杏の説得もあり、レッド・フラッグが大洗女子学園戦車道特別チームとして加わった翌日、まだレッド・フラッグが加わったことを知らない、Bチーム~Dチームや、既に知っているAチーム、Eチームは、変わり果てた姿を晒す、彼女等の戦車を見ていた。
AチームのⅣ号戦車は外見こそ変わっていないが、中はカラフルなクッションやカーテンで飾られている。
それならまだ許容範囲内だとしても、他は色々な意味でアウトだった。
八九式のBチームは、シャーシ部分に『バレー部復活!』と白いペンキで書かれ、所々にはバーボールの絵が描かれている。
また、歴女チームこと、CチームのⅢ号突撃砲は、車体が赤や黄色などで彩られ、挙げ句の果てには彼女等を意識したのであろう旗まで建てられる始末。1年生チームのM3リーは、単調にピンク一色に塗られている。
生徒会メンバーのEチームである38tは、車体だけでなく、転輪までもが金色に塗られている。
最早、Ⅳ号を除く全ての戦車は戦車ではなく、オブジェ擬きに成り果てていた。
因にだがこの時、生徒会メンバーでは何やら計画があるようで、杏は桃に、何処かへ連絡を入れに行かせていた。
「むぅ~~ッ!私達も色塗り替えれば良かったじゃん!誰よ戦車はそのままの色が良いなんて言ったのは!?」
「まあまあ沙織さん、落ち着いてください」
「うわぁぁぁぁああああっ!!!38tが!Ⅲ突が!M3や八九式が何か別のものになってる~!西住殿、こんなのあんまりですよねぇ!!」
色とりどりに塗装された戦車を見た沙織が、色を塗り替えたいと喚くのを華が落ち着かせようとする最中、優花里は変わり果てた戦車の姿を見て発狂する。
みほに同調を求めるものの、当の彼女は………………
「プッ………………フフフッ」
面白そうに笑っていた。
「に、西住殿?」
突然笑い出したみほに、優花里や沙織達が疑問の目を向ける。
「あ、ゴメンね。戦車をこんな風にしてしまうなんて、前の学校ではなかったから、何て言うか………………楽しいね!戦車でこんなに楽しいと思ったのは、初めてだよ!」
そう言って、みほは無邪気に微笑んだ。
その時、杏から号令が入った。
「はいはいはい!皆ちゅうもーく!」
その号令と共に、それまで其々のチームの戦車を眺めていた大洗女子学園戦車道チームの女子生徒達が、一斉に杏の方を向いた。
「えー、ここで1つ、大切なお知らせがあります!」
突然の事に、レッド・フラッグが加わった事を知らされていない、Bチーム~Dチームの生徒達が、知らせとは何だとざわめき始める。
杏は軽く咳払いしてそれを静め、言葉を続けた。
「えー、この前練習試合をした、レッド・フラッグの事は覚えてるよね?彼等がめでたく、我が大洗女子学園戦車道特別チームとして加わることになりました~!!」
『『『『『『おお~~~ッ!!』』』』』』
その知らせに、Bチーム~Dチームの生徒達が、驚きの声を上げた。
自分達を蹂躙したチームではあるが、そんなチームが味方に加わったならば、心強いと思っての反応だった。
「そんな訳で………………お、噂をすれば何とやらだ」
杏がそう呟くと、何時ぞやの2度の模擬戦で使用していた、学園裏の山林地帯へと続く一本道からIS-2が砂埃を上げながら現れた。
続いて現れたパンターA型や、シャーマン・イージーエイトが左右に広がり、3輌の戦車は、整ったパンツァーカイルでゆっくりと進んでくる。
「す、凄い………」
「1列からパンツァーカイルに隊列を変えて、そのまま乱すことなく来れるなんて………流石はベテランチームですね……………」
みほや優花里は感嘆の息を漏らし、他の生徒もその様子に見入る。
やがて3輌の戦車はゆっくりと停車し、其々の戦車のキューボラハッチから、紅夜、静馬、そして大河が顔を出し、戦車から降りる。
それに続いて他の戦車からも、ハッチというハッチが次々に開き、レッド・フラッグのメンバー全員が、グラウンドの土を踏みしめる。
