ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第151話~ちびっこ紅夜君、その7です!~

 紅夜争奪戦をしている女性陣を置いて紅夜を連れ出し、昼食を終えて帰ってきた男子陣を待っていたのは、阿修羅とも呼ぶべきオーラを纏った女性陣だった。

 紅夜がクラーラに抱き締められている中、男子陣は全員正座させられて静馬達からの尋問を受けていたのだが、男子陣の中で仲間割れが起き、達哉、翔、大河が喧嘩を始めてしまう。

 それが静馬達女性陣にも飛び火して、男子陣VS女性陣での睨み合いが起こってしまう。

 それを鎮めようとする紅夜の前に蓮斗が現れ、彼が喧嘩を止める鍵だと伝える。そして、蓮斗から『魔法の言葉』を受け取った紅夜は、今にも殴り合いを始めそうな男子陣と女性陣の間へと飛び込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

「(うぅ~、やっぱり恐いよぉ…………)」

 

 達哉達の方へと歩みを進める紅夜は、内心そう呟いた。

 獣の如く唸りながら睨み合っている2つの勢力からは一触即発の空気が流れており、何時殴り合いの喧嘩が起きてもおかしくない状況だ。そんな中に5歳程度の少年が単身乗り込もうとしているのだから、彼の呟きは尤もな事である。

 雰囲気に圧倒されて、足取りは徐々に重くなってくる。此処で引き返すのは簡単だが、そうなるともう、男子陣VS女性陣による戦争を止められる者は誰一人として居なくなる。

 

「(僕がやらないと駄目なんだ。頑張らなきゃ!あのお兄ちゃんから、“魔法の言葉”も貰ったんだから!)」

 

 蓮斗から教わった、男子陣VS女性陣による戦争を止めるための“奥の手”。

 これに効果を持たせる事が出来るのは自分だけ。

 それらが、紅夜を奮い立たせた。

 

 そして紅夜は、未だ彼に気づかず睨み合っている達哉達の間近にやって来た。

 ふと後ろを向くと、数メートル離れた所に蓮斗とクラーラが座っている。

 胸の前で手を組み、心配そうな表情で見守るクラーラの隣では、何処か余裕そうな表情を浮かべた蓮斗が居る。

 紅夜からの視線を受け取った蓮斗は、無言で頷いた。紅夜も頷き返し、再び達哉達の方へと向き直る。

 

「すぅ~……はぁ~…………」

 

 其所で1つ深呼吸をすると、紅夜は目をカッと見開いて声を張り上げた。

 

「ね、ねぇ!」

『『『『『『『『?』』』』』』』』

 

 すると、先程まで一触即発の雰囲気を駄々漏れにしていた達哉達の視線が一斉に紅夜へと向けられる。

 

「おお、紅夜!お前もあの馬鹿共に一言言ってやってくれ!」

「何ほざいてんのよ達哉!アンタ等が紅夜を連れ出したのが悪いんでしょうが!然り気無く紅夜を味方にしようとしてんじゃないわよ!」

「肝心の祖父さんそっちのけにしてじゃんけんしてた奴が何言ってやがる!!大体テメェ等昼飯とか全然考えてなかったろ!」

「一言言ってくれれば良かったじゃない!」

「言える雰囲気じゃなかったからこうなってんだろうが!気付けやボケ!」

「何ですってぇ!?」

 

 最早売り言葉に買い言葉、男子陣と女性陣が、互いに罵声のぶつけ合いをしている。

 

「やれやれ、今時の餓鬼共は幼稚な奴が多いのな…………」

 

 遠くから成り行きを見守っている蓮斗は、溜め息混じりにそう呟いた。

 

「ホラ、紅夜からも何とか言ってやってくれ!」

「だから紅夜をそっち側にしてんじゃないって言ってるでしょうが!」

「取り敢えずご主人………げふんげふん、紅夜君、此方おいで?黒姫お姉ちゃんが抱き締めてあげるから♪」

「駄目だよ黒姫さん!紅夜君は私とボコのお話するんだから!」

「それで紅夜を怖がらせといて何言ってんだ!少し黙ってろボコオタク!」

「…………今何つった辻堂!!」

「ヒィッ!?西住殿のキャラが崩壊したでありますぅ!」

「カチューシャ、一先ず男子陣をシベリア送り50ルーブルの刑に」

「だから恐いって言ってるでしょ、ノンナ!?」

 

