それと最後の方で、ちょっと感動&ロマンチック(?)シーン入れました。
第154話~積み上げてきたからこそ出来た光景です!~
大洗女子学園の存亡を賭けた全国大会や、波乱に満ちた祝勝会も無事に終わった今日。
期末試験を終え、1学期で残された行事が終業式のみとなれば、どの学校も短縮授業期間に入る。それは此処、大洗女子学園でも同じ事だ。
さて、今は午後12時30分。4時限目の授業を終えたこの学校は、終学活の真っ最中だ。
本来なら、午後の時間をどう過ごそうかと胸を踊らせる時間なのだが、今日に限って、生徒達の顔色が優れない。
その理由は………………
「さて、それでは朝学活で言った通り、通知表を返すわよ」
『『『『『『『『いやぁ~~~っ!!』』』』』』』
そう、“通知表”である。
自分の成績に歓喜する者、或いは絶望する者。この2種類の生徒が現れるこの時間、その少女、須藤静馬が在籍している2年C組の教室内では、生徒達から発せられる緊迫した雰囲気が充満していた。
「(そう言えば、今日は通知表を渡される日だったわね。すっかり忘れてたわ………)」
机に頬杖をついた静馬は、内心でそんな事を呟いていた。
暫くすると、担任の教師に通知表を渡された生徒達が、1人は喜びながら、また1人は落ち込んだ様子で席に戻っていく。
「あっ……あは、あははは…………こりゃ駄目だ、補習確定だ……オワタ」
「これは2じゃない、これは2じゃない。これは5、これは5、これは5…………」
「先生!私理数系には進まないので数学要りません!」
等々、肩を落として席に着いた生徒からは、そんな声が漏れ出してくる。
「あぅ~、やっちゃいましたぁ~」
こう言うのは出席番号順で呼ばれるものであるため、必然的に優花里が最初に呼ばれるのだが、席に着いた優花里は頭を抱えて、今にも机に突っ伏しそうな状態だった。
「(あ~あ、あの様子だと秋山さん、成績が良くなかったのね)」
一際どんよりしたオーラを身体中から発している優花里に同情の眼差しを送っていると、静馬が呼ばれる。
教卓の前に立つと、担任の教師が通知表を手渡す。
「1年の時から、相変わらずの好成績ね。A組の冷泉さんに届く勢いよ。この調子で頑張ってね」
「はい」
そう答えて机に戻ると、他の生徒からの視線が集中する。
「1年の時から思ってたけど、須藤さんって凄いよね」
静馬が席に着くと、その前の席に座っている生徒が話し掛けてくる。
「そ、そうかしら?」
いきなり話し掛けられた事に若干戸惑いながら、そう聞き返した。
「だって須藤さん、戦車道やってるんでしょ?あれ、結構スケジュールがハードで勉強する暇が無さそうって、あちこちで噂になってるのよ?」
「そう?私としては、別に大した事ではないけど………」
「それは須藤さんが凄すぎるのよ!」
力説するその生徒に、静馬はただ苦笑を浮かべるしかなかった。
その際、視線をチラリと別の方へ向けると、紀子は気だるげに机に突っ伏し、雅は亜子や和美と談笑しており、雅の余裕そうな表情から、後で彼女の成績を聞いてみようと考える静馬であった。
「えー、これより戦車道の授業を始める。一同、礼!」
『『『『『『『『よろしくお願いします!!』』』』』』』』
放課後、グラウンドに集まった一行は、午後から合流してきた紅夜達男子陣も交えて、何時も通りに戦車道の授業を始めていた。
全国大会が終わった今、戦車道は最早部活動のような認識になっている。
「皆、全国大会ではお疲れさま!」
チーム毎に並んでいる大洗チームの面々の前に立った亜美が、彼女等を称えた。
「今年で戦車道の授業を復活させたばかりなのに全国大会で優勝するなんて、きっと、史上初の快挙よ!本当に良くやったわ!」
亜美がそう言うと、全員が嬉しそうな表情を浮かべる。そんな中で、亜美は紅夜の元へと歩みを進め、彼の手を取って両手で握った。
「彼女等が此処まで来れたのも、貴方達レッド・フラッグのお陰よ…………本当に、ありがとう」
「ちょ、止してくださいよ。照れ臭い」
そう言って、紅夜は面映ゆそうな表情を浮かべる。
「おっ、これは珍しい。祖父さんが照れてやがるぞ」
「滅多に見れねぇ光景だな。写真撮って珍○景に応募するか」
