ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第24話~ちょっとしたお説教です!~

サンダース大学付属高校に偵察に行ったものの、ミスから捕まった優花里を無事に救出した紅夜は、優花里と共に、大洗の学園艦に戻ってきた。

 

「いやあ~、それにしても楽しかったなぁ~!なあ秋山さん、今度偵察に行く時は俺も誘ってくれよ!一緒にあのスリルを味わおうぜ!」

「あはは…………」

 

優花里の家へと一緒に向かいながら、紅夜は次に偵察に行くのなら自分も誘えと言い出し、それに優花里が苦笑いを浮かべる。

そして、優花里は表情を申し訳なさそうなものに変え、紅夜に言った。

 

「でも…………すいません、長門殿…………私のせいで、あんな事を…………」

「何言ってんだよ。西住さんがサンダースの情報を欲しがってたから、お前はそれを取りに行ったんだろ?それに、謝る相手は俺じゃねえぞ?」

 

そう言うと、優花里はならば誰だとばかりに紅夜を見る。

それを見た紅夜は、上を見ながら言った。

 

「西住さん達だよ」

「え?」

 

そう聞き返す優花里に、紅夜は言った。

 

「西住さん達には、今日はサンダースの偵察に行くってことを伝えたのか?」

「い、いえ。何も伝えていません」

 

そう優花里が言うと、紅夜は溜め息をついて言った。

 

「だったら尚更、俺じゃなくて西住さん達に謝るべきだ。何も言わずに欠席したなら、きっと心配してるぜ?」

「そ…………そうですね」

 

そうして、2人は暫くの間無言で歩いていたが、唐突に、優花里が呟いた。

 

「…………嬉しいな」

「ん?何が嬉しいんだ?」

 

そう聞くと、優花里が話を始めた。

 

「私、幼い頃から戦車が好きだったんです。お小遣いで買うのも、誕生日プレゼントも、クリスマスプレゼントも、全部戦車に関するものばかりで…………」

「相当な戦車マニアなんだな」

「ええ…………」

 

そう恥ずかしそうに答え、優花里は続けた。

 

「でも、今思えばそれが原因だったのかな……………………私は、西住殿や長門殿達に出会うまで、気の合う人が居なくて…………それまでずっと、クラスでも孤立していたんです。自分で言うのもなんですけどね…………それで、両親にも心配されてしまう始末でした」

そう自嘲するように言う優花里の言葉を、紅夜は何も言わずに聞いていた。

 

「初めて出来た友達が、西住殿達大洗の戦車道チームや、長門殿でした。だから少しでも、迷惑を…………心配をかけたくなかったんです…………でもそれが、かえって西住殿達を心配させた上に、長門殿にも迷惑をかけて……………………もう、私なんて…………ッ!」

「おい秋山さん、今直ぐその言葉を撤回しろ。それ以上言ったら本気で怒るぞ」

優花里の言葉を遮って、紅夜は低く、威圧するような声で言った。

 

「『自分なんて』…………なんて事は考えるな。俺が許せねえのは、他人を大切にしない奴、そして、自分を大切にしない奴だ」

「な、長門殿…………?」

 

優花里は、何を言っているのかとばかりに紅夜を見つめる。

 

「なら、もしお前が、そんな考えでこの学園から姿を消したとしよう。西住さん達はどうなる?戦車道に迷惑をかける以前に、西住さん達を悲しませることになるぞ」

「…………ッ!」

 

それに目を見開く優花里に、紅夜は続けた。

 

「それに、友達ってのはな……………迷惑掛けたり掛けられたりしてナンボのモンなんだよ。現に、俺だって現役時代は、達哉や他のメンバーに無茶ぶりして困らせたからな」

「例えば、どんなものですか?」

そう訊ねる優花里に、紅夜は答える。

 

「そうだな…………例えば、『IS-2で相手の戦車のフェンダー部分に体当たりして怖がらせてやれ』とかな」

「……………随分と滅茶苦茶なやり方ですね」

「ああ。今思えば、あれでよく他の戦車を横転させずに済んだモンだ。他にも、『俺が後ろ見るから、フルスピードでバック走行しろ』とかもやったな」

「ちょっ!危なくないですか!?」

「ああ、今となっては、かなり無茶な事言ったと思ってるよ。まあ、それのお陰で、達哉の操縦技術がエライ事になったけどな。恐らく、冷泉さんよりも運転は上手いぜ?彼奴は」

