ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第137話~宴会にお呼ばれ、後編です!~

「さてと…………それじゃあ行こうかな」

 

 蓮斗が帰ってから暫く経ち、時はもう4時半。紅夜はソファーから立ち上がり、出掛けようとしていた。

 

「ご主人様、何処か行くの?」

「ああ、ちょっと学校にな」

 

 首を傾げて聞いてくる黒姫にそう答えると、今度はユリアが話し掛けてきた。

 

「こんな時間から学校に?どうして?」

「実は今朝、角谷さんから呼び出しを受けてな。何か知らんが、大事な話があるから5時に来てほしいって」

「大事な話………まさか紅夜、告られるとかじゃないよな!?」

「「ッ!?」」

 

 テレビを見ていた七花が言うと、黒姫とユリアは紅夜へと視線を向ける。

 

「いやいや、流石にそれは有り得んわ。そもそも、俺みてぇなのに告るなんて、ソイツは余程の物好きだぞ」

 

 紅夜は笑いながら、手をヒラヒラ振って言う。

 

「それじゃあ、そろそろ行かないと約束の時間に遅れちまうから、ちょっくら行ってくる」

 

 そう言うと、紅夜は玄関で靴を履いて外に出ると、陸王のエンジンをかけて大洗女子学園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今日の練習はここまで!」

『『『『『『『『『『お疲れ様でした!!』』』』』』』』』』

 

 その頃の大洗女子学園では、何時もより早めに練習が切り上げられていた。

 

「今日は、意外と早く終わりましたね。何時もなら、後30分ぐらいは練習するのに」

「珍しい事もあるモンだね~」

 

 帰り支度をしようとするメンバーが居る中で優花里が言うと、沙織は同意する。

 

「それにしても、ライトニングの面々が居ないのは、何だか妙な感じだな。そんな日々が少し続いたが、未だに慣れん。物足りない感じがする…………」

 

 その傍らで、麻子が相変わらず眠たげな声色で呟いた。

 

「言われてみれば、確かにそうですね………」

「全国大会の時は、休みだと言われない限りは毎日来てたから、何時の間にか私達の中で、紅夜君達が居る日々が当たり前になってきてたんだね………」

 

 麻子の呟きに華が頷き、みほもそれに便乗する。

 

「それに今日は、ライトニングの皆って言うより、レッド・フラッグの男子全員来てないもんね~」  

 

 そう言って、沙織はメンバー全員を見渡す。

 確かに彼女の言う通り、今日の練習に参加したメンバーの中に、男子の影は見当たらなかった。

 

「まさかとは思うけど、このままレッド・フラッグの男子どころか、レッド・フラッグのメンバー全員が来なくなるなんて事は無いよね?」

 

 沙織が言うと、みほ達あんこうチームのメンバーの表情が曇る。

 考えたくはないが、もしかしたら………と言う事も、無いとは断言出来ない。

 

 だが、そんな時だった。

 

「流石にそれは無いわ。考えすぎよ、武部さん」

「ッ!?」

 

 不意に、沙織の背後から女性の声が聞こえてきた。

 突然話し掛けられた事に驚いた沙織が勢い良く振り向くと、其所には静馬が居た。

 

「す、須藤さん…………」

「全国大会が終わったから、暫くお休み気分で居るのよ。また集まれって連絡すれば、何時でも飛んでくるわよ?紅夜なら特に、ね」

 

 静馬がそう言った時、裏口から声がした。

 

「よぉ!呼ばれたから来たぜ~!」

 

 メンバーが帰り支度をする手を止め、声の主の方へと視線を向けると、達哉と翔、そして勘助の3人が手を振りながら歩いてきていた。

 

「あ、達哉君達だ!」

 

 沙織は嬉しそうに言うと、歩いてくる達哉達に手を振る。

 

「やーやー、辻堂君達。急に呼んでゴメンね~」

 

 達哉達が到着すると、杏が何時も通りの調子で声を掛けた。

 

