ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第27話~逆手にとって仕返しです!~

「長門君、いきなりどうしたの?茂みに戦車を停めろなんて…………」

 

ウサギさんチームとアヒルさんチームを先に行かせ、みほ達あんこうチームと紅夜達ライトニングチームは、茂みに戦車ごと隠れて停めると、紅夜はライトニングのメンバーを車内に残してIS-2から降りると、Ⅳ号に近づき、みほに話しかけられていた。

 

「いや、さっき来やがった2輌のシャーマン野郎共を見て思ったんだ…………おかしいぜ西住さん。彼奴等が俺達の迂回先に気づいてて、あたかも待ち構えてたみたいに襲い掛かってくるなんてさ」

「え?…………ま、まさか?」

 

紅夜が何を言っているのか分からないとばかりに首を傾げるみほだったが、直ぐに察したのか、静かに声を上げる。

 

「ああ、そのまさかだよ…………上見てみろ」

 

そう言うと紅夜は、右手の人差し指を上に向ける。それと同時に、みほも上を見上げる。

 

「あ、あれは……………ッ!?」

 

みほの視線の先には、気球のような形をした物体が浮いていた。

「そう、通信傍受機だ…………彼奴等、此方の通信を全部盗み聞きしていやがった」

「成る程、だからあの時…………」

 

そうみほが呟くと、紅夜は頷いて言った。

 

「そういう事だ…………まあ、向かってきた2輌のうち、1輌は俺等が吹っ飛ばしてやったけどな…………まあ取り敢えず、通信傍受の対策会議でもしようぜ」

 

そう紅夜が言うと、みほは頷いてⅣ号のメンバーに呼び掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………確かに、ルールブックには通信傍受機を打ち上げちゃいけない、なんて事は書いていませんね」

 

戦車道公式戦のガイドブックを持った優香里が、項目とのにらめっこを終えて言う。

 

「そんなの酷い!いくらお金持ちだからって!」

「抗議しましょう!」

 

腹を立てたのか、沙織と華が声を上げるが、紅夜がそれを落ち着かせた。

 

「まあまあお二人さん、此処は落ち着こうぜ。それに、相手があんな真似してくるなら、逆に、相手を利用してやろうとは思わねえか?」

 

紅夜が言うと、2人は聞く体勢に入った。

 

「たった今、あの通信傍受機を利用する、良い手段を思い付いたんだが…………おっと。お前も、どうやら思い付いたみてえだな…………西住さん」

 

紅夜が言うと、みほが紅夜の方を向いて頷き、沙織達に視線を向けた。

 

「長門君、私の方から話しても良いかな?」

 

そう言うみほを少し見つめると、紅夜は頷いて言った。

 

「ああ、良いぜ。俺はただ、通信傍受機の事について知らせに来ただけみてえなモンだからな…………作戦決まったら、ケータイで教えてくれ」

 

そう言って、紅夜は自分の戦車に戻り、達哉に戦車を発進させる。そしてメンバーに、通信傍受機の事や、みほや彼自身が思い付いたと言う作戦について話した。

その頃みほは、あんこうチームのメンバーに、作戦の内容を話していた。

その作戦の内容が、2人同じ事だと言うのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

ある時、通信傍受のチャンネルを回していた、サンダースチームのフラッグ車、シャーマンA1型の車長、アリサは、大洗の通信を拾った。

 

『全車、0985の道路を南進、ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくる筈なので、通り過ぎたところを左右から包囲!』

 

みほの指示が飛ぶと、他のチームから返答が飛ぶ。

それが、サンダースチームを欺くために作られた、偽物の作戦だとも知らず、アリサはニヤリとほくそ笑み、ケイに通信を入れた。

 

「敵はジャンクション、左右に伏せてるわね…………なら、囮を北上させて!本隊はその左右から包囲!」

『OK、OK!でも、なんでそんな事まで分かっちゃうの?』

「…………女の勘と言うヤツです」

『アハハハハッ!それは頼もしいわね!』

 

アリサから伝えられた情報が、通信傍受によって得た……………それも、彼女等を嵌めるための偽物の作戦だとは知りもせず、ケイは笑いながら言う。

元々、潜入してきた優香里すらも気にしない大雑把な性格もあって、アリサの情報を簡単に信じ込んでしまっていた。

其所に少しでも、『本当にそうなのか?』と疑問を感じる事があれば、この試合の流れも変わったのかもしれないが……………それは今となれば、遅い事である。

 

 

 

 

 

 

その頃、大洗一行はジャンクションを一望出来る丘の上にやって来ていた。

 

「北から3輌、南から4輌、そして西から2輌か…………マジで来やがったな。ある意味予想外だぜ」

 

IS-2のキューボラから身を乗り出し、双眼鏡で下の様子を見ていた紅夜は、みほにサンダースの車両の配置を報告する。

 

