ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第155話~戦いの約束です!~

『続いて、戦車道の話題です。戦車道の世界大会が日本で開催される事となり、全国の高校、大学への戦車道の授業の推奨が行われ、高校や大学、同好会チームでの戦車道の活動が盛んになっている今日、文部科学省及び戦車道連盟では、高校、大学、同好会チームを対象とした交流パーティーの開催を計画しており…………』

「へぇ~、彼奴等は今、んな事やってんのか」

 

 日曜日の朝、テレビのニュース番組を見ている紅夜は、アナウンサーが述べた話題に他人事でコメントを溢した。

 紅夜も戦車道をしている身であるため、一概に無関係とは言えないのだが…………

 

「交流パーティーだって!ねぇ、主人様!行こうよ!」

 

 テレビを見ていた黒姫は、興奮気味に紅夜に抱きついてせがむ。

 それにヤレヤレと肩を竦めながら、ユリアと七花が話に入ってきた。

 

「気が早すぎるわよ、黒姫。未だやるって決まった訳じゃないんだから」

「そうそう。あくまでも“計画してる”って段階だろ?立ち消えになる可能性だってあるんだから、紅夜にせがむのは、もう少し後でも良いだろ?」

「うっ……それはそうだけど……」

「だけども何もありません」

「はーい………」

 

 2人に宥められ、黒姫は渋々引き下がった。

 何処と無く不満げな表情を浮かべている黒姫に、紅夜は内心で苦笑を浮かべていた。

 

 人懐っこくて好奇心旺盛な黒姫は色々なものに興味を持ち、やれ『海外に行ってみたい』、『スポーツをしてみたい』等と言い出しては紅夜を困らせ、その都度ユリアや七花に宥められると言うのを繰り返しているのだ。

 

「まぁまぁ黒姫?そんな落ち込まなくても、もしパーティーが本当に開催されるなら連れてってやるから」

「本当!?」

 

 紅夜が言うと、先程までの膨れっ面は何処へやら、黒姫は満面の笑みを浮かべて紅夜に詰め寄ってきた。

 

「お、おう。俺等は同好会チームとしては引退してるが、大洗所属チームとしては活動してる訳だから、参加する資格は一応ある訳だからな。もし参加出来るなら、ちゃんと連れてってやるよ」

「わーい!ご主人様愛してる!」

「はいはい………」

 

 大喜びで抱きつき、頬擦りをする黒姫の頭を撫でながら、紅夜はただ苦笑を浮かべるだけだった。

 

「コマンダー、苦労してるわね………」

「ああ、そうだな………」

 

 それを見ているユリアと七花は、紅夜に同情の眼差しを向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば………」

「ん?ご主人様、どうかしたの?」

 

 あれから時間は流れ、昼の12時。昼食を摂っている最中、紅夜は箸を持った手を止めて呟き、それを見た黒姫も手を止めた。

 

「ああ、いや。そろそろ俺等の戦車を洗ってやらないとなって思っただけさ。全国大会では頑張ってもらったからな」

「でも、洗車なら自動車部の人が普段からやってくれてるわよ?」

 

 ユリアはそう言うが、紅夜は首を横に振った。

 

「確かにそうだが、一応あの3輌の所有者は俺だからな。大洗チームに加わって以降ほったらかしだった分、俺自らがキッチリ洗ってやりたいんだ」

 

 そう言って、紅夜は昼食を再開する。

 黒姫達3人は、暫時互いに顔を見合わせていたが、やがて誰からともなく微笑み、紅夜と同じように昼食を再開するのであった。

 その時の彼女等は、何時も以上に笑顔だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こうやって休日を過ごしていて思うんだが………暇だなぁ~」

 

 昼食を終えて食器を洗い、乾燥機に入れてスイッチを押した後、紅夜はソファーにどっかりと腰掛けてそう言った。

 

「まぁ、大会の時は休む間も無く練習してたし、大会が終わってからも、ご主人様は結構外出してたからね。何もする事が無い日なんて、久し振りなんじゃない?」

「ああ、ホントに久し振りだよ」

 

 紅夜の隣に腰掛けた黒姫がそう言うと、紅夜は頷いた。

 

「でも、たまにはこう言う日も良いんじゃない?私はこう言う日、結構好きよ?」

「俺もユリアと同感だぜ、紅夜。今日1日ぐらい、こんな感じで4人揃ってだらだらしても、バチは当たらないだろ」

 

 食卓の椅子に座っているユリアと七花が言った。

 