「別に良いよ、角谷さん。どうせ普段は暇してるからさ」

「そんな事言うなら、練習に来ても良いんじゃないのかな?今日も昨日も来なかったし」

「ハハハ、そりゃ悪かった」

 

 そんな軽口を叩き合っていると、今度は校門側から、大河達スモーキーの男子陣が歩いてきた。

 

「よぉーっす!何か呼ばれたんで来たぜ!」

「大河、その台詞はさっき達哉から聞いた」

「いや、んな事言われても知らねぇよ」

 

 大河の挨拶に翔がツッコミを入れると、大河は何とも言えないような表情を浮かべて言い返す。

 

「2日振りね、大河。今まで練習来ずに何をしていたのかしら?んん?」

「よぉ、深雪。普通に家でゲームしたりって、~~~!?いひゃい!ほっふぇふねうな(訳:痛い!ほっぺつねるな!)」

 

 其処へ、黒い笑みを浮かべた深雪が何処からともなく現れ、大河の頬をつねり、そのまま引き伸ばす。

 

「おーおー、現役時代はよく見かけた光景だな。最近は見なかったから、何か新鮮な気がするぜ」

「それもそうだが………………紅夜は未だ来てねぇのか?もうすぐ5時だってのに」

 

 ニヤニヤしながら大河と深雪の様子を見ている煌牙の傍で、新羅はそう言った。

 

「ああ、言われてみりゃそうだな………なぁ、角谷さん。紅夜にもメッセージ送ったんだよな?」

「勿論。ちゃんと返事も貰ったよ」

 

 達哉の問いに、杏は即答で頷いた。

 

「彼奴、多分バイクで来るだろうから、信号にでも引っ掛かってんじゃねぇのか?」

「あ~、何かありそう」

「彼奴、くじ運ならぬ信号運悪いからな。西住さんと初めて会った時も、交差点で何かあったんだろ?」

「ああ~………そういや、それっぽい事もあったらしいな」

「なら、どっかの信号でそれっぽいのに巻き込まれてんじゃね?」

「んで、またどっかでフラグ建ててたりして」

 

 そんな話をしていると、校門側から野太いエンジン音が響いてきた。

 その音の方へと視線を向けると、紅夜が乗った陸王が近づいてきていた。

 

 紅夜は、校庭で此方を見てくる大洗の面々を視界に捉え、ハンドルから左手を離して振った。

 

「紅夜君……!良かった、来てくれた……」

「ほらね、やっぱり来たでしょう?」

 

 彼の姿を視界に捉えたみほは安堵の溜め息をつき、そんなみほに、静馬は言った。

 

「紅夜はね。1度お休みモードになっても、呼べばちゃんと来るのよ。何も言わないまま2度と来なくなるなんて事にはならないと、私が保証するわ」

 

 そう言って、静馬は自らの胸に手を当てる。

 

「須藤さん、凄い自信だな」

 

 麻子がそう言うと、静馬は自信に満ちた表情で返した。

 

「当たり前でしょう?伊達に13年間、彼の幼馴染みしてないわ」

 

 そう言っていると、紅夜を乗せた陸王がメンバーの前で停まる。

 紅夜は陸王から降りてスタンドを立て、エンジンを切るとヘルメットを外し、シートの上に置いた。

 

「よぉ、祖父さん。結構遅い到着だな。一応5時までには着いたみたいだが」

「ああ、今日は矢鱈と信号に引っ掛かってな」

「お前、ホントに信号運ねぇのな」

「何だよ信号運って……………」

 

 予想通りと言わんばかりの表情で言う大河にそう返し、紅夜は杏の方へと向き、声を掛けた。

 

「遅れて悪いな、角谷さん」

「いやいや、此方は5時までに来てって言っただけだから大丈夫」

 

 杏はそう言って、辺りを見回して全員居る事を確認すると、桃と柚子に視線を送る。

 2人は頷いて前を向き、桃がメンバー全員に呼び掛けた。

 

「全員、注目!」

 

 突然そう言われたメンバーは訳の分からぬままに、前に立つ生徒会メンバーへと視線を移す。

 

