ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第37話~捜索隊です!~

夕方、戦車の捜索を終えた一行は、格納庫の前に集まっていた。

みほ達が見つけた《7.5cm kwk40》の他には、歴女チームと優香里、そして勘助が、フランスの重戦車《ルノーB1 bis》を発見した。

 

「捜索班の数の割には、あんまり成果はなかったな…………俺の班なんて何も見つからなかったぜ」

「気持ちは分かるけど、大概そんなものよ?私の班だって、どれだけ探しても何も見つからなかったもの。紅夜達の班は、探しに行った場所が良かっただけよ」

 

残念そうに言う大河を、静馬が宥める。

 

「そう言えば、ルノーって重戦車だよな?スペックはどんなだ?」

「最大装甲厚60mm、車体に75mm砲、砲塔に47mm砲搭載だな」

 

ルノーに近づきながら疑問を漏らす新羅に、紅夜が答える。

それから、静馬がルノーについて色々と話している間に、紅夜はみほに近づいて言った。

 

「戦力の補強としては、先ず先ずの方か?」

 

そう話し掛けられたみほは、頷いて言った。

 

「そうだね。ルノーは弱点が多いけど、主砲の火力は高いし、良い具合に戦えると思う。後は誰が乗るのかが問題だけどね」

 

そうしている内にも時間は経っていくが、其所で華が、ある事に気づいた。

 

「そう言えば、1年生や沙織さん、それと辻堂さんの班はまだ帰ってこないのですか?」

「確かに、少し遅すぎますね」

 

優香里もそう言うと、突然、麻子の携帯が鳴った。

 

「遭難…………したそうだ…………」

 

携帯の画面を暫く眺め、画面を閉じた麻子が言う。

 

「おいおい、船の中で遭難とか聞いたことねえぞ。町中で迷子になったとかなら、まだ話は分かるがな……………」

「それよりも、何処で?」

「船の底らしいが、何処に居るのか分からない、と…………」

 

大河がそう呟く中、静馬が彼女等の居場所について訊ねると、麻子がそう答える。

 

「なら、何か目印になるものがある筈だ。それを探して伝えるように言え」

「ん…………」

 

桃が言うと、麻子は小さく頷く。

其所へ、みほに筒状の紙を渡す者が居た。杏だった。

 

「ほい、コレ」

「え?」

 

訳の分からないままに筒状の紙を受け取ったみほは、唖然とする。

 

「それ、艦内の地図だから。捜索隊行ってきて~」

「わ、分かりました」

 

何とも適当な調子で言う杏にみほは答え、華、優香里、麻子の3人を連れていく。

「いてら~」

 

船底へと向かうみほ達に、紅夜はそう声を掛けるが、杏が口を挟んだ。

 

「コラコラ紅夜君、なぁ~に残っちゃってるのかな?」

「ん?あの3人で行くのでは?」

 

首を傾げながら聞いてくる紅夜に、杏は言った。

 

「あのねぇ、いくら4人で行くとは言え、か弱い女の子達だけに暗い船底の廊下歩かせる気?其所は君が守ってあげるべきではないのかな?」

「……………………即ち、同行しろと?」

「その通り!つー訳でホラ、分かったらさっさと行った行った!」

 

そう言う杏に背中を押された紅夜は、みほ達の後を追って合流し、捜索の手伝いをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから学園艦内部にて、紅夜を加えたみほ達一行は、遭難した沙織達を探すべく、優香里が持参していた懐中電灯付きヘルメットの明かりを頼りに、暗い艦内を歩いていた。

 

「スゲーな…………俺、こんな所に来たのは初めてだぜ」

 

艦内を歩きながら、紅夜は辺りを見回して言う。

 

「な、何だがお化け屋敷に来たような気分です…………」

「さっさと探し出して出てぇが、彼奴等が何処に居るのか分からねえんなら、兎に角歩き回って探すしかねえんだよな…………コレ、心臓弱い奴にとっちゃ、ある意味拷問だな」

 