「俺は兎も角、お前等は大抵だらけてるだろうが」

 

 軽く笑いながらツッコミを入れ、紅夜は天井を仰ぐ。

 

「そういや、お前等付喪神が3人揃って俺の前に現れなかったのはなんで?」

「「「え?」」」

 

 ふと紅夜が訊ねると、黒姫達は3人同時に聞き返した。

 

「ご主人様、それってどういう意味なの?」

 

 質問の意味がよく分からなかったのか、黒姫が言う。

 そう聞かれた紅夜は、例え話を切り出した。

 

「なぁ、黒姫。お前、俺と初めて顔合わせした日を覚えてるか?」

「うん。プラウダとの試合の後、戦車の改造をしに行った日だよね?」

 

 紅夜からの質問に、黒姫が答える。

 

「その通りだ。だがユリアや七花と顔合わせしたのは、全国大会が終わって、俺が退院してバイクの免許取って、この学園艦に帰ってきてからだろ?時間に差がありすぎるぜ」

「そ、それは………」

 

 紅夜の言う事は尤もで、ユリアと七花は言葉を失った。

 

「……………」

 

 紅夜は暫く、そんな2人を眺めていたが、やがて小さく息をついて言った。

 

「まぁ、何だ。変に考えなくても良いよ。ただ、ちょっと気になっただけだからさ」

 

 そう言うと、紅夜は立ち上がって、ズボンのポケットから陸王のキーを取り出し、そのままリビングを出ようとした。

 

「紅夜、出掛けるのか?」

「ああ。買い物がてら、陸王にガソリン入れてやらなきゃならんのでな」

 

 七花にそう答え、玄関へ向かおうとした紅夜だが、インターホンの音が、彼の足を止めた。

 

「ん?誰だ?」

 

 音を聞いた紅夜は、そのまま玄関へと歩いていき、スリッパを履いてドアを開け、来客を出迎えた。

 

「はいは~い、どちら様…………って、蓮斗?」

「よぉ、紅夜」

「御無沙汰しております、紅夜殿」

 

 其所に居たのは、蓮斗と雪姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、何だかんだでティーガーと再開出来たんだな」

「ああ。50年以上経った今でも普通に動くし、砲弾だって撃てる状態だったから驚いたぜ」

 

 蓮斗達を家に招き入れた紅夜は買い物を諦め、蓮斗にソファーを勧め、彼との話に没頭していた。

 

「ところで蓮斗よ、お前ティーガーに会うの遅くねぇか?俺は結構前にも、早くティーガーに会いに行ってやれと言った筈なんだが………?」

「そ、そうだっけか?」

 

 蓮斗はそう言って惚けるが、紅夜はジト目を向けていた。

 

「そ、それもそうだが紅夜よ」

 

 話題を変えようとしたのか、蓮斗が話を切り出した。

 

「ん?」

「前々から思ってたんだが…………お前、雪姫にどんな魔法使ったんだ?」

「…………はぁ?」

 

 蓮斗からの突拍子も無い質問に、紅夜の口から間の抜けた声が漏れ出す。

 

「どういう意味だよ?」

「どうもこうもなぁ………お前、雪姫と初めて会った日の事覚えてるか?」

「ああ。黒姫が俺を迎えに来た時、一緒に来てたろ?んで、お前とも再会した」

「そりゃそうなんだが…………お前、雪姫の態度見て何とも思わなかったのか?」

「……?普通に物腰柔らかな態度だったが?」

「そう、それだよ。それが問題なんだ」

 

 そう言って、蓮斗は食卓の椅子に座って黒姫達と話をしている雪姫の方に目を向ける。

 

「彼奴はな、その………何つーか、人付き合いが苦手と言うか、だな………」

 

 何と無く歯切れの悪い蓮斗に、紅夜は首を傾げる。

 

「まぁ、誰にでも敬語を使うのは、彼奴の元からの性格なんだが………彼奴があんなにも、それも初対面の人間に興味を示す事なんて、1回も無かったからさぁ」

 

 そう言って、蓮斗は雪姫の事について話した。

 彼女と出会ったきっかけや、蓮斗が雪姫から聞いた、彼女の身の上話を………………

 

 

 

 

 

 

「…成る程、そんな事があったのか………雪姫さんも雪姫さんで、苦労してたんだな」

 

 蓮斗から話を聞いた紅夜は、染々と言った感じで言う。

 

「でもまぁ、何だかんだで今こうしてやっていけてるんだから、良かったと思ってるよ」

 

