ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第35話~次はアンツィオです!~

「ヨッス紅夜、聞いたか?冷泉さんの祖母さん、回復したらしいぜ?昨日の朝方に目が覚めたんだとさ」

「マジかよ。案外早かったんだな」

 

翌日、学園へとやって来た紅夜は、既に来ていた達也から、麻子の祖母が回復したとの報告を受け、その回復の早さに唖然とする。

 

「んで、昨日は西住さんと五十鈴さん、それから秋山さんが見舞いのために本土に行ってたんだとさ」

「そっか…………まあ、意識戻って良かったな。冷泉さんも、安心出来ただろうな」

 

何はともあれとばかりに紅夜が言うと、達哉は同意するように頷いて言った。

 

「ああ…………聞いた話では、冷泉さんの肉親って、祖母さんしか居ねえらしいからな」

「あ?祖母さんしか居ない?そりゃどういうこった?両親はどうしたってんだよ?」

 

紅夜がそう言うと、達哉は言いにくそうな表情で言った。

 

「彼奴が小学生の頃、事故で亡くなったとさ…………」

「…………そか」

 

それから暫くの間2人は沈黙していたが、其所から話題を変え、他のメンバーが集まるのを待った。

 

 

 

 

 

 

数十分後、大洗の生徒や、紅夜と達哉を除くレッド・フラッグのメンバーが続々と格納庫の前にやって来た。

その場には、本土から戻ってきたあんこうチームのメンバー全員の姿もあった。

サンダース戦で撃破された戦車の修理が完了したため、今日から本格的に、2回戦へ向けての練習が開始されるのだ。

その前に、前に出た生徒会メンバーの桃が言った。

 

「えー、お前達。1回戦では本当にご苦労だった。サンダースは優勝候補の一角とも呼ばれる学校だ、そのような学校を破る事が出来たのは、諸君の努力あってのものだと思う」

 

そう誉める桃に、メンバーが嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「だが、油断は禁物だ。サンダース戦で撃破された戦車の修理は完了した。今日から本格的に、2回戦へ向けての練習を開始する!」

「「「「はい!!」」」」

「頑張りま~~す!!」

 

桃の渇に、アヒルさんチームの4人からの返事が返され、それから少し遅れてウサギさんチームのあやが、間延びした返事を返す。

 

「勝って兜の緒を締めよ!ダーッ!!」

「「「オーッ!!」」」

 

カバさんチームでも、カエサルが声を上げ、他の3人も続く。

 

「皆、気合い入ってるわね」

「ええ…………戦車道が始まった頃の連携の取れなさが嘘のようね」

 

雅が呟くと、それに亜子が答える。

 

「わあ~…………」

「凄いですね…………」

 

あんこうチームでも、ヤル気満々のメンバーを見たみほが軽く驚きを露にしている所へ、華が声を掛ける。

 

「うん…………まさか、ああなるとは思わなかったよ」

 

みほはそう返すと、チラリと紅夜の方を見る。

 

「…………?」

 

みほからの視線に気づいた紅夜は、自分が見られている事に内心首を傾げながら、取り敢えず微笑みかけた。

 

「ッ!」

 

急に微笑みかけられたみほは、顔を赤くして視線を逸らす。

それからチラチラと、紅夜に目を向けるのだが、紅夜と目が合う度に顔を真っ赤に染め上げ、目線を逸らす。

 

「…………俺、西住さんに嫌われるような事したかな…………?」

 

完全に誤解している紅夜は、出ることのない答えを探して葛藤していた。

 

其所へ、注意を引くためか、桃が2、3回程手を打ち鳴らす。

 

「さあ、訓練を開始するぞ!西住、指揮を執れ!」

「は、はい!」

 

桃が言うと、みほは返事を返して指示を出す。

メンバーが其々の戦車に乗り込み、訓練が開始された。

 

 

 

 

 

 

さて、それから時間は流れ、昼休憩に入った。

生徒達は其々、学食に行く者、買い食いしに行く者、そして持参した弁当を広げる者に分かれる。

そんな中、みほは一人、弁当箱片手に格納庫を訪れていた。

 

「2回戦、この戦車で勝てるのかな…………あのサンダースとの試合だって、紅夜君達が居たから勝てたようなものなのに…………」

 

Ⅳ号を見ながら、みほはそう呟き、もし、レッド・フラッグのメンバーが大洗の戦車道チームに来なかったら…………と考え始める。

そこで真っ先に思い浮かんだのが、サンダースのフラッグ車を追いかけながらも、後ろからの援軍の集中砲火を喰らっている光景…………

もしレッド・フラッグのメンバー無しでの試合となり、運悪く、援軍の砲弾が大洗のフラッグ車である38tに当たったら…………そこで思い付いたのが、敗北と言う漢字2文字の単語…………

