ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第4章~全国大会1回戦!VSサンダース大学附属高校!~
第25話~試合、開始です!~


さて、優香里のサンダース偵察の報告から数日明け、戦車道全国大会1回戦の日を迎えた。

会場は南方の孤島、森林地帯が広がり、緩やかな丘が幾つもある野戦会場だった。

 

観客席が設けられた場所では屋台が出回り、賑わいを見せていた。

 

会場に学園艦が着くと、大洗の戦車が続々と降り、会場の土を踏みしめる。

 

列の最後尾を進む、紅夜達ライトニングのメンバーを乗せたIS-2も、またその1輌であった。

「じゃあ静馬、俺達は先に、会場に行ってる」

『ええ。私達も後から、観客席の方に行くわ。頑張ってね』

「あいよ、んじゃな」

 

車長席に座りながら、静馬と電話をしていた紅夜は、通話を切ると携帯をしまう。

 

「静馬は何だって?」

 

装填手の勘助が、砲弾入れに持たれながら言う。

 

「ああ、後から観客席に来ると言ってたよ。それと一言、『頑張れ』だとさ」

「ほほーう、かなり淡々としたエールだな」

 

そうして会場に着くと、大洗側の戦車を停めておくスペースへと誘導されるのだが…………

 

「其所のIS-2、止まれ!」

 

クリップボードを持った、係の1人と思われる、何処かの学校の女子生徒に止められた。

それを聞いた紅夜は、達哉に戦車を止めるように指示を出す。

車体を揺らしながら戦車が止まると、紅夜はキューボラから身を乗り出し、そのまま車内から出ると、一気に地面に飛び降りる。

すると、その係の1人が近づいてきた。

 

「お前達、何者だ?此処は大洗女子学園のスペースだぞ。関係者以外は立ち入り禁止だ」

「悪いが、俺もその学園の所属だ」

 

警戒するような目で睨む生徒に、紅夜は言い返す。

 

「大洗女子学園所属、戦車道特別チーム《RED FLAG》隊長、長門紅夜だ。生徒会長、角谷杏より、我がチームの戦車を1輌、今回の1回戦に参加させる許可が降りていると聞いているのだが?」

 

そう言うと女子生徒は、通り掛かった他の女子生徒を呼び、何かを話す。やがて話が終わったのか、紅夜へと向き直った。

 

「確かに、レッド・フラッグが大洗女子学園に所属したと言う知らせはあった。通れ」

 

そう言って、女子生徒はそのまま去っていった。

紅夜はIS-2のエンジンルームに飛び乗ると、キューボラを叩いて達哉に前進させるように指示を出す。

そして、達哉はアクセルペダルをゆっくりと踏み、大洗女子学園のメンバーが待っている場所へと戦車を進めた。

 

 

 

 

 

 

「整備は終わったか~!?」

『『『『『はーい!!!』』』』』

 

自分達の戦車の整備を終えた、Eチーム改め《カメさんチーム》の桃が、他のチームに呼び掛ける。

 

「準備完了」

「私達もです!」

「Ⅳ号も、準備完了です」

 

桃の呼び掛けに、M3リーのDチーム改め《ウサギさんチーム》の1年生の面々や、Ⅲ突のCチーム改め《カバさんチーム》のカエサル、八九式Bチーム改め《アヒルさんチーム》の典子、そして、Ⅳ号Aチーム改め《あんこうチーム》のみほも返事を返す。

 

「ライトニングチーム、そっちはどうだ?」

「此方も準備万端ですよ、河嶋さん」

 

呼び掛ける桃に、紅夜がそう返した。

 

「よし!それでは試合開始まで待機!」

「あっ!砲弾忘れちゃった!」

「ちょっ、それ一番大切なヤツじゃん!」

「ゴメ~ン」

「「「ハハハハハハハッ!!」」」

「ちょっと、笑い事じゃないよー!」

 

1年生の方では、そんな感じで賑やかになっている。

 

