処は速攻で決めるべきだ!」

「そーそー、突撃イイねぇ~」

 

突撃を渋るみほに、桃が声を荒げる。柚子も反対する様子はなく、杏も干し芋を頬張りながら、桃の案に賛同する。

 

「分かりました、十字路に向かいましょう。ただし、進出ルートは今のままで行きます」

「直行しないんですか?その方が手っ取り早い気がしますが……………」

 

桃や杏の意見を採用し、予定していたルートのままで十字路に向かう事を決めたみほに、優香里が言った。

 

「ウサギさんチームのみ、ショートカットで先行してもらいます。まだP-40の所在も分かりませんから、我々はフィールドを抑えつつ、十字路へ向かいます」

 

みほがそう言っているのを聞いたウサギさんチームが、大洗戦車隊の列から外れて斜面を登る。

 

「ウサギさん、十分気を付けてください」

『はい、頑張ります!』

 

みほが言うと、M3リーの車長の梓が答える。それに間を入れず、アヒルさんチームからの通信が入った。

 

『此方、アヒルさんチーム。今のところは敵の状態に変化がありません、指示をください』

「本隊がそちらへ向かうので、そのまま待機でお願いします」

 

沙織からの返事を受けた典子は、相変わらず双眼鏡で偵察を続けていた。

 

「……………動きが無いな」

「エンジンも切ってますね、音が全く聞こえません」

 

典子と、キューボラから身を乗り出したあけびは、何の動きも見せない5輌の戦車に不審を募らせていた。

 

 

その頃、ウサギさんチームでは……………

 

 

「おー、速い速い!特訓の成果だね」

 

桂里奈の運転するM3が、かなりの速度で上り坂を爆走していた。

 

「もっとブッ飛ばして~」

「いやダメだよ、スピード出しすぎ!早く停めて!」

 

梓が言うと、桂里奈はM3を急停止させるが、速度が出すぎていたのもあり、十字路に出ての停車となった。

そして梓は、木々の間から4輌のカルロベローチェに2輌のセモヴェンテを見つけた。

 

「っ!後退!敵居たよ!?」

「っ!?」

 

梓が大声で言うと、桂里奈は大急ぎでM3を後退させ、茂みに隠れる。

 

 

『街道南側で敵発見!すみません、見られたかもしれません』

「敵からの発砲は?」

『まだありません』

「くれぐれも交戦は避けてください!」

 

ウサギさんチームからの通信を受けたみほは、直ぐに指示を出した。

 

「一番の要所を完全に押さえるなんて、流石はアンツィオですね。まぁ、ノリと勢いに任せて一気に攻めてくるかと思ったんですが、当ては外れましたね」

 

優香里はそう言いながら、膝に広げた地図を見る。

 

「それにしても、持久戦に持ち込むつもりでしょうか?」

『なぁ、それって態と中央突破させて、包囲する作戦じゃね?連中は機動力が此方より高いからさ』

 

みほ達が地図とにらめっこしていると、今度は紅夜からの通信が入った。

 

「なぁウサギさん、相手の正確な情報を教えてくれ。戦車は何輌居る?」

『カルロベローチェ4輌と、セモヴェンテ2輌が陣取っています』

「ああ?オイオイそれじゃ数合わねーじゃんかよ、数え間違いとかはねえよな?」

『はい、間違いありません』

 

梓からの情報を聞いた紅夜は、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「2回戦までは10輌まで、だよな?」

「ああ、そう聞いてるぜ」

「インチキか?……………いや、それは考えたくねえな」

 

それを聞いていた達哉達は、其々思う事を話し合う。

それはみほ達にも聞こえており、みほは何かを閃いたような表情を浮かべた。

 

「ウサギさん、アヒルさん、退路を確保しつつ、撃ってください。反撃されたら直ぐに下がって!」

『『了解』』

 

そうして、アヒルさんチームとウサギさんチームは、其々の前方に居る敵に向かって発砲するが、それで得た結果は撃破でなく、機銃掃射で貫かれたり、主砲・副砲で木っ端微塵に砕け散った木の板であった。

 

「ええっ!?看板!?」

「あれただの絵だよね!?」

「「「偽物だーっ!!」」」

 

自分達が長々と、その場で居座る原因となった『敵』の正体を知ったアヒルさんチームとウサギさんチームから、驚愕の声が上がる。無理もない。

なんせ、敵が陣取っていると思いきや、その正体がただの絵だったのだから。

 

『敵の正体はただの絵でした!あんなののためにずっと居座る羽目になるなんて……………ッ!』

「アッハハハ!ソイツはドンマイだなぁアヒルさんチーム!絵に騙されるなんて聞いたこともなかったろ?」

『そりゃそうですよ長門先輩!』

「まぁ、そう言う作戦を使ってくる敵も居るってこった!良い勉強になったじゃねえかよ」

 

悔しそうに言う典子に、紅夜が笑いながら言うと、ウサギさんチームの梓からも声が上がる。

それを宥めるように言うと、紅夜は腕を組んで、キューボラの角に頭を預けた。

 

「にしても、2チーム共に騙されるとは、どんだけ絵が上手いんだよ。ああまで言われると、どんな絵なのか気になってくるぜ」

紅夜がそう言うと、砲弾を肩に担いでいる勘助が口を開いた。

 

「そりゃ俺も気になるなぁ……………そうだ、どっちのチームに、その看板回収してくるように頼むか?」

「止めとけ勘助。変に目立つだけだし、第一持ってきてもらったとしても、その後どうするってんだ?俺等の絵じゃねえから大して使い道も無いってのに」

「冗談だよ、翔」

 

スコープ越しに前方を見る翔が言うと、勘助は笑いながら言った。

 

「まあ、それについては置いとくとして……………西住さん、こっからどうする?」

 

そう言って、紅夜はみほに指示を仰いだ。

 

「それなら、この考えでいきます……………ウサギさん、アヒルさん!」

 

そうして、作戦が始まるのであった。


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