「えー、今更な事ではあるが、全国大会では本当にご苦労だった。我が校、大洗女子学園が今年度の大会で優勝を果たし、廃校の危機を免れ、こうして姿を留めているのは、諸君等の頑張りあってのものである」

 

 桃が言うと、メンバーは表情を引き締めた。大会当時の光景を思い出しているのだ。

 そんな彼女等を前に、桃は続ける。

 

「大会後、負傷した長門が入院していたためにタイミングを逃していたのだが、今此処には、我等大洗女子学園戦車道チームと、レッド・フラッグの両チームが集結している。よって、今此処で発表させてもらいたい事がある」

 

 そう言うと、周囲にざわめきが広がる。普段からクールな印象を与える桃が、その表情のまま話しているのだ、何かしら重要な事を話すのだろうと、誰もが思っていた。

 だが………………

 

「明日、学園艦が寄港するのは知っていると思う。停泊期間は、明日の朝から明後日の夕方までだ」

「それは知っているのですが、何をするのですか?」

「良い質問だねぇ、秋山ちゃん」

 

 優花里が訊ねると、先程まで何も言わずに居た杏が声を発した。そして、桃と入れ替わる形で前に出る。

 

「では、発表します!」

 

 その言葉を皮切りに、一同に沈黙が流れる。

 1秒1秒が長く感じられる沈黙の末、杏は言った。

 

「明日の夜、寄港する港付近のホールで、宴会をする事が決定しました~~!!」

『『『『『『『『『『…………はい?』』』』』』』』』』

 

 緊張した雰囲気を一気にぶち壊すような、明るい声色で言う杏に、メンバーは間の抜けた声を発する。

 

「宴会、ですか?」

「そっ、宴会!」

 

 聞き返す静馬にそう答え、杏は続けた。

 

「いやぁ~、今年になって急に復活させた戦車道で、皆には結構無理させちゃった訳だけど、皆、優勝目指して頑張ってくれたからね。その労いみたいなモンだよ、うん」

 

 そう言う杏を前に、一同は呆気に取られたような表情を浮かべていた。

 

「まぁ、そう言う訳だから皆、明日と明後日の予定は空けとくように。それとレッド・フラッグの皆に言っとくけど、付喪神の3人も連れてきて良いから、その辺りよろしくね~。では、連絡終了!」

 

 呆然としているメンバーを差し置いて、話を終わらせてしまう杏。

 

「あ、紅夜君は、悪いけど来てくれる?ちょっと話があるから」

「ほぉ~い」

 

 杏に呼ばれた紅夜は、陸王を押して、立ち去っていく生徒会メンバーの3人を追っていった。

 

 

 

 

「えっと………宴会?」

「みたいですね」

 

 沙織と華がそう言うと、一同の間に再び沈黙が訪れる。

 そして、互いに顔を見合い、話を飲み込んだ一同が歓声を上げたのは、その沈黙が訪れてから20秒後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで角谷さん、話ってのは?」

 

 その頃、杏に呼ばれて帰路を共にしている紅夜は、陸王を押しながら杏に話し掛けた。

 

「うん、それなんだけどね……」

 

 珍しく、歯切れ悪そうに言う杏は辺りを見回し、誰も居ない小さな公園を視界に捉えた。

 

「こ、此処だと邪魔になるからさ、あの公園で話そうよ」

「……まぁ、別に良いけど」

 

 紅夜はそう答えると、3人と共に公園に入っていった。

 入り口前にバリケードが置かれているため、紅夜は入り口前の左端に陸王を停めた。

 遊具の近くに立つ紅夜の前に、3人が横1列に並んだ。

 

「さてと……紅夜君」

 

 そう話を切り出す杏に、紅夜は視線を向けた。

 

「取り敢えず、今までお疲れ様」

 

 そう言って、杏は深々と頭を下げた。

 

「我が校が大会で優勝し、廃校を撤回する事が出来たのは………長門、お前達レッド・フラッグのお陰だ。本当に、感謝している」

「ありがとね、長門君」

 

 杏の後に続けて言うと、桃と柚子も頭を下げた。

 

