ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第30話~逆転劇の始まりです!~

サンダースのフラッグ車を全車両で追撃している大洗は、後ろにケイが率いる援軍の到着により、前後からの砲火に晒されていた。

 

大洗のフラッグ車である38tのカメさんチームを、ウサギ、カバ、アヒルさんチームの3チームが守り、Ⅳ号のあんこうチームとIS-2のライトニングチームで前方のM4A1を狙う。

みほ達あんこうチームのⅣ号は、命中しないものの何度も砲撃を加えるが、携行弾数が少ないIS-2は無駄弾を撃てないため、数分に1発程度しか発砲出来ずにいた。

 

「撃てぇーッ!」

「「「アターック!」」」

 

そんな中、アヒルさんチームの八九式が38tの真後ろにつき、サンダースの本隊に砲撃を仕掛ける。

だが、その砲弾は命中せず、ケイのシャーマンの直ぐ横に着弾する。

その時だった。

 

「「「「キャァアアアーーーッ!!!?」」」」

 

仕返しと言わんばかりに、ファイアフライの砲弾が八九式のエンジングリルに叩き込まれる。

ドイツ戦車として有名なティーガーⅠを正面から撃破出来る程の威力を持つ17ポンド砲の直撃を受けた八九式は、エンジンから黒煙を上げながら徐々に速度を落としていき、地面から突き出ていた岩に激突、乗り上げて停まる。

 

「あっ!?」

 

それに気づいたみほが声を上げた頃には、八九式から白旗が上がっていた。

 

「アヒルさんチーム!怪我はありませんか!?」

『『『『大丈夫です!』』』』

 

沙織がすかさず安否を確認するべく通信を入れると、全員から無事を知らせる返事が返され、それを聞いたあんこうチームのメンバーが、安堵の溜め息をつく。

だが、そうして安心していられるのも束の間、ファイアフライの砲手であるナオミが、次の標的をウサギさんチームのM3に定めたのだ。

 

「…………」

 

表情1つ変えることなく、淡々とした表情でガムを噛みながら砲塔を回し、スコープを覗いてM3のエンジンへと狙いをつける。

狙いが定まると、ナオミはスナイパーの如く引き金を引く。

激しいマズルフラッシュや轟音と共に、ファイアフライの砲口から砲弾が飛び出し、そのまま一直線にM3のエンジン部分へと向かう。

そして、先程八九式が撃破された時のように、M3のエンジンに砲弾が叩き込まれる。

M3は黒煙を上げながら徐々に速度を落としていき、片側の履帯が外れていきながらも進み、最後は砲撃戦によって空いた穴に落ちて停まった。

 

『すみません!鼻が長いヤツにやられました!』

「ファイアフライですね…………」

「うん…………それにしても、まさかM3までもが…………」

 

梓からの通信が入り、優香里とみほが呟く。

 

 

 

 

 

 

「これはもう、大洗がやられるのは時間の問題ですね…………IS-2すらも役に立たないとは…………まあ、あれは携行弾数が少ない戦車だから、ああなるのは考えるまでもなかったか…………」

 

観客席エリアの小高い丘陵の上で、要はそう呟く。

それを横目に見ながら、エリカは誰にも聞かれないような、小さな声で呟いた。

 

「どうかしらね…………でも彼等が居るのなら、絶望的な状況でも何時かは這い上がってくるわよ…………」

「…………」

 

エリカはそう言い、まほも聞こえていたかのような表情でエキシビジョンを見ていた。

 

 

 

 

 

「オイオイ、マジかよ…………八九式はおろか、M3までやられちまったぞ」

「こりゃ、早いとこカタつけねえと此方が危ういな…………Jesus」

 

後ろで黒煙を上げて立ち往生する2輌の戦車を見ながら、紅夜とは達哉はそう呟く。

翔や勘助も、口にこそしないものの、同じ事を考えていた。

 

「つーか、隊長車は何してんだ?さっきから何の指示も飛んで来ねえぞ」

「一先ずは落ち着け。其所から始めよう」

「「「Yes,sir」」」

 

車内の状況を纏めるべく紅夜が言うと、色々と言い合っていた3人は頷いた。

 

何時もの活気は失われているものの、彼等の目にはまだ、闘志の炎が消えずに燃えていた。

 