「さあ隊長、作戦決行の時が来たぜ?」

「そうだね…………」

 

そうしてみほは、一呼吸の間の後に声を上げた。

 

「囲まれた!全車後退!」

みほが指示を出すと、茂みに隠れていた八九式が、後ろに括り付けた丸太を引き摺りながら全速力で走り出し、土煙を上げる。大洗の戦車全車両が逃げていると思わせるためだ。

その土煙に気づいた、2輌のシャーマンが煙を追いかける。

 

『見つかった!皆バラバラになって待避!38tは、C1024R地点に隠れてください!』

「38t、敵のフラッグ車ね…………貰ったわ!」

 

みほの偽の通信を拾ったアリサは、他のシャーマンに通信を入れた。

 

「チャーリー、ロック、C1024R地点に急行!見つけ次第攻撃!」

『『はい!』』

 

アリサからの指示を受け、其々のシャーマンの車長からの返事が飛ぶ。

 

そして、指示にあった地点に辿り着いた2輌のシャーマンは、砲塔を回転させ、38tを探す。

其所で、片方のシャーマンの砲手が、茂みに何かを見つけた。

 

「ん?あれって…………」

 

そう、彼女がスコープ越しに見つけたのは、獲物である38tではなく、カバさんチームのⅢ号突撃砲の砲口だったのだ!

 

「Jesus!?」

「撃てぇぇぇい!!」

 

自分達が騙された事に気づいたが、もう手遅れ。エルヴィンの指示が飛び、Ⅲ突が発砲。

さらに、別の場所で待ち構えていたⅣ号やM3、そしてIS-2からの射撃を浴び、1輌のシャーマンが撃破され、それを知らせる白旗が上がった。

 

『ロ、ロックチーム、撃破されました!』

「ええっ!?」

「何だって!?」

「ホワーイ!?」

 

その通信に、アリサ、ナオミ、ケイの3人が驚愕の声を上げる。これこそが、大洗での作戦なのだ。

業と無線で通信して、敵に嘘の作戦を信じ込ませ、実際は携帯のメールでやり取りしていたのだ。

大洗が無線傍受に気づいていないと高を括っていたが故に喰らったしっぺ返し、と言った感じであろう。

 

 

 

 

 

 

 

「大洗女子が、合計2輌も撃破…………!?」

「そのようね」

 

黒森峰では、要がその様子に唖然とし、まほが淡々と答える。エリカは何も言わなかったが、少し嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

「やりましたね」

「ええ、相手の作戦を利用した作戦…………みほさん達らしいですわね」

 

聖グロリアーナでは、ダージリンとペコが、作戦での勝利に感嘆の溜め息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

「見事ね…………」

「ええ」

 

その頃、観客席にて観戦しているレッド・フラッグでは、静馬が大洗の作戦に対して、その様なコメントを付け、それに雅が答える。

 

「隊長さんか、それともライトニングが考えたのか…………だが、それでも最高に使える作戦だな」

 

何処から買ってきたのか、ポップコーンを口の中に放り込みながら、大河はそう呟いていた。

 

「フラッグ車を潰さなければ勝てないが……………それでも大きな一歩だな」

「確かに。サンダースは優勝候補の一角。そんな学校の戦車を、無名校の戦車が先に2輌も撃破したんだもの。それに今のところ、大洗で撃破された車両はゼロ」

「衝撃的っちゃ衝撃的ね」

 

大河の呟きに、新羅、深雪、紀子が言葉を付け足し、巨大なスクリーンへと目を向けるのであった。

 

 

 

 

 

「て、撤退しろ!撤退ぃぃ!」

 

チャーリーチームの車長が叫び、シャーマンは一目散に逃げ出す。

 

「あ!逃げちゃうよ!」

「撃て撃て!」

「おりゃあっ!!」

 

逃げ出したシャーマン戦車を、逃がさないとばかりにM3が砲撃するが、砲弾は惜しくも外れ、結局、そのシャーマンには逃げられる結果となった。

 

「惜しいっ!」

 

M3からはそんな声が上がるが、深追いはするなというみほの指示が飛んだ。

 

『上手くいったね、長門君!』

 

それから、みほからの通信が紅夜の無線機に入った。

 

「ああ…………それにしても、完全に同じ事を考えてたとはな…………偶然ってスゲーや」

 

紅夜はそう言って、軽く笑った。

 

「まあ、これで合計2輌撃破したのは大きな成果だが、最終的にはフラッグ車を潰さなきゃ意味はねえ。取り敢えずはフラッグ車を探し出すのが良いと思うが、次はどうすんだ?」

『うん。次はね…………』

 

そうして、フラッグ車を探し出すための作戦が、始まろうとしてるのであった。


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