「ちょっ、止めてくれよ。何か気恥ずかしいじゃねぇか」

 

 そう言って、紅夜は照れ臭そうに笑いながら、視線を逸らして頬を掻いた。

 心なしか、顔が少し赤くなっている。

 それを可愛いと思いながら、杏は話を続けた。

 

「それでね、紅夜君………1つ、聞きたい事があるんだ」

「おう、何だ?」

 

 頬を掻いていた紅夜は、その指の動きを止めて杏に視線を戻す。

 その際、彼女の表情が真剣なものになっているのを見て、紅夜も表情を引き締めた。

 

「紅夜君達はさ……これから、どうするの?」

「え?」

 

 杏からの質問に、紅夜は首を傾げた。

 

「『これからどうする』って………どういう意味なんだ?」

 

 聞き返してくる紅夜に、杏は言った。

 

「プラウダと試合した時にさ、私等が紅夜君達を引き込んだ理由がバレちゃった時の事、覚えてる?」

「………ああ」

 

 紅夜は頷いて、当時の事を思い起こした。

 

「……私等は、この学園の廃校を阻止するために、今年度の大会で優勝しなければならなかった。でも、そんな話になるまで、この学園では、戦車道は廃止された状態だった」

「そうだな」

 

 ポツリポツリと話す杏に、紅夜は相槌を打った。

 

「そんな状態で全国大会優勝なんて、無謀にも程がある話だった。でも、そんな時に西住ちゃんが黒森峰から転校してきた」

「そうらしいな。それで、お前等は無理矢理引き込んだらしいけど」

「ありゃ、其処までバレてたか~。何処で知ったんだか」

 

 杏は苦笑を浮かべながら言い、話を続ける。

 

「でも、正直西住ちゃんを引き込んだだけじゃ心許なかった。大会で優勝するには、もっと多くの戦力が必要だった……」

「んで、あんこうチームの面々から俺等の存在を知らされて、レッド・フラッグがこの船に居る事を知り、接触してきた………そう言う事だろ?」

 

 そう言う紅夜に、杏は頷く。

 

「もしかしたら角谷さん、お前………『全国大会が終わったから、ある意味で用済みとなった俺等がチームから離れるんじゃないか』……って思ってたのか?」

「ッ!?」

 

 紅夜が言うと、杏はあからさまに反応する。

 彼女を両サイドから挟む形で立つ桃と柚子も、複雑な表情を浮かべていた。

 

「その様子だと、当たりみたいだな」

 

 そう言われた3人は黙って俯いてしまい、それを見た紅夜は、苦笑を浮かべながら言った。

 

「おいおい、3人揃ってそんな顔すんなよ。別に責めてる訳じゃねぇんだから」

 

 そう言って、紅夜は夕日へと視線を向けた。

 杏達3人の間で流れている暗い雰囲気など気にせず、海や学園艦に立ち並ぶ町を、オレンジ色の光が照らしている。

 

「………離れるつもりなんて、これっぽっちもねぇよ」

「「「ッ!?」」」

 

 紅夜がそう言うと、3人は顔を上げた。

 

「前にも言ったと思うが、俺等に、もう一度戦車道の場に返り咲くべきだって言ってくれたのは………角谷さん、お前だろ?なら俺等は、お前が『もう用済みだ』って言わない限り、この学校の特別チームとして戦うよ」

「紅夜君……」

 

 目を涙で潤ませる杏に、紅夜は微笑みかると、手を打ち鳴らした。

 

「さて、もうこんなシケた話は終わりだ、終わり!明日は宴会なんだから、思いっきり楽しもうぜ!!」

「「「ああ(うん)!!」」」

 

 紅夜が言うと、3人は返事を返した。

 彼女等の表情には、もう暗さなど残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、3人と別れて帰宅した紅夜は、留守番をしていた黒姫達に宴会の事を伝えた。

 自分達も参加出来ると知らされた3人は、それはそれは喜んだと言う。

 

 

 

 

 そして翌日、宴会の日がやって来た。




 

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