「呑気なものね」

「それで良くノコノコと全国大会に出て来れたわね」

小馬鹿にするような声に全員が振り向くと、其所にはサンダース高校の制服を着た、ナオミとアリサが居た。

 

「はわっ!?」

 

偵察に行った時の事を思い出したのか、優香里は紅夜の後ろに隠れた。

 

「お前達、何しに来た!?」

前に出た桃が声を張り上げる。

その様子を何処吹く風と流し、余裕そうな顔をしたナオミが言った。

 

「試合前の挨拶も兼ねて、食事でもどうかと思ってね」

「おー、そりゃ良いねぇ~。んじゃ、お言葉に甘えようか」

 

挑発するような雰囲気で言うナオミに、杏は怒ることなく言うと、そのまま大洗のメンバーはサンダースの陣営へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「チアリーダー居るとか…………やっぱサンダースの野郎、金幾らか此方に寄越せや畜生めが」

「な、長門殿?どうされたんですかぁ?」

 

そう紅夜が呟くと、紅夜の側に引っ付いて歩いていた優香里が怯え始めた。

みほ達アンコウチームの面々も表情を歪める。

 

「おい紅夜、お前の目が殺人鬼並に怖くなってるぞ。つか、あんま人前で金金言うな」

「金云々の問題で目付き変わるとか、何処の紅白巫女さんだよお前は…………」

「いや、そこは角刈り警察官だと思うんだがな……………つーか紅夜。お前、俺等の戦車の格納庫に大会で稼いだ賞金置いてんの忘れてんのか?あれ結構貯まってるんだがな……………」

 

サンダースの陣営に来るや否や、目付きを鋭いものにして呟いた紅夜に、達哉と翔、勘助の3人が呆れ顔で言う。

 

「それにしても、救護車やシャワー車、ヘアーサロン車まであるとは…………」

「これぞ正しく金持ち学校だな」

 

何とも言えないような雰囲気で呟く達哉に、いつの間にか側に来ていた麻子が言葉を続けた。

 

「おお、冷泉さん。何時から其所に居たんだ?」

「ついさっきだ」

「へぇー」

 

相変わらずの無表情で答える麻子に、達哉はのんびりした調子で声を出す。

 

「HEY!アンジー!」

 

其所へ、ナオミとアリサを引き連れたケイが、大洗チームに手を振りながらやって来た。

 

「アンジーって、『角谷 杏』だからアンジー?」

「馴れ馴れしい…………」

 

柚子と桃が思い思いに呟くが、ケイは気にせずに杏に近づいた。

 

「やぁやぁケイ、お招きどうもね~」

 

変わらず適当な調子で言う杏に、ケイは笑顔で答えた。

 

「良いのよ別に。そんなことよりも、何でも好きなの食べていってね!OK?」

「オーケーオーケー…………おケイだけにね!」

「アッハハハハ!何そのジョーク!」

 

サムズアップしてジョークを言う杏に、ケイは腹を抱えて大笑いし、ナオミとアリサはうんざりした表情を向けた。

するとケイは、優香里と紅夜を視界に捉え、近づいていった。

 

「HEY!オットボール三等軍曹!」

「あ、見つかっちゃった!」

「お、怒られるかな?」

 

優香里がサンダースの偵察に行った際、咄嗟に名乗った偽名で優香里を呼び、近づいてくるケイに、優香里と沙織は慌て出す。

その様子を見た紅夜は、優香里を庇うように前に立った。

 

「心配しないで。別にこの前の事なんて気にしてないから」

 

紅夜が優香里の前に立った理由を察したのか、ケイはそう言った。

その言葉が嘘ではないと悟った紅夜は、ケイに道を開ける。そのままケイは、優香里の前に立った。

 

「この前は大丈夫だった?」

「え?」

 

ケイは、優香里の偵察行為について言及することなく、逆に優香里を気遣う言葉を投げ掛ける。

 

「は、はい…………」

 

ケイが全く怒っていない事に戸惑いながらも、優香里は頷いた。

 