 

それを考えていけば、2回戦、準決勝、決勝へと繋がっていき、キリがなくなる。

みほはその考えを振り払い、弁当を広げようとする。其所へ、格納庫に入ってきた一人が声をかけた。

 

「Hey,there」

 

流暢な英語で話しかけてきたのは、紅夜だった。

 

「ああ、紅夜君。どうしたの?」

「いや何、何と無く此処で飯食いたくなってな…………邪魔だったか?」

「う、ううん!別に良いよ!」

「そっかそっか」

 

みほが首を横に振ると、紅夜は安心したような声を出しながらみほの隣に来る。

 

「いやあ~、良かった良かった。てっきり俺、何か失礼な事してお前に嫌われたのかと思ったぜ」

「え?な、なんで?」

 

紅夜が言うと、みほが驚いた様子で聞く。

 

「いやだってお前、訓練始まる前に俺の事見てたろ?何か分からんから取り敢えず微笑んだら目線逸らされたし、その後もチラチラ此方見ては目線逸らすし」

「ッ!あ、あれは、その…………」

 

愚痴を溢すような言い方をする紅夜に、みほは顔を赤くしながら口籠る。

 

「まあ、嫌われた訳じゃねえなら良かったよ……………さて、飯にしようぜ。もう腹ペコで飢え死にしそうだぜ」

「う、うん…………」

 

紅夜が大して言及せず、話を切り上げた事に内心で安堵の溜め息をつきながら、みほはⅣ号によじ登ろうとする。

 

「あれ?西住殿に長門殿」

 

すると其所へ、弁当箱を持った優香里が姿を現した。

 

「おお、秋山さんじゃねえか」

 

優香里を視界に捉えた紅夜は、空いている左手を上げて会釈する。

 

「おーおー、んな所に居たのかよ紅夜、探したぜ?」

 

すると優香里の後ろから、ライトニングのメンバーが姿を現す。

 

「あ、居た居た!皆お揃いだね!」

「学食にも教室にも居ないから、きっと此処だと思って」

「飯だ飯だ」

 

ライトニングのメンバーが入ってくると、それに続いてコンビニ袋を持った沙織達がやって来る。

 

それから、みほ達あんこうチームのメンバーはⅣ号の上で、紅夜達ライトニングのメンバーは、Ⅳ号の隣に停めてあったIS-2の上で弁当を広げた。

 

 

 

 

 

「母がこれ、戦車だって言い張るんですよ」

 

Ⅳ号の上では、優香里がご飯の上に海苔で戦車が描かれてある弁当箱を見せながら言う。

 

「すごーい!キャラ弁だ!」

「これは、食べるのが勿体無いですね」

「そうだね~」

「…………」

 

優香里が見せた弁当に、沙織は携帯で写真を撮り、華とみほは弁当箱を覗き込む。麻子は大したコメントは述べないものの、感心したような表情で見ていた。

 

 

 

 

 

「そういや紅夜、昨日お前、勝手にIS-2乗ってたろ」

「あれ?なんで知ってんの?」

「サンダースとの試合の後、この格納庫に戦車戻した時、俺はコイツを端の方に置いたんだよ。なのに今日となれば、訓練の前もIS-2がⅣ号の隣に置かれてると来たモンだ。俺は昨日は翔や勘助と遊んでたけど、お前だけ居なかったし」

「…………許してヒヤsh……「他作品ネタ使用禁止!」あべしっ!?」

 

紅夜は冷や汗を流しながら許しを乞うが、何処からともなくハリセンを持ち出した勘助に殴られる。

 

 

「あ!そう言えば見ましたか?生徒会新聞の号外!」

 

弁当を食べ終えた優香里はそう言いながら、ポケットから小さく折り畳まれた新聞を取り出し、広げて見せる。

 

「お?何だ何だ?」

 

同じく弁当を食べ終えた紅夜はそう言いながら、IS-2からⅣ号のエンジン部分へと飛び移る。

 

「ウワッ!?此処まで飛び移れるなんて、長門君ってスゴい運動神経だね!」

 

沙織が驚いたように言うと、未だに弁当を食べている達哉が言った。

 

「武部さんよ、その程度で驚いてたらキリがねえぜ?俺なんてこの前、IS-2の砲弾振り回した紅夜に、ほぼ一晩中追い回されたからな……………あれは死ぬ程怖かったぜ」

「紅夜に聞いたが、それってお前が紅夜を気絶させたからだろうが」

「あー、そういや何か、お前等の追いかけっこがベースになったみたいな都市伝説が出来たんだが、あれ本当にお前等の事だったんだな」

「まあな……………それと勘助、あれはマジで仕方無かったんだぜ?紅夜の奴が他作品のネタ使おうとしてたから、つい……………」

 

