ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第28話~1回戦、白熱してます!~

大洗戦車道チームで次の作戦が開始されようとしている頃、相変わらずアリサは、無線傍受を行っていた。

 

「大洗め…………良い気になるなよ…………ッ!」

 

アリサはそう呟き、苛立った表情で傍受機のダイヤルを回していく。

元はと言えば、勝手に無線傍受機を打ち上げて、おまけに無線傍受を逆手に取られる事を心配しなかった彼女の自業自得なだけの話なのだが、気が立っているアリサは、そんな事など考えもしていなかった。

そうして、暫くダイヤルを回していると、傍受機がみほの声を拾った。

 

『全車両、128高地に集合してください。現在のサンダースの戦車で、一番の脅威はファイアフライです。危険ではありますが、先に128高地に陣取って、上からファイアフライを一気に叩きます!』

「く…………クククッ…………クハハハハハハハッ!!!彼奴等、捨て身の作戦に出たわね!」

 

突然高笑いを上げたアリサに、シャーマンの乗員は酷く驚いた表情を浮かべるが、当の本人は気にしていないようだ。

そのままアリサは、嫌味ったらしい笑みを浮かべながら無線機を手に取る。

 

「でも、愚かな判断ねぇ……………丘を上がったら、此方の良い標的になるだけよ……………………隊長、大至急128高地に向かってください」

『え?いきなり何?どういう事?』

 

突然のアリサの発言に、アリサが通信を入れた先のケイが、訳が分からないとばかりに聞き返す。

 

「敵の全車両が現在、128高地に向かっています。其所に全車両が集まる模様です」

『ちょっとアリサ、それ本当?どうしてそんな事まで分かっちゃうわけぇ?』

 

アリサの言う、あまりにも具体性が出来すぎている内容に、ケイは疑うような声色で問いかける。

 

「…………私の情報は完璧です、間違いありません」

『…………ッ!』

 

アリサの自信に溢れた一言に、ケイは目を見開く。

 

「…………OK!」

 

そう言ってケイは、他のシャーマンへも通信を繋げる。

 

「128高地に向かうわよ!全車、Go ahead!!」

 

そうして、無線機へと高らかに叫ぶケイを乗せたシャーマンを筆頭に、サンダースのシャーマン戦車隊が全速力で草原を突き進み、128高地へと向かっていった。

勿論、大洗の戦車が本当に居る訳がないのだが、それに彼女等が気づくのは、もう少し後の話だ。

 

 

 

そしてその頃、大洗側では…………

 

「アヒルさんチームは、サンダースのフラッグ車を探してください。見つけても、その場で撃破しようとは考えず、直ぐに戻ってきてください」

『了解しました!』

 

みほの指示により、アヒルさんチームの八九式が、サンダースフラッグ車の捜索に乗り出しているのだった。

 

 

 

 

 

 

そして、早い段階で128高地にやって来たケイ達だが…………

 

「……………………何も無いよーーっ!!!?」

 

もぬけの殻と言わんばかりに静まり返り、戦車はおろか、戦車が居た痕跡すら見つかりもしない高地で、ただ無駄骨を折っただけとなった。

そして、視界に広がる、ただ開けた草原を見ながら、ケイが叫んだ。

 

「そ、そんな筈はありません!」

 

ケイからの通信に、竹林に隠れているシャーマンA1型の車長、アリサは驚きながらも声を上げる。

 

「もしかして…………嵌められた?なら、大洗の戦車は何処に…………?」

 

そうアリサが呟いた瞬間、直ぐ側の竹垣を踏み潰し、箱乗りした典子を乗せた八九式が姿を現した。

 

「あ…………」

「うん…………?」

 

いきなり互いの獲物の登場に、両者共に固まる。

そのまま時間が止まったかのように、暫く互いを見ていたが、典子はアリサから視線を外さないまま、八九式の砲塔を軽く叩いて操縦手の忍に合図を送った。

 

「右に転換!急げぇーッ!」

 

そう叫ぶと、八九式は直ぐ様展開を始め、M4A1の前からの離脱を図る。

 

「じゅ、蹂躙してやりなさーい!!」

 

漸く我に返ったアリサが叫ぶものの、砲塔を回転させようとした頃には、八九式は走り出していた。

 

「本隊に連絡は!?」

「するまでもないわ!撃てぇ!撃てぇぇーーっ!!」

 

最早自棄っぱちになったのか、アリサは砲塔が回転した状態でも、構わず発砲命令を出す。

そのままM4A1から砲弾が撃ち出されるが、そのタイミングは、砲塔の回転が止まろうとした瞬間。そのため、狙いが定かではないため当たる訳もなく、砲弾は八九式のエンジンルームを通り過ぎ、竹林地帯に着弾した。

 

「此方アヒルさんチーム!敵フラッグ車を0765地点にて発見しました!此方も発見され、現在撤退中です!」

 

箱乗りしたままの典子が、みほに通信を入れる。

そして、大洗本隊では…………

 

「0765地点ですね!なら逃げ回って敵を引き付けてください!0615地点へ、全車前進!」

みほがそう言うと、操縦手の麻子がⅣ号を動かし始める。

 

「武部さん、携帯で各チームに連絡を!」

「分かった!」

 

無線傍受をされないため、みほはサンダースを騙すために偽物の情報を流していた際、連絡手段として使っていた携帯で、沙織に連絡を入れるように言った。

 

 

 

 

 

 

その頃、M4A1を発見したアヒルさんチームは、みほからの指示通り、0615地点へと向かっていたが、後ろからは、自棄を起こしたような、執拗な砲撃が襲い掛かる。

 

「ええいっ!」

 

