ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第23話~潜入についていきます!~

ある日の早朝の事…………

 

「さぁ~て、今日は何しよっかね~…………っと、今日から朝練始まるんだっけか…………まあ、今日はレイガンとスモーキーが参加で、俺等ライトニングはねえから、実質上、今日はお休みなんだけどな…………って訳で、今日は私服な訳だが」

 

朝の道を、紅夜はのんびりと歩いていた。

 

「暇だしIS-2でも動かして…………ん?」

 

操縦手である達哉がこれを聞けば、黙っていないような台詞を呟いていると、紅夜は前方に、特徴的な癖っ毛頭の少女を見つけた。

 

「あれ、秋山さんじゃねえか。コンビニの制服なんざ着て、何処行こうってんだ?」

 

そう疑問に思いながら、紅夜は優花里の後をついていった。

 

 

 

 

 

優花里の後をつけること約10分、紅夜は港へ辿り着いた。

 

「港…………?あ、そういや今日って、コンビニの定期便が来る日だったな。って事は、秋山さんの奴、サンダースに潜入するつもりだな?まあ、試合前の偵察行為は許可されてるから良いんだが…………面白そうだし、ついていくか。前からやってみたいと思ってたんだよな~」

 

そう言いながら、紅夜は何食わぬ顔で定期便に乗り込んでいく優花里に続き、気配を消しながら乗り込んだ。

 

「さあて、久し振りにサンダースの学園艦に行く訳だが、昔と変わったかどうか、見せてもらおうではありませんか!」

 

そう言う紅夜の声は、定期便の汽笛の音に掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「私は今、サンダース大学付属高校に来ています…………それでは、潜入開始です」

 

定期便から降りた紅夜は、小型ビデオカメラにリポートしながら学校へと入っていく優花里を見つけた。

 

「ほほぉ~、そのためにあの姿を…………まあ、その間俺は、のんびり観光しますか…………この辺だけだけど…………」

 

そう言いながら、紅夜はブラつこうとしたが、其所で突然足を止めた。

「(待てよ…………この辺りは確か…………あ!)」

 

紅夜が何かを閃いたような表情を浮かべた時だった。

 

「ハーイ!」

「?」

 

突然、背後から声をかけられた。

振り向くと、如何にもアメリカ人を感じさせるような、サンダースの生徒らしき少女が、手を振っていた。

 

「は、ハーイ…………」

 

突然の挨拶に戸惑いながら、紅夜も手を振り返した。

 

「さてと、思わぬ挨拶を戴いてしまったが、此処にはアレがあるではないか!」

 

紅夜はそう言うと、サンダースの敷地の壁に沿って走り、路地に来た。

 

「えっと、確か此処に…………よし、見つけた!」

 

紅夜が路地の行き止まりで見つけたのは、幾つかのプラスチックのゴミ箱と、2本のスティックだった。

 

紅夜はゴミ箱を1つに纏め、スティックも持ち上げると、そのまま道へと出た。

そして、そのゴミ箱を広げると、残った1つに腰掛けた。

 

「そういや此処に遊びに来た時は、よく此処で大道芸してたなぁ……………懐かしいぜ」

 

紅夜はそう言いながら、スティックを両手に構え、ゴミ箱を叩き始めた。

 

足で真ん前のゴミ箱を挟み、少し浮かせたりして、叩いた時の音色を調節する。

 

「さぁ、天才ドラマーの路上でのリターンライブだぜ!」

 

紅夜はその間、ご機嫌で演奏していた。

 

 

 

 

……………ドトトトトドンッ!

 

「ふうっ!」

 

演奏を終えた紅夜は、満足そうな息を吐いた。

 

「ブラボー!」

「良い演奏だったよー!」

 

サンダースの校門を潜っていく生徒達が、紅夜に声をかける。

 

紅夜も笑顔を向けると、右手を振る。

 

「HEY!其所の人ー!」

「ん?」

 

次の演奏をしようとしていると、今度は金髪の女子生徒が手を振りながら近づいてきた。

 

「何か?」

「HEY!そんなローテンションな返事はNGよ?せっかく凄い演奏してたんだから!」

「ああ、そりゃどうも…………」

 

演奏後は暫くテンションが低くなる紅夜からすれば、少しやりにくい相手であった。

 

「それにしても、見慣れない顔してるわね…………この辺の人?」

「いや、結構遠目の所だよ」

「へぇー、そうなんだ!でも、今までゴミ箱で大道芸する人なんて、見たことないわよ?」

 

そう聞いてくる女子生徒に、紅夜は咄嗟に言った。

 

「ああ!幼い頃は、よくこの辺りでやってたんだけど、段々とこの演奏の事を忘れていってな。今日になって思い出したから、久々にやりに来たのさ」

 

