ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第13話~残留決定です!~

大洗女子学園戦車道チームとの試合に見事勝利したレッド・フラッグだが、スモーキーチームのシャーマン・イージーエイトが撃破されたのもあり、シャーマンのみを学園に預け、他の戦車は格納庫に戻して帰宅する事にした。

そして翌日の昼、流石に戦車1輌回収するためにメンバー全員で行く必要は無いだろうと言う紅夜の提案で、ライトニングのメンバーだけで、修理の終わったシャーマンを取りに行くべく、再び大洗女子学園へと向かっていた。

 

何故か全員、またパンツァージャケットを着ていたが、それは『元』が付くとは言え、戦車道同好会チームの正装のようなものなのであろう。

 

「それにしても、まさか向こう側で修理してくれるとは思わなかったよな~」

 

ライトニングの愛車であるIS-2を操縦しながら、達哉が独り言のように言った。

それに翔が相槌を打つ。

 

「今までも何回か連盟に修理してもらったが、あれは善意じゃなくて口封じみたいなモンだったからな。ああやって善意で修理を引き受けてくれるとは、嬉しいねぇ………」

 

達哉に同調するように言う翔に、勘助や紅夜も相槌を打っていた。

 

そう。彼等は戦車道業界において、現在も尚、唯一の男女混合チームである。

現役時代は、長年『女子の嗜み』として世界中から認識されていた戦車道のイメージが、男女混合チームの存在によって狂い、混乱することを恐れた連盟から、『戦車の修理、砲弾や燃料の補充等を連盟側で行う』とうのを勝手に条件として押し付けられ、強制的に戦車道同好会のリストから抹消された当時は、最早信用できるのは自分達のチームだけだと思っていたのが、まさか意外にも、信用できそうな戦車道チームが身近にあったというのは、彼等からすれば嬉しいものだ。

 

「お、何だかんだしてる間に着いたぞ」

 

そう達哉が言った時には、IS-2は大洗女子学園のグラウンドへとやって来ていた。

向こうに見える戦車の格納庫には、亜美と生徒会メンバー、そして何故か、Aチームのメンバーが居た。

 

亜美や生徒会メンバーは兎も角、何故Aチームのメンバーまで居るのかと首を傾げつつも、彼等は格納庫前に到着した。

 

「やあやあ!来るの待ってたよ~!」

 

4人が戦車から降りてくると、杏が手を振りながら近づいた。

 

「どうも、角谷さん。イージーエイトの修理、ありがとうございました」

 

先に戦車から降りた紅夜が返事を返すと共に、シャーマン・イージーエイトの修理を引き受けてくれたことへの礼を言う。

 

「良いの良いの、善意でやっただけだからさ!」

 

杏は笑いながら言った。

すると格納庫からエンジン音が聞こえ、深緑の砲身の先端にあるマズルブレーキがひょっこりと顔を出す。

やがて、それは砲身から格納庫の外へと出てきて、少し経った頃には、完全に修理された、スモーキーチームの愛車、シャーマン・イージーエイトが姿を現した。

 

「スッゲー」

「マジで完璧に修理されてる………」

 

出てきたシャーマンを見た勘助と翔が、感嘆の声を出す。

 

すると、シャーマンのハッチが次々に開き、中から大洗女子学園の生徒だと思われる、作業着姿の少女達が降りてきた。

 

「彼女等が、我が大洗女子学園が誇る自動車部のメンバーでーす!ほら、拍手拍手!」

 

自棄にノリ良く言いながら拍手する杏に、紅夜は何故か、つられて拍手していた。

 

「いやあ、やり甲斐あったよ~、君達の戦車の修理!」

「そーそー!大洗の戦車は一寸前に修理したんだけど、やっぱ初めて修理する時の新鮮さは堪らないね!」

 

自動車部のメンバーが口々に、シャーマンを修理した時の感想を述べていく。

自分のチームの戦車ではないため、紅夜はただ、苦笑いを浮かべながら彼女等からの質問等に答えていた。

 

 

 

 

 

そうしているうちにも時間は過ぎ、午後4時になっていた。

 