「おい待て勘助、お前マジでそれやったらこの船から海に突き落とすからな?」
「おい止めろマジ止めろシャレにならねぇって!」
そんな軽口を叩いていると、桃が歩み出てきた。
「この雰囲気に水を差すようで悪いが、私達カメさんチームは全員3年生だ。そのため、来年には卒業する。もう諸君等と共に、戦車道の授業で全国大会へ行く事は無いだろう」
桃がそう言うと、メンバーの表情が曇る。
そう、桃が言った通り、杏達生徒会チームは全員が3年生。時期的に、そろそろ受験勉強や就職活動のため、部活を引退する生徒も出始める頃だ。
それは即ち、この戦車道チームからメンバーが抜けると言う事になる。
分かってはいた事だが、いざ、その時が来ると、やはり思うところがあるのだろう。
「来年からは、諸君等現2年と1年、そして、来年入ってくるであろう新1年生で、このチームを動かしていく事となる。レッド・フラッグ、特に男子陣も、何時まで此処に居られるかは分からん。何時、何が起きようと対応出来るよう、今の内に準備をしておけ!」
『『『『『『『『はい!』』』』』』』』
桃がまとめると、メンバーから大きな返事が返される。
「………」
桃の演説を聞いた翔は、目をぱちくり瞬かせていた。
「ん?どうした風宮、私の顔に何かついてるか?」
その視線を感じた桃が、そう訊ねる。
「あ~、いや………あのポンコツ染みた河嶋さんが、スッゲー立派な事言ってるなぁ~ってね」
「おい、風宮。お前が今まで私をどんな目で見ていたのか、今からじっくり話し合おうじゃないか。時間はたっぷりあるのだからな」
そう言うと、桃は翔の首根っこを掴んで引き摺り始めた。
「ちょちょちょちょっ!?ちょっと待って河嶋さん!すんません今スッゲー失礼な事言いました!謝りますから許してくださ~~~いっ!」
翔はじたばたもがきながら叫ぶが、桃は聞く耳を持たず、そのまま何処へと引き摺っていってしまった。
「え~っと、取り敢えず河嶋達連れ戻しに行ってくるから、私等が戻るまで、全員戦車の整備とか、基礎の復習とかやっとくようにね~」
そう言い終えると、杏は柚子を伴って河嶋達を追い掛けていった。
そして、暫く呆然と突っ立っていたメンバーだが、一先ず杏に言われた通り、各々で行動を始めた。
「さて、それじゃあ俺等も………って、ん?」
練習を始めようかと言い出そうとした紅夜だが、ふと視線を向けた先で広がる光景に、その口を閉じた。
「辻堂殿」
「ん?おりょうさんか、俺に何か用か?」
紅夜の視線の先では、カバさんチームのおりょうが達哉に話し掛けていた。
「ちょっと、教えてほしい事があるぜよ」
「おう、別に良いぜ」
「辻堂、そっちが終わったら私のも頼む」
「いや麻子、お前には必要ねぇだろ」
「良いから来い」
「あの……わ、私の方も良い、かな………?」
「ゴモヨさんもか」
おりょうが達哉に頼んでいるところへ、麻子やゴモヨが寄ってくる。何気に、沙織やそど子……もとい、みどり子も居る。
「おーおー。達哉の野郎、こんな真っ昼間にハーレムっぷりを見せつけてくれちゃってまぁ………」
おりょう達に囲まれてたじたじになっている達哉を見た紅夜は、ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう呟く。
勘助はカエサルに、砲弾の装填速度を早めるコツの伝授を頼まれている。その他にも、煌牙や新羅、大河のみならず、レッド・フラッグにおいては、紅夜以外全員が引っ張りだこ状態になっている。
「…………こんな光景、現役の頃じゃ絶対見れなかっただろうなぁ」
あちこち連れ回されているメンバーを眺め、紅夜はそう呟いた。
「ねぇ、紅夜君」
そんな時、後ろから声を掛けられる。振り向くと、其所にはみほが立っていた。
「よぉ、西住さん。お前は練習しに行かなくても良いのか?」
「う~ん……練習しようにも、皆個人で練習しちゃってるし……それに、さっきの言葉、今の紅夜君が言っても説得力無いよ?」
「ククッ………確かに」
小さく笑って、紅夜はそう言った。
みほは紅夜の隣に歩み寄ると、賑わいを見せているメンバー達の方へと目を向けた。
