『ほぉ~、レッド・フラッグと大洗のメンバーで宴会か』
「そうなんだよ。まぁ宴会って言うよりかは、祝勝会って言った方が適切だと思うがな」
杏達による宴会の知らせから一夜明けた日の昼、紅夜は自室にて、豪希と連絡を取っていた。
学園艦に戻ってから全く連絡をしていなかったため、豪希の方から電話を掛けてきたのである。
「本来なら、全国大会が終わってから直ぐやる予定だったんだとさ」
『え、マジで?あ~あ、やっちまったな紅夜。まぁ最初の1週間は仕方ねぇが、残りの2週間はなぁ………』
「陸王が場所取って邪魔だから、さっさと免許取って持ってけって言ったのは親父じゃねぇかよ………」
からかうように言う豪希に、紅夜は溜め息混じりに言い返す。
『おお、言われてみりゃそうだな。あっはっは!』
言い返された豪希は、そう言って豪快に笑う。
何ら変わらない父親に、紅夜は苦笑を浮かべていた。
『んで?あれから黒姫ちゃんとの同棲生活はどうなんだ?』
「同棲って……何か結婚前提で付き合ってるみてぇな言い方だな…………ああ、何時もと何ら変わりねぇよ。つーか住人増えた」
『…………は?』
紅夜が言うと、豪希から間の抜けた返事が返された。
『おい、ちょっと待て紅夜。住人増えたってどういう事だよ?』
「言葉通りの意味だよ、親父。黒姫以外の付喪神が現れたのさ。それも、一気に2人。しかも両方女だ」
『マジで?そりゃ大変だな。食費とか大変になるだろうから、またバイトでもやったらどうだ?それに、足りねぇなら此方でも仕送りしてやるよ』
「そうするよ。サンキューな、親父」
手伝いを買って出る豪希に、紅夜は礼を言った。
『良いって良いって。つーかスゲェな、正にハーレムじゃねぇか。どっかのアニメの主人公なら、血涙流して羨ましがるだろうな………まぁ、上手くやれよ?それと、女をオトすのも程々にな』
「最後のヤツは意味分からねぇよ。まぁ何だ、お袋にも宜しくな」
『あいよ』
そんな軽口を叩き合い、電話は終了した。
「さて………宴会の時が楽しみだな」
紅夜はそう呟き、LINEのアプリを立ち上げてメッセージ履歴を開く。
『学園艦の寄港は午後6時。その後から出発するんで、6時半にグラウンド集合って事でヨロシク~! PS.紅夜君、君は長い間学園艦に帰らず皆を寂しがらせた罰として、何か1つ、芸を披露するように!』
履歴には、杏からのメッセージが残されていた。
「芸を披露、ねぇ………何かあるかなぁ」
そう呟いてベッドに寝転がる紅夜だが、寝転がってから間も無く跳ね起きた。
「そうだ、アレがあった!」
そう言うと1階にかけ降り、黒姫達が驚いているのを他所に、靴を履いて陸王の鍵をひっ掴むと、家を飛び出して陸王の側車を繋ぎ、ある所へ向かうのであった。
その頃、大洗女子学園では昼休みに入っており、静馬は教室で昼食を摂ろうとしていた。
「(さて、どうしようかしらね………)」
弁当の包みを机に出しながらも、静馬は悩んでいた。
実は今日、静馬以外のレイガンのメンバーが弁当を持ってきておらず、揃って学食に行ってしまったのだ。
「(皆が学食のご飯食べてる中で、1人だけ普通のお弁当を持って交ざるのも微妙だから誘いを断ったんだけど………やっぱり交ぜてもらおうかしらね)」
そう思い、静馬が席を立った時だった。
「あ、あの……須藤殿………」
「ん?」
突然、背後から控えめな声で話し掛けてくる者が居た。
聞き覚えのある声に振り向くと、其所には優花里が立っていた。
「あら、秋山さん。どうかしたの?」
「い、いえ。何時もはレイガンの方々と居るのに、今日は珍しく、お一人だったので……」
そう言う優花里を見て、静馬に考えが浮かんだ。
「そうだわ………ねぇ、秋山さん」
「は、はい!?」
声を掛けられた優花里は、一瞬体を強張らせる。普段はあんこうチームの面々としか話さないため、彼女等以外と話す事に慣れていないのだろう。
「せっかくだし、一緒に食べない?貴女もお弁当持ってるみたいだし」
