ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第152話~ちびっこ紅夜君、その8です!~

 男子vs女子での戦争は、蓮斗から“魔法の言葉”を授かった紅夜によってあっさり鎮圧された。

 それを見届けた蓮斗は、呆然とするクラーラをそのままにして帰り、宴会場には、蓮斗が来る前のメンバーが揃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、あのいざこざやってる内に、結構時間過ぎちまったな…………」

 

 取り出したスマホを画面を眺めていた達哉が、不意にそんな事を呟いた。

 それにつられて他の面々も、其々スマホを取り出して時刻を確認する。

 

「午後5時47分………何時の間にか、そんなに経っていたのね……全く気づかなかったわ」

 

 画面を見終わった静馬が、スマホをしまいながら言う。

 

「まぁ、何はともあれ、男子と女子で和解出来た訳だけど…………これからどうしよっか?」

 

 杏がそう言うと、一同は頭を捻った。

 “男女間でのいざこざ”と言う厄介事は無事に解決したが、皆してそれに熱中していたため、今後の予定など全く考えていなかったのだ。

 

「そう言えば私達、お昼食べてなかったよね」

 

 ふと、沙織がそんな事を言った。

 

「言われてみれば、確かにな………」

「長門さんの争奪戦に熱中していたあまり、すっかり忘れていました」 

 

 沙織の言葉に、麻子や華が同意する。

 そんな時、名案が浮かんだとばかりに、紅夜が勢い良く手を上げて言った。

 

「じゃあ、皆でご飯食べようよ!」

『『『『『『『『えっ?』』』』』』』』

 

 紅夜の発言に、メンバー全員の視線が集中した。

 何十もの視線を向けられている中でも、紅夜は構わず続けた。

 

「せっかく仲直りしたんだから、皆でご飯食べて、もっと仲良くなろうよ!僕、皆とご飯食べたい!」

 

 紅夜は目を輝かせて力説する。

 

「う~ん………紅夜君の考えも、良いとは思うんだけどねぇ~…………」

 

 だが、そんな中で杏が難色を示した。

 

「少なくとも、このホールでの食事は昨夜のヤツだけだし、この辺りで、大人数で入れるレストランは………」

「恐らく、簡単には見つからないかと……」

「名案だとは思うんですけど、この大人数では無理がありますね…………」

 

 桃と柚子が気まずそうに、杏の後に続けて言う。

 ただのレストランなら、探せばその辺に幾らでも転がっているだろうが、柚子が言ったように、今この宴会場に居る人数は、50人を軽く超えている。

 これだけの団体客が一度に入れるようなレストランなど、探せと言われて直ぐに見つけると言うのは流石に無理な話である。

 

「紅夜君には悪いけど、流石にこればっかりは無理かなぁ………」

「ええ~~~っ!?せっかくなんだから食べに行こうよ~~!」

 

 必死に言う紅夜だが、彼女等としてはどうしようもない。何とか説得して、紅夜を宥めようとした、その時だった。

 

『わぁーっはっはっはっ!!飯の事でお困りのようだな諸君!!!』

『『『『『『『『っ!?』』』』』』』』

 

 突然、高笑いと共にそんな言葉が、宴会場一帯に響き渡る。驚いた面々があちこちをキョロキョロ見回して、その声の主を探す。

 だが、姿形を見せず、その声の主は尚も続ける。

 

『飯の事なら我等の十八番!この統師(ドゥーチェ)アンチョビ率いるアンツィオ高校にお任せあれ!!』

 

 その声と共に、宴会場の扉が勢い良く開け放たれる。

 メンバーが一斉に振り向くと、其所にはアンチョビとペパロニ、そしてカルパッチョの3人が仁王立ちしていた。

 

「おー、チョビ子じゃん!ヤッホー!」

「だからチョビ子じゃなくてアンチョビと呼べって、前から口を酸っぱくして言ってるだろうがッ!!」

 

 出鼻を挫かれたアンチョビは、杏に盛大なツッコミを入れる。

 そして、仕切り直しとばかりに咳払いし、言葉を続けた。

 

「失礼ながら、諸君等の話は扉越しに聞かせてもらった!何でも、さらなる親交を深めるために食事会をしようとしていたそうじゃないか!」

「そうなんだよ~。でも、この大人数で行けるようなレストランなんて、そんなに無いからなぁ~…………」

「だからこそ我等の出番だと言う訳だ!ホラ、ついてこい!」

 

 そうして歩き出したアンチョビ達は、階段を降りていく。取り残されたメンバーは、暫時唖然としていたものの、一先ずついていく事に決め、アンチョビ達の後を追う。

 先に立って歩く3人に続くと、外に出ていた。

 そして………………

 