 紅夜が介入しようとすると、場の雰囲気はますますヒートアップし、手がつけられなくなる。

 

「(ど、どうしよう………凄く悪くなってるよぉ~)」

 

 両者から溢れ出す殺気に圧され、紅夜は涙目で後退りする。

 そして蓮斗の方へと振り返ると、視線で助けを求める。

 

「(お兄ちゃん、どうしよう~)」

「………」

 

 だが、蓮斗は何も言わない。どうしても紅夜に解決させるつもりのようだ。

 

「(うぅ~………でも、言わなきゃ……喧嘩を止めなきゃ!)」

 

 再び勇気を奮い起こした紅夜は、もう一度声を掛けた。

 

「ねぇ!もう止めてよ!!」

『『『『『『『『!?』』』』』』』』

 

 先程よりも遥かに強い口調で言う紅夜に、罵声を浴びせ合っていた面々が振り向く。

 

「喧嘩しないでよ!お兄ちゃん達とお姉ちゃん達も友達なんでしょ!?じゃあ、こんな事で喧嘩しちゃ駄目だよ!あの時、僕の遊んでくれた時みたいな、仲良しな皆に戻ってよ!!」

『『『『『『『『………………』』』』』』』』

 

 紅夜の悲痛な叫びが、この宴会場一帯に響き渡る。それにより、争っていた面々は先程までの勢いを失い、俯いた。

 

「このまま喧嘩が続いて、皆の仲が悪くなるなんて……僕、嫌だよぉ…………!」

『『『『『『『『ッ!!』』』』』』』』

 

 そう言って泣き始めた紅夜の姿は、達哉達に大きな衝撃を与えた。

 

「ウチの紅夜を泣かせるとは…………覚悟は出来てんだろうな女子共!」

「何ですってぇ!?どう考えたって達哉と翔と大河が喧嘩始めたのが原因でしょうが!」

「達哉君!こればっかりは私も須藤さんと同意見だよ!」

 

 すると、余計に話を拗らせていた。

 

 

「あの、これじゃ話がややこしくなる一方なのでは………………?」

 

 それを見ていたクラーラは、心配そうな面持ちで蓮斗に言う。

 

「まぁな。だが、それも直ぐに終わるさ。紅夜が“あの言葉”を言えば、直ぐにな」

 

 自信満々な表情でそう答えると、蓮斗は再び、紅夜へと視線を向ける。

 ちょうど紅夜も、蓮斗の方へと視線を向けている。話が拗れたため、どうしようもなくなっていたのだ。

 だが、それでも蓮斗の自信満々な表情は崩れない。

 蓮斗は紅夜を見据え、力強く頷いた。

 

「(さぁ、坊主。俺が教えた、“あの言葉”の出番だ!盛大にぶちかましてやれ!!)」

 

 その意図を読み取ったのか、紅夜も頷き返して達哉達の方を向くと、再び声を張り上げた。

 

「皆!ちゃんと聞いて!」

 

 紅夜がそう叫ぶと、罵声のぶつけ合いによる騒音がピタリと止み、達哉達の視線が紅夜に向けられた。

 

「い、今直ぐ喧嘩を止めて、仲直りしてくれなかったら、僕…………」

 

 そう言って、紅夜は一旦口を閉ざす。達哉達は何も言わず、次の言葉を待った。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 そして、1つ深呼吸をすると、紅夜は目をカッと見開いて言い放った。

 

「僕、皆の事、嫌いになっちゃうからねッ!!絶対絶対!ぜぇーーったい!口も聞いてあげないから!!」

 

 そう言い放つと、紅夜は小さな胸の前で腕を組み、プイと背を向けた。

 

『『『『『『『『ッ!!!?』』』』』』』』

 

 紅夜のその仕草は、地球を破壊出来る程の巨大隕石の衝突………………否、ビックバンに匹敵する程の衝撃を与えたと言う。

 

『『『『『『『『ご、ごめんなさ~~いっ!ちゃんと仲直りするから許してぇ~~~~!!』』』』』』』』

 

