ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第17話~決着です!~

みほの考えた『こそこそ作戦』は、桃の誤射によって失敗。連携もロクに取れず、只々出鱈目に撃つだけだったのが仇となり、大洗女子学園は挟み込まれ、集中砲火を受ける羽目になる。

さらに、立て続けに撃ち込まれる砲弾の嵐に耐えかねたのか、1年生のDチームが戦車を捨てて逃亡、生徒会の38tも履帯が外れ、操縦不能に陥る。

そしてみほは、この現状を打破するため、『もっとこそこそ作戦』を決行するのであった。

 

 

 

 

 

「おー、大洗女子が動きを見せ始めたぜ?」

「移動するってか…………多分市街地戦に持ち込むつもりだな。上手くいくかどうか…………」

 

聖グロリアーナの戦車からの砲撃をかわしながらコンクリートの道路を進み、市街地へと入っていく一行をエキシビジョンで見ている紅夜に、達哉は何処と無く不安げに言った。

 

 

 

 

 

 

「これより、市街地に入ります。地形を最大限に活かしてください」

『Why not!』

『大洗は庭です!任せてください!』

 

その頃、みほ達一行は市街地に入ろうとしていた。

後ろからの聖グロリアーナの戦車からの砲撃を掻い潜り、彼女等は交差点で散り散りになった。

 

聖グロリアーナ女学院の戦車は、重装甲故に大洗の戦車より足が遅い。そのため、聖グロリアーナの戦車が交差点に着いた頃には、大洗の戦車は見えなくなっていた。

 

「……………………消えた?」

 

スコープから様子を見ていたダージリンは、自分達以外は誰も居ない交差点を見て、そう呟いた。

それからダージリンは、其々の戦車に、散開して大洗の戦車を探すように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

とある細い道を、1輌のマチルダⅡが徐行していた。砲塔を右へ、左へと回し、大洗の戦車を探す。

そして、道の左側にあった薬局の前を通り過ぎた瞬間……………………!

旗で偽装して、脇道に姿を隠していたⅢ突の至近距離からの砲撃を受け、撃破された。

 

はたまた、駐車場の近くを通り掛かっていた別のマチルダⅡは、荷物運搬用の貨物エレベーターのブザーが鳴っているのに気づき、その前に戦車を移動させ、エレベーターの扉の前に戦車を停める。

すると、扉がゆっくりの上に開き始める。

 

「馬鹿め…………」

 

そのマチルダⅡの車長は勝利を確信していたが、自車の真後ろにあった、自動車用のエレベーターも同時に競り上がっている事には気づいていなかった。

そして、エレベーターの扉が開ききるまでに車長が気づくことは遂になく、もぬけの殻となっていたエレベーターに付いていた鏡で、自分達が騙されていたことに漸く気づいた。

 

「しまった!奴等は後ろだ!」

 

大急ぎで車内に入ってハッチを閉め、砲手に指示を出そうとするが、時既に遅し。

 

「そぉーれ!」

「「「そぉーれ!!」」」

 

競り上がってきていた自動車用エレベーターに乗っていた八九式の砲撃を増槽に喰らって爆発が起き、増槽部分が燃え上がった。

 

『此方Cチーム、1輌撃破!』

『Bチームも1輌撃破!』

 

Aチームに、高らかに撃破を告げる通信が入る。

 

「やりましたね、西住殿!」

 

装填手の優花里が嬉しそうに言い、みほ達の表情も明るくなっていた。

 

『こそこそ作戦』が失敗に終わり、Dチームの戦車は撃破され、Eチームは操縦不能に陥り、劣勢に立たされていた自分達が、漸く優勢に立てたと思える瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「おおーっ、BチームもCチームも考えたなあ~。Bチームなんてエレベーターの中に隠れるなんてなぁ…………」

「ああ。それにCチームは、戦車に付けてた旗でカモフラージュするとは…………余計に付けてた物が此処で役に立つとはな…………まあ、あの旗が仇になることがなければ、さらに良いんだがなぁ…………」

 

2チームがマチルダⅡを撃破する場面を見ていた2人は、其々の作戦に感心していたが、達哉は、Cチームが旗を回収し、再びⅢ突に取り付けている場面を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

その頃、聖グロリアーナ側では…………

 