おにぎりを頬張りながら、勘助が呆れたように言い、翔がふと呟くと、達哉は弁明するかのように言葉を返した。

 

「でもまあ、俺の運動神経とか、達哉との追いかけっこやら都市伝説やら云々についてはこの際置いといて、今こうやって見ると、改めて勝ったんだと実感するよな」

 

紅夜は新聞を覗き込み、大洗女子学園戦車道チームをべた褒めする一面を見ながら言う。

其所には小さいながらも、紅夜達ライトニングの事も書かれていた。

 

「凄かったよね…………」

「ええ。何せあの、サンダース大学附属高校に勝ったんですからね」

「『勝った』と言うよりかは、『何とか勝てた』の方が正しいと思うけどね…………正直、紅夜君達が居なかったら、どうなってたかな…………なんて思っちゃったし」

「確かにそうですね…………でも、勝利は勝利ですよ!私達がサンダース大学附属高校に勝ったと言うのは変わりません!」

 

みほの言葉に、優香里は納得するように頷くが、それでも勝ったと言う事実は変わらないと力説する。

 

「そう、だよね…………」

「え?」

『『『『『?』』』』』

 

突然、沈んだように顔を俯けるみほに、優香里や他のメンバーは首を傾げる。

 

「勝たなきゃ、駄目なんだよね…………」

「そうかぁ?俺はそうとは思わねえぜ?」

 

みほはポツリポツリと言うが、紅夜が真っ向から否定する。

 

「そうですよ!楽しかったじゃないですか!初めてやった模擬戦も、レッド・フラッグとの試合も、聖グロリアーナとの試合も、サンダースとの試合やそれからの訓練も、その後の寄り道も、全部…………全部!」

「うんうん!最初はお尻痛かったけど、何か戦車乗るのが楽しくなったよ!」

「私もです」

「ん…………」

 

優香里が腕を広げて、訴えかけるように力強く言うと、沙織達も同調する。

それを見た紅夜達も、頷いていた。

 

「そう言えば、私も何時の間にか、そう思ってたよ…………昔はただ、『勝たなきゃ』って一心でがむしゃらに乗ってたから、負けた時に、もう戦車から逃げたくなって…………」

俯いたみほが弱々しく言うと、優香里が声を張り上げた。

 

「私、あの試合をテレビで見てました!」

「!?」

 

突然声を張り上げた優香里に、みほは顔を上げる。

 

「え、何?何があったの?」

 

みほの戦車道事情については無知な沙織が詰め寄り、華も興味津々の眼差しでみほを見る。

 

「おいお前等、興味があるのは分かるが、あんま人の事情に首突っ込むのは野暮ってモンじゃ……「良いよ、紅夜君。私、話すから」……本気か?あんま知られたくねえ事なんじゃねえのか…………?」

 

既にみほから話を聞いていた紅夜は、下手に首を突っ込むとみほが傷つくと思い、2人を静めようとするが、みほに止められる。

自分が話すと言うみほに、紅夜は本気なのかと訊ねる。

 

「そうだけど…………沙織さんも華さんも、紅夜君達も、私の大切な友達だから…………良い機会だし、話しておいた方が良いと思うの……………」

「…………」

 

そう言われ、紅夜は暫く、黙ってみほを見つめていたが、やがてゆっくりと頷いて言った。

 

「分かった…………そこまで言うのなら、もう止めねえよ…………話すも話さないも、お前の自由だしな」

 

紅夜はそう言うと、大人しく引き下がる。

 

「ありがとう、紅夜君……………それで、私が黒森峰に居た頃なんだけど……………」

 

そして一行は、みほの話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

「……………………と言う事があって、私達黒森峰は負けちゃったんだ……………」

『『『『『……………………』』』』』

 

みほの話を話を聞き終えた一行は、その話の重さに黙り込む。

 

「私のせいなの…………10連覇も逃して…………それで、他の隊の皆にも、お姉ちゃんにも…………迷惑掛けて…………西住流も、戦車も、嫌になって……………」

「西住殿!」

 

みほが弱々しく言うと、優香里がまた声を張り上げた。

 

「前にも言いましたが、私は!西住殿がした事は、間違いではなかったと思います!」

「秋山さん…………」

 

大声で言う優香里に、みほは目尻に涙を浮かべる。

 

「ああ、全くもってその通りだぜ。たとえ流派のやり方に反する事だとしても、俺は正しかったと思う」

 

