ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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 この話から、エンカイ・ウォー編に入ります。
 楽しみに待ってくれた方々、大変長らくお待たせしました。

 実は作者、劇場番に加えてエンカイ・ウォーとかもあまり知らないので、所々おかしかったり、オリジナルが含まれる事がありますが、ご了承ください。

 では、どうぞ!


第17章~遅れに遅れたエンカイ・ウォー!~
第136話~宴会にお呼ばれ、前編です!~


「河嶋~、例のアレはどうなってる~?」

 

 アッサム誘拐事件から一夜明けた今日、大洗女子学園へと歩みを進めている、杏、桃、柚子の3人は、何やら話し合っていた。

 

「はい。明日の寄港後、港付近の宴会場で行います」

 

 杏に話を振られた桃は、鞄からある書類を取り出して答えた。

 

「それにしても、よくホールを貸し切りにしてくれましたよね」

「そりゃそうでしょ~。何せ私等、戦車道復活させたその年に、全国大会優勝を果たしたんだからさ」

 

 柚子が呟くと、後頭部で手を組んだ杏がそう返す。

 

「本来なら、全国大会が終わって直ぐに行う予定だったのですがね…………」

「だよね~。でも、紅夜君は試合中に大怪我して入院。それからバイクの免許取るとかで本土に残ったから、大体3週間帰ってこなかったしね~」

 

 書類を見ながら呟く桃にそう返すと、杏は不服そうに頬を膨らませた。

 

「それに紅夜君、入院してる時に色んな人にお見舞いに来てもらって、イチャついてたらしいもんね~。ダージリンとかチョビ子とかが見舞いに行ったらしいよ」

 

 そう言って、何処からともなく取り出した干し芋を頬張る杏。

 それを見た桃は、微笑ましげに笑みを浮かべて言った。

 

「ならば会長、私に考えがあるのですが………」

 

 そう話を切り出した桃は、隣で柚子が空気になっているのも構わず、杏に何やら耳打ちする。

 

「………と言うので如何でしょう?」

「ほぉ~、良いねぇ………」

 

 桃の提案を受けた杏は、かなり悪い笑みを浮かべた。

 

「良し、やっちゃおう!」

「え?何をですか?」

 

 話についていけず、ワタワタしている柚子を差し置いて、桃と杏の計画は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スー………スー…」

 

 視点を移して、此処は長門家の一室。何も知らずにベッドで眠っている紅夜は、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 

「んっ……ふわぁ~~あ………」

 

 その横では、床で寝ていた蓮斗が欠伸と共に目を開ける。

 

「あ~よく寝た。こんなに寝たのは久し振りだな」

 

 そう呟いて起き上がると、蓮斗は壁に掛かっている時計に目を向ける。

 

「8時半か………俺が学生だった頃は、この時間には学校に居たっけな」

 

 半世紀以上昔の事を懐かしみながら、今度は紅夜の方へと目を向けるが、彼は相変わらず、ベッドで寝息を立てていた。

 

「客を冷てぇ床で眠らせて、良いご身分だこった」

 

 そう言って苦笑を浮かべ、蓮斗は紅夜を起こそうとするが、そうする前に、彼は起きた。

 

「うわぁぁあああっ!?」

「ぬおっ!?」

 

 突然、紅夜は目を大きく見開き、勢い良く起き上がった。

 彼の首から下に覆い被さっていた掛け布団は、彼が跳ね起きた衝撃で軽く浮き上がる。

 

「鼻くそ付いた指で、あっち向いてホイ仕掛けてくるなァァァァアアアアアッ!!」

「………………は?」

 

 意味不明な事を喚く紅夜に、蓮斗は間の抜けた声と共に首を傾げた。

 

「………………あれ?」

 

 だが、冷静さを取り戻した紅夜は、部屋を見渡す。

 

「……夢か………にしてもスゲー夢だったな」

「いや、どんな夢だよ!?」

 

 両腕を上げて伸びをしながら呟く紅夜に、蓮斗は堪らずツッコミを入れた。

 

