ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第140話~隠し芸大会です!~

「あ~、マジ怖かった~。あんなにキレる静馬を見るのは初めてだぜ」

 

 静馬からの“お話”から解放された紅夜は、フラフラと席に戻りながらそう呟いた。

 

「ご主人様、大丈夫?」

 

 席に戻ると、心配そうな表情を浮かべた黒姫が聞いてくる。

 

「ああ、何とか大丈夫だよ」

「無理しないでね?辛かったら、何時でも私に抱きついて良いんだよ?」

 

 努めて笑みを浮かべながらそう言う紅夜に、腕を広げて受け入れる体勢を見せる黒姫。

 

「サンキューな、黒姫」

 

 紅夜はそう言って、黒姫の頭を優しく撫でた。

 

「わぷっ………えへへ」

 

 頭を撫でられ、黒姫は頬を赤く染めつつ、気持ち良さそうに目を細めた。

 

「全く………アンタって人は直ぐにそうやって…………と言うか、黒姫は紅夜を甘やかしすぎよ」

 

 だが、それに水を差すかの如く、紅夜の背後から、静馬の不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 紅夜が振り向くと、其所には不機嫌そうに料理を口に運ぶ静馬の姿があった。

 

「……なぁ、静馬?いい加減に機嫌直してくれよ」

「………別に、怒ってないわよ」

「嘘つけ。お前さっきマジギレしてたじゃねぇか」

「………ふんっ。そんなの知らないわよ」

 

 紅夜に言われた静馬はぶっきらぼうに返し、完全に背を向けてしまった。

 

「(……何が気に食わないってんだよ)」

 

 内心でそう呟き、紅夜も彼女に背を向けた。

 その後、彼女はジュースのおかわりを貰おうと席を立つのだが………

 

「………散々ほったらかしといて、今さら何よ」

 

 静馬は、誰にも聞こえないように小さな声でそう呟いた。

 彼女からすれば、誰にも聞かれていない筈だったのだが………………

 

「(静馬………)」

 

 地獄耳と言うべきか、雅には聞こえていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ、皆さんご注目ぅ!」

 

 談笑しているメンバーに、突如として杏からの号令が掛かり、視線が杏に集中した。

 

「祝賀会も盛り上がってきたところで、そろそろ例の“アレ”を始めたいと思いま~す!」

「(“アレ”?何かやるのか?)」

 

 杏が言った“アレ”が何なのか分からず、紅夜は首を傾げた。

 

「拍手~!」

『『『『『『『『わー!』』』』』』』』

「止め~!」

「(相変わらず“止め”のタイミング早いな………)」

 

 柚子の言葉で全員が一斉に拍手をするのだが、その次の瞬間には、桃から“止め”の号令が掛かる。

 2度目だからか、紅夜がツッコミを入れる事は無かった。

 

「では、これより各チームによる隠し芸の披露を行う!」

 

 桃がそう言うと、舞台の天井から横長のプラカードが下がってくる。

 

「《チーム対抗隠し芸大会》?こんなのやるのか」

「お?紅夜は知らねぇのか」

 

 紅夜がふと呟くと、それを聞いていた達哉が言った。

 

「ああ。こんな行事やるなんて聞いてなかったからな」

「そりゃそうなるわな……まぁ、かく言う俺等も知らなかったんだが」

「静かに!」

 

 紅夜達が話している傍らで他のチームが盛り上がっていたのか、桃からの言葉が飛んだ。

 

「えー、これより隠し芸大会のルールを説明する」

 

 桃はそう言うと、懐から取り出したメモを読み上げた。

 

「今回は、各チームにおいての得意な分野は禁止とする。具体的には、レオポンチームは自動車ネタ禁止、アリクイチームはネトゲネタ禁止、カバチームは歴史ネタ禁止、アヒルチームはバレーネタ禁止。そして、あんこうチームはあんこう踊り禁止だ!」

「私達からネトゲ取ったら何が残るんですか!?」

「同じくレオポンから自動車を取ったら…………」

「歴史を取ったら!」

「バレーを取ったら何が残るんですか!?」

「お前等、其々の得意なもの以外に取り柄ねぇのかよ!?」

 

 口々に叫ぶ各チームに、紅夜は堪らずツッコミを入れた。

 

「私達からあんこう踊りを取ったら………………って、別に取られても困らないね~」

「そうですね」

「寧ろ禁止してほしい」

 

 どうやら、あんこうチームは然程困らないようだ。

 

「今思ったんだが………そもそも俺等って、禁止されるような特技ってあったっけ?」

 

 ふと考えた紅夜が、他の3人に問い掛けた。

 

