隠し芸大会で盛り上がりを見せた、大洗女子学園戦車道チームとレッド・フラッグによる祝賀会。
突如として出し物を披露する事になったレッド・フラッグだが、意見が纏まらなかった事もあり、結局出し物は、杏や他のメンバーで予め用意していたと言う、栗饅頭でのロシアンルーレットとなった。
そのロシアンルーレットにてハズレを引いた紅夜と達哉だが、達哉が激辛の栗饅頭を食べ、あまりの辛さにのたうち回る傍らで、紅夜は何の反応も見せなかった。
結局、そのまま紅夜に変化が訪れる事無く迎えた結果発表。
3位は、1年生達ウサギチーム、2位は、みほ達あんこうチーム。そして、1位は生徒会、カメチームとなった。
その後、杏がこの宴会場を翌日の午後5時まで使用出来るように話をつけていたのもあり、夜通しでの祝賀会が決まった訳だが、その時、紅夜の体に異変が訪れる。
何と、紅夜は突然倒れ、もがき苦しみ始めたのだ。
突然苦しみ始める紅夜を見てパニックになる面々だが、静馬は、紅夜が苦しんでいる原因が、ロシアンルーレットでの栗饅頭にあると見抜き、杏を問い詰める。
だが、その時に達哉が話に割り込んできて、紅夜の体が縮んだと言い出したのだった。
「紅夜の体が、縮んだ………?」
「そうなんだよ。それも、何処ぞの探偵アニメみてぇな小学生ぐらいじゃなくて、5歳とかその辺りだ」
達哉から衝撃の事実を知らされた静馬は、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべて聞き返し、それに達哉は頷いた。
その後、静馬は紅夜の元へと走り出した達哉についていった。
先程紅夜が苦しんでいたのもあってか、既に紅夜の周りには、みほ達大洗チームやレッド・フラッグの面々が居た。
そんな人だかりを掻き分け掻き分け、静馬は紅夜の元へと辿り着いた。
体が縮んだ紅夜は、今は眠っており、黒姫に膝枕をされていた。
「黒姫、紅夜の状態は?」
静馬は紅夜を起こさないよう、小声で黒姫に訊ねる。
「今のところは問題無いよ。体が縮んでからは、大分落ち着いたみたい」
黒姫がそう言うと、静馬は安堵の溜め息をついた。
「それじゃあ、最初に紅夜が苦しんでいたのは…………」
「栗饅頭と一緒に飲み込んだ薬か何かが効いてきたんだろうな」
達哉はそう言うと、杏達の元へと近づいた。
「なぁ、角谷さんよ。お前、紅夜が食った栗饅頭には何入れたんだ?……いや、まぁ紅夜の様子からして、大体の想像はつくんだが……………」
「あー、その…………」
達哉が訊ねると、杏は言いにくそうにしながら目を泳がせる。
「ねぇ、達哉」
「ん?」
だが、そんな時、眠っている紅夜を抱き抱えた黒姫が達哉に声を掛けた。
「ご主人様が起きちゃうかもしれないから、少し離れた場所で寝させてから話の続きをしてくれる?」
「え?……あ、そうだな。良いぜ」
達哉が頷くと、黒姫は紅夜を抱いて、アリクイチームが座っていた場所に寝かせると、そのまま戻ってきた。
因みに、黒姫が戻ってくるまでの数秒の間に、杏達生徒会メンバーの3人は、横1列に並んで正座させられていた。
「さぁて、会長?紅夜が何故あんなに小さくなったのか、洗いざらい全部話してもらおうかしら?」
「う、うん………それがね………………」
静馬の気迫に圧されながら、杏は紅夜が子供になった理由を話し始めた。
『『『『『『『子供になる薬?』』』』』』』
「ああ、そうなんだ」
メンバーが聞き返すと、桃が頷く。
「これは、紅夜君がバイクの免許を取ろうとしている間の事なんだけどね……………」
――数日前――
『――成る程、では、夏休みの――――では別の学校とチームを組む…………と言う事ですね?』
「そっ!」
その日、杏は聖グロリアーナのダージリンと、夏休み中に行われる“ある行事”について連絡を取っていた。
『分かりました。では、私達もペアを組んでくださる学校を探すとしましょう』
「いやぁ、悪いねぇ」
『いえいえ、お気になさらず』
受話器の向こうでは、何時ものように落ち着き払ったダージリンの声が聞こえてきた。
『ところで、角谷さん?』
「ん?どったの?」
突然話題を変えてきたダージリンに、杏は聞き返す。
『貴女達、紅夜さんのお見舞いには行ったのですか?』
「……いや、残念ながら行けてないなぁ。まぁ、入院初日と2日目には須藤ちゃん……あ、レッド・フラッグの副隊長でパンターA型の車長やってる娘なんだけど、あの娘が行ってくれたよ………でも、なんでいきなり?」