「ご主人様!何があったの!?」

「コマンダー、大丈夫!?」

「おい紅夜!何だよさっきの喚き声は!?あの声のお陰で一気に跳ね起きたぞ此方は!」

 

 蓮斗がツッコミを入れた次の瞬間、ぶち破るような勢いでドアを開け放った黒姫達が、部屋に押し入ってきた。

 

「ふわぁ~~あ……何事ですか………?」

 

 それから少し遅れて、寝惚けているのか枕を抱き抱えた雪姫が、欠伸をしながら入ってくる。

 

「……ふわぁ~~…あれ?お前等、どうしたんだ?そんな慌てて」 

「いやいや、何言ってるのよコマンダー!?」

「ご主人様がいきなり凄い声上げたから、皆跳ね起きて様子見に来たんだよ!?」

「そーそー!俺なんて眠気が一気に吹っ飛んだんだぜ!?一体何がどうなったらあんな声出せるんだよ!?」

 

 大欠伸しながら言う紅夜に、黒姫達は一気に詰め寄った。

 

「……あ~、その……ん~?」

 

 だが、当の本人は未だ寝惚けているのか、うつらうつらしながら記憶を辿る。

 すると、先程まで呆然としていた蓮斗がハッと我に返り、紅夜の肩を軽く叩いて注意を引いた。

 

「お前が変な声出しながら跳ね起きた事について聞いてんだよ。鼻くそ付いた指でどうだこうだと」

「………あ、あれか」

 

 漸く状況を飲み込んだのか、紅夜は言った。

 

「いやぁ、その…………ただの夢だった」

「「「………………」」」

 

 

 その後、紅夜が付喪神3人からの拳骨を喰らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、食った食った。もう満腹だぜ!」

「ご馳走さまでした。美味しかったですよ、紅夜殿」

 

 あれから暫く経ち、一同はリビングに降りて朝食を摂っていた。

 朝食を食べ終え、椅子に凭れた蓮斗は満足そうに言い、雪姫は台所で食器を洗っている紅夜の元へ自分の食器を持っていくと、彼の作った朝食の感想を述べる。

 

「ああ、口に合ったようで何よりだ」

 

 付喪神3人に殴られた事によって出来た3つのたん瘤を頭に拵えた紅夜はそう返し、彼女の食器を受け取って洗い物を再開する。

 そんな彼を余所に、肝心の付喪神3人組はソファーに腰掛け、呑気に朝ドラを見ていた。

 

「あの、紅夜殿。何か手伝える事は………?」

「いや、良いよ。雪姫さんも蓮斗も客なんだから、寛いどけって。寧ろ、其所で呑気に朝ドラ見てる3人に手伝わせたいぐらいだ」

「あははは…………」

 

 紅夜がジト目で黒姫達を見やると、雪姫は苦笑を浮かべる。

 

「もう。何言ってるのよ、ご主人様。元はと言えば、ご主人様が朝っぱらから大声出すから悪いのに」

「そうよそうよ」

「あの大声が無かったら、もう少し気持ち良く起きれたんだがな」

「…………だそうです」

 

 黒姫達がそう言い返し、雪姫が苦笑混じりに、紅夜へと微笑みかける。

 

「はぁ~……まぁ、彼奴等の言う事も間違っちゃいねぇんだが…………流石に3人で頭ぶん殴る事はねぇだろうよ。お陰でたん瘤3つも出来ちまったんだから」

 

 何時の間にか洗い終えていた紅夜はそう言って、頭にある3つの山を擦る。

 そうして、台所から戻ってソファーに腰掛けようとした時、テレビが乗っている台の上に置かれていた紅夜のスマホが、音を立てて震えた。

 

「おい、紅夜。何か鳴ってたぞ」

「ん?……ああ、俺のスマホだな」

 

 そう言って、紅夜はスマホを手に取って電源を入れる。

 電源を入れて早々、真っ暗な画面の中央に、LINEのメッセージが表示された。杏からのメッセージだった。

 

『おっはよー、紅夜君。今日のお目覚めは如何かな~?最近練習に来てなかったから、寝坊助してたとかは駄目だからね~。さてさて、いきなりで悪いけど、今日は大事な話があるから、5時に学校のグラウンドに来る事。黒姫ちゃん達を連れてくるかどうかは任せるけど、少なくとも君は絶対に来るように!んで、もし来なかったらどうなるか………………ワカルヨネ?』

