ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第153話~宴会、終了しました!~

「いやぁ~、色々あったが楽しかったな」

「ええ。あんなに盛り上がったのは初めてよ」

「ご主人様も、ずっと楽しんでたからね」

 

 チーム別の出し物大会や、杏の企画によって紅夜が子供になり、さらに杏の招待を受けた他校の面々がやって来ての紅夜争奪戦や、男女戦争、そしてアンチョビ率いるアンツィオ高校の介入もあっての大規模な食事会など、様々出来事が起こった、大洗女子学園&レッド・フラッグによる祝勝会は無事に幕を下ろした。

 他校の面々は、片付けが終わり次第直ぐ様学園艦を降りていき、其々の手段で帰っていった。

 学園艦が出港してから暫くの間、大洗やレッド・フラッグのメンバーは祝賀会の余韻に浸っていたのだが、段々と暗くなってきた上に、紅夜が陸王のサイドカーで眠ってしまったのもあり、解散となった。

 帰宅途中、黒姫とユリア、そして七花の3人が、祝勝会での出来事を楽しそうに話しているのを聞きながら、達哉はスヤスヤと眠っている紅夜を乗せた陸王を押していた。

 

「それはそうと達哉、ありがとね。陸王押してくれて」

「良いって良いって、このバイクそれなりに重いからな。3人居るとは言え、女の子に重いもの運ばせる訳にはいかねぇよ」

 

 達哉はそう言って、ハンドルから右手を離してヒラヒラ振ると、再びハンドルへと戻す。

 

「それもそうだが、今日泊めてもらっても良いか?コイツの薬の事とかもあるからさ」

「うん、良いよ。陸王押してくれたお礼もしないといけないし」

「私も構わないわ」

「俺も同じく」

 

 達哉が泊めてくれるように頼むと、黒姫達は快く受け入れた。

 

「しっかしまぁ、今回の宴会は、角谷さんの企画のせいで途中からトンでもない事になっちまったよなぁ~………紅夜が子供になったり、他の学校の人がワラワラやって来たり、男女戦争が起こりかけたり…………」

「ええ、そうね。よく考えたら、何れもこれも、あのチビッ子ツインテールがやらかした事から始まった訳だし………」

「ちょっとばかり、お仕置きが必要だよねぇ~………」

「取り敢えず紅夜が元に戻ったら、あのツインテールを締め上げてもらうか」

「いやいや七花よ、そんな事紅夜にやらせてみろ。角谷さん死ぬぞ」

 

 物騒極まりない事を言い出した七花に、達哉は苦笑混じりにツッコミを入れる。

 それから他愛もない話をしている内に、彼等は紅夜の家に到着した。

 

「そういや、家の鍵って誰か持ってるか?」

 

 達哉はそう訊ねるが、3人は首を横に振る。誰も持っていないようだ。

 

「マジか………じゃあさ、昨日鍵掛けた時に、紅夜が鍵を何処にしまったか覚えてないか?」

「あっ、それなら!」

 

 黒姫はそう言うと、サイドカーで眠っている紅夜の足元に置かれてある袋を持ち出し、中からズボンを取り出すと、ポケットを探り始める。すると、チャラチャラとキーホルダーが擦れる音を立てて、家の鍵が姿を表した。

 

「ホラ、あったよ」

「よっしゃ。それじゃあ鍵開けて、先に入っといてくれ。俺は陸王を置いて、紅夜を連れて入るから」

 

 達哉がそう言うと、黒姫は頷き、家の鍵を開けると、ユリアと七花を伴って先に入っていく。

 達哉は駐輪スペースに陸王を停め、サイドカーから紅夜を抱き上げると、そのまま家に入っていった。

 

 

 

 

 

「う~んっ!帰ってきたぜ~!」

 

 達哉がリビングに入ると、其所では七花がソファーにどっかりと腰掛けて寛いでおり、同じくソファーに腰掛けている黒姫とユリアも、足を投げ出している。

 彼女等は立場的には居候なのだが、暫く此処で暮らしていたのもあってか、すっかり自分の家のように振る舞っている。

 それについて若干微妙な気分になる達哉だが、これについて紅夜が愚痴を溢したりした事が1度も無かったため、最初から受け入れているものなのだろうと割り切る事にした。

 

「俺、コイツを部屋に寝かせてくるわ」

「あ、私がやるよ」

 

 黒姫はそう言って、部屋に向かおうとする達哉を引き留めようとするが、達哉は首を横に振った。

 

「別に良いよ、黒姫。それに、コイツを着替えさせなきゃならんからな。あ、コイツが着てた服入れてた袋取ってくれ」

 

 達哉がそう言うと、ユリアが床に置いていた袋を達哉に渡した。

 

「サンキュー」

 

 短くそう言って、達哉は袋を受け取り、紅夜を2階の部屋に連れていった。

 

 

 

 

 

 

「………さて、これで良しっと」

 

 2階にある紅夜の部屋にやって来た達哉は、一旦ベッドに紅夜を寝かせた後、彼を起こさないように注意しつつ、袋から紅夜の服を取り出し、宴会場で着替えさせてからそのままだったボコの着ぐるみから、何時ものパンツァージャケット姿に着替えさせる。

 今の紅夜は子供であるため、当然ながらブカブカなのだが、それも後少しで終わる。

 

「そう思うと、何か複雑な気分だなぁ……」

 

 達哉はそう言って床に腰を下ろすと、ベッドに凭れ掛かる。

 すると、部屋のドアが静かに開き、黒姫達が、そろそろと入ってきた。

 

「どうかしたのか?」

 

 紅夜を起こさぬよう、達哉は小声で訊ねた。

 

「うん、その……」

「…ご主人様を、見に来たの……この姿を見れるのも、後少しだから……何か、感慨深くて…」

「………」

 