『それがですね………』
そう言うと、ダージリンは紅夜の見舞いに行った時の事を語った。
紅夜の病室に向かう最中にサンダースのケイと遭遇し、そのまま2人で紅夜の病室を訪れた事や、ケイと共に、昼食を紅夜に食べさせた時の事を、楽しそうに語っていた。
『――それで、その時の紅夜さんときたら、本当に可愛くて……………』
「ほぉ~」
相槌を打ちながら、杏は最早のろけ話になりつつあるダージリンの話を聞いていた。
すると、受話器の向こうからダージリン以外の女子生徒の声が聞こえてくる。
『ごめんなさい、少し呼ばれたので、この辺りで』
「あいよ、じゃね~」
そう言って電話を切ると、杏は元々座っていたリクライニングチェアに深々と凭れ掛かる。
「会長、やけに長く電話していましたね」
「そうなんだよ、ちょっとのろけ話聞かされてね………ダージリンがケイと一緒に、紅夜君のお見舞いに行ったんだってさ」
「それで、長門の様子は………?」
「良好だってさ。本人も元気そうだって言ってたよ」
桃の質問に杏が答えると、桃と柚子は安堵の溜め息をついた。
その後、3人は生徒会室を出て校内を歩き回っていたのだが、その間、杏の機嫌は良いものとは言えなかった。
「それにしても紅夜君、入院してる間に随分と良い思いしてるそうじゃん。私等が心配してる影でダージリン達に『あ~ん』とかしてもらったらしいし………」
不機嫌そうに言いながら、杏は紅夜が帰ってきた後、彼に何かしらの悪戯を仕掛けようと画策したのだが、紅夜に対して有効な悪戯が思い浮かばずにいた。
一応、紅夜は妖艶な雰囲気での誘惑を苦手としているが、少なくとも、杏の知り合いの中でそれが出来る者は居ない。
レッド・フラッグの静馬などに頼んだとしても、スルーされるのが関の山である。
「う~ん、何か良さそうな悪戯は無いのかねぇ~?」
「落とし穴とかはどうですか?」
「それではスケールが小さすぎるだろ。第一、建物内に落とし穴など掘れんからな」
そう言いながら歩いていた、その時だった。
「遂に………遂に完成したぞ!」
「ん?」
通り掛かった教室のドアの向こうから、何かの完成を喜ぶ声が聞こえてくる。
教室のプレートを見ると、其処には“科学実験室”と書かれていた。
「科学部か~、こんな部活もあったんだねぇ……面白そうだし、ちょっと見ていこっか!」
そう言うと、杏は2人を連れて科学実験室へと入っていった。
「――――んで、其所でちょうど子供になる薬作ってて、それが完成したらしいから、1錠貰ってきたって事なのさ」
正座させられながら、杏はそう言った。
「そう言う事なのね…………それで?その薬の効果は何時まで?」
「24時間だ」
静馬の問いに、桃は即答で答える。
「つまり、明日の夜11時頃まで、祖父さんはこのままって訳か」
「そうなるだろうな………まぁ、でも大丈夫だろ」
大河の呟きに、何故か楽観したような返事をする達哉。そんな達哉に、他のメンバーは怪訝そうな視線を向けた。
「大丈夫って、何が大丈夫なんだよ?」
そのメンバーを代表するかのように、大河が訊ねる。
「いや、だって明日になれば、俺等は此処を出て学園艦に戻る訳だし、そもそも明日は休日だからな。その辺は黒姫や静馬辺りが何とかするだろうよ。なんなら俺も手伝いに行けば良いし」
『『『『『『『『あ~~!』』』』』』』』
達哉の尤もな意見に、一同は納得したように頷いた。
『これで全てが解決する』と、誰もが思っていたのだが………………
「あ~、いや。その事なんだけどね……?」
『『『『『『『『?』』』』』』』』
突然話を切り出してきた杏に、メンバーは視線を向ける。
「実は、紅夜君が薬飲んだ直後に、あちこちの学校にメッセージ回しちゃったから……」
「へぇ~…………だから?」
静馬は黒い笑みを浮かべながら、杏の頭を鷲掴みにして続きを促す。
「少なくとも、サンダースや聖グロ、プラウダから“お客さん”が来るよ」
『『『『『『『『………………はぁ!?』』』』』』』』
杏のトンでもない発言に、メンバーは驚愕のあまりに目を見開く。
そんなメンバーを置いて、大洗の港に、ヘリや飛行機、そして船が全速力で向かってきているのであった。
「ねぇ、ミカ。なんで大洗に行こうなんて言い出したの?」
「…それはね、アキ。風が私に言ったのさ……『明日、大洗で面白いものが見えるよ』ってね」
「面白いもの、ねぇ~。そりゃ楽しみだな!」
明日の紅夜の運命や如何に?