『攻撃を受け、行動不能!』

『此方は被弾につき、現在確認中!』

 

ダージリンの乗るチャーチルに、被害を受けた2輌のマチルダⅡから通信が入り、ダージリンは紅茶のカップを落とし、割ってしまう。

 

「相手も中々のものですわね…………でも、調子が良いのもこれまでよ!」

 

表情に若干の焦りの色を見せながら、ダージリンはそう言った。

 

 

 

 

その頃、カエサルとエルヴィンが高笑いをしているCチームは、もう1輌のマチルダⅡを見つけた。相手も此方に気づいたのを察したエルヴィンは、操縦手のおりょうに路地裏に逃げ込むように言った。

 

「入り組んだ道に入ってしまえば良い。Ⅲ突は、車高が低いからなぁ」

エルヴィンは自信ありげにそう言う。

確かにⅢ突は車高が低く、それ故に待ち伏せ作戦では、元々の火力の高さもあって、非常に強力な戦車だった。

だが、余計な物まで付けられているその状態で、車高が低いなどと言っている場合ではなく…………

 

旗の高さで位置を特定したマチルダⅡの砲撃を真横に喰らい、あえなく撃破された。

 

 

 

 

そしてBチームでは…………

 

「作戦大成功……………………ん?」

 

撃破したと思い込んでいたが、先程まで貨物用エレベーターの方を向いていた砲塔が、今度は自分達の方へ向けられていた。

 

「うわぁ~生きてた~!」

「ちょっ、どうするの!?」

 

車内ではパニックが起き、砲手のあけびが砲撃するも、頑丈な装甲を持つマチルダⅡの正面装甲に阻まれる。

 

「サーブ権取られた~」

 

その言葉を最後に、Bチームは撃破された。

 

 

 

 

 

「あ~あ、Ⅲ突の旗撤去しないから…………」

「それに八九式って、あくまでも歩兵支援用の戦車だから、元々の火力って意外と大したことなかったんだよな~、その辺伝えときゃ良かったよ」

 

その様子を見ていた紅夜と達哉は、苦笑いしながら言った。

 

 

 

 

 

その頃、Aチームでは……………………

 

 

『Cチーム、行動不能!』

『Bチーム、敵撃破失敗!及び行動不能、すみません!』

 

2チームから通信が入り、みほ達の間に緊張が走った。

特にBチームからの通信は、撃破したと思っていた戦車が、まだ走れる状態にあるという事。

つまり、生徒会のEチームが操縦不能になり、頼れる存在であるⅢ突も八九式も行動不能になった今、3vs1が4vs1となってしまったという事だ。

 

そうしているうちに、Ⅳ号を見つけた聖グロリアーナの戦車が追いかけてきた。

 

「来た!囲まれたらマズイ!」

「どうする?」

 

みほが焦りを見せる中、麻子が指示を仰ぐ。

 

「兎に角敵を振り切って!」

「ほい」

 

その指示を受けた麻子はクラッチを蹴ってギアを上げ、速度を一気に上げて逃げ出す。

 

聖グロリアーナの戦車も速度を上げ、壮絶な追いかけっこが始まった。

両者共に砲撃を仕掛けるも外れ、そして移動するというのを繰り返す。

 

カーブを曲がった時、マチルダⅡの1輌が旅館に突っ込んだ。

 

因にだが、戦車道の試合中の砲撃や、今のように戦車が突っ込んだりして損傷した建物は新築の対象となるため、その旅館の主が新築できると喜び、他の店の主人が羨ましがっていたが、それを見た紅夜と達哉が苦笑いを浮かべていたのは余談である。

 

そうして暫く逃げ回るうちに、Aチームは道路の舗装工事で通行止めになっている場所へと来る。

そしてUターンしようとすると、前方から聖グロリアーナの戦車4輌が立ちはだかり、Aチームは追い詰められる。

其所へ、前進してきたチャーチルのキューボラハッチから上半身を乗り出したダージリンが、こう語りかけた。

 

「こんな格言をご存じ?『イギリス人は恋愛と戦争では、手段を選ばない』!」

 

そうして、チャーチルの砲口がⅣ号を捉えると共に、他3輌のマチルダⅡも、砲口をⅣ号へと向ける。

 

「くっ…………!」

 