「また何時でも遊びに来てね?ウチは何時でもオープンだから!其所の彼氏さんと一緒に、ね!」

「そ、そんな!長門殿は彼氏なんかじゃ!」

「そうですよケイさん、俺に秋山さんは合わん。もっと良い男が居るでしょうよ」

「…………」

 

優香里が顔を真っ赤にして否定すると、紅夜もそれに同調するが、当の優香里は複雑そうな表情をしていた。

 

「そう言う割には、オットボール三等軍曹が満更でもなさそうな顔だけど?」

「ん?……………気のせいじゃねっスか?」

 

紅夜が言うと、優香里が頬を膨らませて紅夜の腕をつねった。

 

「イッテ!?オイコラ何しやがる!?」

「別にぃ~?何もないですよ~?」

「んにゃろー…………」

 

つーんとばかりにそっぽを向く優香里をジト目で睨むも、紅夜は直ぐに、ケイの方へと目を向けた。

 

「まあそれよりも、あの時の演奏は凄かったわよ?また演奏しに来てね!」

「りょーかい。今度はライトニング総出で演奏しますよ」

「そりゃ楽しみね!」

 

ケイはそう言うと、紅夜のパンツァージャケットを見て言った。

 

「…………今更なんだけど、ホントに居たのね。男女混合戦車道チームって」

「まあね。あくまでも同好会だったし、半年ぐらい前にはお払い箱にされましたから、今となっては忘れられたのか、あんま知られてないんですけどね」

「あら、そうでもないわよ?ウチの学校じゃ、先輩達が貴方達と戦ったとかで結構有名だったし、貴方が来た時だって、後から貴方がレッド・フラッグの隊長だって知って、ちょっとした騒ぎになったんだから」

「マジですか…………」

 

そうしているうちに、ケイ達はサンダースの持ち場に戻ることになった。

 

「それじゃねー!」

 

そう言って、ケイは手を振りながら戻っていった。

大洗チームからは、友好的で気さくな性格のケイに安心する声がちらほらと聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れ、試合開始まで後数分と迫った頃、観客席前に置かれている、試合中継用の特大モニターでは、杏とケイが向かい合っている様子が映し出されていた。

 

『これより、サンダース大学附属高校と、大洗女子学園の試合を開始する!』

 

アナウンスが流れると、ケイと杏が握手を交わす。

 

「よろしくね」

「ああ」

 

そうして、2人は其々のチームの持ち場へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

『…………説明した通り、相手チームのフラッグ車を先に撃破したチームの勝ちです。相手の戦車は、ライトニングチームのIS-2を除けば攻守共に私達より上ですが、落ち着いて戦いましょう』

 

その頃、開始場所に来ていた大洗チームでは、今回の試合の作戦について、みほが全チームに伝えていた。

大洗側のフラッグ車は、生徒会メンバーのカメさんチーム、即ち38tだ。

 

『地形を活かして敵を分散させ、Ⅲ突の前に引き摺り出してください』

「だとさ、皆」

「ああ、バッチリ聞こえていたさ」

 

みほの通信を聞いた紅夜が3人に呼び掛けると、3人から返事が返される。

紅夜はそれから目を少し瞑ると、カッ!と見開いて言った。

 

それを見たライトニングの面々は、紅夜がやろうとしている事を察する。

そして、紅夜が声を上げると、3人も声を上げた。

 

「Nothing's difficult!」

『『Everything's a challenge!』』

「Through adversity……………………」

『『To the stars!!』』

「From the last tank,to the last bullet,to the last minute,to the last one,We fight!」

『『We fight!』』

「We fight!!」

『『we fight!!』』

「We fight!!!」

『『We fight!!!』』

 

そうして、ジープに乗った杏が戻ってきた。

 

「さあ、行くよ!」

『『『『『『おーー!!』』』』』』

 

そして、大洗のメンバーからの声が上がると…………

 

『試合、開始!』

 

上空に閃光弾が撃ち上げられ、試合の開始を告げるアナウンスが響き渡る。

 

そして、両チームの戦車が一斉に動き出し、戦車道全国大会の第1回戦が幕を開けた。


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