そして、其々の戦車の前で1列に整列した。
「彼等が、今日から大洗女子学園戦車道特別チームとして加わることになった、レッド・フラッグの皆さんで~す!」
そう杏が高らかに言うと、全員から拍手の音が聞こえる。
「それじゃあ、レッド・フラッグの隊長と副隊長に、挨拶してもらいましょ~!」
まるで、幼稚園児に新任の教師や、はたまた研修に来た者を紹介するかのような調子で言う杏に、紅夜と静馬は苦笑いを浮かべつつ、杏が目で合図すると、前に出て言った。
「えー、改めまして、今日から大洗女子学園戦車道特別チームとして参加することになった、レッド・フラッグ隊長、長門紅夜です」
「同じくレッド・フラッグ副隊長、須藤静馬です。よろしくお願いします」
そうして、まるで転校生が来たかのように質問タイムが始まり、紅夜達はタジタジになりながりも、質問に答えていくのであった。
その頃……………
「大洗女子学園?戦車道を復活されたのですね、おめでとうございます………………成る程、男女混合チームが特別チームに………………それで、彼等は今回の親善試合には?………………出ないと?いえ、構いませんわ………………お気遣いは無用ですわ。受けた勝負は逃げませんので」
紅夜達への質問タイムが盛り上がっている最中、とある学校へは、親善試合の申し込みの電話が来ているのであった。
何処かへの連絡を終えた桃が戻ってくると、直ぐ様練習が始まった。
Eチームが先頭を走り、他のチームへと指示を飛ばす。レッド・フラッグは、其々が左右と後ろにつき、他のチームへとアドバイスをしていた。
1列縦隊から1列横隊の、走行中での隊列の変更の練習、射撃訓練を行い、その日の訓練は終了した。
元々あった5輌の戦車は格納庫に収まり、レッド・フラッグの3輌も無事に収まったため、レッド・フラッグのメンバーは一安心していた。
「えー、急な連絡ではあるが、今週の日曜日、学園艦が帰港するというのもあり、練習試合を行うことになった」
その知らせに、生徒達から悲鳴に近い声が上がった。
戦車道が始まり、教官が来て直ぐに、全員が敵同士での模擬戦、次はレッド・フラッグとの練習試合、そして極め付きにコレだ。
普通なら体力も持たないだろう。
「対戦相手は、聖グロリアーナ女学院だ」
その時、優花里の表情が曇った。
その様子を見て、体調を崩したのかと心配した沙織が聞く。
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「いえ、そうではないんですが……………対戦相手である聖グロリアーナ女学院は、全国大会で準優勝した事があるという強豪です。それに、当時では初陣だったレッド・フラッグを破った、数少ない学校です」
「準優勝………………」
「あのチームでも勝てなかったなんて……………」
いきなりの強豪相手に、全員の表情が曇った。
「日曜日は、学校に朝6時に集合だ。では解散!」
そして、レッド・フラッグのメンバーも戻っていった。
余談だが、Aチームの麻子が朝に弱いらしく、戦車道を辞めるとごね始めたが沙織の説得(と言うより脅し)で何とか踏みとどまったのは本当に余談である。
そして、コレも余談だが、その翌日、聖グロリアーナ女学院との試合に向けての作戦会議が開かれたのだが、その際のちょっとしたゴタゴタから、なし崩し的にみほが大洗女子学園戦車道チームの隊長を務めることとなり、杏から、今回の聖グロリアーナ女学院との試合に勝てば、干し芋3日分を贈呈、だが逆に負ければ、大型輸送車の荷台の上でアンコウ踊りを踊らさせる事となった。しかも、その輸送車が大洗の町のあちこちを走り回ると言う羞恥の公開処刑。
アンコウ踊りについてよく知らないみほを除いたAチームの表情はそれはそれは酷く、今回は不参加となったレッド・フラッグのメンバーが羨ましいと、沙織が叫んだりしたらしいが、それも本当に余談である。