優香里が不安そうに言う中、腕を組み、ウンウンと一人で頷きながら紅夜が言うと、突然、金属製の何かが床に落ちる音が、甲高く廊下に響き渡った。

 

「「きゃぁぁぁあああっ!!!」」

「ぐえっ!?」

 

突然響き渡った音に驚いたみほと優香里は、紅夜の両腕に抱きつく。

突然抱きつかれた紅夜は、キツく締めるように抱きつかれる状態に潰れそうな声を出す。

 

「ちょ、落ち着け、お前等…………只、何かが落っこちただけ、だろが…………」

 

キツく抱きつかれる腕の痛みに耐えながらも、紅夜はそう言う。

 

「ほ、ホント?良かったぁ~」

 

紅夜の一言に安心したのか、みほと優香里は安堵の溜め息をつきながら、紅夜から離れる。

 

「大丈夫ですよ」

 

その横を、まるで何事も無かったかのような顔をした華が通り過ぎていく。

 

「い、五十鈴殿…………ホントに肝が据わっていますね…………」

 

全く動じない華に、優香里は感心したような様子で呟く。

だが、当の本人は…………

 

「私も…………怖がりだったら良かったかな…………」

 

等と呟いていた。

 

 

「さて、五十鈴さんに置いてかれないようにさっさと移動しよ…………って冷泉さん、大丈夫か?顔真っ青だが」

 

そう言った紅夜に反応して、優香里がライトを麻子に向ける。

明るく照らされる麻子の顔は、血の気が引いたかのように真っ青になっていた。

 

「お…………」

「『お』?」

「お化けは…………早起き以上に無理…………」

「そりゃ意外」

 

杏に似て、適当な調子で紅夜は言う。

そうしつつも、一行は捜索を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

その頃、遭難した沙織達一行は、行き止まりとなっている場所で固まっていた。

 

「捜索用で地図渡されたは良いものの…………全く分からん。何処だよ此処は?」

 

必死に現在地を割り出そうとしたものの上手くいかなかったのか、達哉はお手上げだとばかりに呟く。

 

「お腹、空いたね…………」

「うん…………」

「今夜は、此処で過ごすのかな…………?」

 

1年生のグループは、一人ポツンと、明後日の方向を向いて突っ立っている丸山 紗希(まるやま さき)を除いて、あや、桂利奈、梓が呟いた言葉が引き金となったのか、嗚咽が漏れ始める。

 

「だ、大丈夫!みぽりん達が絶対探しに来てくれるから!あ、そうだ!私チョコ持ってるから、皆で食べようよ!」

 

1年生グループが泣きそうになっている中、沙織は彼女等を落ち着かせようとする。

だが、かく言う沙織自身も不安を感じていた。

 

「あ、ホラ!辻堂君もおいでよ!一緒に食べよう!」

「ん?…………ああ、そうだな。貰うとしようか。腹減って死にそうだ」

 

達哉は冗談を含んだ言い方で言うと、沙織から小さな包み紙に包まれたチョコレートを1つ受け取るも、それを食べることなく、パンツァージャケットのポケットに入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、捜索を続けているみほ達一行は…………

 

「ああ、達哉からだ…………えー何々、『第17予備倉庫近くに居る』だとさ」

「それって、地図からすればこの辺りだと思うんだけど…………」

 

そう言いながら、みほは地図とのにらめっこを続ける。

そんな中、突然砲撃音が鳴り響く。

 

「ふえっ!?」

 

突然の砲撃音に麻子が驚くが、優香里は平然とした表情で携帯を取り出す。

 

「すみません。私の携帯の着メロなんですよ、コレ」

そう言いながら、優香里は通話ボタンを押す。

 

「あ、カエサル殿からですね…………はい」

『西を探せ、グデーリアン』

「西武戦線ですね。了解です!」

『うむ、武運を祈る』

 

そんなやり取りの後、優香里は通話を切った。

其所へ、紅夜がある事を訊ねた。

 

「なあ秋山さん、そのカエサルってのは、カバさんチームの一人だよな?」

「ええ、そうですよ」

「成る程な…………んじゃ、グデーリアンってのは?そもそもそれってハインツ・グデーリアンの事だろ?」

 