みほが敗北を覚悟した時、物凄いエンジン音と共に金色の車体が飛び出してきた。

 

「参上~!」

 

履帯の修理を終えた38t、生徒会チームだった。

 

「発射!」

 

砲手の桃が興奮気味に言いながら引き金を引くが、その砲弾はあらぬ方向へと飛んでいった。

 

「桃ちゃん、此処で外す~?」

 

柚子が呆れ気味に言うや否や、聖グロリアーナの戦車4輌の砲口が、一斉に38tへと向けられ、38tはあっさりと撃破された。

 

「やられた~!」

 

杏はそう叫ぶが、いきなりの38tの登場に驚いた聖グロリアーナの戦車が、撃破の対象をⅣ号から38tへと変えたことによって出来た一瞬の隙を狙い、みほが指示を出した。

 

「前進!一撃で離脱して、路地左折!」

その声と共にⅣ号が飛び出し、先程38tが飛び出してきた路地へと車体を捩じ込むと、砲口を向けてきたマチルダⅡを攻撃して行動不能にする。

 

「回り込みなさい、至急!」

 

淑女に似合わないが、大声を張り上げたダージリンの指示により、残った3輌も一斉に後退し、Ⅳ号を追い始める。

 

 

 

その頃、路地を進んでいたAチーム一行は、最後の作戦に移ろうとしていた。

 

「大通りに出て、先に路地を押さえます!」

 

そう言うが、聖グロリアーナの戦車が別の道から追ってきていることに気づいた。

 

「急いでください!その角を右折したら、壁に沿って進んで急停止!」

「ほい」

 

みほからの指示に、麻子は淡々と答える。

そして、前方から1輌のマチルダⅡがヌウッと姿を現す。

 

その側面に撃ち込むと、たちまちマチルダⅡから白旗が上がる。

そしてその前を横切って反対側に移ると、現れた別のマチルダⅡにも攻撃を加え、行動不能にする。

すると、2輌を押し退けて、親玉であるチャーチルが大通りに出てくる。

その側面に砲弾を撃ち込むものの、側面装甲にめり込んだだけだった。

チャーチルが砲口をⅣ号に向けようとすると、みほが指示を出した。

 

「後退してください!ジグザグに!」

 

麻子はみほに言われた通り、Ⅳ号をジグザグに後退させる。そして、停車した真ん前にチャーチルからの砲弾が着弾すると、すかさずⅣ号を前進させる。

 

大通りを進み、チャーチルの前を横切る。

チャーチルは、そんなⅣ号を逃がさないとばかりに砲塔を回転させて砲撃するも、それは外れ、砲弾は交差点の向かい側にある家に直撃、破壊した。

Ⅳ号はそのまま、チャーチルから距離を取っていく。

 

「路地行く?」

「いや…………此処で決着をつけます!回り込んでください!そのまま突撃します!」

 

その声に、Ⅳ号は反転してチャーチルに向き直り、突撃していく。

 

「…………と見せかけて、合図で敵の右側部に回り込みます!」

「…………ッ!」

 

向かってくるⅣ号に、ダージリンは意図を察したのか、目を細める。

 

「……………………ハイッ!!」

 

みほの合図と共に、Ⅳ号は先程、砲弾をめり込ませたチャーチルの右側部に回り込もうとするが、それに気づいたダージリンは、チャーチルの砲塔をⅣ号の正面に向けさせる。

そして、同時に2輌の砲口が火を吹き、激しい爆発が起こり、黒煙が吹き上がった。

 

そして、その黒煙が晴れると、砲塔から火災が起きている2輌の姿が現れる。

そして少しの沈黙の後、Ⅳ号から白旗が上がる。

 

 

《大洗女子学園、全車両行動不能!よって、聖グロリアーナ女学院の勝利!》

 

そして少しの間を空け、聖グロリアーナ女学院の勝利を知らせるアナウンスが響いた。

 

 

 

 

 

「負けたか…………」

「ああ。だが、強豪相手に良くやった方じゃねえか」

「そうだな…………よし!取り敢えずAチームには、何か差し入れでスポドリでも買っていくか!」

「だな」

 

エキシビジョンで様子を見ていた紅夜と達哉はそう言い合うと、自販機へと向かってスポーツドリンクを5本買うと、Aチームに渡すべく、観客席を後にした。


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