 

「恐っ!?」

「ん?どったの紅夜、顔色悪いぜ?」

 

 LINEのメッセージを見て顔が青ざめている紅夜を見た蓮斗が、怪訝そうに訊ねる。

 

「あー、いや。大丈夫だ、問題無い。ちょっと呼び出しを受けただけさ」

「(呼び出し受けただけで恐がるとか、一体どんなメッセージ送られてきたんだよ……)」

 

 蓮斗は内心でツッコミを入れつつ、それ以上の言及は避ける事にした。

 

「んで、何時なんだ?その約束の時間は」

「ああ、5時だ」

「5時?そりゃまた結構後の方なんだな。その頃にはもう夕方だぞ」

 

 蓮斗はそう言って、テーブルに頬杖をついた。

 紅夜も椅子に腰掛け、テーブルにスマホを置いて頬杖をつく。

 

「そういや蓮斗。お前、確かティーガーに乗ってたんだよな?」

「ん?乗ってたけど……それがどうかしたのか?」

 

 紅夜の質問に頷き、逆に聞き返す蓮斗。

 

「お前が死んでから、そのティーガーはどっかの山に捨てられたって拓海さんに聞いたんだけどさ………結局、見つかったのか?」

「…………」

 

 紅夜が訊ねると、蓮斗は黙って目を逸らした。

 

「あー、すまねぇ。聞いちゃいけない事聞いちまったな」

「謝る必要はありませんよ、紅夜殿」

 

 すまなさそうな表情を浮かべた紅夜が謝ると、何時の間にか蓮斗の隣に腰掛けた雪姫が話に割り込んできた。

 

「謝らなくて良いって………………どういう意味なんだ?」

「言葉通りの意味ですよ」

 

 怪訝そうに聞き返す紅夜に答え、雪姫は続けた。

 

「ティーガーなら、放棄された山の奥にある洞窟にありますし、半世紀以上経った今でも、誰にも見つかっていません。それに、その山は樹海のようになっている上に、熊や猪と言った危険な動物も居るので、そう簡単に入ってこれません」

「そっか…………なら、ティーガーは今も健在で、尚且つ自走出来ると?」

「ええ、勿論」

「そりゃ良かったな………ん?じゃあ蓮斗が目ぇ逸らしたのはなんでだ?てっきりティーガーは既に処分なり何なりされてて、それを思い出しそうになったから目を逸らしたと思ってたんだが」

 

 腑に落ちないと言わんばかりの表情で紅夜が訊ねると、雪姫はこっそり逃げようとしていた蓮斗の裾を掴んで無理矢理座らせ、言葉を続けた。

 

「この人、再会した時はティーガーの事を心配していたのですが、私がティーガーは無事であると伝えると、『じゃあ暫く遊んでても大丈夫か!』とか言って遊び回っていたんですよ」

「………………」

 

 雪姫が言うと、紅夜は蓮斗に冷たい視線を向けた。

 

「蓮斗……」

「お、おう。何だ?」

 

 低い声で呼ぶ紅夜に、蓮斗は冷や汗を流しながら答えた。

 そして、紅夜は勢い良く立ち上がって怒鳴った。

 

「今直ぐお前の相棒にちゃんと会ってこいやァァァァアアアアアッ!!!」

「い、YES,SIR!!」

 

 紅夜に怒鳴られた蓮斗は、ヤマト式の敬礼をしながら立ち上がり、そのまま雪姫を伴ってリビングを飛び出し、玄関で靴を履くと、外に出る事無く瞬間移動で消えた。

 恐らく、ティーガーがある山に行ったのだろう。

 

「…………ふぅ」

 

 それを見届けた紅夜は溜め息を1つつき、再び椅子に腰掛けた。

 

「………久々に大声出したな」

「「「(いや、大声で済むようなレベルじゃねぇよ……………)」」」

 

 そんな紅夜を見ながら、付喪神3人組はそう思ったと言う。


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