静馬はそう言うと、優花里が両手に持っている弁当の包みに視線を落とす。
「は、はい!」
“あんこうチーム以外の人との昼食”
それは、優花里からすれば初めての経験だった。
それから、静馬は彼女の後ろの席に座る生徒に許可を得て、その生徒の椅子に腰掛け、優花里を自分の席に座らせて昼食を摂り始めた。
「それで秋山さん、テストの方はどうだった?」
「え!?」
突然振られた話題に、優花里は箸を落としそうになる。
実は、紅夜が本土で生活している間に、大洗女子学園では期末試験が行われたのだ。
「いやぁ、その………私は勉強が苦手で、平均も60を少し超えた程度です」
「未だマシな方よ。ウチの雅なんて、平均55なんだから」
静馬はそう言いながら、試験1週間前になって雅が泣きついてきた事を思い出した。
「まぁ、今日は宴会なんだし、試験の結果は忘れて、楽しみましょう」
「はい!」
そうして談笑する2人だったが、片方は《大洗の星(エトワール)》と呼ばれた存在、もう片方は戦車道の試合で活躍したチームの1人。当然ながら目立つ訳で、彼女等の周囲に居た生徒がチラチラと見ていたのだが、話に集中していた2人が気づかなかったのは余談である。
視点を移して、此処は山岡解体所。次郎の仕事場にして、紅夜達レッド・フラッグの整備場である。
「よぉ、長坊!スッゲー遅れたが、全国大会優勝&退院おめでとう!」
「サンキューな、輝夫のオッチャン」
解体所に入ってきた紅夜を、輝夫が出迎えた。
「おお、紅夜か。戦車を改造しに来て以来じゃな」
「そうだな、山岡のオッチャン」
輝夫に次いで出てきた次郎が紅夜に気づき、声を掛けた。
「神子から聞いたが、試合中に大怪我したらしいな。もう、平気なんか?」
「ああ。1週間で治ったぜ」
そう言って腕を軽く回し、完治している事をアピールする紅夜。
「それにしても、今日はどうしたんじゃ?また改造したいのか?」
そう訊ねる次郎に、紅夜は首を横に振って言った。
「ちょっとばかり、借りたいものがあるんだ」
紅夜はそう言って、彼の考えを2人に話すのであった。
「さてと……………んじゃ、全員揃ったし、そろそろ行くか!」
「「「うん(ええ)(おう)!」」」
午後6時を少し過ぎた頃、紅夜は黒姫達を伴って、大洗女子学園へ向かおうとしていた。
全員靴を履いて、家から出ると、紅夜は鍵を閉める。
そして移動しようとした時、彼のスマホが揺れた。メッセージが届いたのだ。
「LINEでのメッセージか………誰だ?」
紅夜はそう呟きながら、ポケットからスマホを取り出して電源を入れる。
「おっ、達哉からだ…………マジかよ、彼奴もう学園に着いたのか。おまけに、スモーキーの面々も既に来てるらしいし」
そう言うと、紅夜はスマホをポケットに押し込み、そのまま学園へ向かった。
「マジかよ、俺等以外来てたなんて………………」
学園のグラウンドに着くと、紅夜は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべてそう言った。
グラウンドには、紅夜達以外の面々が、既に勢揃いしていたのだ。
「紅夜君、おっそ~い。もう皆来てたよ~?」
「いや、遅いって言っても未だ6時半になってねぇぞ?どんだけ楽しみだったんだよ」
間延びした口調で言う杏に、紅夜はそう返した。
「んで?例のアレは考えてきたんだろうね?」
杏がそう訊ねると、紅夜は不適な笑みを浮かべて言った。
「勿論だよ。もうそろそろ来る筈だ」
紅夜がそう言った途端、裏口から紅夜を呼ぶ声が聞こえた。
「おっ、もう来たのか………悪い、ちょっと行ってくる」
そう言って裏口へと走っていく紅夜を見ながら、杏は桃に言った。
「河嶋~」
「はい。此方の手配も整っています」
「ならば良し………………さぁ~て、学園史上最大の宴会になるぞ~」
そう言う杏は、まるで悪戯を思い付いたかのような笑みを浮かべていた。
だが、彼女等は知らなかった。まさか、あのような事になるとは………………
文章力が欲しいです………………