「皆、楽しそうだね………」
「ああ」
みほの言葉に、紅夜は短く返した。
「私、この学校に転校してきて、本当に良かった」
不意に話を切り出したみほに、紅夜は視線を向けた。
「この学校に転校してきて、あんこうチームや、他のチームの皆と出会って、紅夜君達レッド・フラッグの皆と出会って、紅夜君達レッド・フラッグやグロリアーナ、知波単と練習試合をして、全国大会に参加して、優勝して!」
「……………」
段々と目を輝かせていくみほの話を、紅夜は黙って聞いていた。
「色々な問題もあったけど、全部………これで、良かったんだよね!」
そう言って、満面の笑みで紅夜を見るみほ。
それを見た紅夜は、軽く笑った。
「………ああ、そうだな」
其処から練習が終わり、解散の時間になるまで、2人の間の会話は無かった。だが、この時の2人には、会話なんて、必要無かったのだろう。
「ただいま~」
「お帰りなさい、ご主人様!」
「お帰り、コマンダー」
「紅夜か、お帰り~」
練習を終え、家に帰ってきた紅夜を、黒姫達が出迎えた。
そしてリビングに向かい、ソファーに腰を下ろした紅夜は、その日の出来事を黒姫達に語るのであった。
………………余談ではあるが、桃に引き摺られていった翔は無事に発見され、柚子に保護されたとか違うとか………
その日の夜、とある山奥に1組の男女がやって来た。
暗闇に溶け込みそうな漆黒の髪をポニーテールに纏めて、蒼い瞳を持ち、パンツァージャケットに身を包んだ青年--八雲蓮斗--と、装束のような服に身を包み、長い白髪を持った美女--雪姫--だった。
何だかんだ言って、彼方此方を歩き回っていた彼等だが、蓮斗が漸く、彼の愛車を見に行く気になったので、雪姫と共に、それの居場所へと向かっているのだ。
「なぁ雪姫、本当に此処にあるのか?ティーガーが」
自分にぴったりと寄り添うようにして隣を歩く雪姫に、蓮斗がそう訊ねる。
「ええ、勿論です」
雪姫はそう答え、ただただ歩き、蓮斗も彼女に合わせて歩く。
そうして暫く歩くと、2人は大きな洞穴の前に辿り着いた。
「此処、なのか?」
「ええ」
そう言うと、雪姫は蓮斗を置いて、真っ暗な洞穴の中へと消えていく。
雪姫の姿が暗闇の向こうに消えてから少しすると、暗闇の向こうで一瞬白く光り、その後直ぐに、猛獣の雄叫びのようなエンジン音が暗闇の向こうから響いてきた。
ゴロゴロ、キュラキュラと重厚感溢れる音と金属同士が擦れ合うような音が重なって響く。
やがて暗闇の中から、1輌の白いティーガーⅠが姿を表した。
「おお…………」
蓮斗は感嘆の溜め息を漏らすと、ヨロヨロとティーガーに近づく。
雪姫はティーガーから姿を表し、自分が宿っている戦車に近寄る主の姿を見守る。
ティーガーの傍まで歩み寄った蓮斗は、フェンダーに手を添え、優しく撫でた。
今では幻となったチーム、白虎隊の隊長と、その愛車が、実に50数年ぶりの再開を果たした瞬間だった。
そんな蓮斗を見ていた雪姫も、何を思ったのか、ティーガーのフェンダーを撫でている彼の背中に抱きついた。
「ッ!?」
突然抱きつかれた事に驚く蓮斗だが、それで身動ぎするより前に、雪姫が抱きつく力を強めた。
「………ッ…………ッ!」
そして蓮斗は、自分の背後で啜り泣く声を耳に入れる。
自分と愛車と、その付喪神…………ずっと一緒だった面子が、漸く揃ったこの瞬間に、雪姫も感極まっているのだろう。
「……すまねぇ、相棒…………長々待たせちまったな」
「……ッ……ッ」
何時もの陽気な雰囲気を引っ込めて謝る蓮斗に、雪姫は首を横に振り、顔を彼の背中に強く押し付けた。
蓮斗は何も言わずに背中に手を回すと、雪姫の頭を優しく撫でる。
すると、雪姫は蓮斗の腹に回していた腕を解いて1歩下がる。
蓮斗は、先程まで抱きつかれていたために若干前屈みになっていた姿勢を戻し、雪姫に向き直る。
其所には、目から大粒の涙を溢しながらも笑っている雪姫の姿があった。
「…………お帰りなさい、蓮斗」
雪姫にそう言われた蓮斗は、今度は彼の方から、彼女を抱き締める。
「………ただいま、雪姫」
そうして抱き合う彼等の姿は、月明かりに照らされて輝いていたと言う。