そう言って、紅夜は軽いパフォーマンスを見せる。

左手のスティックでゴミ箱を叩きながら、右手のスティックを投げ上げ、見事にキャッチする。

 

「おー!」

 

その様子に、女子生徒はおろか、気づけば、チラホラと人だかりが出来ていた。

 

「よっしゃ!んじゃあ思いっきりいくぜ!準備は良いかお前等ァ!」

『『『『イエーイ!!』』』』

 

そうして、紅夜の路上パフォーマンスに熱中していた生徒達は、遅刻ギリギリになって漸く気づき、大急ぎで学校へと入っていった。

 

「それじゃあ、また演奏聞かせてね♪」

 

そう言って、金髪の女子生徒--ケイ--は、紅夜にウインクすると、学校へと向かっていった。

 

「……………………さて、それじゃあ俺も行動開始するか」

 

そう呟き、紅夜はゴミ箱セットを元の場所に戻すと、忍者のように動きながら、学園の外側を廻って優花里の姿を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(くっ!迂闊でした。まさか、通路の段差で転ぶなんて…………ッ!)」

 

此処は、サンダース大学付属高校の学園艦の館内通路。

その通路を、2人の女子生徒に挟まれた状態で、優花里は手錠をつけられ、歩かされていた。

偵察行為は承認されているとは言え、相手側からすれば、知られたら最後、そのスパイを捕らえなければならない。

 

「残念だったわね。良いトコまで逃げられたのに、段差につまづいて転ぶなんて」

「まあ、そう言ってやるなアリサ…………兎に角、スパイは尋問の後に大洗側へ報告だな」

 

優花里の横を歩く女子生徒が、嫌味ったらしく言う。

 

「(西住殿…………申し訳ありません!)」

 

優花里が心の中で、尊敬する人物に詫びを入れた、次の瞬間だった。

 

「アッハハハハハッ!余裕ぶってますねぇお嬢さん方!さっすがサンダース!優勝候補の一角の余裕ってモンだ!だがその前に、引っ捕らえたソイツを奪還される方を心配すべきかどうか、神様に電話で聞いてみな!」

「…………ッ!誰!?」

 

アリサが言うと、突然壁がドアのように開き、其所から紅夜が現れた。

 

「呼ばれてねえけどジャジャジャジャーンッ!俺、参ッ上ッ!」

「な、長門殿!?どうして此処に!?」

 

まさか紅夜が来ているとは思わなかったのか、優花里が表情を驚愕に染める。

 

「いやな?お前コンビニの制服着てたじゃん?あの辺りから何か怪しいと思ったんで、付いてきてみればこれって訳さ」

「お、お前まさか!レッド・フラッグ!?」

 

銀髪の女子生徒が、紅夜を指差して叫ぶ。

 

「まあな……………………大洗女子学園戦車道特別チーム《RED FLAG》隊長、長門紅夜とは俺の事だ!後ついでに、人を指で指すな!失礼だと教わらなかったか!」

「す、すみませんでした!ってアレ?なんで私が謝っているんだ!?」

 

銀髪の女子生徒は、紅夜のペースに乗せられていたことに気づくが、それは最早、手遅れだった。

 

「んじゃ、この子は貰ってくぜ~!」

「きゃっ!?」

「ッ!しまった!」

 

アリサが声を発するが、その頃には紅夜が、手錠をつけられたままの優花里を抱き上げ、瞬きをする間もなく消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ~!アッハハハハハッ!スッゲー楽しかったぜ!もう最ッ高!」

 

サンダースから抜け出し、コンビニの定期便に飛び乗った紅夜は、物影に隠れると優花里を下ろし、楽しそうに言う。

 

「それにしても秋山さん、あんなに面白い事するなら俺も誘ってくれよ~。あんなにスリル満点な出来事なんて、この先無いかもしれねえんだぜ?」

「は、はあ…………」

「あ、そうだ。手錠外さねえとな」

 

紅夜はそう言うと、針金を取り出して手錠の鍵穴に差し込み、穴の中を弄り回す。

すると、1分としないうちに手錠は外れた。

 

「長門殿…………」

「ん?」

 

優花里が声をかけると、手錠が外れたことに安堵の溜め息をついていた紅夜が振り向く。

 

「その、助けてくれて…………本当に、ありがとうございました」

そう言って、優花里は頭を下げた。

 

「いやいや、別に気にすることはねえよ。大事な仲間が捕まったなら、助けるのがチームの務めってヤツだしな。まぁ、無事で何よりだぜ」

「…………ッ!」

 

紅夜が言うと、優花里は顔を真っ赤に染め上げた。

紅夜はコンテナの間から顔を出すと、遠ざかっていくサンダースの学園艦を見ながら呟いた。

 

「次は試合で会おうぜ、サンダースの戦車隊」

 

そうして、紅夜達を乗せた定期便が戻っていき、彼等は大洗の学園艦へと乗り移った。


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