第15話~試合、観戦します!~
昇降用ドックへ向かう道にて……………
「にしても、レイガンとスモーキーの2チームが、揃って欠席なんて珍しいよな」
「そりゃ仕方ねぇだろ。向こうには向こうの都合があったんだからさ」
「そうなんだけどさ……………………なんでレッド・フラッグの中で唯一参加できたライトニングチームが、俺と達哉しか居ねえの?」
「勘助は親の都合、翔は祖母さんのお見舞いだとさ」
「成る程ね」
日曜日早朝、大洗女子学園VS聖グロリアーナ女学院での親善試合当日、先行する大洗女子学園の戦車の後ろを走るIS-2の車内では、そんな会話が交わされていた。
「まあ、下手に大勢で行くよりかはマシなんじゃねえのか?戦車も1輌だけで済むし、変に場所も取らねえし」
「そういう問題か?」
呑気に言う達哉に、紅夜が聞き返す。
そうしているうちに、彼等は昇降用のドックの上に着き、後は港に着くのを待つだけになっていた。
「達哉、ちょっと出てこいよ、町が見えるぜ」
紅夜が言うと、操縦手用のハッチを開け、達哉が出てきた。
「おおーっ、あれが大洗の町か~」
前方に小さく見える、大洗の町を見た達哉がそう呟く。
「後で観光するか?」
「そうだな。せっかく陸に降りられるんだ、学園艦とは違う景色を楽しもうぜ」
そうしていると、彼等の後ろから巨大な影が現れる。
「ん?おい、見ろよ紅夜。あれが聖グロリアーナの学園艦だぜ」
「ああ、デケェなあ~」
大洗女子学園の学園艦より遥かに大きな学園艦に圧倒されていると、その下で動く、5輌の戦車が見えた。
「ありゃ、チャーチル1輌に、マチルダⅡ4輌か…………大洗の連中、大丈夫かなあ?あの戦車ってスピードこそウスノロだが、防護力って結構高かったろ?それに主砲もそこそこ威力あるだろうし………………」
「どうだろうな?まあ、今回俺等は出ねえから、観客席で見物させてもらおうぜ」
「何か他人事みてぇな言い方だなあ、おい」
呑気に言う達哉に、紅夜が苦笑いしながらそう言うが、内心では同じ事を思っていたのはここだけの話だ。
大洗の町では、久し振りに地元チームが戦車道の試合をすると言うことで、屋台や試合観戦の準備などが行われ、陸の地元住人や、偶然観光に来ていた人々が行き交って非常に賑わっており、お祭りモードになっていた。
ドックの空いているスペースにIS-2を停めた2人は、Ⅳ号Aチームに乗せてもらい、試合会場へと向かった。
「それじゃ、俺等は観客席に移動するよ。それから、こんな事しか言えねえけど……………幸運を祈るぜ」
「そんじゃ、頑張れよ。また後で会おうな」
会場に着くと、紅夜と達哉はⅣ号から降り、大洗チームにエールを送ると、観客席へと向かった。
そして、観客席へと向かう最中、紅夜と達哉は擦れ違う地域住民達に見られていた………
「なあ達哉、何か知らねえが俺等、かなり見られてねえか?」
そう言いながら、紅夜が達哉に耳打ちする。
紅夜の言う通り、先程から擦れ違う大洗町の住人や他の地域からの人々は、物珍しそうに、紅夜と達哉を見ていた。
「そりゃ仕方ねえさ、俺等が着ている服が服だからよ」
そう言って達哉は、レッド・フラッグのパンツァージャケットを指差した。
それに納得した紅夜は、擦れ違い様に見てくる大洗の住人に視線を移すのを止め、観客席に着くまでのちょっとした観光を楽しんでいた。
「地元チームの試合なんて、随分久し振りだねぇ」
「そうだねぇ、まあ戦車が一部、おかしな事になってるけど…………」
観客席に着くと、2人は良く見える席を確保して座る。
既に観客席に来ており、良さそうな位置を陣取っている観客からのコメントに、内心で苦笑いを浮かべていると、エキシビジョンに大洗女子学園の戦車道チームが映し出された。
《本日、大洗女子学園vs聖グロリアーナ女学院との練習試合を、午前8時より行います。試合中は、エリア内には立ち入り禁止となりますので、ご了承ください。尚、アウトレット他、各所に観戦席を設けておりますので、ご利用ください》
