ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第38話~アンツィオ高校の指揮模様です!~

大洗女子学園戦車道チームが、来るアンツィオ高校との試合に気合いを高まらせている中で視点を移し、此処はアンツィオ高校。大洗女子学園と2回戦で当たる対戦校である。

1回戦にてマジノ女学院を打ち破ったこの学校では、今日、とある発表がされようとしていた。

 

「全員、気を付け!」

 

とある女子生徒の掛け声により、アンツィオ高校戦車道チームのメンバー全員が、一斉に気を付けをして、自分達の目の前の階段の上に立つ、薄めの深緑色の髪の毛をカールさせた少女、安斉 千代美(あんざい ちよみ)こと、アンチョビに注目する。

先程、掛け声でメンバーを纏めた金髪の女子生徒と、黒みの強いジャーマングレーの髪の毛をした女子生徒に、其々の端を持たれた白いシートに包まれた、大きなナニカの前に立つアンチョビは、1歩、2歩と、歩み出て言った。

 

「きっと奴等は言うだろう。『アンツィオ高校はノリと勢いだけはある。調子に乗れば手強い』と!」

『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』

 

アンチョビが高らかに言うと、メンバーから歓喜の声が上がる。

 

「聞いたか?強いってさ!」

「おう!褒められてるぜアタシ等!」

「いやぁ、照れるなぁ~!」

 

メンバーが其々、口々に喜びの声を上げる中、1人の生徒が言った。

 

「でもアンチョビ姉さん、『だけ』ってどういう意味ッスか?『だけ』って?」

 

そう怪訝そうな表情を浮かべながら訊ねると、メンバーの視線が一気にアンチョビへと向けられる。

そんな中で、アンチョビは視線に臆する事なく答えた。

 

「つまりはこう言う事だ。『アンツィオ高校は、ノリと勢いだけは強いが、逆に言えば、それ以外には大した取り柄は無い。調子が出なけりゃ総崩れ』と言う訳だ」

 

アンチョビがそう言うと、先程のワイワイした雰囲気は一転、メンバーから憤慨の声が次々に上がる。

 

「んっだとぉ!?」

「彼奴等ナメた事ほざきやがって!」

「ちょいと姉さん、ソイツ等に好き勝手言わせといても良いんスか!?」

「こうなりゃ、戦車でカチコミ行きましょうぜ!」

 

口々に言うメンバーに、金髪の生徒が声を掛けた。

 

「皆、落ち着いて?実際に言われた訳じゃないんだから」

「あくまでも、総師(ドゥーチェ)による冷静な分析の結果、その答えに至っただけの事だ」

2人がそう言うと、アンチョビは頷いて言った。

 

「そう。この2人の言う通り、全部私の想像だ」

「なぁんだ~」

「あ~ビックリした」

「妙に現実味があるから、危うく信じるトコだった」

 

アンチョビがそう言うと、メンバーから安堵の溜め息がつかれる。

 

「良いか、お前達。確かに、我々アンツィオ高校は代々、決まった成績を収めた事はなかった。調子が良い時は決勝まで上り詰め、逆に悪い時は、1回戦で敗退する、なんて事もあった。だが、だからと言ってそれが、『調子が出なけりゃ総崩れ』、なんて事を言われる理由にはならない。そんな根も葉もない噂に一々惑わされるな。なんせ、私達はあの、マジノ女学院に勝ったんだからな!もっと自信を持て!!」

「あ、そうだった!」

「言われてみりゃそうだよなぁ」

「何かそれ、つい最近の事なのに昔の事みたいに忘れてた~」

 

アンチョビが言うと、メンバーは1回戦での事を思い返す。

 

「まぁ、苦戦しましたけどね……………」

「勝ちは勝ちだから良いんだよ」

「うむ。今、我々は快調の波に乗っている。この波を2回戦に持っていくぞ。2回戦の対戦相手は、あの西住流が率い、最強と呼ばれた戦車道同好会チーム、レッド・フラッグが居る大洗女子学園だ!」

 

アンチョビは高らかに言うが、メンバーの反応はイマイチなものだった。

 

「西住流とかレッド・フラッグとかって、何か名前からしてヤバくないッスか?」

「アタシ、今回ばかりはマジで勝てる気しねえッス……………」

「西住流とかレッド・フラッグとかが居るとか、最早無理ゲーじゃん、積みゲーじゃん」

 

メンバーが口々に言うと、アンチョビからの檄が飛んだ。

 

「ええい、馬鹿者共!戦う前からそんな諦めムードになってどうする!?そんな及び腰になってどうする!?そんな状態で2回戦に挑んだら勝てないぞ!こんな状態で勝つ事自体が無理ゲーであろうが!!積みゲーであろうが!!」