 蓮斗はそう言って、話を切り上げる。

 それからは彼らしくもなく、暫く黙っていた蓮斗だが、ふと何かを思いつき、紅夜の方へと視線を向けた。

 

「なぁ、紅夜」

「おう、どうした?」

 

 暇潰しにテレビでも見ようとしていたのか、テーブルの上に置かれてあったリモコンに手を伸ばしていた紅夜は、蓮斗の方を向いた。

 

「今度、俺のティーガーと…………1対1で勝負しねぇか?」

「…………お前と?」

 

 いきなりの勝負の申し込みに、紅夜は目を丸くする。

 彼等の話を聞いていたのか、雪姫達も話を止めて紅夜達の方を見ている。

 

「そう、お前のIS-2と俺のティーガーⅠでだ。赤旗の代表VS白虎の代表、1対1でのぶつかり合いさ」

「ほぉ~う………」

 

 蓮斗が話を進めると、紅夜は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「…………どうだ?」

「ソイツは良いな、アンツィオとも試合する約束もしていたが…………俺としてもちょうど、誰かと戦いたい気分だったのさ…………良いぜ、その勝負乗った!」

「ククッ………流石は赤旗の代表だ…………そう来なくっちゃなァ!」

 

 2人して乗り気になったのだが、其処へ黒姫が口を挟んできた。

 

「勝負自体は面白そうだから私も賛成だけど、肝心の蓮斗さんの戦車はどうするの?この学園艦にあるの?」

 

 黒姫の問いには、蓮斗の代わりに雪姫が答えた。

 

「いいえ。戦車は今、この学園艦にはありません。ですが、心配は無用です。勝負当日に、蓮斗が瞬間移動で戦車ごと転移してきますので」

「マジかよ……………蓮斗、お前つくづくチートだな。流石、人間辞めてるだけの事はある」

「俺が何時人間辞めたんだよ、まぁ既に死んでるから合ってるっちゃ合ってるが……つーか、少なくとも紅夜、お前だけには言われたくねぇな」

 

 苦笑混じりに言う紅夜に、蓮斗は軽く笑いながら返した。

 

「どっちもどっちでしょうに…………」

 

 そんな2人のやり取りに、ユリアが呟いた。

 

「2人共、少なくとも戦車が行動不能になったら降りて殴り合いするとかは止めてくれよ?下手すりゃ、この船沈没しちまうからな」

「「「うんうん」」」

「「お前等、俺をどんな目で見てるんだよ!?」」

 

 七花の呟きに、黒姫とユリア、そして雪姫が同時に相槌を打ち、それに紅夜と蓮斗が同時にツッコミを入れた。

 

 

 

 その後、4人から一斉に『化け物』と言われ、2人は暫く落ち込んだとか………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしている内に夜になり、紅夜が勧めたのもあって、蓮斗と雪姫は、そのまま長門家で夕飯をご馳走になった。

 

「んじゃ、またな紅夜。ご馳走さん」

「ご馳走さまでした、紅夜殿」

 

 家から出た蓮斗と雪姫が、紅夜の方へと振り替えって夕飯の礼を言う。

 

「良いって良いって、また何時でも来な」

 

 そう言った紅夜に見送られて、2人は転移で帰っていった。

 

「今思ったんだが、俺も彼奴みたく瞬間移動が使えるようになれば、黒森峰とかサンダースとか、兎に角色々な学園艦を回れたんだろうなぁ……」

 

 そう小さく呟いて、紅夜は家へと入っていき、風呂を済ませると、黒姫達にリビングの明かり等を任せ、自室に戻って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、蓮斗と雪姫は、今や彼等の家となっているティーガーを置いてある、とある山奥の洞穴に戻ってきていた。

 

「さぁ~て、彼奴と戦う日が楽しみだなぁ!」

 

 洞穴の奥へとやって来て、蓮斗は楽しそうに言いながら、ティーガーのフェンダーに腰掛けた。

 

「ええ、そうですね…………私も、久々に気分が高まっています」

「ほぉ?あの雪姫にもこう言わせるとは………やはり紅夜の奴、只者じゃねぇな…………マジで何者だよ、彼奴は」

 

 そう言って、蓮斗は洞穴の天井を仰いだ。

 

「まぁ、今はティーガー1輌しかねぇが…………何時か必ず、白虎隊の戦車5輌揃って、彼奴等と戦いてぇモンだなぁ……」

 

 そう言って、蓮斗は静かに目を閉じ、雪姫もティーガーへと入っていき、そのまま眠りにつくのであった。


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