 

 

 

 

「…………もう、此処までなの?……………何も、出来ないの……………?」

 

冷静になりつつ、未だに闘志は燃え上がっているライトニングのメンバーとは対照的に、あんこうチームのⅣ号の車内では、意気消沈したようなムードが流れていた。

沙織が呟くが、みほは言葉を返すことなく、ただ黙りこくるだけだった。

 

 

 

「ホーラ見なさい!やっぱりアンタ等なんて蟻でしかなかったのよ!ちょっと強い戦車を仲間に引き込んだからって、良い気になってたのが仇になって、私達サンダースと言う名の象に踏み潰される事になったわね!ざまあみなさい!」

 

M4A1では、すっかり調子を取り戻した--と言うよりかは、逆に調子に乗りすぎている--アリサが叫び、大洗を小馬鹿にしていた。

 

 

 

 

 

さて、サンダースの援軍から逃げ回るだけとなってしまった大洗戦車隊では、砲塔を持たない突撃砲であるが故に、下手に砲撃するよりも盾になることを選んだカバさんチームが、38tの真後ろに回った。

 

「まるで、弁慶の立ち往生だな…………」

「どんなに足掻いても、最早これまでか…………」

「蜂の巣に、されてボコボコ、さようなら」

「辞世の句を詠むな!」

 

カバさんチームの車内でも、諦めムードが広がっていた。

だが、この2チームのチームの諦めムードよりも、さらに濃いムードを放っている女子生徒が居た。

 

「もう、ダメだ…………何もかもが終わりだ…………」

 

38t、カメさんチームの桃だった。

その絶望した表情は、あたかも末期の癌で余命3日を宣告された患者か、はたまた1週間徹夜で猛勉強したのにも関わらず、受験に失敗した浪人生のような顔だった。

 

「…………ッ!」

 

諦めムードが漂うⅣ号の車内では、みほが無意識のうちに震えていた左手を右手で握る。

 

「(どうしたら良いの?もう、打つ手は無いの…………?)」

 

サンダースの戦車が、前後から容赦なく砲弾を浴びせる。Ⅳ号も砲撃し返すものの、命中すらしない。

 

そんな中、ケイのシャーマンから放たれた砲弾が38tの砲塔を掠って火花を散らし、耐えかねた桃が悲鳴を上げて泣き叫ぶ。

どうしようもない状況に、みほが頭を抱えて車長の席に蹲ろうとした時、通信が入ってきた。

 

『オイ隊長、次の指示はどうした?かれこれ長いこと待ってるぞ此方は』

「…………ッ!な、長門君…………」

 

紅夜だった。

 

みほが頭を上げ、Ⅳ号のキューボラから自分達の斜め前を走るIS-2を見る。

紅夜は操縦手の達哉に指示を出し、Ⅳ号の直ぐ横にIS-2をつけて走らせる。

 

『ホラ隊長、早く次の指示をくれ。此方の砲撃準備は出来てるぜ?』

 

そう言って、紅夜は親指を上に向ける。殆どのチームが絶望している状況でも、紅夜達ライトニングのペースは何時も通りだった。

 

「でも、もうどうしたら良いか…………ッ!」

 

みほは通信機で返すが、段々と声は力を失い、紅夜にも聞こえるか聞こえないかぐらいの小ささになった。

それを聞いた紅夜は、溜め息をついて言った。

 

『なァにシケた面で諦めたような事言ってんだコラ。まだ勝負は着いてねえだろうが』

「…………ッ!」

 

紅夜が言うと、みほはハッとした表情で紅夜を見た。

 

『あの調子コイてバカスカ撃ちまくってやがるシャーマン野郎も、後ろでバカスカ撃ってきやがる連中も走りながら撃ってんだ。そう簡単に当たりゃしねえよ』

「…………」

『俺等はお前の指示を待ってる…………お前の指示を必要としてる。撃って当てりゃ此方の勝ち、諦めりゃ此方の敗けなんだ…………次の指示を待つ。Over』

 

そう言って、紅夜は通信を切った。

 

「うん、そうだね長門君…………何時までもウジウジしてちゃ、駄目だよね…………ッ!」

みほはそう呟くと、大洗の全車両に通信を入れ、大声で叫んだ。

 