そう訊ねる紅夜に、優香里が答える。

 

「ええ。魂の名前を付けてもらったんですよ」

「ソウルネームってヤツか…………つーか、西を探せって言われても方角分からねえから意味ねえだろ」

「ああ、その辺りに関してはご心配なく。コンパス持ってますから」

 

そう言って、優香里は何処からともなくコンパスを取り出して見せる。

 

「用意周到とはこの事だな…………いや、そもそも何故西なんだ?」

「卦だそうですよ?」

「え?」

 

何時の間にか調子を取り戻した麻子の問いに優香里が答えると、紅夜は呆気に取られたような声を出す。

 

「所謂、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』と言うものですね」

「それでよくルノー見つけられたよな、お前のグループは」

 

華がそう言うと、紅夜がつくづくとばかりに言った。

 

 

 

 

 

 

視点を戻し、此処は第17予備倉庫近く。

 

「先輩達、遅いね…………」

「そりゃ仕方ねえさ。俺等の居場所教えたとしても、こんな迷路みたいな所で目的地に簡単に着くのは、余程この通路の事を知り尽くしてる人にしか無理だろうしな…………まあ、少なくとも探すのすっぽかして帰るような真似はしねえだろうよ」

 

不安げに呟いた梓に、達哉は声を掛ける。

 

「だ、大丈夫!きっと、直ぐ其所まで来てるよ!あ、私ちょっと見てくるね!」

 

そう言って、沙織は立ち上がって歩き出す。

 

「お、おい武部さん!?一人で動くな!アブねえぞ!」

「大丈夫、大丈夫!!」

「その言葉が一番大丈夫じゃねえっつーのに…………仕方ねえな」

 

そう呟き、達哉は帽子を脱いで頭をガシャガシャと乱暴に掻くと、帽子をかぶり直して言った。

 

「悪い、彼奴連れ戻してくるわ。其所を動くなよ?」

 

達哉はそう言って、沙織の後を追い始めた。

 

 

 

 

 

「やれやれ、彼奴何処行きやが…………ん?」

 

達哉は愚痴を溢しながら沙織を探し始めたが、そこから5分と経たない間に、曲がり角で立ち尽くしている沙織を見つけた。

 

「おい武部さん、勝手に動いたらアブねえって…………ん?武部さん?」

 

沙織に声を掛けようと近づいた達哉は、沙織の様子がおかしいことに気づいて足を止める。

角が遮蔽物となって見えにくくなっているが、辛うじて見える左腕を右手で抱くようにして掴み、小刻みに震えているのを見る限り、達哉は、沙織自身も不安がっているのを悟った。

「成る程ね…………」

 

達哉はそう呟きながら、沙織に近づき、声を掛けた。

 

「よお」

「…………っ!?」

 

突然声を掛けられた事に驚いたのか、沙織は勢い良く達哉の方を向いた。

 

「あ、ああ辻堂君…………ど、どうしたの?」

 

不安なのを隠そうとしているのか、沙織は明るく振る舞うものの、達哉は態度を変えずに言った。

 

「隠すことはねえよ…………お前も怖いんだろ?」

「ああ、バレてたんだね…………」

 

沙織は、そう力なく言った。

それを見かねたのか、達哉はパンツァージャケットのポケットから、先程沙織から受け取ったチョコレートを取り出して包み紙を取ると、不意に口を開いた。

 

「武部さん、突然だが問題だ」

「え?」

 

何の前触れもなく放たれた言葉に戸惑う沙織を無視して、達哉は言葉を続けた。

 

「平仮名五十音で、一番最初の平仮名を答えよ」

「え?そんなの『あ』…「ホラよ」……むぐっ!?」

 

沙織が口を開けた瞬間、達哉はチョコレートを沙織の口の中に放り込んだ。

いきなりの事に暫く戸惑っていたが、放り込まれたものがチョコレートだと知ると、沙織はそれを食べ始める。

そして飲み込むと、ある事に気づいて口を開いた。

 