そこで、典子は発煙筒を取り出すと、フローターサーブでM4A1へと叩き込んだ。

発煙筒は空中で炸裂し、M4A1の操縦手用のスコープ辺りに乗っかり、其所から絶えず煙幕をぶちまける。

それでも尚、M4A1は発砲するが、視界が遮られている中で当たる訳もなく、命中しなかった。

 

「何をやっている!相手は八九式だぞ!」

「で、ですが視界が!」

「良いから撃て!」

 

此処まで来たら自棄っぱちも良いところである。アリサは視界が遮られているにも関わらず、攻撃を続行させる。

砲弾は外れはするが、やはり着弾の衝撃だけは伝わるのか、八九式は着弾の度に大きく揺れ、あけびが耳を抑える。

 

「キャプテン!激しいスパイクの連続です!」

 

典子に発煙筒を投げ渡しながら、あけびは言う。

 

「相手のスパイクを絶対に受けないで!逆リベロよ!」

「…………意味分かりません」

 

典子の言葉に、あけびは何とも言えないような表情で呟く。

そうぼやくあけびの事などお構い無しに、典子は次の発煙筒を投げつけていた。

 

 

 

 

 

「ええい!装填遅いわよ!何してるの!」

 

その頃M4A1の車内では、装填手に近い位置にある砲弾が底をついてしまい、奥の方にある砲弾に手を伸ばし、砲弾を取ろうとしている装填手に、アリサは苛ついたような声で言った。

 

「すみません、砲弾が遠くて…………」

 

装填手が言うと、アリサはすかさず言った。

 

「ならば機銃で撃ちなさい!」

「ええ!?戦車を機銃で撃つなんてカッコ悪いじゃないですか!」

「勝負にカッコ良いも悪いもあるか!手段を選ぶな!」

 

最早自棄っぱちに叫ぶアリサに、砲手は泣く泣く機銃掃射を始める。

背後から飛んでくる銃弾を弾きながら、八九式は大洗の戦車隊が待ち構えている0615地点にやって来る。

 

「来たぞ、八九式とシャーマン野郎だ」

 

IS-2のキューボラから上半身を覗かせ、八九式が来るのを見ていた紅夜がそう呟く。

横に並ぶあんこうチームのⅣ号から、みほの指示が飛んだ。

 

「全車、突撃します!但し、カメさんはウサギさんとカバさんで守ってください!ライトニングチームは、我々あんこうと来てください!」

 

そうして、Ⅳ号が全身を始め、IS-2も進み出す。

 

「翔、1発ぶちかまして恐がらせてやれ」

「イエッサー!」

 

そうして、翔はM4A1の横の姿がスコープに映った瞬間、引き金を引いた。

凄まじい爆音と共に砲弾が放たれ、M4A1の直ぐ前を通過していく。

 

「うわぁぁーーッ!!後退!後退ぃぃーーっ!」

 

キューボラから上半身を覗かせていたアリサは、物凄い勢いで目の前を通過していった砲弾に驚き、そのまま回りを見回すと、自車に向かってくる大洗の戦車全車両を視界に捉える。

『袋の鼠』という諺が似合うような状況に、アリサはすっかり怯え、直ぐ様車内に引っ込むと、操縦手に交代命令を出す。

そして泣き叫ぶような声で、ケイへと通信を入れる。

 

「き、緊急事態発生!大洗女子学園の戦車全てが、一斉に砲撃を仕掛けてきます!」

『ええ?』

 

アリサが握る無線機から、ケイの唖然とした声が聞こえた。

 

『ちょっとアリサ、それどういう事?さっきと話が全く違うじゃない。そもそも128高地に、大洗の戦車なんて1輌も居なかったのよ?どうなってるの?』

 

ケイはマシンガンの如く、アリサに疑問の声をぶつける。

 

「は、ハイ…………恐らく無線傍受を、逆手に取られたのではないかと…………」

『無線傍受ですってぇ…………ッ!?この、大馬鹿者ォォーーッ!!!』

「ヒィッ!?申し訳ありません!」

 

無線機からケイの怒号が響き渡り、アリサはすっかり縮こまった声を出す。

 

『アリサ!アンタ何て事してるのよ!戦いはフェアプレーでやるべきだって、何時も言ってるでしょ!?』

アリサはそれに答えようとしたが、続けざまに大洗の砲撃を喰らい、アリサの声は着弾の音に掻き消される。

 

『もう!こうなったら仕方無いわ!さっさと逃げなさい!Hurry up!!』

「い、Yes,ma'am!!」

そうしてアリサは、操縦手に全速離脱の指示を出し、M4A1を急発進させる。

それを大洗の戦車隊が追いかけ始め、またしても追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「全くあの子は…………それにしても、無線傍受なんて事やっといて全車両で反撃しに行くってのも、アンフェアよね…………」

 

その頃、他のシャーマンを引き連れてアリサの救援に向かっていたケイは、アリサの仕出かした事に呆れ、溜め息をつきながら呟いていた。

そして暫く走らせていると、彼女にとある案が浮かんだ。

 

「なら、此方も同じ数で行けば良いか!」

 

そうしてケイは、他のシャーマンに通信を入れた。

 

「敵は6輌だから、4輌は私についてきて!後はどっかで適当に待機!そしてナオミ!出番よ!」

「…………Yes,ma'am」

 

ケイからの指示に、ファイアフライの砲手、ナオミは淡々とした声で返事をする。

 

「では行くわよ!全車、Go ahead!!」

 

ケイの声を皮切りに、計5輌のシャーマンが土煙を上げながら前進し、アリサの援護へと向かった。

 

 

 

激戦の時間は、近い。


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