「っ!?こ、これは…………」

「マジか………」

「Wow!」

「Хорошо(凄いわね)………」

 

 外に出たメンバーは、駐車場で広がる光景に唖然としていた。何故なら、アンツィオ高校のトラックが数台停まっていたからだ。

 

「おっ!アンチョビ姉さん、お帰りッス!」

「大洗やレッド・フラッグの皆さんも、お久~!」

「うおっ!?聖グロやらプラウダやら、戦車道の強豪が勢揃いじゃん!」

 

 トラックの傍には、アンツィオ高校の生徒達が居り、建物から出てきたアンチョビ達を視界に捉えると、全員手を振って声を掛けてくる。

 アンツィオのメンバー達に手を振り返すと、アンチョビは大洗や他の学校の面々に向き直って言った。

 

「元々、資金稼ぎのために屋台を開こうとしていたんだが、偶然通り掛かった時に、大洗の祝勝会の事を思い出してな。未だ居るかと思って確かめに来た時に、先程のやり取りを小耳に挟んだのさ」

 

 そう言うと、アンチョビは他の生徒達に向かって言った。

 

「さぁ、お前等!今日は屋台を開く予定だったが、予定変更!此処に居る全員で宴会だ!」

『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』

 

 そうしてアンツィオ高校の生徒達は意気揚々と用意を始めるが、騒ぎを聞き付けた建物の者が出てきて駐車場で騒ぐのは止めてほしいと頼まれ、場所をどうするかと話し合った結果、大洗女子学園のグラウンドまで移動する事になった。

 因みに、紅夜が乗ってきた陸王は達哉が押していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では改めて………お前等!宴会だァーーッ!!」

『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』

 

 アンチョビが言うと、他のアンツィオ高校の生徒達から威勢の良い返事が返される。

 生徒達は一斉にトラックに駆け寄ると、元々屋台を開く予定だったのに何故用意していたのか、テーブルや椅子を次々に引っ張り出してくる。

 そうして間も無く、テーブルや椅子が並べられ、テーブルの上には豪勢な料理が所狭しと並べられた。

 

「全員、席に着いたかーッ!?」

『『『『『『『『『『『はぁーーいっ!!』』』』』』』』』』』

 

 アンチョビの問いに、席に着いたメンバー全員が返事を返す。

 

「それじゃあ始めるぞ!せぇーーの!」

『『『『『『『『『『『いただきまーーーすっ!!』』』』』』』』』』

 

 こうして、大洗、プラウダ、サンダース、聖グロリアーナ、黒森峰、知波単、アンツィオ、そしてレッド・フラッグでの大規模な食事会が始まった。

 

 

 

 

 

 

「そういや姉さん、さっきから思ってたんスけど」

 

 宴会が始まって少し経つと、アンツィオの生徒の1人がアンチョビに声を掛ける。

 

「ん?どうした?」

「今日、長門のダンナは欠席ッスか?姿見えないし、その代わりとばかりに、ダンナにスッゲー似てるちびっこが居るんスけど」

 

 そう言って、その生徒は紅夜の方に視線を向ける。

 

「ああ、そう言えばそうだな………少し聞いてみるか」

 

 そう言うと、アンチョビは達哉の方に近づいていった。

 

「なぁ、少し良いか?」

「ん~?」

 

 アンチョビに話し掛けられた達哉は食べ物で頬を膨らませた状態で振り向くと、それらを一気に飲み込んで答えた。

 

「どったのアンチョビさん?」

「ああ。今日、紅夜は来ないのか?姿が見えないんだが」

「あっ、そりゃあたしも気になってた」

 

 アンチョビが訊ねると、ペパロニも話に入ってきた。

 

「紅夜なら居るぞ?其所に」

 

 達哉はそう答えると、隣で小皿に盛られた料理を美味しそうに食べている紅夜を指差した。

 

「おいおい、冗談がキツいぞ。紅夜はこんなに幼くなかったろ?紅夜の歳が離れた弟じゃないのか?」

 

 その問いに、達哉は首を横に振った。

 

「いやいや、コイツは紅夜本人だぜ?なぁ、紅夜」

「むぐむぐ………ふぇ?」

 

 急に話し掛けられたため、紅夜は間の抜けた声で返事を返した。

 赤い瞳を持つ目は丸く見開かれ、ぱちくりと瞬いている。

 

「この人がな?お前が本当に紅夜なのかって聞いてきたんだよ」

 

 そう言って、達哉はアンチョビの方へと親指を向ける。

 

「むぅっ」

 

 それを見た紅夜は表情をしかめて言った。

 

「達哉お兄ちゃん、人を指差しちゃ失礼だよ。めっ」

「あー、悪い悪い」

 