腕を組みながら、紅夜もウンウンと頷く。

 

「それに、西住殿に助けられた選手の人は…………きっと、感謝してると思いますよ」

 

優香里はそう言って、みほに微笑み掛ける。

 

「秋山さん…………ありがとう」

「ッ!?はわぁッ!?」

「うえっ!?どうした!?」

 

突然変な声を上げた優香里に、紅夜は驚き、振り向く。

 

「す、スゴいッ!私、西住殿に『ありがとう』って言われちゃいましたぁ~~っ!!」

「驚いたのってそれぇ!?」

 

紅夜はそう言いながら、漫画よろしく頭から格納庫の床に落ち、ずっこける。

 

「こ、紅夜君!?大丈夫なの!?」

 

頭から落ちた紅夜に、みほが声を掛ける。

紅夜は少しの間、足をピクピクさせていたが、直ぐに復活し、見事なヘッドスプリングで飛び起きると、そのまま元の場所に飛び乗る。

 

「やれやれ、驚く動機が動機だからビックリしたぜ」

「す、すみません長門殿…………」

 

首をボキボキ鳴らしながら紅夜が言うと、申し訳なさそうな表情を浮かべた優香里が詫びを入れる。

 

「いやいや、別に構わねえよ。驚かせて悪かった」

「でも、ホントに大丈夫なの?頭から落ちるなんて…………」

 

沙織が心配そうに言うと、達哉が笑いながら言った。

 

「それなら心配要らねえよ武部さん。なんせコイツは現役時代、戦車から降りて偵察する時に着地に失敗して、砂道に頭から突っ込んだり、岩に頭ぶつけても平然としてる程の石頭だからな、これでも」

 

そう言いながら、達哉は握り拳を作って紅夜の頭を小突く。

 

「んだよ達哉、小突くんじゃねえよ…………あ、そうだ」

紅夜は達哉に咎めるような視線をぶつけるが、何かを思い出したようにポケットに手を入れ、ハンカチを取り出してみほに渡す。

 

「西住さん、これで涙拭けよ」

「え?」

 

みほは間の抜けた声を出し、自分の目に触れる。そして手を離すと、その手には涙がついていた。

 

「私、知らない間に泣いてたんだ…………」

 

みほはそう言いながら、紅夜に渡されたハンカチで涙を拭く。

 

「ああ、そう言えば」

 

今度は華が声を出すと、あるハンカチを取り出して紅夜に差し出した。

 

「長門さん、これ」

「ん?」

差し出されたハンカチを見て、紅夜は首を傾げる。

 

「このハンカチがどうした?」

「お忘れですか?聖グロリアーナとの試合の日、長門さんが貸してくれたものなんですよ」

「…………ああ、あれか?そういやそうだったな、すっかり忘れてたよ」

 

紅夜はそう言いながら、華からハンカチを受け取る。

 

「ずっと返そうと思っていたのですが、言い出すタイミングが掴めなくて…………」

「別に良いって、忘れてた俺も俺だからさ」

 

申し訳なさそうに言う華に、紅夜は微笑みながら言う。

 

「紅夜君、ありがとう。もう良いよ」

「そっか…………」

 

紅夜はそう言って、みほが差し出したハンカチを受け取ると、あんこうチームのメンバーを見渡して言った。

 

「なあ、西住さん…………お前、良い仲間に恵まれたと思わねえか?」

「え?…………うん、そうだね」

 

突然話し掛けた紅夜に、みほは一瞬戸惑うものの、楽しそうに話すあんこうチームやライトニングのメンバーを見て、ゆっくりと頷く。

 

「良いか?確かに試合では、勝つ事も大切だ。だが、形ある勝利が全てなのか?目に見えない勝利があるだろう」

「目に見えない…………勝利…………」

「そう。現にお前は、その目に見えない勝利を掴んでるんだよ。ホラ、お前ん家の流派って、所謂『犠牲なくして勝利なし』ってヤツだろ?」

「うん…………」

「なら、お前は10連覇を犠牲にして、乗員の命と、西住流…………否、戦車道の未来を守ると言う勝利を掴んだんだよ。それは立派な事なのさ」

「戦車道の…………未来…………?な、何の話を…………?」

 

みほは、紅夜の言う事が分からないとばかりに首を傾げるが、ライトニングの面々は理解したらしく、頷いていた。

 

「まあ、今は分からなくとも、何れは分かる事なんだから、そう焦らなくても良いさ。まあ兎に角だ。戦車道ってのは、数学の定理とかのように、決まったものなんて無いってこと。人の数と同じだけ、戦車道の道はあるって事さ」