 

その声に、先程まで不安げな声を出していたメンバーがハッとなってアンチョビを見る。

 

「それにだ!何のために1日3度のおやつを2度にして、コツコツ昔から貯金して、他の部活動からも義援金募ったり、昼休みや文化祭とかに片っ端から出店開いて、その売り上げすら回してきたと思っているんだ!?」

「はて、なんででしたっけ~?」

「アンタ知ってる~?」

「知らね」

「決まっているだろ!それは《秘密兵器》を買うためだ!」

『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』

 

アンチョビがそう言って白いシートに包まれた物を指差して言うと、メンバーは思い出したかのように声を上げる。

其所で、アンチョビは咳払いを1つして言った。

 

「この、長い長い年月を掛けて貯めてきた資金で漸く手に入れた、この秘密兵器と諸君等のノリと勢い、この快調の波、そしてちょっとの頭脳があれば、我々は悲願の準決勝進出を果たせるだろう!そして、この試合を勝ち進んだ我等に待っているのは、勿論優勝だ!」

 

そうして、白いシートの両端を持っていた2人が、シートを取っ払う態勢に入る。

 

「さあ、見ろ!これが我々の!必殺秘密兵器だァーッ!!……………《♪~》……………あ……………」

 

アンチョビの言葉によって、興奮気味になってきたメンバーのテンションを、昼休みを告げるチャイムがぶち壊しにしてしまった。

 

そして……………

 

「いヤッホーい!昼飯だ昼飯だァーッ!」

「あー腹減った~!」

「今日の飯は何にすっかな~♪」

 

チャイムが鳴り響いた途端、メンバーはアンチョビが解散の合図を出していないのにも関わらず、勝手に昼食を摂りに走り出してしまった。

 

「ええっ!?ちょ、おい!お前等!?」

いきなりのメンバーの行動に、アンチョビは戸惑いながらも声を掛ける。

 

「おい待て!まだ話は終わっていないぞ!」

 

アンチョビは大声を張り上げて制止を呼び掛けるものの、メンバーの足は止まる気配を見せない。

それどころか、階段を上る足の速度が増してくるばかりである。

 

「ええー!?早くしないと学食の飯売り切れになっちまいますよ~!」

「そーそー!今の時期って学食の日替わりランチの売り切れ早いんスよ!コレ逃したらウチ、今日の昼飯抜きなんですぜ!?弁当持ってきてねぇし!」

「いや、弁当ぐらいは持ってこいよ!と言うか、お前等そんなので良いのか!?」

「それよか総師!早くしないと学食の飯売り切れちまいますぜ!?」

「昼飯抜きになっても知らねッスよ~?」

「ああ!?おい待てコラ!いやもうホントに待ってよお願いだからぁ!」

 

戻るように呼び掛けるも無視され、ツッコミも尽くスルーされ、遂には涙目になってしまったアンチョビは必死に懇願するものの、とうとうメンバーが止まる事はなく、其所には、秘密兵器を包む白いシートの両端を持っていた2人の女子生徒とアンチョビが残された。

 

「はぁ……………まあ、自分の欲望に素直なのは良い事だし、私もそれについては、別にとやかく言うつもりは無いけど…………あのやる気を少しは、戦車道に回してほしいものだなぁ……………私も学食行こ……………グスッ」

 

アンチョビはそう呟くと、すっかりと肩を落としてトボトボと歩き出し、階段を上る。

 

「総師(ドゥーチェ)……………」

「姉さん……………」

 

哀愁を漂わせて歩いてくる、自分達の戦車道チームの隊長に、先程まで白いシートの両端を持っていた2人の女子生徒が近づいてくる。

 

「ああ、お前達も、もう良いぞ……………最後までありがとうな」

 

アンチョビが力なく言うと、2人は揃ってゆっくりと一礼する。

 

「では、私達も昼食にしよう。今日は一段と腹が減った」

「そ、そうッスね……………姉さん」

「総師(ドゥーチェ)、今日はスイーツ、私が奢りますよ」

「ああ、すまないな……………」

気遣ってくれる後輩の2人に、アンチョビは先輩として、そしてアンツィオ高校戦車道チームの総師(ドゥーチェ)として情けない、と自分で思いながらも、2人の後輩に慰められながら学食へと向かい、その日の昼食にありつくのであった。

 

「(秘密兵器の紹介は、また今度にしよう……………)」

 

昼食のパスタを口に運びながら、アンチョビはそんな事を考えるのであった。

 

だが、コレが災いした事により、アンツィオ高校戦車道チームの秘密兵器の情報が大洗女子学園戦車道チームへと知れ渡ってしまうのだが、それを今の彼女等には、知る由も無いだろう。


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