 言いにくそうな反応を見せるユリアに代わって、黒姫が答えた。

 3人共、何処と無く寂しそうな表情を浮かべているのを見る限り、彼女等も、達哉と同じ心境に居るのだろう。

 

「そっか………」

 

 達哉はそう言って、ベッドで眠る紅夜へと視線を移した。

 

「………」

 

 彼等の気持ちなど知らず、紅夜はベッドの上で幸せそうに眠っている。

 

「………幸せそうだな」

「ええ、そうね」

「ご主人様、凄く楽しんでたもんね………」

 

 紅夜の寝顔を愛しげに眺めながら、3人は言った。

 

「どうせだし、寝顔の写真でも撮るか?」

 

 達哉はそう訊ねるが、3人は首を横に振る。

 

「ううん、良いよ」

「ああ。これは、俺達4人だけの特権だ」

「そうよ。私達で眺めていましょう」

「………そうか」

 

 そうして、4人は時間が来るまでずっと、紅夜の寝顔を眺めていた。

 そして、夜11時。薬の効果が切れる時がやって来た。

 紅夜の背や腕が伸びていき、ジャケットやズボンに膨らみを作っていく。

 顔にも変化が現れ、5歳児としての顔から、何時もの18歳の青年の顔に戻った。

 

「………さようなら、紅夜君」

 

 嬉しそうな、でも、寂しそうな表情を浮かべて、黒姫が言った。

 

「そして…………」

 

 達哉がそう付け加えると、付喪神3人組は、互いの顔を見合わせ、再び紅夜の方へと顔を向けて言った。

 

「「「お帰りなさい、紅夜(ご主人様)(コマンダー)」」」

 

 そう言うと、3人は部屋から出ていき、その直後に、ドアが開閉する音が聞こえてきた。

 恐らく、綾の部屋に入っていったのだろう。

 

「紅夜、お前は本当に幸福者だな」

 

 3人が部屋から出ていくのを見届けた達哉は、未だにベッドで寝息を立てている紅夜に向かって言った。

 

「目が覚めた時、お前はどんな反応をするんだろうな………まぁ、大方『なんで家に戻ってるんだ?』とか言いそうだが」

 

 そう言うと、達哉はそのまま床に寝転がった。

 

「勝手で悪いが、今日は此処で寝させてもらうぜ。餓鬼になったお前の面倒を見てたんだ、これぐらいは許してくれよな」

 

 冗談っぽくそう言って、達哉はそのまま目を閉じ、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、小鳥の囀りが学園艦上の町に響き、朝日が町を照らす。

 カーテンの隙間から入り込んでくる光が、紅夜を夢の世界から引き戻した。

 

「んっ……う~ん…………」

 

 もぞもぞと蠢きながらも、紅夜はゆっくり起き上がった。

 

「んっ………ふわぁ~あ………あーよく寝た」

 

 目を擦りながらそう言うと、紅夜はベッドから降りようとする。

 

「さぁ~て、今何時………………って、あれ?」

 

 だが、降りようとしたところで、紅夜は動きを止めた。

 

「此処、俺の家だよな?なんで帰ってきてんだ?確か俺、全国大会での祝勝会に参加してた筈なんだが……って、なんで達哉が俺の部屋に居んだ?つか、え?いや、ちょっと待て、マジで、一体全体どうなってんのコレ?」

 

 状況が全く理解出来ないと言わんばかりの表情を浮かべて、紅夜は部屋中を見回しながら自問自答を繰り返す。

 

「五月蝿ぇなぁ……もう少し静かに出来ねぇのかよお前は………」

 

 そうしていると、達哉が文句を言いながら起きてきた。

 

「いやいや達哉よ、お前何しれっと俺の部屋で寝てんだ?つか、なんで居んの?祝勝会は?祝勝会はどうなったんだよ?」

「ああ、もう終わった」

「………………え?今何て?」

 

 あっさり答えた達哉に、紅夜は間の抜けた声で聞き返す。

 

「だから、“既に終わった”って言ってんだよ」

「……………」

 

 そうして暫くの沈黙の後………………

 

 

 

 

「嘘ぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!!?」

 

 朝っぱらにも関わらず、紅夜の大絶叫が響き渡った。

 

 

 

 それから紅夜が落ち着くと、達哉達は事の全てを語った。

 

 薬を飲まされた紅夜が5歳程度の子供になり、杏が招待した他校の生徒達から揉みくちゃにされたり、みほにボコの着ぐるみを着せられて写真を撮られまくったり、女性陣の中で紅夜争奪戦が起きたり、その際中に男子陣が紅夜を連れ出したため、それに起こった女性陣と戦争が起こりそうになったりした事などを………………

 

 それを聞いた紅夜は、一先ず大洗に行って、杏を締め上げる事に決めたらしい。

 

 

 

 

 

 

 そして、取り敢えず何時ものように大洗女子学園に行ったのだが………………

 

『角谷ぃぃぃぃぃいいいいいいっ!!テメェちょっとツラ貸せやゴルァァァァァアアアアアアアアッ!!!』

「ご、ごめんなさ~~~~~~~いっ!!」

 

 大洗のグラウンドでは、決勝戦で見せた蒼いオーラを纏い、手から謎の光線を乱射する紅夜と、そんな彼から逃げ回る杏の姿が目撃されたとか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに、杏とのおいかけっこの最中、例の光線は何発も放たれたのだが、不思議な事に町を直撃したものは1発も無く、町は無傷ですんだのだが、何も知らない地域住民は、『謎の超低空流星群』と呼び、暫くの間、外出時には頭を低くして町を歩くようにしていたとか違うとか………




 これで、“エンカイ・ウォー!編”は終了です。長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

 次で、本作での最終章に入ります。

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