 

そう言って紅夜は笑うと、優花里に視線を戻した。

 

「まあ、こんな感じでやってたが、何だかんだ言いながらも、達哉はやり遂げてくれた。勿論達哉だけじゃない。静馬や大河のチームにだって無茶ぶりしたし、逆にされた事もあった…………そんな感じでさ……………無茶ぶりとか、相談とかを平気で出来る間柄で居られるのが友達ってヤツなんじゃねえのかって思うのさ…………だから秋山さん」

「は、はい!」

 

名を呼ばれた優花里は返事を返し、紅夜の次の言葉を待つ。

紅夜は少しの間目を瞑り、やがてゆっくりと開いた。その目は、何時か華に、百合に気持ちを伝えるように諭した時のように、優しいものだった。

 

「もっと迷惑をかけても良い。あの時、俺に迷惑を掛けたと思うのなら、それは止めろ。俺はこれからも、俺のチームやお前等大洗の子達に迷惑を掛けると思うし、逆に掛けられると思う。だがな、お前や他の仲間が窮地に立たされたってんなら、ぜってぇ助け出してやるさ」

「~~ッ!?」

 

そう言った途端、優花里は顔を真っ赤に染め上げた。

紅夜は優花里の顔が急に赤くなったことに疑問を感じながらも、何時ものように、呑気な調子で言った。

 

「まあ、そんな訳で説教は終わりだ……………んじゃ、さっさとお前の家に行こうぜ。もしかしたら、西住さん達が来てるかもしれねえぜ?」

「そ…………そうですね!」

 

優花里は満開の花のような笑みを浮かべて答えると、紅夜の先に立って歩き出した。

 

「秋山さんの奴、何か知らんが急に機嫌が良くなったな…………まあ、元気に越したことはないから、別に良いんだけどさ…………にしても立ち直り早ぇーな」

 

紅夜はそう呟きながら、優花里の後について歩いた。

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、秋山さんの家って床屋だったのか」

「ええ。では私は、2階の窓から入りますので、長門殿は正面からお願いします」

「なんでお前は2階の窓から入るんだよ…………まあ、良いけどさ」

 

そうして紅夜は、床屋のドアを開けた。

 

「こんにちは」

「おや、いらっしゃい」

 

紅夜が挨拶をすると、新聞を読んでいた男性が振り向いた。椅子を拭いていた女性も振り向き、紅夜に微笑みかける。

 

「すみませんが、自分は客ではなくてですね、秋山さんの友人…………なんですけど」

 

そう紅夜が言った途端、その男女が凍りついたかのように動きを止めた…………かと思いきや、男性が突然、紅夜に詰め寄ってきた。

 

「ゆ、優花里の男友達だって!?これは一大事だよ母さん!大洗の子に続いて、男友達が出来ていたなんて…………ッ!」

「お、落ち着いて!此方さんが困ってるわよ!」

 

慌てふためく男性を宥めると、女性は紅夜に話しかけた。

 

「ごめんなさいね、何せあの子が友達を、それも男友達を作っていたなんて事は聞いたこともありませんでしたから」

「そうなんですか…………」

「丁度さっき、大洗の子達がやって来て、今は優花里の部屋に居るから、上がっていって」

「はい、お邪魔します」

 

そう言って、紅夜は家に上がると、優花里の母から部屋の場所を聞いて階段を上がり、真ん前にあったドアを開けた。

 

「な、長門君!?」

 

突然開かれたドアから現れた紅夜に、驚いたみほが大声で言う。

 

「ウィーッス!Aチームの皆さんお揃いで」

「長門殿、お待ちしておりました!」

「おう」

 

優花里が言うと、紅夜も微笑んで返す。

 

「てか、何があったの?ゆかりんの格好とか、長門君が来たのとか」

 

疑問に思った沙織が言う。

 

「では、先ずはその事について、お話ししましょうか」

 

そう言って、優花里は先ず、サンダースの偵察に行った時のビデオを見せ、それから、自分がサンダースの偵察に行った時の出来事を話し始めた。

 

サンダースの生徒に捕まってから紅夜に助けられたという話辺りから、優花里は頬を赤く染めながらも嬉しそうに話しており、それを見た華は、優花里が紅夜に好意を抱いている事に気づいたのか、若干複雑そうな表情で見ていた。

そうとも知らず、紅夜は優香里達の話をのんびりと構えながら聞いていた。


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