 指をピッと立てて注意された達哉は軽く笑みながら謝る。

 そんなはさておき、アンチョビが紅夜の前に屈んで言った。

 

「1つ聞きたいのだが………君は、本当に紅夜なのか………?」

「うん!」

 

 アンチョビが訊ねると、紅夜は頷く。

 

「…………本当に、長門紅夜なのか………?」

「そうだよ!」

 

 また聞いても、答えは同じである。

 

「………………」

 

 アンチョビが沈黙すると、紅夜は再び食べ始める。

 それを見た達哉も食べようとするのだが、何時の間にか、アンツィオの生徒全員の視線が紅夜に向けられている事に気づいた。

 そして、少しの沈黙の後………………

 

『『『『『『『えええーーーーーーっ!!?』』』』』』』

 

 彼女等の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「………………こう言う訳なのさ」

 

 あれから少し経ち、アンチョビ達が落ち着きを取り戻すと、達哉は杏を引っ張ってきて、紅夜が子供になった理由を説明させた。

 最初は驚いていたり、疑ったりするアンツィオ生徒も多く居たが、大洗の生徒やレッド・フラッグの面々と言った証人も居るため、段々と、信じざるを得なくなっていった。

 

「そ、それは何と言うか………凄いな」

「何かアニメみたいな話だな!スッゲー!」

 

 未だに、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべているアンチョビとは裏腹に、ペパロニは小さくなった紅夜を見て興奮していた。

 

 

 

 

 

「祖父さん、大人気だな」

「ああ、そうだな」

 

 やがて、アンツィオの生徒達は群がるように、紅夜目掛けて向かっていく。

 そうして揉みくちゃにされる紅夜を眺めながら大河が呟くと、煌牙が頷いた。

 

「子供になった紅夜って、あんなにも女に人気が出るんだな」

「元々それなりにモテる奴だが、子供になっても尚モテるとは…………」

 

 そう言うスモーキーの男子陣の視線の向こうでは………………

 

 

 

 

 

 

「ほ、ホラ、紅夜………あ、あーん…………」

「あーん!」

 

 まほが恐る恐る差し出したナポリタンを、紅夜が頬張る。

 それを飲み込んだ紅夜は小皿に取っていたナポリタンをフォークに絡めると、先程とは逆に、まほへと差し出す。

 

「はい、まほお姉ちゃん。あーん!」

「あ、あーん」

 

 顔を真っ赤にしながら、差し出されたナポリタンを口に含むまほ。

 

「美味しい?」

「あ、ああ、美味しいよ………ありがとう、紅夜」

「どういたしまして、まほお姉ちゃん!」

「ぐはっ!」

 

 まほが礼を言うと、紅夜は満面の笑みを浮かべて返す。

 それを受けたまほは、一瞬大きく仰け反り、胸を押さえて悶えたかと思うと、テーブルに置かれている小皿にフォークを置き、次にどの料理を取ろうかと悩んでいる紅夜を抱き締めた。

 

「わぷっ!?」

 

 まほの胸に顔を埋められ、もがく紅夜を他所に、まほは言った。

 

「この子はこのまま連れて帰る!一生借りていくぞ!」

 

 何処ぞの白黒魔法使いのような事を叫ぶまほに、静馬が真っ先に反応した。

 

「はぁ!?何言ってるのよ貴方!勝手にウチの隊長拉致ろうとしてんじゃないわよ!」

「お前は何年も一緒に居たから良いだろ!寄越せ!」

「全く理由になってないわよ!それに子供になる薬も、今日の深夜には効果が切れるわよ!」

「なら新しいのを今直ぐ持ってこい!」

「させるかぁ!」

 

 こうして、タガが外れた静馬とまほによる取っ組み合いが始まった。

 それを見たアンツィオの生徒達が囃し立てたり、先程のまほと紅夜のやり取りに嫉妬した他の面々が、紅夜に“あーん”をしようとしたりと、宴会は賑やかなものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、さっきから考えてたんだけどさぁ………………この学園艦が出港するのって、何時だっけ?」

『『『『『『『『『『『はっ!?』』』』』』』』』』

 

 その後、不意に達哉が溢した一言で全員が我に返り、大洗やレッド・フラッグ以外の学校の面々が、大急ぎで撤収していったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば私、あまり喋ってなかったなぁ………………」

 

 あの宴会からの帰宅途中、絹代が背中に哀愁を漂わせながら、そんな事を呟いていたとか違うとか………

 

 

 

 絹代、ドンマイである。




 次の話で、『エンカイ・ウォー!編』は終わりです。
 この物語も、(第一部)完結の兆しが見えてきたかな。

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