 

そう言って、紅夜は少しの間を置いて言った。

 

「元々居た西住流が嫌なら、お前の戦車道を見つけろ…………お前の思う、お前の西住流を作れ…………それを宿題としよう。期限は、この全国大会が終わるまでだ」

「う、うん…………が、頑張ります」

 

アニメでもありそうな台詞を言う紅夜に、みほは苦笑を浮かべながら言った。

 

「そうですね…………戦車道の道は、1つだけじゃないですよね」

 

突然、華が同意するかのように口を開いた。

 

「そうそう!私達が歩んできた道が、私達の戦車道になるんだよ!」

「お!武部さん、今の台詞は最高にカッコ良かったぜ!」

沙織が天井を指差して言うと、何時の間にかⅣ号の車体部分に凭れていた達哉が言った。

其所には翔や勘助も居り、腕を組んでウンウンと頷いている。

 

「えへへ~、そう~?」

 

誉められたのが嬉しいのか、沙織は頬を赤く染める。

 

「確かに、その通りだな…………」

「ああ、今のはどのアニメにも劣らない名台詞だったぜ。メモメモ…………」

 

翔はそう言い、勘助は沙織が言った事を何処からともなく取り出したメモ用紙に書き付ける。

 

「フフッ♪」

 

そんな彼等を見ながら、みほは軽く微笑み、天井を見上げる。

 

「…………こんな光景が見られるとは、このチームに来て良かったな、相棒」

 

何時の間にかIS-2へと飛び移っていた紅夜は、Ⅳ号の上で思い思いに言い合うメンバーを見ながら、自分の愛車に向かって言った。

 

『うん、そうだね……』

「ッ!?」

 

その時、紅夜には女性の声が聞こえ、怪しまれないように目だけを動かして声の主を探すが、それが見つかる事はなかった。

 

「もしかしてIS-2…………お前か?」

 

誰にも聞こえないよう、小声でそう言った紅夜には、心なしか、まるで彼の問い掛けに答えるかのように、IS-2の砲身の先にあるマズルブレーキが、一瞬ながらキラリと光ったように見えた。

 

 

 

 

そんな中では……………

 

「そう言えばみぽりん、ちょっと気になってたんだけど」

「ん?何?」

 

不意に、何かを思い出したかのような声色で話を切り出した沙織に、天井を見上げていたみほは、視線を沙織の方へと向ける。

 

「みぽりんってさあ、サンダースとの試合の後半辺りから、長門君を名前で呼んでるよね?」

「え?……………………あっ!!」

 

沙織が不意に言った言葉で、自分が紅夜の事を、無意識のうちに名前で呼んでいた事に気づいたみほは、顔を真っ赤に染め上げる。

 

「もしかしてみぽりん、長門君の事が…………」

「わーっ!わーっ!それ言っちゃダメぇ!!」

 

紅夜がIS-2を見ている最中、Ⅳ号ではそのような会話が交わされており、それを見ていた優香里や華が複雑そうな表情を浮かべていたとか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、生徒会室では…………

 

 

杏、桃、柚子の3人が昼食を摂りながら、2回戦の対戦相手--アンツィオ高校--の資料の読み合わせをして対策を練ると共に、大洗の戦力についての見直しをしていた。

 

「2回戦、これだけで勝てるのかなぁ……………」

「まあ、レッド・フラッグのメンバーが来てくれてるから良いとしてもねぇ…………」

「絶対に勝たねばならんのだ!」

 

柚子が不安そうに呟き、杏がそれに言葉を返すと、桃が握り拳で机を叩き、勝つ事への執念を見せる。

 

「でも、2回戦はアンツィオ高校だよ?」

「まあ向こう側って、ノリと勢いだけは、凄いからねぇ…………資料見てみたけど、まあ優勝は無かったとは言え、決勝まで行く事もあったらしいからねぇ……………まぁ、1回戦で敗退、なんて事あるから…………まあ言うなれば、その年の隊長とか、チームのコンディションでの調子の良し悪しの差が出やすいって事だねぇ~」

 

杏が言うと、落ち着きを取り戻した桃が頷いた。

 

「そうですね…………調子が良い状態の時のみに視点を置けば、その時の強さは我々を上回るでしょう。レッド・フラッグの面々が居るからまだ良いものの、居なかった場合を考えたら……………ですね」

「ええ…………調子に乗られると、手強い相手です」

「油断は禁物って事だねぇ…………まあ最終的に言えば、立ちはだかる壁は、私達に休みの隙をくれそうにはないって事だねぇ……………」

 

杏はそう言って、何時ものように干し芋を頬張るのであった。


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