「あ、コレって私があげたヤツ…………」

「そう。念のために残してたのさ…………こんな場面で役に立つとは、やっぱ残しといて良かったぜ」

 

そう言って、達哉は帽子を脱いで凹んだ部分を直すと、それを沙織にかぶせた。

 

「え!?ちょ、ちょっと辻堂君!?」

 

突然の達哉の行動に、沙織は戸惑うような表情を見せるものの、達哉は気にせず、そのまま帽子に手を乗せる。

 

「まあ、こんな事しかしてやれねえし、言えねえけどさ…………大丈夫だろ。彼奴等がぜってぇ見つけてくれるさ」

「うん…………そうだね…………」

 

そう言う達哉に、沙織の顔から不安の色は消えた。そして、そのまま達哉に寄り掛かる。

 

「ん?どった?」

「ゴメン…………少しの間、このままで居させて…………?」

「…………ああ、別に良いけどさ」

 

そう言って、達哉は沙織の好きなようにさせた。

 

 

 

そして、そうしていること10分…………

 

「お!やっとこさ見つけたぜ!」

 

そんな声と共に、達哉達が見覚えのある、緑色の髪と赤い目を持った青年が、ひょっこりと顔を出す。紅夜だった。

 

「悪いな、探すのに手間取っちまったよ」

「気にすんな、手間取らせて悪かったな。つーか、この辺マジで迷路みてぇだよな」

「ああ…………ったく、こんな所彷徨くのは2度とゴメンだぜ畜生」

紅夜はバツの悪そうな顔で頬を掻きながら詫びを入れ、達哉もそれに答える。

そして、迷路のようだった通路の愚痴を溢し合う。

其所へみほ達も到着し、達哉と沙織の姿を捉える。

 

その後、声を聞き付けた1年生グループが駆け寄ってきて、全員が沙織に抱きついて喜びを露にしていた。

 

「武部殿、モテモテですね…………」

「本人の望まない形でだがな…………」

 

1年生グループに抱きつかれている沙織を見た優香里と麻子は、其々思い思いの一言を呟く。

 

「ふぃーっ、やっぱあの環境は俺にはキツいわ、かなり精神ヤバかった」

 

沙織が引き離され、自由が利くようになった達哉が首をボキボキと鳴らしながら立ち上がる。

 

「ああ、そうだろうな…………それにしても達哉、お前武部さんとラブラブしてたじゃねえか。どうやって彼処まで展開させてんだ?ええ?」

「どうやってって…………別に大した事はしてねえんだけどなぁ…………」

 

そうしている傍らでは、1年生グループから解放された沙織が、みほや華に、先程達哉に寄り掛かっていた事について聞かれ、顔を真っ赤に染めていた。

 

その時紅夜は、奥に進んだところで暗がりで姿が見えにくくなっていながらも、重厚感溢れる戦車を発見するのであった。

 

 

 

 

 

 

その後、戦車道チームの面々は銭湯へと向かったのだが、レッド・フラッグの男子陣が帰ってしまい、女子陣での銭湯になった。

 

「えー、お前達。本日の戦車の捜索、本当にご苦労であった」

 

大きな湯船の階段に腰掛ける桃がそう言って、メンバーを労う。

 

「本日の捜索の成果は、Ⅳ号の砲身と、ルノーB1 bis、そしてもう1輌の戦車だ。捜索に当たった班の数からすれば少ないのかもしれんが、それでも大きな一歩となりうるものだ。残念な事に、それらの戦車や砲身は、整備の都合上、2回戦には間に合わない。だがこれで、全国大会を勝ち抜いていくための希望が見えてきた。次の試合も、気合いを入れていくぞ!」

 

桃はそう言うと、一呼吸置いた後に、みほを見やった。

 

「では西住、〆を」

「え?は、はい!」

 

そう言うと、みほはゆっくりと立ち上がる。

 

「み、皆さん!……………つ、次も頑張りましょう!」

『『『『『『『オオーーーッ!!!』』』』』』』

 

その日、銭湯の女湯に元気な声が響き渡った。


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