「言われてみりゃ、別に無いような…………」

「同じチーム内でも、其々特技違ってるからなぁ……」

「チーム全体としての特技って、今思えばねぇな。レイガン、お前等は?」

 

 最後に達哉が答えると、今度は静馬達レイガンに言った。

 

「私達も同じよ。其々特技が違うの」

「俺等スモーキーも同じく」

 

 静馬が答えると、大河もそれに便乗する形で答えてきた。

 

「はいは~い!盛り上がってるトコ悪いけど、未だ説明終わってないからね~」

 

 そんな会話を交わしていると、杏からの号令が飛ぶ。

 メンバーが視線を向けると、舞台の端に何時の間にか設置されていた机の上に、其々1等から3等まで紙が貼られた箱が置かれており、その後ろの椅子に生徒会メンバーの3人が座っていた。

 

「優勝チームには、豪華商品を用意してるからな~」

『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』

 

 杏がそう言うと、メンバーから歓声が上がる。

 

「因みに、3位は大洗商店街のサマーセール福引補助券、2位は、学食の食券500円分。そして、1位は10万円相当の………『『『『『『『『オオーーーッ!?』』』』』』』』………詳しくは後程発表する!」

 

 桃が言った『10万円相当』と言う単語に、メンバーは一気に盛り上がる。

 

「10万円相当って、もしかして現金かな!?」

「10万円あれば、ティーガーの履帯が1枚買えます!」

「私、ボコのぬいぐるみ買っても良いかな!?」

「良いよ!ボコの何が良いのか分からないけど」

「それより、皆で温泉に行きましょうよ!」

「単位が欲しい…………」

 

「10万円相当って、現金じゃないんだろ?」

「なら、金券ショップで売れば良い!」

 

「よっしゃー、勝つぞー!」

「10万円あれば、ダイブEのカードやアイテムが買える~!」

 

 あんこう、レオポン、アリクイチームの面々は、其々思い思いにやりたい事や買いたいものを言っていく。

 約1名、成績を買収しようとしている者が居るのだが…………

 

「別に欲しいものなんて無いけど…………」

「他のチームに渡ったら、風紀が乱れるよね!」

「風紀を守るために勝ちましょう!」

 

 カモさんチームは、あくまでも『風紀を守る』と言う名目で優勝を目指すようだ。

 他にも、ウサギさんチームが盛り上がったりしている。

 

 

 当然ながら、レッド・フラッグでも盛り上がっている訳で…………

 

「10万円分の何か、か……現金じゃないなら、使い道もねぇよなぁ………」

 

 紅夜は現金じゃない事が残念なのか、大して興味を示していないような反応をする。

 

「金券的なモンなら、プラウダの2人とプール行く時の足しにでもしたらどうだ?」

「ダメダメ!それじゃあ俺1人で金全部使っちまうじゃねぇかよ。此処は皆で折半するべきだ!」

「お前、その辺りの配慮は出来るんだな」

 

 達哉からの提案を真っ向から否定する紅夜を見て、翔はそう呟いた。

 

「静馬。もし金券だったとしたら、アンタは何か欲しいものってある?」

「特に無いわ」

 

 ウキウキと目を輝かせながら聞いてくる雅に、淡々と答える静馬。

 

「静馬って、こう言う時って矢鱈と欲が失せるのよね。まぁいきなりだから無理もないけど」

「でも、紅夜が絡んだら………ヒイッ!?」

 

 ジュース片手に呟く和美に雅は何かを言おうとするが、静馬から鋭い目で睨まれ、蛇に睨まれた蛙のごとく動かなくなる。

 

「静馬の奴、余程紅夜がプラウダの2人とプールに行くのが気に食わねぇんだな………なぁ、深雪。お前は何か欲しいものってあるのか?」

 

 そんな静馬の様子を見ながら呟いた大河は、深雪に視線を向けた。

 

「いいえ、特に無いわ。貴方は?」

「ギターかな」

「大河って、ギター弾くの上手いわよね~」

「祖父さんには負けるけどな………千早は?」

「デジタル時計を幾つか買おうかしら?紀子を叩き起こすためにね」

 

 大河にそう答えると、千早は黒い笑みを典子に向けた。

 その時、紀子は突如として、悪寒に襲われたと言う。

 

 

 

「優勝したいかー!?」

『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』

 

 杏の問い掛けに、メンバー全員が拳を突き上げて答えた。

 

 

 

 そして、広間の明かりが全て消え、何時の間にか下がっていた垂れ幕にスポットライトが当てられた。

 

「それでは、チーム対抗隠し芸大会、記念すべきトップバッターの登場です!」

 

 元気の良い柚子の言葉と共に、チーム対抗隠し芸大会が始まるのであった。


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