そうして、試合についての説明のためのアナウンスも流れる。
「さて、そろそろスタートかな」
「ああ…………そういや、大洗チームってどんなやり方で攻めるんだっけ?」
「確か、Aチームが囮になって聖グロリアーナの戦車を引き付けて、残り全員でどっかの上から集中砲火……………………じゃね?」
試合についての注意を喚起するアナウンスを聞きながら、2人は呑気に話しつつ、聖グロリアーナ戦車道チーム隊長、ダージリンと挨拶をしている様子を見ていた。
「本日は急な申し出にも関わらず、試合を受けていただき、感謝する」
少し高圧的な言い方の桃に、ダージリンは怒ることなく、微笑んで返した。
「構いませんことよ。先日にも申し上げたように、私達は受けると言った勝負を途中でキャンセルするなどと言った、失礼な真似は致しませんもの。まあ、レッド・フラッグの皆様にご挨拶が出来ないというのが、少しばかり残念ですがね」
ダージリンはそう言うと、大洗女子学園の生徒達の後ろに控える5輌の戦車を見ると、言いにくそうにしながら言った。
「それにしても……………………個性的な戦車ですわね」
「ッ!」
そう言うダージリンに、桃は一瞬表情をひくつかせたが、何とか堪えた。
まあ、ダージリンのコメントについては無理もない。
なんせ、彼女等大洗女子学園の戦車は、Ⅳ号を除いた全ての戦車が、カラフルに塗られていたり、旗が建っていたり、金色に輝いていたり、部活の宣伝のような文字がデカデカと書かれているのだ。
校章が描かれているだけだとか、レッド・フラッグのようなチームのエンブレムや小編成チームの名前が書かれているだけなら未だしも、あのようなオブジェ擬きとも言える戦車など、前代未聞だ。
大洗の住民やダージリンの反応は、ある意味適切なものとも言えよう。現に、レッド・フラッグのメンバーでさえ、あのオブジェのような戦車には引き気味だったのだから。
「ですが、私(わたくし)達はどのような相手でも全力を尽くしますの。サンダースやプラウダみたいに下品な戦い方はいたしませんわ。私の流儀に大きく反しますのでね……………騎士道精神で、お互いに頑張りましょう。互いに悔いの無い、良い試合が出来る事を、期待しておりますわ」
そう言い終えると、ダージリンは自身の乗る戦車、チャーチル歩兵戦車に乗り込み、4輌のマチルダⅡ歩兵戦車を引き連れ、彼女等の待機場所へと移った。
「さてさて、この試合はどうなるのかねぇ……」
場所を戻して、此処は観客席。
いつの間にか買ってきていたポップコーンを口に放り込みながら、達哉は言った。
「相手は全国大会準優勝出来る程の腕だし、初陣だったとは言え、俺等を破った強豪だから、勝ち目は薄いだろうな…………まあ、万が一作戦が失敗しても、上手いこと切り抜けると思うぜ?隊長は西住さんらしいし」
紅夜はそう返し、今はこの場に居ないレイガンやスモーキーチームのメンバー、そして自身のチームメイトである、翔や勘助に今回の試合の結果等を伝えるため、持ってきていたメモ用紙と鉛筆を取り出した。
「なぁ紅夜………………それって使えるのか?」
「さあ、知らね。特に考えずに持ってきただけだからな……………まあ使えなくても、試合が終わってから、大洗側にどんな事があったのか聞きゃ良いさ。一応俺等って、復活してからも結構なブランクがあるからさ」
そうしていると、空中に閃光弾が打ち上げられ、試合開始を告げるアナウンスが響いた。
《試合、開始!》
それと同時に、両チームの戦車が一斉に動き出す。
動き出した両チームの戦車に、観客席が盛り上がりを見せる。
「さあ、どんな試合になるか、見せてもらおうではありませんか!」
「ああ、こりゃ楽しみになってきたぜ。全国大会準優勝と言う強豪相手に、大洗がどのような大立ち回りを見せてくれるのか、楽しみで仕方ねえや」
エキシビジョンに映る映像を見ながら、2人は試合の観戦を始めるのであった。