それまでの間、ライトニングのメンバーは、学園に来ていた生徒会メンバーやAチームのメンバー、亜美や自動車部のメンバーとの交流を楽しんでいたのだが、時間がかなり経っているのに気づいた。

 

「あれま、もうこんな時間か………じゃあ、俺達はそろそろ帰ります。自動車部の皆さん、修理の方、本当にありがとうございました」

 

そうして、達哉がIS-2に乗り、翔と勘助がシャーマン・イージーエイトに乗り込んだ。

紅夜も自動車部のメンバーに礼を言って、IS-2へ乗ろうとしたが、それは杏によって止められた。

紅夜は、何となくこの話は長引くと思ったのか、達哉達に先に帰るように伝え、話に応じることにした。

 

「何ですか?」

「いや、何か話が流れすぎて聞くタイミング掴めなかったし、負けといてこんな事言うのもアレなんだけどさ………………君達、ホントにやらないの?戦車道」

 

杏が言うと、紅夜は表情を苦いものに変えた。

 

「あー、やっぱその話になります?」

「そりゃ勿論、やっぱウチの学園の戦車道経験者が西住ちゃん1人しか居ないって現状だから、かの有名な戦車道同好会チーム、レッド・フラッグの隊長さんである君には、やっぱ良い返事を貰いたくてね。なんせ、君がやるって言わないと須藤ちゃん達やってくれないから」

「あー、そういやそんな話してたそうですね、静馬から聞きましたよ」

「ありゃりゃ、言われちゃってたか~」

「うん、言われちゃってました~」

 

笑いながら言う杏に、紅夜も笑いながら返す。

 

「それで、どうかな?」

「…………正直、迷ってますね」

「ほう………どうしてだい?」

 

杏が言うと、紅夜は重くなりつつある口を開いた。

 

「連盟から、俺達が現役時代最後に当たった、黒森峰との試合を期に、レッド・フラッグは戦車道同好会チームのリストから除名すると言われたんですよ。『戦車道は女子の嗜みというイメージが崩れて混乱したら困る』ってね」

「ええッ!?黒森峰と!?」

 

それまで遠巻きに見ていたみほが、驚きに大声を張り上げた。

 

「な、長門殿のチームって、黒森峰とも張り合えるのですか!?」

 

今度は優花里も声を張り上げる。

沙織と華は、優花里から黒森峰の実力を聞かされ、レッド・フラッグが改めてハイレベルな実力者チームであることを知り、表情を驚愕に染める。

 

それを見ながらも、杏は話を続けるように促した。

 

「俺達は勿論反対したのですが、上の方で決められていたらしくてね、『戦車の修理、砲弾や燃料の補充等を連盟側で行う』ってのを勝手に条件として押し付けられ、そのままリストから摘まみ出されたんですよ。それ以来、連盟が関わるような試合、ましてや全国大会とかが信用できなくなってね………………」

「だからって、せっかくの戦車やチームを、このまま廃らせるつもりかい?また燃え上がりそうだった、戦車道への情熱の灯を、この場で消すつもりかい?」

杏の言葉に、紅夜はハッとした。

 

「いくら定期的に走らせているとは言え、砲弾も撃てない、模擬戦も出来ない状況じゃあ、戦車が泣いてると思うよ~?」

「そう言われましてもね…………」

「なら紅夜君、今君が着ている、このパンツァージャケットは何?」

 

そう言って、杏は紅夜が着ているパンツァージャケットを指差して言った。

 

「思い出してごらんよ紅夜君、何だかんだ言っても、戦車道好きだったんでしょ?撃破された38tから見てたけど、動いてる君達の戦車からは、生き生きした雰囲気が伝わってきたよ」

 

訴えかけるかのように杏は言う。

紅夜は、消えそうになっていた火が燃え上がりそうな気がしていた。

 

「連盟の勝手な考えで、好きだった戦車道の世界から摘まみ出されたのは、確かに辛いよ。でもね、それで戦車の試合からも全面的にシャットアウトするのは、一寸違うと思うんだよ、私は。聞くけど、君達の試合を見てきた人々は、君達を異端だとして追い出そうとした?」