「皆さん!落ち着いて聞いてください!」

『『『『『!?』』』』』

 

突然大声を張り上げたみほに、ライトニング以外の全員が静まる。

Ⅳ号の華や沙織、優香里も驚いた表情でみほを見る。

麻子も表情を変えてはいないが、みほの話を聞く態勢になっていた。

 

「落ち着いて攻撃を続けてください!此方もそうですが、相手も走りながら撃って来るから、当たる確率は低いです!今はフラッグ車を撃破する事だけに集中してください!チャンスは今しかないんです!」

 

一旦言い終えると、みほは深く息を吸い込み、それを一気に吐き出すようにして叫んだ。

 

「当てさえすれば、私達の勝ちなんです!諦めたら、その場で敗けなんです!!」

 

「…………当てれば、私達の勝ち…………」

「諦めたら、私達の敗け…………」

 

みほの叫びを聞いたエルヴィンと柚子が、そう呟く。それでも桃が情けない声を上げるが、杏がそれを宥めた。

 

 

 

ああは言ったものの、それだけでこの絶望的な状況が変わるなんて、そんな都合の良い事が起こる訳でもなく、みほはまた震え出す。

 

だが、そんなみほの膝に置かれていた両手を固く握る者が居た。

 

「…………西住殿の、言う通りですね!」

「ええ!」

 

装填手の優香里と、砲手の華だった。

 

「そうだよね…………諦めたら、その場で敗けなんだよね!!」

「うん…………」

 

沙織が優香里と華に同調するように言い、麻子も小さく声を出す。

 

「皆…………」

 

元気を取り戻したメンバーに、みほが感激した表情を浮かべると、突然、Ⅳ号の真横から爆音が響き渡った。

慌てたみほがキューボラから外を見ると、其所には砲口から白煙を上げるIS-2が居た。

紅夜がずっと、IS-2を、Ⅳ号の真横につけさせていたのだ。

みほと同じように、キューボラから上半身を覗かせた紅夜は、みほへと通信を入れた。

 

『Whoo-hoo!!その言葉を待ってたぜ!つーか、やっと元気を取り戻したか!待ちくたびれたぞ隊長!!』

「!紅夜君!」

 

ハイテンションで叫ぶ紅夜に、みほも大声で紅夜の名を呼ぶ。みほは無意識のうちに紅夜を名前で呼んでいるが、本人は気づいていなかった。

 

『そう指示されたら、此方も本気出してやらねえとなァ!!よっしゃ隊長!後ろのシャーマン共は俺等に任せな!足止めしてやるよ!』

「え!?そんな事出来るの!?そもそもどうやるの!?」

『んなモン決まってんだろ!IS-2(コイツ)をUターンさせて、後ろからバカスカ撃ってきやがるシャーマン野郎共に突っ込むんだよ!後は好き勝手に暴れ手やらァ!』

「そ、そんなの無謀だよ!やられちゃうよ!?」

 

突然の紅夜の言葉に、みほは驚愕の声を上げた。

紅夜の言う事はつまり、後ろの援軍に単身で突っ込むという事。普通なら無謀だと叫ぶだろう。

だが、それでも紅夜は言った。

 

『安心しな!粗方潰したら援護に回るさ!つーか隊長、IS-2(コイツ)の頑丈さと長年戦車道やってきた俺等をナメんなよォ!?追い付けねえなら翔が遠距離射撃でも決めてくれるぜ!』

 

IS-2の車内では、紅夜の言葉に翔が力強く頷く。紅夜はそう言ってサムズアップし、みほに微笑みかける。

みほは一瞬顔を赤くしながらも、直ぐに表情を真剣なものに戻して言った。

 

「分かりました!ライトニングチームは、後ろの援軍をお願いします!絶対帰ってきてくださいね!」

『『『『Yes,ma'am!!』』』』

 

みほの無線機に、ライトニング全員からの返事が返され、それを最後に通信が切れた。

 

「…………うっしゃあ…………うおっしゃああああっ!!行くぞテメエ等ァ!!!彼奴等に一泡噴かせてやろうぜェ!!」

「「「「Yes,sir!!!」」」」

 

テンションが限界を振り切った紅夜が叫ぶと、達哉、翔、勘助が答える。

 

大洗の逆転劇が今、始まろうとしていた!


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