 先程までの怒り狂った様子は何処へやら、すっかり勢いを失った一行は、未だに背を向けている紅夜の方を向くと、一斉に土下座して謝り始めた。

 

「…………本当に?」

 

 そう言って、紅夜は土下座している一行へと向き直ると、腰に手を当てて上体を少し前に傾け、言葉を続けた。

 

「本当に、ちゃんと仲直り…………してくれる?嘘つかない?」

『『『『『『『『はい!ちゃんと仲直りします!!嘘もつきません!!』』』』』』』』

 

 紅夜が聞き直すと、土下座している一行は敬語で答えた。

 それにしても、16~18歳の青年少女達が、たった1人の5歳児相手に土下座して敬語まで使うと言う光景は、何とも滑稽なものである。

 

「じゃあ、今此処で仲直りして」

「い、今?」

 

 恐る恐る顔を上げて、静馬が聞き返した。

 

「そう。僕がちゃんと見てる前で仲直りしなかったら、許さない」

「うっ………でも……………」

 

 そう言うと、静馬は気まずそうな表情を浮かべた。

 先程まで罵声を浴びせ合っていた相手といきなり仲直りするように言われても、簡単には出来ないのが現実である。だが、それは紅夜が許さなかった。

 

「出来ないなら…………嫌いになっちゃう」

「ま、待って!するから!ちゃんと仲直りするから!」

 

 そうして、紅夜立ち会いの元、男女間での仲直りが成立したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、どうやら成功したみたいだな」

 

 クラーラと共に事の成り行きを見守っていた蓮斗は、やれやれとばかりに後ろに倒れかけながら言った。

 

「そうですね……凄くヒヤヒヤしました…………」

 

 額から流れていた汗を拭いながら、クラーラが返す。

 

「さて、面白いものを見せてもらったところで、そろそろ帰ろうかな…………じゃあな嬢ちゃん。くれぐれも俺の事は、あの坊主以外の連中には言わないでくれよ?それから、坊主への上手い言い訳も頼んだ」

 

 そう言って、蓮斗は姿を消した。瞬間移動で転移したのだ。

 

「………………」

 

 クラーラは呆気に取られたような表情で、先程まで蓮斗が座っていた場所を見ていた。

 

 其所に蓮斗が存在していた痕跡は、跡形も無く消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮斗、遅すぎです!全く、何時まで遊んでいたのですか!」

「悪い悪い、そう怒るなよ雪姫。ちょっと面白い光景と出会してな、ずっと見てたんだわ」

 

 1階に転移してきた蓮斗を、長々待たされて立腹状態の雪姫が出迎えた。

 

「それにしても長すぎです。せっかくコーンスープで喉を潤したのに、また渇いてしまいました」

 

 盛大な溜め息を交えて言う雪姫に、蓮斗はポカンとしたような表情で言った。

 

「お前、コーンスープなんざ飲んでたのか?夏なのに」

「い、良いじゃありませんか。お気に入りなんですから」

「それにしたって、もう少し季節感ってのを考えようぜ?今は夏なんだから、冷たい炭酸ジュースとかさぁ」

 

 

 そんな軽口を叩き合いながら、2人は建物を後にする。

 

「それで?一体何を見てきたのですか?」

 

 少し歩いたところで、雪姫がそう訊ねた。

 

「ああ、それがな…………」

 

 そうして蓮斗は、あの宴会場に入った時の事を話した。

 

 紅夜が子供になっていた事や、紅夜を巡って女性陣で紅夜争奪戦(ただのじゃんけん大会)の最中に男子人が紅夜を連れ出した事について男子VS女子での大喧嘩が起こった事。

 そして、その仲裁を紅夜にさせたところ、喧嘩していた面々が一斉に土下座して許しを乞うと言う滑稽な光景が広がっていた事も………………

 

 

「最後辺りにかなりのツッコミ所を感じましたが…………それにしても、小さくなった紅夜殿ですか…………会ってみたかったですね」

「スッゲー可愛かったんだぜ?特にな…………」

 

 そんなこんなで、2人は小さくなった紅夜の話題に花を咲かせるのであった。




 男女戦争、紅夜の一言であっさり鎮圧~

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