「それは………………」

 

そう言いかけ、紅夜は口を閉ざした。

 

「その様子じゃあ、されてはいないようだね」

 

沈黙しながらも、紅夜はゆっくりと頷いた。

 

「じゃあさ、尚更君達は、戦車道の場に帰るべきだよ。そりゃ確かに、今のご時世の風潮的には、男が戦車道やるとは異端だとか言われるだろうし、最初は変な目で見られたと思うよ。けどさ、君達の試合を見てきた人々は、最終的に皆、君達を応援してたよ?私だってそうだったしね」

 

それにと付け加え、杏はAチームの方を向いて言った。

 

「私等生徒会メンバーも、Aチームの皆も、教官も、君達が現役時代の力を存分に振るってくれることを望んでるんだよ。かの戦車道同好会チーム最強の、《RED FLAG》が、再び競技場に帰り咲くのをさ」

「ッ!」

「そ、そうですよ長門君!やりましょうよ戦車道!」

「西住殿の言う通りです!あんなにも実力があるのに、それを単なるお遊びで終わらせてしまうのは勿体無いですよ!」

「その通りです!私からもお願いします!」

 

紅夜が目を見開いた瞬間、Aチームのみほと華、優花里が言う。

その瞬間、紅夜の心の中で消えかかっていた小さな火が、まるでガソリンを撒かれたかのように燃え上がり、頭の中に、現役時代の光景が甦った。

 

 

 

「(ああ、確かにそうだ。連盟に摘まみ出されたから何だってんだ。俺等は俺等、《RED FLAG》なんだ、世間の風潮ごときでやられて堪るかよ!)」

 

込み上げてきた気持ちが暴発しそうになるのを抑えながら、紅夜は言った。

 

「また、戻れますかね?あの頃のような俺等に…………試合の場で暴れ回って、勝って、馬鹿みてーに喜んでた、あの頃に……………」

「勿論さ!」

 

力強く頷いた杏に、紅夜は決意を固めた。

 

「……………分かりました。ならば戦車道の話、ありがたく引き受けさせてもらいます」

「良く言ってくれたね、流石はレッド・フラッグ隊長だ」

 

そう満足げに杏が言った途端………………

 

 

砲撃音が鳴り響いた。

 

「Whooo-hooo!良く言ったぞ紅夜!それでこそ俺等の隊長だぜ!」

 

そんなハイテンションの声が聞こえたと思いきや、茂みの壁を突き破って、3輌の戦車が飛び出してきた。

 

「彼奴等…………」

 

紅夜がそう呟く間にも、3輌は紅夜目掛けて突進してくる。

そして急ブレーキで、紅夜にぶつかるスレスレで停車した。

 

「よお、ライトニングの隊長!漸く決心固めたんだなぁ!」

「全く、待ちくたびれたわよ、隊長」

 

停車した戦車から、続々とレッド・フラッグのメンバーが出てきて紅夜を囲んだ。

 

「お前等、なんで此処に?」

「何と無く気になってな、取り敢えずチーム全員呼んで、かっ飛んできたのさ。つーか、紅夜テメエ、1人だけで面白そうな事始めようとしやがって、砲弾でブン殴るぞこの野郎」

達哉が笑いながら言った。

 

「さあ隊長、ここまで来たなら、後戻りは出来ないわよ?」

「分かってるよ静馬、お前等こそ良いのか?」

 

紅夜が言うと、全員が力強く頷いた。

 

それを見た紅夜も頷くと、杏へと向き直った。

 

「角谷さん、これからよろしくお願いします」

 

そう言って、レッド・フラッグのメンバー全員と頭を下げた。

 

「うん、此方こそよろしく頼むよ……………これで一先ず、学園の未来も安心したものになる可能性が開けてきたかな………」

 

 

 

こうして、長門紅夜率いる戦車道同好会チーム、《RED FLAG》の完全復活と共に、大洗女子学園戦車道特別チームとしての加入が決定され、その日、小規模ながらの歓迎会が開かれた。

 

 

そして物語は、本格的に動き出すのだ。


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